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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第一章 “英雄”との出会い
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第二十五話 チェックメイト

 尾行をしたは良かったが、やはりというか何というか……あっさりバレたので、こうして俺達は今、クリアの前に堂々と姿を現すこととなった。


クリアの奴が、斬りかかったレットに反撃してくれれば証拠は十分だったというのに。

クリアが最後までしらばっくれていたのが残念だ。


しかし後は、クリアの言い分を聞いて終わりだ。

俺達にとっては、それでもう充分。


「クリア。お前がアジャッタの仮面を持っているってことはもう割れているんだ。諦めて認めたらどうだ」


「…………もしもだ。もしも俺がその事実を認めなかったら――どうなる?」


今度のクリアの態度は、ポルスカの時と違って飄々とはしていない。


「どうにもならねえな。記事が出て、お前がこの大陸からいなくなるだけだな。お前は詰んでいるんだよ。もう逃げ場はねえ」


そうだ。コイツがシラを切っても関係ない。

ここまで話をまとめれば、決定的な証拠など無くても充分記事は書ける。


「そうか……クックックック……クックックック……クックックック……」


俺の揺さぶりに、ついにクリアが正体を現した。

ミズテンが震えて、レットの顔が絶望に歪む。








「アーーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!! ワッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハーーーーーーッ!! ――――――――――――――いや、俺じゃないよ」


…………思わせぶりな笑い声からの容疑否認。

肩すかしをくらって、体中の力が抜けた。


「あのな――馬鹿かお前は! この後に及んでまだすっとぼけるのかよ!」


「アンタこそ早まるなって。とにかくレット、事の経緯をもう一度聞かせてくれよ」


クリアに促されて、レットは最初から起きた出来事を説明する。

それは、俺達がアロウルで聞いた内容と同じだった。

クリアの反応と言えば――


「へぇ~蒸気船のクエストをこなすなんて、やるじゃないか! これで船旅に行けるな! ただ、他の地方や大陸に行くにあたって、気をつけないといけないことがいくつかあってだな……」


――レットに助言を始めようとしていた。


「おい。そんなことは今、本当にどうでもいいだろうが。テメエ自身の悪事を聞いて一体、何がしたいんだよ」


「――そりゃあもちろん、弁解がしたいのさ。まず、これを見てくれ」


言ってクリアはズシン――と、地面にゴールドの袋を放り投げる。

袋がはち切れて、中から眩い黄金が溢れ出た。


「うへ……凄っげェ。いくらあるんですかコレェ……」


初心者らしく、派手に驚くレット。

……こっそりミズテンの奴も目を輝かせている。


「960万ゴールド。これは、俺が“あるPK”から奪い取った物だ」


マジかよ。

趣味の延長とはいえ、情報誌社の“年収”の何倍もの金額だ。

――例えゲームの中でも、こういう大金を目の前に乱暴に置かれるとまともに仕事をやる気力が減退するのでやめて欲しい。


「これを持っていたPKの名前はマートレル夫妻という。知らないかな?」


「いや。聞いたことが無いんですけど……」


「まあ、初心者が知らなくても仕方ねえだろうよ。マートレル“夫妻”ってのはその名の通り、リアル夫婦で行動している有名なPKプレイヤーだ。……金を積まれてPKをするっていう質の悪い連中だろ?」


そして、このサーバーで名前と顔が割れている中ではおそらくここら一帯では一番強いPKだ。

頼めば上級者から初心者まで、気に入らない奴を確実にぶっ殺してくれるらしい。(当然、外部掲示板には晒されている)

屑塵と比べたら流石に見劣りするが、アレが頭二つ抜けて異常すぎるだけだ。


俺の説明を聞いて補足することが何も無かったのか、クリアはそのまま話を続ける。


「そうだ。そして、レットの話を聞くに、ククルトの洞門を襲ったPKの人物の正体は――おそらくその夫妻の妻の方だ。こっちは件の“屑塵”でも何でもない」


「そんな――オレを襲ったのは間違いなく――」


「そいつはフードを被ってたんだろ? こういう感じの」


そう言ってクリアはフードを取り出した。

それはカメムシみたいな緑色で唐草模様もついている。

ぶっちゃけ、とてもダサい。


「仮面なんてつけちゃいないのに、お前はそいつが屑塵だと思い込んでいたのさ。間違いないよ。あの女が洞門から出て、アロウルの配達ポストに立ち寄ったのを俺は見た。おそらくこのゴールド――PKの報酬を郵送で受け取っていたんだろう。これを見てくれ」


