最終話 Your wind
『ありがとう、姉ちゃんのおかげで俺助かったよ』
あの子はいつも私の前でだけ、笑っていた。
本当は辛いはずなのに――いつも。
ストレスを溜め込んでいたあの子の髪の毛は、次第に白くなっていった。
なのに、あの子はいつも通りオーバーなリアクションをしながら――
『なんか、ウサギみたいになっちゃった』
――と、人懐っこく笑っていた。
どうしてなのだろう。
どうして――急に居なくなってしまったのだろう。
“急に”なんていうのは嘘。
本人からすれば“ようやく”だったに違いない。
最期の日の前の夜のことを、何度も思い返してしまう。
後から考えれば、おかしかった。
どうして、気づいてあげられなかったのだろう。
布団の中に潜り込んできて、一緒に寝て欲しい。
頭を撫でて欲しいだなんて――突然言い始めたのだから。
あの時から、あの子は既に全てを決めていたんだろう。
私は、何もしてあげられなかった。
誰にも悟られたくなかったから、だからあの子は一人で遠出した。
最後の瞬間、何を感じていたんだろう。
本当に、怖かったんだろうなと思った。
人の痛みには人一倍優しい子だったから。自分がどうなってしまうのかよく分かっていたんだと思う。
思った。思った。思っただけ。
……私は今、あの子が何を考えていたのか想像しているだけ。涙すら流していない。
誰か、私を罰して欲しい。
いっそ、殺して欲しい。
自分の心が壊れてしまいそうなのに、いつまで経っても中々壊れてくれない。
今はそれに輪をかけて――誰も信用できなくなった。
だからもう、“終わりにしようと思う”。
弟の棺に入れることのできなかったフェルトの人形。
とあるアニメの主人公を模したそれを、私はじっと見つめる。
…………………………。
例え手遅れだったとしても――自己満足だったとしても、あの子が憧れていた世界を少しでも知りたかった。
でも私は結局、何もわからなかった。
何も、理解できなかった。
人形をリュックサックのポケットに仕舞い込んで、身辺整理が全て終わった。
包装用のロープが良い感じに余ったので“この先”の手間が省けて丁度いいな――なんて、まるで引越しの準備でもしているかのような、妙に現実的な計算をしてしまっていた自分に、思わず苦笑が漏れる。
そうして最後に、ネット経由で公式サイトからゲームのアカウントを削除する。
どうか私が逝った先で、あの子に再び逢えますように。
そう願ってから、持っていた携帯端末を仕舞う――――
――直前で、コミュニティのニュースサイトの小さな記事に偶然、目が行った。
『聖十字騎士団崩壊。行われていた不正の数々とチームの悪しき風潮。名実ともに“仮面を被っていた男”アインザーム』
震える手で、そのタイトルを閲覧する。
とても長い記事だった。
私のいたチームが、崩壊したこと。
私を取り囲んでいた人達が裏で行っていた悪事の数々。
所属していたプレイヤーが特定のプレイヤーに対して著しく人権を侵害するような発言を行っていたという事実。
この騒ぎを受けて、運営会社からプレイヤーに対して「暴言、誹謗中傷の類いはきちんと通報してくれれば厳格に処罰する」と言及するまでの事態に発展していたということ。
その先の写真つきのを見て…………私は思わず息を飲んだ。
『――以上が今回の事件の全貌である。
尚、本事件の関係者として【不敗のアインザーム】を“成り行きで倒してしまった”というダアク・レット氏はこう答えている。
《オレの名はレット、只のレット! 考え無しにアインザームに勝負を挑んで倒したらそいつが伝説のPKだったぜ! フォルゲンスの最大手チームが崩壊してメンバーは全員路頭に迷ったみたいでメンゴメンゴ! オレが好き勝手やったせいでフォルゲンスのチーム勢力図は今まさに混沌の極みとなったようだな! 恨みがある奴は俺をいつでも殺しに来いよ! 待ってるぜ!》』
最後のページ、写っていたのは――レット君だった。
畏まった立ち方はインタビューの内容とは不釣り合い。
――私の渡したスカーフを首に巻いて、『こちらに向かって』ぎこちなく笑っている。
「なによこれ……可笑しいわ……」
『オレっ……さァ……その……オレ、もっと今より強くなるよ。えっと、強くなって今度は――アリスを助けられるように頑張る……からさ!』
気がつけば――――――――――笑っていた。
泣きながら、笑っていた。
事情なんて知らないかもしれない……。
それでも、本当に英雄が居てくれたんだって。
他の誰の為でも無く。
私の為だけに身を挺してくれた人が一人だけ――ちゃんとここにいたんだ。
何よりも……“誰かによって自分が救われたという事実”に――救われた。
「ありがとう―――ありがとう、レット君……」
少しだけだけど、ほんの少しだけだけど。
