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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第一章 “英雄”との出会い
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第十二話 気がつけば見知らぬ地

挿絵(By みてみん)



「あ、あれ? ここ…………………………どこだ?」


その日、レットは途方に暮れていた。


気がつけば自分を取り巻く景色が一面、茶色に様変わりしていたからである。


彼が居るフィールドは【オーメルド兵陵】。

レットがゲームを開始したフォルゲンス共和国の、そこから遥か北西に位置するフィールドである。

草木の一本も生えない荒涼とした兵陵で、気温は低く、時折冷たい雪が降り積もる。


BGMは存在せず、風化した赤茶色の岸壁に打ち寄せる波の音のみが響いている。灰色の空はこの地の厳しさを象徴し、訪れるプレイヤーに自然の雄大さを感じさせる。

広大な海原に面し、巨大な蒸気船が大陸の外側を回るように航行する景色が特徴的で、最北端にはアロウルという港町があり、冒険者たちはここを起点に旅立つのである。


(なんか、周囲が妙に殺風景だな。吹いてくる風も、少しだけ寒くなってきたような……)


レットが周囲を見渡す。

フィールドの様々な場所にくすんだ色味をした巨大な天然の結晶石のような物が置かれており、北西の方角には巨大な雪山が聳え立っていた。


「〔クリアさん。言われたとおりにアイテムを拾い集めていたら、いつの間にかとんでもないところまで来てしまったみたいなんですけどォ……〕」


レットはフレンド登録を行ったクリアに対して、専用の会話チャンネルで連絡を入れる。


「〔一体何時間『箱開け』をやっていたんだい?〕」


「〔昨日の夜からやってます。明日は土曜日だし、休み中もずっと続けられると思いますよ〕」


「〔おいおい、無理はするなよ。それで、結果はどうだった?〕」


「〔Lv.8の装備品が2箇所とLv.3の装備品が2箇所出ました。装備品はとりあえず言われた通りの部分が右腕を除いて揃いました。食材とか木材も出たけど、ぶっちゃけゴミです……〕」


現状レットが装備品をつけているのは四肢や腰、胴体などの部分のみ。

尚且つ、ゲームを始めた直後の初期装備より“ちょっとマシ”程度の物であり、外見的な違いはほとんどない。

色が塗られていないためか、全体的に白色が目立つ地味なコーディネイトとなっており、ネックレスやピアス、ベルトなどの装飾はまだ入手できていなかった。


(クリアさんに言われた通りに“モンスターを倒した後にたまに出現する宝箱を開ける”っていうお金稼ぎをしてみたけど、結果は微妙だったなあ……)


「〔こんな序盤のフィールドで倒したモンスターが落とす宝箱の中から、良いアイテムが出るとは思えないんですけどォ……。紹介してもらってこんなこと言うものアレだけどあまり割のいいお金稼ぎとは思えなかったです〕」


先日の下水道での一件から、レットはお金(ゴールド)を得ることもできておらず。

職業のレベルアップもほとんどできていなかった。


「〔たま〜に上級者も使うアイテムが出たりするんだけどな。ま、時間をかけてじっくりやる金策だからな〕」


(なんか……違うんだよな。オレの知ってるVRMMOってもっとこう……トントン拍子で強くなっていってお金もガンガン稼げるってイメージだったんだけど……)


「〔ま、何も得られなかったわけじゃないだろ? レット、一旦フォルゲンスのAH(オークションハウス)で手に入れた装備を売り買いするのはどうだ? リスポーン地点がフォルゲンスなら、一方通行だけど近くの転送用(ポータル)ゲートから戻れるはずだ〕」


クリアの言葉を受けて、レットはここ数日で学んだ知識を思い返す。


クリアが提案したAH(オークションハウス)

これはプレイヤー同士でアイテムをやりとりする競売会社の事をいう。

国家には直接売り買いを行える窓口が必ず設置されており、規模によっては街にも設置されていることがある。

エールゲルムのどのような場所で出品しても別の場所で即購入できてしまうと言う点はご愛敬、ゲームプレイには時にリアリティよりも利便性が重要なのである。


「〔ゲートはこの近くにあるんですかね?〕」


「〔レットが今いる【座標】を教えてくれ。ゲートまでのルートを案内できると思う〕」


(えーっと。座標座標座標……座標っていうのは確か――)