クリアがインベントリーの装備品の枠を開いて見せる。

そこには大量の銀の剣が並んでいた。


「その後、オーメルドで夫との会話も盗み聞きしたんだが、“誰か”に頼まれて屑塵が使う装備と武器を渡されてPKをしてたってわけだ。レットが襲われたのと日時的にピッタリだし、間違いない」


「ちょっと待てよ。どうしてその装備品とゴールドをお前が持ってるんだよ。まさか倒して奪い取ったわけじゃねえだろ?」


「いや、だから“倒した”んだよ。まさか襲われて奪われるとは思っていなかったみたいだ。ほら、これ『首級』」


そう言って二つのホログラムを俺達の前に見せてくるクリア。

その片方を見てレットが驚く。


「そうだ……確かにこの格好です! 洞門の時は、この格好のプレイヤーに襲われたんです! 背丈も同じだ……。でもクリアさん。オロチさんの話を聞く限りだと。倒そうと思って倒せるような相手ではないと思うんですけどォ……」


「確かに、油断していたとはいえ女の方は特に厄介な相手だったな。命乞いするフリして魔法を詠唱しようとしてきたから質問する間も無かった。倒したら二人ともさっさと消滅しちゃったし……雇い主を聞いても絶対に答えちゃくれなかっただろうが」


「でもぉ~それって結局強さ的に、あなたが屑塵なんじゃないのぉ~?」


「う……うーん……」


ミズテンのツッコミにクリアが言いよどむ。

正しくその通りだ。

名だたるPKを“倒そうと思ってそのまま倒してしまいました”だなんて、普通のプレイヤーにはまずできないことだ。


「答えろよクリア。やっぱりお前が屑塵なんだろ?」


「――――――――――屑でーす!」


クリアはそう言って、アジャータの仮面を付けてわざとらしくおどけてみせる。


「……へ?」


「……はぁ?」


「……めぅ?」


疑問符のついた声が、三つ同時に重なった。

クリアは自分の顔につけていた仮面をずらして、顔の半分だけを顕わにした。


「まぁ……つまりその――可能性があるとすれば、俺は――“屑塵の中の屑”。“半分”なんだと思う」


――前にポルスカで問いただしたときもこんなことを言われてはぐらされた気がするが……意味が分からない。


「半分って――どういうことです?」


レットの質問に、再び仮面を被ったクリアが応える。


「ぶっちゃけると、各地の悪名高い上級者に対する不意打ちだとか、大規模な悪戯とか。PKを殺害していたのほとんどはその――俺がやっていたんだよ。それはまあ事実なんだ……」


「やっぱりお前が屑塵じゃねえかよ!」


「早まるなって! 情けないけど――俺は伝説のPKなんて言われるほど――強くないし凶悪でもないんだよ。屑塵の噂とは全然違う! 自分でこういうことを言うのも変だけどさ。正々堂々面と向かって小細工無しで戦ったら『ゲーム人口の上位一割の人間には負ける』くらいの強さなんだ」


「あの……それ……オレよくわからないんですけど、相当強くないですか?」


「いいや、そのクリアの“自己分析”が正しいのならコイツは屑塵じゃあねえ。屑塵の噂とは不釣り合いだな。あくまで“常識的な強さの範囲内”だ」


それは少なくともポルスカで俺が見たような、真正面から剣一本で1対7をこなせるほどの超人じゃねえ。

俺のフォローを受けてクリアがほっとした表情を見せやがる。

――オイ、俺はまだお前を微塵も信じていないぞ。


「そうなんだよ! 初期フィールドで純真無垢な初心者に対する執拗なPKとか、利益目的の粘着行為みたいな笑えない悪事――“このゲームでは”やっていないんだよ! 悪どい上級者と真正面から正々堂々と戦うようなことも全くしていない! 俺がPKやるときは大体不意打ちや卑怯な手を使って倒していたんだ!」