ぎりぎりの所で――踏みとどまれたような気がする。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『それと、この最後の手紙はクリア個人宛ての追伸だ――“お前ら”の送ってきたインタビューと写真。俺とミズテンは大多数から反感買ったり運営にキレられても最悪クビがぶっ飛ぶだけで済むから全然良いけど、本当にこんなハチャメチャな感じで記事に載せちまって良いのか? お前からのたった一つの頼みだから普通に載せちまうけど。今更止めても、もう遅いぜ?』
――クリアさんがさっきからずっと読んでいた“記事”の一面をそこで初めて読んで、オレは目ん玉が飛び出そうなくらい驚いた。
「え……………………………………いや。なんですかこれ?」
「何って――“今回の事件を暴露した新聞のトップ記事”だよ? 写真はこの前のあの“下水道の変態のリュクス”に撮ってもらったんだ。俺の依頼で、お前のところにやってきたろ?」
そう――クリアさんの言う通り――実は事件の後、突然あのリュクスさんがオレのところにやってきたのだ。
『クリアさんの依頼で写真を撮りに来た』と言っていたけれど――
「って……この記事に掲載する写真だったんですか!? 聞いてないですよォ!」
「“言ってないからな”。リュクスから受け取った写真を、俺からオロチに送って、一足先に完成前の記事を受け取ったってわけだ」
それまで、ずーっと落ち込んで暗い表情をしていた自分の顔が、新しい問題に直面して“みるみる真っ青になっていくのを感じる”。
オレの反応がよっぽど面白かったのか、クリアさんは思わず吹き出しそうになっていた。
「いや! 笑っている場合じゃないですよォ! え? は? ――――――――いや、これ絶対ヤバイですよ!」
「丁度昨日かな?」
「――何がです?」
「その記事がフォルゲンス共和国で号外として配られ始めたのは。これだけのスクープだ。今頃、このゲームのコミュニティサイトにもデカデカ掲載されているんだろうな。――“お前の注文通り”だ!」
クリアさんの言葉で、オレは思わず目を見開いた。
「“届くと良いな――あの娘に”」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――お願いします」
あの男が――アインザームがこの世界を去った直後。
オレはクリアさんに対して、深々と土下座していた。
「“どんな方法でも良い”んです! あの娘を……あの娘を助けてあげてください! このままチームを追い出されて、それで終わりだなんて……いくらなんでも――あんまりじゃないですか!!」
馬鹿みたいだった。
他人任せも良いところで、情けなくて仕方ない。
でも、なりふり構っていられなくて。その時のオレは必死だった。
「あの娘を助けると言ってもな――正直、今の段階では何も思いつかない。もし思いついたとしても、彼女を“救う”ことができるかどうか……」
クリアさんからすれば、無茶振りも良いところだろう。
オレ自身、本当に無茶苦茶なお願いをしているという自覚があったけど、他に頼める人もいない。
「どんな方法でも良いんです! 何でもします! オレは――どんな目に遭っても良いから……だから――」
本当に無力で、自分自身が情けなかった。
涙を流していたし、鼻水まで垂らしているから、顔はぐちゃぐちゃだった。
だけど――
「……わかった! その代わり、やり方は俺に一任してくれ。おそらくお前に説明している時間もない。どんな手段を取るにしてもスピード勝負になるぞ!」
――クリアさんはオレに対して、そう言ってくれた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――というわけで」
俺は邪悪そうな笑みをレットに浮かべた。
「このぶっ飛んだ記事のインタビューの内容も、俺が独断で書いてオロチに送り付けたというわけだ」
――レットとアリスの関わりを詳しく知るものは自分と二人の記者だけ。
彼女を気にかけていたアインザームですら、レットにPKを仕掛けるまで知らなかったほどだ。
アリスとレットの出会いが団の解散の発端であると悟られることは無い。
万が一悟られたとしても――人を憎むのにはそれだけエネルギーが要る。
直接レットが明確な意志を持って復讐を仕掛けようとするならまだしも、こんな風にありとあらゆる連中を堂々と敵に回してしまえばこれはもうただの愚かな愉快犯だ。
この程度ならただ流されているだけのあのチームの烏合の衆が率先して現実の彼女に対して嫌がらせを仕掛けるとは到底思えない。これ以上、彼女に危害が加わることは無いだろう。
この記事は“願い”だ。
彼女の心が辛ければ辛いほど“全てを片付ける時”に必ず目に付くであろう最後の“希望”。
