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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第二章 闇に蠢く
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第三話 燃えるセンジョウ

 船旅を続けるレット達の背後から、不意に大きな歌声が聞こえてきた。

レットが振り返ると、甲板の反対側の海に小型の帆船が併走している。

帆船は海より深い色の群青の帆を広げており、そこに乗っている数人のプレイヤー達が騒ぎ立てて、こちらに向かって手を振ってきた。


「クリアさん。あの青い船も定期便なんですか? 小綺麗で格好いいですね!」


「いや。あれは個人所有の船だな。高いゴールドを払って、個人で船を管理することができるのさ」


よくよくレットが目をこらすと、紅蓮の帆に『Spreading Blue』と書かれている。


(チームの名前か、もしくは船につけられた名前なのかな?)


そこで突如轟音が鳴り、寄っていた青い帆船の一部がいきなり砕けて、木片が定期便の甲板の上に飛んでくる。

驚いたレットはその場から飛び上がって、危うく海に転落しそうになった。


「うぉわ! ちょっ!! 何だ一体!? 何が起きたんですか!?」


「落ち着けよ。大方、別の船に砲撃でも喰らったんだろう。ホラ、あそこだ。青い帆船のさらに奥だな」


クリアが指さした先をじっとレットが見つめる。

その船は、レット達の中型の定期便とほぼ同じくらいのサイズで全てのカラーリングが黒。

まるで、軍隊が所有している西洋船のようであった。


(あれもプレイヤー所有の船なのか……。デザインした人……中々面白いセンスしてるなあ)


「上級者のお二方、少しよろしいでしょうか? (くだん)の彼方に見える船、なのですが……こちらに接近してきてはいませんか?」


「黒い船と、青い帆船は戦闘になるでしょうにゃ~。船同士で闘って資材を奪い合う“海戦”はこのゲームの人気コンテンツですからにゃ。面白いからって、ず~っと船の上で生活しているプレイヤーもいるくらいですにゃ。む……お魚ヒットですにゃ!」


「それで申し訳ないのですがその……ネコニャンさん。私達はここで釣り竿を垂らしたままで、果たして良いのでしょうか?  このままだと、本格的にあの二隻の戦いに巻き込まれそうなのですが……」


「多分、大丈夫ですにゃ」


「心配はいらないよタナカさん。船の大きさと頑丈さが違う。定期便も一応砲撃とかで撃沈されることはあるんだけど、費用対効果がいちいち悪いし敵対するだけでシステム的にペナルティを受けるから、こっちに向かって誤射はしてこないだろう。ま、要するにだ――」


黒船から幾つも鈎が投げられて、青い帆船に結びつけられる。

そのままロープを伝って黒船からプレイヤーが続々と帆船に乗り込んでいく。

乗組員同士の真っ向からの戦闘が始まった。


「――黒い船はあんな風に接近して戦わざるを得ないってわけだ。最初に寄ってきた青い帆船は、俺たちの乗っているこの定期便を“意図的に盾”にしたんだろうな。乗り手のリーダーの頭が良い。このままぶつかり合ったら勝つのは青だな。こりゃ」


「じゃあ、自分は黒に賭けますにゃ」


ネコニャンがそう言って再び釣り竿を垂らす。

それと同じタイミングで、青い帆船が黒船に対して至近距離で砲撃を放ち再び轟音が鳴った。

その音は、レットの体の中に大きく響き渡る。


「いや、呑気にゴールド賭けてる場合なんですかこれェ! 本当に大丈夫なんですよね!?」


「大丈夫さ。といっても、昔はプレイヤー所有じゃないNPCの定期便も平気で襲われていたんだけどな。航路が決まっている関係で、襲う側が進路上に居座っているだけで定期便が衝突する。んで、定期便はシステム上阻害されることを想定されていなかったから、ぶつかるだけでぶっ壊れていたんだよ」


「うええ……いい加減で大味な調整ですね、それェ……」


「普通に金策として優秀だったから、モラルガン無視で定期便を沈めるプレイヤーが後を絶たなかった時代ですにゃ……。世紀末でしたにゃ……そいでータナカさん。釣りの首尾はどうですかにゃ?」


「あ、あの……はい。順調です」


そう言いながら青い顔で振り返り、タナカは海戦と船室に繋がる扉を交互にチラチラと見つめた。


(タナカさんすっげえ逃げたそう……)