頭が痛くなってきた。

コイツの話を聞いていると――善悪の基準がよく分からなくなってくる。


「あれ――でもそれだと。クリアさんって、上級者相手とはいえ普通にPKはしているわけだから……やっぱりいい人でも何でも無いってことになりませんか?」


レットのツッコミが入るが、その疑問に対してクリアがどう答えるかなんてどうでもいい――


「そりゃあ、そうだ。――でも、そんなことはレットも知っているだろ? 事情があったとはいえ、パーティごと俺のMPKに巻き込まれたわけだし」


――コイツの言うとおり『クリアが普通にロクでもない奴』だってことは既に知れ渡っているからだ。

俺が知りたいのはあくまでコイツが“屑塵”なのかどうかという一点だ。


「まあ……はい。クリアさんがまともじゃないのは、ぶっちゃけ出会った初日から知ってました」


クリアに対するレットの受け答えも、結構辛辣だなオイ!


「ってことはぁ~最凶のPKって要するにぃ。アンタともう一人誰か別の“誰か”の噂が混じってできているわけぇ~? 『不意打ちでセコい悪戯しまくってる(クリア)』と『正々堂々見境なく容赦なく際限なく殺している(だれか)』の二人が合わさって、屑塵ってわけ――ねぇ……」


ああ、なるほど。そりゃ二つの噂が集まったら最凶最悪のPKが誕生するわけだ。

もしもクリアの言っていることが正しいと仮定するのならば、コイツは“白でもなければ黒でもない”ということになる。


『半分くらい屑塵』……クリアを備考していた時のミズテンの勘はある意味的中していたのかもしれない。

だがやっていることだけを見たら、実際に噂になるほどの残酷な悪事を働いているのは、屑塵のもう半分の“片割れ”だ。


「そうみたいなんだよな……。いや、こんな大事になるなんて本当に申し訳ない。――といっても屑塵の噂が出てから、俺は怖くなって仮面なんか全く被っていないんだが」


そう言ってクリアは件の“仮面”を顔から外してから、人差し指を軸にしてくるくると回し始める。


「おいクリア。その仮面は、PVPの大会で手に入れたのかよ?」


「ああ。俺はあの大会に出ていた。でも一位じゃない。“八位”だった。コレに関してはちゃんと証拠がある」


そう言ってクリアは仮面を裏返した。

紫色の裏地には金色の刺繍で『イントシュア帝国 PVP大会 Best.8』と記されていた。

うーん。コイツが自分で言うとおり、常識の範疇を抜けない――微妙な成績だ。


「な!? ホラ! 一位じゃあない! だって平地戦闘限定で、罠とか、強すぎる一部の状態異常とか、卑怯な戦い方は全部禁止なんだぜ!? あの大会で優勝なんて俺には絶対無理だ! 優勝した奴は人間じゃない!」


「それならぁ~。最初に私達が問いただしたときに、そう言って欲しかったわぁ……」


――全くだ。ポルスカで初めて問いただしたときに、はぐらかさないで全部教えてくれれば済む話だろうに。


「いや……エールゲルム――特にフォルゲンスのプレイヤー新聞ってあんまり信用なくてな。あることないこと書かれるのも嫌だなと思ってすっとぼけちゃってさ。大手チームをやたら持ち上げてる感じが――あんまり好きじゃ無い」


……灯台もと暗し。

俺自身は記事を書いててそんな風に思ったことはない。


――というか、他の連中が書いている記事なんて、ここ最近はこれっぽっちも見ちゃいなかったわけだが…………。

屑塵の噂が立ってからは、寝る時間も惜しいでいるくらい俺はこの件に入れ込んでいるからだ。


「でも、おかしくないですか? クリアさんが普通に屑で、悪事を隠すような性格じゃ無いってのはよーくわかりましたけど……。それならどうして仮面なんて付けていたんですか?」


レットの言うとおりだ。

他の大陸でさんざん悪さをやって有名になっているのなら、そのままフォルゲンス付近でも堂々と馬鹿をやっていれば――ここまでクリアが怪しまれて、邪悪な存在だと疑われることもなかっただろう。


「いやその……そのだな……感謝……されてしまったんだよ……」


「え? ――あの――はい?」


「いや……初心者狩りをしていたPKを流れで倒したら、普通に初心者に感謝されてしまって。それがなんというかむず痒くてだな……見た目のインパクトでもっと悪者になれないかなあと、色々試行錯誤してたんだ……」


