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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第二章 闇に蠢く
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第七話 この世界の正義の味方

“ここ”はいつも最高の場所だ。

ターコイズビーチのゴ~ジャスなパラソゥルの下で、水着を着た俺様は今まさに寝そべっている。


「俺様こそが主人公〜♪ 絶対的な最強正義、誰にも負けやしない~♪」


フィールドのBGMに合わせて、アドゥリブで謳ってやると、隣に座って俺様を仰ぐエルフの女がクスリと笑うわけだ。


「ねえジョー。その歌なあに? まるで、ミュージカルみたいだけど」


「ああ、これは俺様のミュージカルさ。要するに、この世界は俺様の立つ舞台ってわけだよな」


いきなり真理(しんり)をぶちこんでやると、女は反応に戸惑って悩んでいるようだった。


「随分と個性的なRP(ロールプレイ)するのね。ジョー」


「これが俺様な・の・さ」


こういう反応には慣れてるのでいちいち気にはしない。

くだらねえ迷いは弱さに繋がる。

逆に、行けるところまで行ききればほとんどの人間は俺様の思いのまま。

この女も呼び捨てで馴れ馴れしく近づいてきたが、最終的には他の女共と同じように俺様にゾッコンになるのはもう間違いないだろう。


「ところで~何だったっけなあ? 何を何して欲しかったんだっけ、ベ〜ビー?」


俺様が掲示板で出していた募集について問いかけると、エルフの女はすぐに態度を改める。


「えっとねぇ~。ユングフラウの撃破手伝って欲しいの。いいでしょ? 装備品はいらないんだけどドロップアイテムの素材をクエストで指定されちゃってすっごく欲しいのよ。私も手伝うから」


ああ、あの文字通りの雑魚か。


「手伝いなんざ必要ねえよ。悪いけど俺様。ソロでいるのが好きなんでね。幸運だから一人で何~でもやれちゃうわけ。ぶっちゃけ他の奴らの協力があっても足手まといだしな! “一人で充分”なんだよ」


「でも、一人で倒せる敵じゃ無いわよ? だから私、こうやって募集しているんだもん。あなたの装備品だって、全部レアアイテムだけど……一人で討伐できないような強さのモンスターが落とすモノでしょ?」


この女の言う通り、オンラインゲームのソロプレイヤーっていうのは基本は弱っちい存在だ。

経済的な面なら圧倒できるかも知れないが、戦闘やアイテムとなるとまあ――、一人一つのキャラクターで、できることは限られる。


“だが、俺様は特別だ”


「俺様の幸運があれば、全攻撃クリティカルで全部攻撃避けてソロ撃破余裕なわけだ。まさしく無双だよね。いやホント。この装備のドロップ対象は全部、俺様一人で倒したのよ」