そこで今度はレット達のいる船の、他のプレイヤー達に動きがあった。

彼らは定期便の甲板の中央に集まって、何かを組み立てているようである。


「クリアさん。ここでのんびりしているオレ達も大概ですけど。甲板に集まっている人達は、こんな状況で何やってるんです?」


「あれは…………バーベキューだな。そういえばリニューアルのアップデートの後にバーベキューキットが追加されたんだった」


「ハァ!? バーベキュー!?」


「中央に集まっているのは多分外国人プレイヤー達ですにゃ……。フルダイブのβテストでゲーム内の食事のおいしさに感動して、コミュニティボードで要望が沢山在ったとかでバーベキューが実装されたはずですにゃ」


「な……成る程。……実に興味深いお話ですね。プレイヤーの要望がゲーム内に直に反映されるというわけですか……」


そのタナカの言葉を受けた途端、互いに顔を背けるネコニャンとクリア。

それと同時に、背後の海戦で複数の魔法が派手に炸裂し、花火のようにその二人の顔を照らす。


「“直に反映”なんてありえんですにゃ……。このゲームの運営がプレイヤーの意見を聞くだなんて何かの冗談ですにゃ……。絶対何かワケありなんですにゃ」


「そうさ。俺達はずーっとこのゲームをやっているけど、ここの運営の調整と対応は全部予想の斜め上方向を行くんで、信用していないんだよ……。バーベキューも、いつか絶対何か問題が起きる。賭けてもいい。間違いない!!」


(オレも既に運営のせいで結構酷い目に遭ってしたな……。モンスターに不意打ちされたり、モンスターに不意打ちされたり、モンスターに不意打ちされたり……)


いい加減な運営のせいで、悲惨な目に遭っていることをレットは内心で自覚する。


「あの……。申し訳ないのですがその……私達(ワタクシタチ)の置かれているこの状況が、別の意味で問題だらけな気がするのですが…………」


「そ――そうですよォ! ワケわかんないことになってきてますけどネコニャンさんもクリアさんも、ちょっと冷静すぎやしませんか!?」






「二人とも、慣れるしかないさ。要は慣れだ。慣れ慣れ!」


「アンタそれ言いたいだけだろ!」






ついにこちらの船でも、また“違った意味での火がついて”船上でのバーベキューが始まってしまう。

『魔法やら砲弾やらが飛び交う“隣の大海戦”を酒の肴にしながら、外国人プレイヤー達が周囲に煙をまき散らしながらバーベキューを楽しむ』という異様な光景を目の当たりにし――レットは唯々、口を開いて呆れるばかりであった。


「むむぅ~。それにしてもばーべきゅーの臭い嗅ぐと、塩味の聞いたモンが食べたくなってきますにゃ~。酔ってから大分経つけど、(しめ)にラーメンでも食べたいですよにゃ~!」


ネコニャンの言葉を聞いて、クリアがインベントリーをごそごそと弄り始める。


「そうだネコニャンさん。“海老”食べます? 知人に貰ったんですよ。はい。あ~ん」


そう言ってから瑞々しく見える生海老をネコニャンの口に放り込むクリア。


「む。クリアさん気が利きますにゃ~。う~んむ。これは冷たくて塩味が効いてて、うま(あじ)ですにゃ~」


(あ、地味に結構美味しそう)


「〔ん? どうしたレット。お前も食うか? そこで買ってくるといい〕」


そう途中で囁いて、クリアがこっそり指さしたのは……釣具屋の出店に立っているNPCである。


「〔――――――――え? あの……クリアさんひょっとして〕」


「〔あれは【釣り餌】だよ。俺も釣り竿をこっそり海に投げっぱなしにしていたんだけど、何も掛からなくて。残った餌の在庫処分だ。――餌の鮮度が悪かったのかもしれないな!〕」


(えぇ……、海に投げてた釣り餌をそのまま食べさせたのかこの人……。“冷たくて塩味が効いてる”って――そういうことかよォ!!)


「〔やっぱり俺に、魚釣りは向いてないということがよくわかった。ああそうだ。レット、もしこの後釣りをするならこの餌を使うと良い。すり潰して作った練り餌だから、つけるのも簡単だろう〕」


「〔はあ……ありがとうございます〕」


そう囁いて、レットはクリアから釣り餌の練り団子を受け取る。

激しい爆音の最中、餌を手渡したクリアはそのままのんびりと欠伸をして――


「さて! “気分も良くなった”し、俺は今度こそ寝るかなあ!」


――そう言ってから船の後部の階段を上がって行き、その姿が見えなくなった。


(絶対寝れないだろこの状況……)