――――――駄目だ。理解できない。

コイツは一体何なんだ……宇宙人より理解不能な存在だ……。

俺の呆れた視線を感じて、クリアが慌てて話を元に戻す。


「と……とにかくだ! 俺は噂になるくらい執拗な弱い物虐めなんてしてないんだって――そんな笑えないことをやってどうするんだよ! 萎えて初心者がゲームを辞めたら、先細ってプレイヤーの人口が減るだろ! そしたら俺の悪戯を受けてくれる人がいなくなって、俺自身が一番困るじゃないか……!」


ミズテンが頭の上に『?』マークのゲームエフェクトを出した。

――正直、俺も出したい。

煙突の煙とレットをアロウルで見たとき以上に、頭が痛くなってくる。


「クリア……お前な。言っていることが滅茶苦茶だぞ……。このまま意味不明な発言を繰り返して煙に巻こうとするようなら、お前が邪悪なPKだったってことでこのまま記事に――」


「――――気になることは!!」


クリアが途端に声を張り上げた。


「気になることは、レットが“オーメルドで襲われた時のこと”だ。話を聞く限りでは売買禁止の仮面をつけていた以上、『屑塵の真の正体』である可能性は高い。じゃあ、何故ソイツは、レットからあの娘のスカーフを奪ったのか? それだけがわからない」


「だから、それはお前が信用させていたレットの心を徹底的に折るためにだな……」


俺の推理を受けてクリアが憤慨する。


「なんだよソレ。性格悪すぎるだろ……。レットも思い直せって! そもそも俺はお前に信用して貰える程、人徳ある行動なんてほとんどしていないはずだッ!」


堂々と主張するクリア。

…………自分でそういうことを言うなっての。

自己弁護とは言え、見苦しすぎるだろ…………。


「え……いや。うーん。ま……オレ……実はちょっとだけは信用してますよ……。か……勘違いしないでくださいよ! ちょっとだけ……ちょっとだけですからねっ!」


レットもレットで、なんだそのツンデレキャラは……気持ちが悪い。


「うーん。よくわからないな……」


クリアはレットの反応を無視して考え始めた。

――コイツら、ある意味で、相性が良いのかも知れない。


「レット。その奪われた“アリスのスカーフ”に何か特徴は無かったか? 虹色に光っていたとか、鉱物みたいな質感だったとか」


――なるほど。クリアが挙げた二つの例は両方とも“超レアな合成素材の特徴”だ。金銭目当てなら、一番しっくりくるわけだが……。


「いや――ちょっと高そうだったけど、どこにでもある普通のスカーフでした。片面に変な紋章が入っていたくらいです。黒と金色の十字架でしたけどォ……」





(マジかよ!?)


ミズテンの奴も流石に察したのか、一瞬にしてその耳と尻尾が立ち上がった。


「………………そうか……………」


――クリアはレットの言葉を聞いて、しんみりと呟いた。


「えっと――どうかしたんですか?」


「オイお前。『どうしたんですか?』じゃねーよ。何で、それを今まで黙っていやがったんだ! その紋章はチームのエンブレムってヤツだ! このゲームは装備品にチームのイメージデザインを刻めるんだよ!」


「ああ、その記者の言う通りだ。…………これでもう、“大体わかった”。わかって……しまった」


クリアは落ち込んだ調子で結論を勝手に出しているが、冗談じゃない。

そりゃあ確かに驚きだが、今のレットの話を聞いて“全てが分かる”のはおかしい。


「おい、もしかしてお前。“本物の屑塵”の目星が付いているのかよ?」


「…………ああ。ポルスカ本物の”屑塵”を見た時。戦闘スタイルから、ある程度の絞り込みはできていたからな……」


「ポルスカの“屑塵”って、私達が調べていた時に出たヤツ――よねぇ……あの時アンタも見ていたのねぇ……」


「――まあ、な。というか、正体は分からずとも二人が隠れているのは第三者の自分から見てもバレバレだった。もう少し身を隠す練習をした方がいいんじゃないか? 多分、屑塵にも気づかれていたと思うんだが……」