「し、信じられないわ……。アナタの装備、どれもこれもドロップ率だって物凄く低いはずなのに……」


「マ~ジで全部ただの運さ! 俺様はこの世界に愛されているのよ!」


俺様はこの世界の中心にいる主人公なのだ。


この身一つで、どんな巨大な壁ですら乗り越えられる。

どんな悪党だって打ち倒せる。全てが俺様の思いのまま。


俺様的に言ってしまえば世の中ってものは全てが運だ。

この世界でもその基本は変わらない。


運が無いヤツは信頼していた人間にも平気で裏切られるし、武器も防具も貧弱なまま。

最低限のセンスが無ければ対人戦の土俵にも上がれない。

そういうモブ以下の脇役共は、俺様を珍しく哀れな気持ちにさせてくれる“ありふれて貴重な存在”ってわけだな。


そして俺様は幸運だし、幸福であるべきだし、この世界において絶対的な最強の正義の味方なのだ。


「ま、俺様に全部任せておいてくれよ。報酬のキミの“写真”は、終わったら俺様のアドレスを教えるから。そこに送っておいてくれよ。依頼した女は皆、そうしている」


俺様のその言葉にエルフの女が驚いたが、まあ予想通りだ。


「……ねえ。私の報酬が自撮りの写真だってどうしてわかったの? 募集文には何も書いていなかったじゃない?」


「勘~だよ。勘。そういう募集っていうのは俺様の目の前に都合良く現れるモノなのよ」


何もかもツイている。

そして、俺様の名前を都合良く知っている女の募集に乗れたこと自体が幸運だ。

そして――


「アンタさ、相当リアルで相当“顔が良い”んだろ?」


後はストレートにGOだ。

どうせこの女も、こういう乞食行為をやるのが初めてのパターンだ。

顔を赤らめてくれて嬉しいよ。俺様はもう慣れっこだがな。


「わ……わからないわよ? ひょっとしたら男かもしれないじゃない? このビーチでの募集なら、そういう悪戯はよくあることらしいから」


「心配してねえよ。“俺様が選んだ募集”だからだな。最終的に外したことはマジでねえからな。ただ、結構貰い慣れているからさ。ちょっとやそっとじゃあかねぞ? 過激なの頼むぜ?」


そう言って、俺様は真横の小テーブルに置いてある格闘武器の【ゴールデンセルフィスト】を怪しげに撫でてから女を舐めるように見つめた。


「仕方ないんだから……。じゃあ、よろしく頼むわね。私、ここで待っているから」


「ああ、任せろ。その代わり約束は守ってくれよベ〜ビー」


ま、こんな事を言う必要は無い。

そもそも俺様は出会う女どもに、約束など破られたことが無いからな。

そういった面でも、俺様は恐ろしく運が良い。


こうして、やり取りを終えたエルフの女は俺様を(あお)ぐのをやめて離れて行く。


……あの女も中々楽しませてくれそうだ。

内心でどう思っているかなんて俺様の知ったことじゃあない。

どんどん引きずり出して、徹底的に遊びつくせば良い。





他の有象無象の操り人形共と同じように――だ。








「〔全く、困ったモノだ。“数が予想以上に多くて今が一番大変”だというのに――。キミも、手伝ってくれると助かるんだけどね?〕」


突然、俺様の脳味噌に畏まったガキの声が響いてくる。

全く、仕方ねえ“弟子”も居たものだ。


「〔俺様は、アンタに必要な物は全て与えた。戦い方も武器も人材も、出来上がったばかりの“アレ”も、何もかも渡してやった。“連れて行く”のはテメエの役割って話よ。ぶっちゃけ、集団で動くのはガラじゃねえ。ピンチの時は俺様が颯爽と助けてやるさ。弟子は師匠の言うことを何でも聞くもんだぜ?〕」


「〔その判断もキミの幸運の内かな? 何もかも上手くいっていると――そういうことかい?〕」


ああ、そうだとも。

この“弟子”に出会えたのも幸運のうちの一つだ。

こいつを利用して“報酬”を得た俺様は、これから更に更に力を得て更に更に強くなれる。

今まさに、この世界は俺様を中心に動いているという実感がある。


「〔キミと出会ったときは、こんなに自分勝手な人間がオンラインゲームに居るのと驚いたものだが……。どうやら我の強い人間が他者を踏みにじって全てを得るというのは、現実世界でも仮想世界でも変わらないようだね〕」


いつ話しても、テンションの変わらねえヤツだ。

コイツが声を上げるほど熱中する物なんて、“たった一つ”だもんな。


「〔踏みにじっているとは言い方が悪いぜ! この世界にいる人間は俺様のおかげで誰も泣いていない。周囲の誰もが俺様に感謝しているのさ!〕」


「〔随分と狭い世界もあったものだ。ボクからすれば、キミの思考回路の方は理解できないね。とにかく、人を手駒扱いするのは辞めてくれ。ああ、語呂良く返される前に言っておくがボクは例の件については“手籠めに”しているわけでは――〕」


「〔わかったわかった~。手前の美学~♪ 手、前~の美学~♪。聞き過ぎて~耳にタ~コが、できちまう~♪ 俺様には、関係な~い~♪ 何とも、思ってな~アアアアアアアアアアイ♪〕」


「〔調子に乗って謳うのは辞めてくれ。キミに何度もミュージカルを囁かれて、いい加減頭がどうにかなってしまいそうだ。それにしても“何とも思っていない”か。――キミはボク以上に“場所を選ぶ人間”だな〕」