――――――――――――――――――――――――――――――――



幾許か時間が経って、海戦は青い帆船の勝利となった。

黒船は大砲によって穴が空き半壊。そこに乗っていたプレイヤーは戦闘不能になるか、海に放り出されている始末。

戦闘が終わったことを確認してからレットは反対側の縁まで移動して、資材回収のやり取りをぼーっと見つめていた。


「う~む。賭けには負けちゃったですにゃ……ふぃ~」


対面からネコニャンが釣り用の装備のまま、のそのそと歩いてきて、べたりとレットの隣に座り込む。


(動きがまんま、年取った猫のソレだな……)


「ネコニャンさん。釣りはもういいんです?」


「慌てない慌てない。一休み一休みですにゃ。タナカさんは物覚えが良いから、今の段階ではこれ以上教えることもないですしにゃ~……。自分より遥かに頭の回転が速いし~。年取ると物覚えるのが大変で参っちゃいますにゃ」


「そ……そうですか……それはよかったですね……。あの……何をもごもごやっているんです?」


「さっきの海老の残りを、堪能しているんですにゃ。そいで、レットさん。ちょっと聞きたいんですけど」


「はい。何でしょう?」







「――――――――なんかあったんですかにゃ?」


その質問を受けてレットが一瞬たじろぐ。


「……“なにかあった”っていうのは――――その」


黙り込むレットにネコニャンはだらけた表情のまま、話を続けた。


「んにゃ~。レットさんが前と比べて元気ないし、フォルゲンスの記事に出てたし、しかもこうやって姿まで隠していたから――ちょ~っと気になったんですにゃ」


「ま、まあ。なにかあったといえば、あったような。ない……ような」


動揺するレットをぼけーっとした表情で見つめたまま、ネコニャンは話を続ける。


「別に言いたくなかったら無理に言わなくてもいいですにゃ。ただ、ちょっと気になったことがあって。いつも大体事件を起こすのはクリアさんで、追われるのも一人なのに。レットさんが巻き添えになっているのが気になったんですにゃ。“クリアさん”らしくないですにゃ」


(んん? どういう意味だ?)


「あの……クリアさんって、いつもあんな感じなんじゃないですか?」


「大規模な悪さをするときは“一人でやらかして一人で逃げてる”のが基本ですにゃ。大騒動に同意無しに他人を巻き込むのは珍しいなって、ちょっと気になっただけなんですにゃ。タチの悪い悪戯は、散々受けてますけどにゃ!」


そうキレ気味に言ってから足をばたつかせるネコニャンを前に、レットは思案する。


(話すわけにはいかないよな。オレだけの問題じゃ無いんだから……)


「――いや、スミマセン。オレ自身が原因であって、クリアさんはそんなに関わっていないんです。詳しい事情は話したくないというか、そもそも話せないというか……」


「ああ、大丈夫ですにゃ。ただちょ~っとレットさんには気をつけてもらわないといけないことがあってえ」


「はあ。何でしょう?」


「――クリアさんって、人当たりはいいけど結局は“普通に善い人でも何でも無い”んで。そこだけは本当に気をつけてくださいにゃ。信用しようとすると痛い目見ますにゃ。か~っ……ペッ!!」


それだけ言ってから、口の中に残っていた海老の尻尾を海に吐き出すネコニャン。


「ああ~。それは……なんとなくわかります。クリアさんって、いつも滅茶苦茶やってるし。オレも色々巻き込まれてます」


海に消えゆく海老の尻尾を見ながら、レットは深く頷いた。


「知ってたかー、そーかー。よかったよーかったー。自分的には“信用はできんけど、信頼はできる”――――って感じですかにゃ。………………いや、それもちょっと怪しいですかにゃ?」


(わかるようなわからないような――何ともいえない評価だなあ……。『あの事件』に関しては、オレもなんやかんやで感謝はしてるけどさ……)


「ネコニャンさんとクリアさんって、付き合い長いんですか?」


「クリアさんとは――かれこれアスフォーの無印から何年だったっけにゃ……。ええと、ひい、ふう、みい――忘れてしまいましたにゃ。ま、とにかく寝首を掻かれんように気をつけて下さいにゃ」


ネコニャンの“雑なクリア評”を聞いて呆れるレット。


「出会ったときから、寝首は既に何回か掻かれてます。――というか、逆にそれだけ付き合い長いのに信用ができないって、一体どういう関係なんですかねぇ……」


「正直、今も疑ってますにゃ。“寝不足”ってことは、裏でなんかとんでもないこと企んでいるんじゃないですかにゃ? それにタナカさんから聞いて驚いたけど、クリアさんが他人に対人戦のノウハウを教えるだなんて前代未聞ですにゃ!」