もちろん、届かない可能性も加味しなければならない。
あれだけレットに関わるなと言っておいてアレだが、彼女の現況は心配だし“バックアップ”は可能な限りするつもりでいる。
――というか、もう既に行っているわけだが。
危害を受けるという意味で、心配なのはどちらかと言えばレットだ。
独断と推定の元、スピード重視で動いてしまった結果。コイツの名が広まってしまったのは正直申し訳ないと思う。
思うが――
「この記事、死ぬほどダサいし……絶対――絶対ヤバいですよ。“絶対に……広まりますよ……絶対”」
“涙を流しながらも元気を取り戻して笑っているレット”を見つめて、俺は同じようにニヤケ面で言い返す。
「俺は“嫌な奴”だからな! 本人の居ない場所で、話を大きくすることが大好きなのさ! 恨むなら俺に出会っちまった自分の不運を呪いなッ!!」
――こいつにそんな心配は要らないと思う。
『オレ、本気です。たしかにいつもヘタレて……逃げてばっかりかもだけど。ここで“何も解らないまま”全部忘れてあの娘を見捨てて逃げ出すなんてことは――絶対にしてはいけないんだッ!』
確かに、無鉄砲だったかもしれない。無知だったかもしれない。
それでも、あの時のレットの覚悟の重さはある意味で本物だったのだと俺は信じている。
いや、“確信がある”。
何故なら……俺のような人間には、到底言えない言葉だから。
それに――もし、何か起きたとしても自分がしっかり面倒を見てれば良いだけの話だ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
嬉しさを隠しきれなくて、しばらくの間。オレはずっと泣いていた。
しばらく経って、ひとしきり大きく笑ってから涙を拭って――それから大きく深呼吸する。
「それにしても。よくこんな記事を出せましたよね?」
「――本当にな。“表現的に”という意味じゃないぞ。真相に辿り着けることすら怪しかったって意味でな」
クリアさんの言っていることが理解できずにオレは思わず首を傾げる。
「……本来――レットの追究に対して、アインザームが自らの正体を暴露する必要なんて、無かったはずなんだぜ?」
そう言ってからクリアさんは眼前に広がる“あの男にとっての思い出の景色”を再びじっと見つめた。
「確かに……そうですね。しらばっくれればそれで済む話だし……」
オレは、手を伸ばして自分の首に巻かれているスカーフを握った。
この水色のスカーフは、このゲームでは別に高価なわけではないみたいだけど、そんなことは関係ない。
オレにとって、世界でたった一つしかない大切なアイテムだ。
(そうだ――“オレにとっては大切だけど、高価ではないアイテム”……。“奪われた後に捨てられてしまっていても、おかしくないような”)
「……そのスカーフはアインザームの尻尾を掴み、破滅の原因となったアイテムだ。そのスカーフに、騎士団の沽券を守るという理由だけでレットに襲い掛かり、取り返すリスクを冒す必要があったのか。それだけの暴挙に走らせる価値がアインザームの中にあったのか――今となってはわからないな」
クリアさんに倣うように、オレは振り返って滝を見つめる。
晴れた空模様の下で、ピンク、オレンジ、紫。
光が反射して――たくさん色の水しぶきが複雑に混ざり合っていた。
「もしかしたら、あの人にもどこか……“罪悪感”みたいなものが、あったのかな……」
「そうかもな。もし、アインザームが前を向いて、自らの意志と願望を持ち続けることが出来れば、正真正銘アイツ自身が目指す“誇り高き騎士”に成れたのかもしれない……。本当の仲間を、得られたのかもしれない。逆に、あの男が心汚れていて、敗北しても言い訳してふんぞり返れるような本当に醜い人間だったなら……多分本当の意味で、“レットがアイツに勝つことはできなかったんじゃないか”と俺は思っている」
「ちょ――ちょっと待ってください!」
オレは驚いてクリアさんに向き直った。
「何言ってるんですか! 勝ったのはクリアさんですよ。オレなんて結局、何もできてないし……本当に結局……何にもできていなくて……………」
「……確かに、戦いに勝ったのは俺だ。お前の好きな物語の中ならまだしも、ゲームを始めたばかりの初心者なんてものは何もできないのが当たり前。それが“現実”ってものだ」
クリアさんの言葉を受けて、悔しさからオレは拳を握り込んでしまう。
「だけど、アイツに真正面から本当の意味で向き合って――ぶつかって――勝利を手にしたのは間違いなくお前だと俺は思う」
「オレが……?」
「お前は逃げずにアイツと正面から向き合った。……その瞬間、アイツはそれまで目を背けていた現実に直面せざるを得なくなったんだ。だから、あの場所で一瞬の隙を見せた。“お前が作り出したあの一瞬こそが、俺とアイツの勝敗を決める分かれ道だった”」