「〔そりゃあそうだ。この世界は俺様の為にあるんだからな。それに乗っているのは調子だけじゃねえ! 拍子にも乗っているだろ?〕」


「〔……ああ、よくわかったよ。そしてだ……キミの活躍の出番が来てしまったようだ。この先にPKの一団が屯していて、通行の邪魔になっているようでね。ボクらの部下共と、ついでに閉じ込めている“抜け殻共”が騒いでいる〕」


「〔や~れやれだな。俺様の出番かよ。全滅させてやったら、盛大に褒めてくれよ! 気分が盛り上がらないからな!〕」


ま、どうせいつものように襲われている連中から感謝されるんだろうよ。

――そのためだけに、俺様はこの世界に身を投じているわけだが。


「〔わかっているさ。しかし、キミの見立てで“件の連中”を仲間に入れたのは正解だった。異国の言葉で捲し立てられても勝手がわからんからな〕」


「〔だろ? 新しい連中の中では、特にあの三番手のパラディンがお気に入りだな。“全身銀色”っていうのは俺様の経験則ではかなり強いはずだからな〕」


そう囁いてからのんびりと立ち上がって、黄金に光る装備品一式に速攻で着替える。


それにしても、幸運すぎて最近ちょっとつまんねえんだよなあ。


俺様が最後に昂揚したのは――イントシュアのPVP大会が最後だったか?

俺様の幸運に肉薄できたのは今のところあの時に戦った男だけだ。


あのパラディン――装備がNPCショップ販売の銀装備で、顔もわからなかったからな……。

俺様の物語の中で配役で言えば、アイツこそが謎のライバルってとこかね。


「……またアイツと戦えたら良いんだが――“今度は全力”で」


ボヤいてから軽く首を鳴らして準備を整え歩き始める。

周囲を見回すと、どうやらビーチに定期便が到着したみたいだ。

有象無象の人形共が船着き場で騒いでいて、実に不快だ。

俺様の関係ないところで、背景が必要以上に動くんじゃない。


「〔迫ってくる人数がわかった。10人といったところか。潰せそうかい? “正義の護衛者(ヒーロー)殿”〕」


「〔潰すんじゃあない。丁寧に撫でてやるだけさ――ボロボロになるまでな!〕」


俺様を倒せるヤツなど誰もいない。

この世界は俺様の――いや、“俺”の為にあるのだから。









「俺様こそが主人公〜♪ 絶対的な最強正義、誰にも負けやしない~♪」


【憤怒のポイズンハート】

紫色の球体型亡霊モンスター。ビーチで一人命を絶った男の無念が具現化した――というゲーム内設定がある。

夜間のビーチに登場し、イチャついているプレイヤーに率先して飛びかかり自爆する危険な存在。

逆にフレンドリストが0のソロプレイヤーに対しては追従し戦闘の補助をしてくれるというよくわからない特性を持つモンスター。

プライベートな時間は愚か、睡眠時間を削り続けている一部のゲーム開発者達の怨念が具現化したかのようだといわれている。

外部掲示板では男性専用の【ポイズンハートスレ】が立っているらしく、珍しくまったりと(陰鬱だが)和気藹々な雰囲気。

彼女ができた同志が現れた場合、「祝ってやる」と皆で送り出す――らしい。


「独り身の、恨み晴らさで、おくべきか」





【ウォーターメロン・ブレイクチャレンジ】

スイカ割りコンテンツの正式名称。

以前はこのコンテンツ中のみ周囲のプレイヤー“パッシブ設定が切れる”という仕様上の不具合があったため、棒術の武器スキルを徹底的に鍛えて、寝そべっているカップルに意図的に振り下ろすという凶行に走るPKプレイヤーがいた。

この不具合に対する修正は、何故か遅れたらしい。


「どうせお前らが普段手にしているのは、別のメロンなんだろ!? ――許せないッ!! その欲望ごと精神統一して打ち砕いてやるぜ! 煩悩退散ンンンンンンッ!!」


「よ~しいいぞ。もう少し右だ! そこだ――――――振り下ろせアアアアッ!!!」

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