「そうなんです? クリアさんって結構というか、かなり教えたがりな人なんじゃないですか? もちろん。押し付けがましい感じはしないけど」


「対人戦に関してはそうでもないですにゃ。自分はPKは嫌いなんですけどPVPコンテンツ自体は好きなんで、一回戦いのコツを教えてもらうとしたことがあったんですにゃ」


「それで、どうなったんです?」


「けんもほろろでしたにゃ。な~~~んも教えようとしてくれませんでしたにゃ。何か“訳あり”なのかもしれませんにゃ。謎は深まるばかりですにゃ」


そこで、強い風が吹いて中央のバーベキューの煙が二人に直撃する。

レットは目を瞬かせて、ネコニャンは激しく咳き込む。


「ゲェッホ! ゲッホ! ああもう、とんだ迷惑ですにゃ! 移動しましょうにゃ移動!」


レット達は煙だらけの甲板を横断して、タナカの居る場所まで戻った。


「というわけで休憩終了ですにゃ~。酔いと一緒に眠気も抜けてしっぽぴんぴんですにゃ! タナカさん。調子はどうですかにゃ?」


「はい。一番大きい物ので――このサイズですね。ネコニャンさんの釣果に比べれば、たいした物ではありません」


ネコニャンの質問に対してインベントリーを開いて20㎝ほどのサイズの魚を“取り出して抱える”タナカ。


「ほお~。初心者とは思えない釣果ですにゃ。釣りのスキルのレベルも上がったと思いますし、これからが本番ですにゃ。レットさんも釣り、どうですにゃ?」


「そう……ですね。折角だし、オレもちょっとだけやってみようかな?」


実際、今のレットに他にやることがあるわけでも無い。

ネコニャンに竿と隠密の魔法が込められた軟膏を借りて、釣りの簡単な説明を受けることとなった。


――音に対する隠密状態を維持して、効果が切れたら隠密効果のある軟膏を必ず使用すること。

――焦って釣り上げないこと。

――釣れなくても泣かないこと、一周回って“釣れないこと”を楽しむこと。


そしてレクチャーを受け終わったレットの返事は――


「任せて下さい! 伝説の釣り師レットの実力を見せてやりますよ!」


――自信満々なものであった。

そして、その力強い返事をしてから15分後があっという間に経過した。








「だああああ駄目だ! 釣れない! あと少しだったのに!!」 


「惜しかったですにゃ~。今のは竿を引っ張るのが早すぎたんですにゃ」


そう言いながらネコニャンは竿を引き上げる。


「む、スタップスキッドが釣れたにゃ。これは、イカの一種ですにゃ」


(イカか、すごく高級そう。隣で釣れているのが見えると、羨ましくなってきちゃうなあ……)


そんなレットの心情を察したのか、隣に立っていたタナカが口を開いた。


(ワタクシ)のいる位置はかなり良いスポットのようです。レットさん。場所を替わりましょうか?」


「あ、いや――大丈夫だよ。タナカさん。気にしてないから! ハハハ!」


(うぬぬぬぬぬぬぬ。何故だ! 何故オレだけ一匹も魚が釣れないんだ! 場所が悪いのかな? 自分で動いてみるか? ――あ!! そうだ。折角だし、クリアさんから貰った餌でもつけてみよっと!)


「む? 何かするつもりですかにゃ? “耐えきれずに環境の変化を求める”っていうのは、釣り初心者が陥りがちな心理状態で良くないですにゃ」


レットはそんなネコニャンのツッコミを聞き流しながら、クリアに貰った練り餌を、そのまま直接釣り針にくっつけて――


(とっておきの――――秘密兵器だぜ!)


――どこかで聞いた台詞を心の中で叫んで、海に放り投げた。


「あの――レットさん。今海に投げた餌何ですかにゃ? 自分が用意した餌ではない気がするんですけどにゃ……」


「ああ、クリアさんから貰った餌ですよ。余ってたから貰ったんですけどォ……。練り餌です。これですこれこれ」


そう言ってレットが取り出した餌を見て呆れるネコニャン。


「その黄色い練り団子――――――“淡水魚用の餌”ですにゃ」


「え! よくわからないけど、これってひょっとして海で使っちゃダメな釣り餌ってことですか?」


「基本中の基本ですにゃ。そんなん海で使っても魚なんて、一生何も釣れませんにゃ」


「レットさん。クリアさんに、一杯食わされましたね」


(あ~あ。ネコニャンさんに警告されたばっかりなのに、もう騙されてるよオレェ……チクショウ……。後で何とかしてこの練り餌をクリアさんに食べさせてやる!)