「でも……オレはただ無謀だっただけで……」
「その無謀さにも救われたよ。俺は最初からアインザームに挑む気なんて無かった。事の真相を知りたいと思っていたのは事実だ。でも『屑塵』を倒してまでそれを暴こうなんて――考えてすらいなかった。俺なんかが勝てるわけが無いと決めつけていたんだな。なんというか――最初から心で……“ずっと負けてた”」
クリアさんは何かを思い返すような表情で、ポツリと呟いた。
「――――――――――サンキュな。レット」
「え? どうしてクリアさんがオレに感謝するんですか!? 感謝するのはオレの方なのに……」
「もしもお前がいなかったら――“また俺は”……」
クリアさんは再び何かを言いかけて、それから軽く笑った。
「――“いや、何でもない”。とにかくだ――」
クリアさんは再び大きな滝の方へと向き直り、穏やかな笑顔で言い放った。
「今回の一件で、お前がこの世界に抱いた憧れや理想は、散々打ちのめされてしまったかもしれない。だけど、“無駄にはならなかった”のさ」
(無駄には――ならなかった)
クリアさんから言われた言葉を――心の中で――自分の言葉で言い直す。
ほんの少しだけだけど……救われたような気がした。
「それとさ……何というか、お前が引きずり出してみせた“本当のアインザーム”を見て『コイツには絶対に負けたくない』って思えたんだ。やっぱり、俺のような悪を倒せるのは――“真に正しき者だけ”だからな!」
そう言って、クリアさんがオレに対してサムズアップをしてみせる。
(悪…………悪人か。確かにこの人、“やっていること自体は全然正しいことじゃない”んだよな)
「――今回も俺はとんでもないをやらかしをしてしまった! “本当にすまないと思っている!” これでお前の“ぶっとんだ名前”が世間に知れ渡ることになるわけだしな! ワハハハハハ!」
滝の前で高らかに笑うクリアさんの前で――
(“ゲームの中だけでみたら、この人は――とんでもない悪党だ”)
――オレは思わず、笑みをこぼした。
「あの……今更なんですが……クリアさん。オレの名前について何か誤解してません? ダーク・レッドの“本来のスペル”と全然違うってこと。オレは……自覚してますよ」
「え!? マジで? 俺は“英語ができないおかしなヤツ”だと思ってたぞ! むしろ名前がおかしかったからフレンド登録を送ったまである」
「……だったら、何でツッコミ入れなかったんです?」
「お前自身が名前のスペルを勘違いしてると思っていたし、そのまま黙っていた方が面白いかな~と思ってな! チームのメンバーには細かく言及しないように釘を刺していたのさ! 無理にレッドとは呼ばなかったけどな。気づかれていないのかなと思ってたよ! ワハハハハ!」
「……ひでえ……何ですかそれェ……。オレ完ッ全に変な人じゃ無いですか…………クリアさんには言ってなかったけど、オレがこんな名前にしたのは理由があるんです」
「へぇ? ――どんな理由さ?」
クリアさんの質問に対して、オレは気恥ずかしくなってしまって――頭を掻いて顔を背けた。
「それは――――――――――いつか、お話しします……。今は、ちょっと落ち着かせてください……色々混乱していて考えが追い付かないや……」
「まあ――今更だけど。一応キャラクターをゼロから作り直せば、名前を変えることもできるぞ?」
クリアさんがそう言ってから、オレに対して提案をする。
「――それとも、本当に“レッド”って呼ぶようにしてやろうか?」
黙り込んでいるオレの表情はまだ暗いままだった。
だけど、その質問の答えは心の中でもうとっくに決まっている。
オレは立ち上がって、アリスからもらったスカーフを掴んで――クリアさんに対して振り返った。
「いえ、いいんです。オレ――色々あったけど……色々あったからこそ、自分でつけたこの名前がやっぱり好きみたいです。オレのことは、変わらず“普通にレットって呼んでやってください”」
「……そう言うと思ったよ。その名前の方が、色々お前らしい感じがする。これから改めてよろしくな、“レット”!」
「それで、クリアさん。気になっていることなんですけど、こんな記事が大っぴらに出回ったら――あれ……?」
オレは周囲を見回した。
遠くからプレイヤー達の怒鳴り声が響いてきた。
「――そろそろ頃合いだな!」
涼しい顔をしているクリアさんに対して、オレは恐る恐る質問を飛ばした。
「クリアさん。……なんか、滝の音に混じって人の声が聞こえてきません?」
そこで、ようやく近づいてくる怒鳴り声の正体が何なのかわかった。
それは――“争いながらオレたちに向かって迫り来るプレイヤーの集団だった”!