『うるせえ、余計なお世話だ』と言い返してやりたいが、正直笑えない。

もし、ポルスカでの尾行を屑塵に気づかれていた可能性があるなら、あの時屑塵が落とした『銀の剣』をのこのこ拾いに行った俺は既に身元が割れてしまっている可能性が高い。

屑塵から報復を受けるかも知れない。






いや……もう“既に報復を受けている”のだとしたら――。


「え、あの時っていつのことですか?」


「ああ、教えてもらっていなかったのか。実はあの日――」


考え込む俺をよそに、クリアはレットに説明を始めた。

これで俺たちがレットのことを“既に知っていた”ということがバレてしまった。

説明を聞いた後、レットの表情は『もう誰も信じられない』と言わんばかりに曇りに曇っていて、ミズテンはバツが悪そうに縮こまっていたが――俺は、ここに姿を出した時点で隠し通せるとは思っていなかったので、気にしないことにした。


レットへの説明が終わった後に、クリアは屑塵について再び言及する。


「とにかく重要なのは、あの日、あの場にいた屑塵の“攻撃の避け方”だった。“手甲で剣を受け流す戦い方”なんて見たことが無かったが、あのとんでもない強さを発揮する以上、間違いなく普段の戦闘の癖は出ている。……あれは、普段盾を持っていて受け流しが主体の人間の戦い方だ。佇まいからして、職業はもうパラディンで間違いない」


「――おいおい、決めつけが過ぎねえか? 盾を使う職業なんていくらでもあるだろうが。ウォーリアとかよ」


「いや、あれは真正面から攻撃を盾で受け止めるウォーリアの戦い方じゃない。尚且つ、回避の際に片手では無く“両手を同時に上げて攻撃を回避”していた。これはつまり、かなりのサイズの盾を普段から持ち歩いているってことだ。剣を持っている片側の腕だけ上げて肉薄してくる攻撃を避けてたとしても、もう片側の腕に装着している“大盾に引っかってしまう可能性がある”からだ」


「んめぇう。大盾を持っているのに受け流すなんて、それ随分余裕綽々な戦い方じゃあない~?」


「そうだ。余裕綽々だ。そして大胆不敵な奴さ。あんな戦い方をしている以上。普段から間違いなく“実力を隠さず人目についているプレイヤー”に違いない」


…………なんか、雲行きが怪しくなってきたぞ。


「次は武器だ。レット、その銀の剣を貸してくれ」


そう言って、クリアはレットから片手剣を借り受ける。


「記者さん。アンタもあの時見ていたんじゃないのか? あの武器の振り方は短めの剣に見合っていないんだよ。どうみても“大型の騎士剣”の振り方なんだ。そして、それを豪快に振り回す癖がついていることがよくわかる」


こんな感じに――と、クリアは銀の剣を力を込めて振り回し、刺突した。

ぶおん――と鈍く剣が空を切る音が鳴る。


たしかにその通りだ。それは俺にも分かる。


あの武器の振り方は技量と鋭さ重視のソードマスターの物じゃあない。

フォルゲンス共和国発祥のパラディンが学ぶ“練兵闘書”の基本中の基本。


ゲームメタ的なことを言うと、力を乗せて突き刺したり叩き潰すのが基本の“西洋剣の振り方”ってヤツだ。

――流石に、あそこまで極めているのは屑塵だけだろうが。


「記者さん。この段階である程度絞り込みが出来るだろ? ぴったりの戦い方をしていて、見合った強さを発揮しているプレイヤーなんて、もうあのチームの中で数えるほどしかいないはずだ」


「なるほどな……。“容疑者”なら一人いるな……確かによ……」


「ああ、そうだ。この大陸にいて、尚且つ“彼女のスカーフ”に関連性がありそうな人物はもう一人しかいない」


「えっとその……それってつまり、そのチームに所属している奴が犯人ってことなんですよね? いったいどこの――」


「だぁあ……答えてやるよ! お前の持っていたスカーフは、要するに聖十字騎士団の物なんだよ」


苛立っている俺の言葉を受けてレットは動揺する。


「そんな……つまり…………もしかして……嘘だ……」


衝撃の事実に絶望しているのか、曇っていたレットの目のハイライトがさらに消えていく。

動揺したレットを追撃するように、クリアは断言した。







「ああ、屑塵の正体は恐らく――――――――――聖十字騎士団団長。アインザーム」

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