 座標とは“地図の座標”の事である。

緯度経度をフィールドごとに簡略化した物と考えると分かりやすいかもしれない。

地図の縦の位置を示すのが上からA~Z。横の位置を示す物が1~26。


地図上の最北西がA-1、最南東がZ-26。

プレイヤーは直感的に座標を伝えることが出来、教わった側は地図上にマーキングがされるのでとても便利で、オブジェクトやモンスターの生息域等の必要情報を伝達しやすくなる。


「〔ええっと、今の座標が【W-20】なんですけど〕」


「〔えらく東にいるんだなあ……。ゲートはポルスカとのフィールドの境目の【N-13】まで戻らないといけないから、結構手間だぞ〕」


「〔【N-13】って……遠いなぁ。参ったなあ……〕」


しかも、今のレットはこのフィールドの地図そのものを持ってはいないため、真っ白な地図に教えて貰った座標のみが表示されており、これは“迷子に近い状態”だった。


「〔リスポーン地点がフォルゲンス共和国なら、死に戻りすれば大丈夫だろう?〕」


「〔“死に戻り”って“自分が設定したリスポーン地点にわざと戦闘不能になって戻る”ってことですよね?〕」


「〔戦闘不能になると普通なら蓄積した経験値のロストするけど、レットはまだ初心者だからな。デスペナルティなしで後腐れなく死ねるはずだ〕」









「〔わかりました。じゃあオレとりあえず自殺しますね〕」


突如自殺を決意したレットは、近くにいた巨大な亀の強さを調べた後に、銅剣で殴りつけた。

亀がレットの頭上にその頭を叩き下ろす。


「うごっッッア!」


その一撃の威力は、レットの最大体力の約三倍以上の数字を叩き出した。

レットは凄まじいダメージと衝撃を受けて“自殺した”。


(何度も戦闘不能になっているから慣れているとはいえ……いきなり自殺を決意して亀に殴りかかるってなんかシュールだな……。戻りたいー、戻りたいー。"メシマズ"フォルゲンスが待っている~)


レットが念じた、次の瞬間――――















―――――リスポーンしたレットが立っていた場所は再びオーメルド兵陵であった。


「あれ? ここ…………………………どこだ?」


その台詞は二回目だった。

ここはオーメルド兵陵である。


「そんなわけないよな? フォルゲンスだよな」


オーメルド兵陵である。


「なんでだこれ!? おかしいだろ……フォルゲンスなんだよな!?」











オーメルド兵陵である。


「〔クリアさん! 死んだらオーメルドの前哨基地にまた戻ってきちゃったんですけどぉぉお!〕」


「〔お前……ひょっとして“前哨基地のNPCに話しかけて、リスポーン地点を変更してる”んじゃないだろうな?〕」


「〔あっ……………………………………〕」


クリアの指摘を受けてレットが黙り込む。


(そういえば、前哨基地でNPCに話しかけたら長話を始めたから、適当に聞き流していたんだよな。その時に“何かの選択肢”を無意識に選んでしまっていたような……。あの時にリスポーン地点が変更されちゃったのかも!?)


「〔返事が無いって事は、つまりそういうことなんだな?〕」


「〔ウワアアアアアアアアアア。やっちまったアアアア……〕」


「〔……まあ、いいんじゃないか? 近辺にはアロウルの港町もあるんだし、しばらくその【オーメルド丘陵】でレベル上げをすればいい〕」


「〔ここら辺のモンスター強すぎませんかね? さっき、でかい亀には一撃で殺されてしまったんですけどォ〕」


「〔心配はいらない。レベリング用のパーティを組めばいいのさ! このゲームはパーティとは2人から8人まで一緒に行動ができるからな〕」


「〔パーティを組むってことは、【オートマッチングシステム】をオンにして待っていればいいんですか?〕」


「〔そういうことだ。オーメルド丘陵には、フォルゲンス共和国が作った前哨基地があるはずだ。ここならモンスターは入ってこない。そのうちシステムが自動で最適なメンバーを集めてくれて、倒すべきおすすめのモンスターを教えてくれるはずさ〕」


(なるほど……ちょっと、試しにやってみようかな?)