レットは溜息をついてから、釣り糸を巻き上げようとする。

しかし――


「――――あれ? 何かがひっかかりましたよ! デデデデデデカいです! めっちゃ引いてますって! やった!!」


予想だにしなかった大物に喜んで、全力でリールを巻き上げようとするレット。


「ちょちょっと待って下さいにゃ! 淡水用の餌で釣れる大物なんていませんですにゃ! あ…………まずい。それ引き上げない方がいいかもしれま――」


「どっせいッ!!!!!!!!」


レットの引きで巨大な“何か”が釣り上げられる。

実際は、レットが釣り上げたのでは無く“向こうから”寄ってきたという表現の方が正しいかもしれない。


凄まじい水柱と共に顕れたのは、神話に出てきそうな巨大な魚人。サイズは船の横幅とほぼ同じ。

ぬめぬめとした表皮が体を包み、大きく開いた口に槍のように細長く鋭い牙が幾つも並び甲板の上に大粒の唾液が滴り落ちる。










そのまま巨大な魚人は船の縁にしがみついて――船を傾かせながら、激しく咆えた。






【海戦】

海の世界に身を投じて続けるプレイヤーは“船上永住勢”と呼ばれる。

無所属(※海賊)を含めると海戦の勢力は全部で四勢力。

国家間の和平とは何処に行ったのか――と言いたくなるが、一応ゲームの設定的には殺し合いの戦いとは定められておらず、海賊を排除する名目での“旧世代の海戦を模した過激な代理戦争”とされている。

実際、船で大陸上の町やプレイヤーを攻撃することはできない(※ゲーム上の都合であるとも言えるが)。

国家の領土外の孤島なら――話はまた別である。


「帆を開け! 真正面から風を受けるなヤード動かせ!」


「角度考えろ! 撃てーッ!!」




【シャドウ・エクス号】

NPCが操縦する伝説の幽霊船。

この幽霊船は定期便だろうが何だろうが、見境無しに襲撃してくるまさしく恐怖の象徴。(ただし、滅多に出会わない)

出会ってしまうと、亡霊と化した異常な強さの海賊達が船上に次々と張り付くように上がってきて、乗っていた人間はほぼ全員死ぬ。

“海戦”で戦闘した場合でも船の耐久力自体が異常に高く武装のレベルも段違いなため、咄嗟にその場で対抗勢力同士での同盟が組まれる程の強さ。

しかしレアアイテムを落とす関係で、お互いがお互いを出し抜こうとする為、討伐しきれずに全滅する場合がほとんど。

“挑まなければ良かった”と悔やまれる程の甚大な被害が出ることも少なくない。




「どうしたんだよ? 今日はもう寝るんじゃ無かったのか?」


「シャドウエクスが出たらしい。ここら辺の近海にだ」


「マジかよ! 早速討伐に…………ん? 何だ? あの巨大な――」






【バーベキューキット】

圧倒的な要望の数と、プレイヤーのコミュニケーションの機会を増やしたいという(後先考えぬ)運営の発想の元、実装が強行されてしまったプレイヤーコンテンツ。

通常のフィールドのどこにでも使えるようにした結果、外国人プレイヤーがノリに乗ってありとあらゆる場所でバーベキューを始めてしまった。

その後、「煙のエフェクトが邪魔」「シリアスなクエストのイベントムービーに何故かキットだけが映り込んでしまって不快(開発者の設定ミス)」「そもそも焚き火があるんだからそれで充分だろ」「TPOをわきまえろ」というような批判的な意見が集まりコミュニティボードもバーベキューの如く炎上。

運営は当初、ボードに対する否定的な意見を削除するという“いつもの強硬手段”に出ていたが、ついに一般プレイヤーですらバーベキュー中の外国人を襲撃するようになりゲーム内は阿鼻叫喚となる。

後に、運営の告知無しの調整が入り占有権のある屋内でのみ使用可能となってしまう。

世界観を壊さないように悪戦苦闘したバーベキューキットのデザイナーの努力も虚しく、死にコンテンツとなったのであった。

雑多な人種による激しい炎上騒ぎは、後に“バーベキュー事変”と呼ばれることとなる。




「ああ、そうなんだよ! ゲームに負荷が掛かるくらいの数の大量のモンスター達が、煙に囲まれながら集まっていると思ったら――中央にバーベキューキットが置いてあったんだ!」


「そりゃ酷い絵面だな……MPKでもされたのか? その後、お前はどうしたんだ?」


「ほったらかしにして帰ったよ」


「よくやった」


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