「あ――ああ! あれはどうみてもPK集団だな。この号外記事を見て、有名になった“俺達”の首を狙ってやってきたんだ! そしてここポルスカ森林南のこの座標は――パッシブ禁止エリアだ!」
「……………………………………………………嘘ダアアアアアアアアアアアア! 覚悟はしてたけど……まさか、オレがお尋ね者になるだなんて…………そんな馬鹿ナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「その為の馬だ! いいから乗れよホラ、逃げるぞレット! 来た来た来た来た来たァ!!!!」
馬の後ろに俺を乗せると、クリアさんはゴーグルを装着する。
その掛け声と共に、馬がポルスカの森林を勢い良く走り始めた。
「あわわわわわわ!」
「落ち着けってホラ!」
「わぷっ!」
慌てるオレの顔面に、クリアさんが新聞の裏面の記事を押しつけてくる。
オレは危うく落馬しそうになったけど、クリアさんもクリアさんで眼前の木を避けるのに精一杯なのか――それどころでないみたいだった。
『【屑塵の正体について】この蔑称はアインザームだけの物では無かった模様。その悪事の半分をかの【Clear・All】が担っていた事が本人の自供により判明した為である。具体的にどのようなことを行っていたかと言うと――』
「な? 心配するなよ! 俺の『屑塵』としての悪事も一緒に堂々と載せてもらったんだからさ。旅は道連れ世は情け、最後まで面倒は見るさ!」
「クリアさん……」
オレは、思わず言葉に詰まった。
“この人は、本当にとんでもない悪党だ”。
「今回の一連の事件は、お前にとって“重すぎるチュートリアル”になっちまったかもしれないが、“お前の冒険が本格的に始まるのはいよいよこれからだ!”ってことで、気を取り直して――二人で共に、地の果てまで逃げようぞ!!」
クリアさんの提案を受けて、オレは大きく息を吸って――頬を両手で何度か叩いてから俺に対して苦笑してみせる。
「――わかりました。ここまで来たらオレも、覚悟を決めますよ! ――それは良いんだけど。どうして装備品を着替えてるんですか!? ちょっとォ! ――そんな目立つ格好で走るのは辞めてくださいよ!!」
クリアさんはオレのツッコミを無視して半裸になって、両手の松明に火を付けた。
「いや本当――悪者って最強だよな! 何をやってもノープロブレムなんだもんな! ハッピーエンドとは無縁だけどさ!! ダッハッハッハッハッハ~~~!!」
「もォ〜、オレまで悪者扱いしないでくださいよォ〜。悪いのはクリアさん一人でしょ! でも……今回の件に限って言えば……クリアさんって、まるで――」
オレの言葉の先が気になったのかクリアさんが振り返る。
「――いや、“なんでもないです”」
オレは両目を瞑り、穏やかな表情でそう呟く。
それから、意を決して天を仰いで、持っていた新聞を勢い良く放り投げた。
ソレは風に流されて――
――オレの“祈り”のように、真っ青な空に向かって舞い上がっていった。
――どうか、その祈りが………………あの娘に届きますように。
Thank you for reading!(読んでくれてありがとう!)