クリアのアドバイスに従って、レットは前哨基地に移動する。

オートマッチングシステムをオンにしてから、レットは周囲を見渡した。


「〔ヘぇ〜。こんな場所にプレイヤーの拠点みたい場所があるんですね〕」


「〔そこの前哨基地はフォルゲンス共和国の管轄だな。前哨基地ではプレイヤーや旅人は所属の国を問わず、物資のやり取りが出来るってわけだ。とはいえ――前哨基地の西側はプレイヤー同士の戦闘が許可されている区域だから、ううかつに足を踏み入れるなよ〕」


そのまましばらく待機していると《メンバーが参加しました》という通知と座標表示が出た。

参加してきたパーティメンバー、レットのいる場所と大分近いようである。


「〔クリアさん。言われた通りにしていたら、速攻でパーティメンバーが集まってきちゃったんですけど……なんかオレ、急に緊張してきました……〕」


「〔お前、普段どれだけ人と話していないんだよ……〕」


(せめて今のうちに、メンバーの情報をちゃんと確認しておかなきゃ!)


レットは咄嗟にゲームメニューのウィンドウを開いてパーティメンバーの情報を確認しようとする。

しかし、焦っていたため『パーティを解散する』という全く違うボタンを押してしまった。


「あ――うわ! やっば! 組まればかりのパーティを解散しちゃった!」







「……初めまして。よろしくお願いいたします」


レットは突然、落ち着いた雰囲気の声の持ち主に話しかけられた。

咄嗟にそちらを見遣ったが――“ソレ”を認識した瞬間、レットは戦慄した。


立っていたのは緑色の奇妙な生き物。

頭は禿散らかしており半裸で醜く太っている。

身長は半端に小さく顔面は恐竜の骨格のような奇妙な形。

目の部分が空洞になっていて、眼球が見えない。

小さな盾に、無骨な片手持ちの斧を背負っていた。


「うわあッ! モンスターだ! 獣人が前哨基地にいる!」


レットは咄嗟に銅の剣を取り出して、“モンスター”を殴りつけた。

18ダメージが緑色のモンスターに入った。

緑色のモンスターは、レットに殴られながらも冷静に話を続けている。


「す、すみません。殴らないで頂けると嬉しいのですが……。ええと、たった今パーティを解散されてしまったようなのですが、察するにこれは誤操作をされてしまったということでしょうか? それならば――」


「食らえッ!!」


しかし興奮していたレットは一切の聞く耳持たず、その禿げた頭部を銅の剣で力の限り叩き続ける。

クリティカルヒット判定となり、32ダメージが緑色のモンスターに入った。


「ええと、(ワタクシ)の外見に気分を害されたのなら、謝ります。なので、一旦落ち着いていただけると――」


「今だ! 【閃光の光速の光! フラッシュライトの速度が上がるスキル!】」


レットが、数日のゲームプレイの内に編み出した『叫ぶ必要のない』戦闘用のスキルを炸裂させる。


「――ウグウッ!」


レットの斬撃の雨霰の前に、無抵抗のモンスターは血塗(ちまみ)れとなり、ついに息倒れた。


『Lv.UP』の表示とともにレットに力が(みなぎ)る。

同時に『Lv.Down』という真っ赤なエフェクトが死体の上に表示された。


レットは勝利の余韻をかみしめて、クリアに連絡を入れる。


「〔クリアさん! 言ってるそばから前哨基地にモンスターが出現しましたよ! 【Makoto・Tanaka】って名前です。固有名詞がついているから珍しいモンスターみたいですね。でも、オレ一人で倒せました!〕」


「〔固有名詞がついているモンスターはこのゲームでは『ユニークモンスター』と言われるんだが、そんなモンスターが前哨基地に出てくるなんて知らなかったよ。直訳で『誠のタナカ』――武士の怨霊とかそんな感じのやつなのかな?〕」


「〔武士って感じじゃないですね。斧と盾を背負っています。体表は緑色で――おかしいな。倒しても消滅しないぞ? お、装備品持ってますよコイツ。――よっしゃ! ゴールドと右手の装備品ゲット! これで、装備品の基本部位が全部揃いましたよォ!〕」


レットの耳に、クリアの息を飲む音が聞こえて来た。


「〔緑色って……それ多分というか――絶対にモンスターじゃない……【ケパトゥルス】だ!〕」


「〔けぱとぅるす?〕」


クリアから指摘を受けて、レットは自分の記憶を思い返す。


(そういえば、そんな種族もいたっけ。他の種族と違って、名前が造語みたいだからうろ覚えだったけど……)


「〔プレイヤーが選べる種族の一種だよ。ケパトゥルス族というのはね――――〕」


ケパトゥルス族は西部大陸の森林からの自然を愛する流浪の民である。

サイズが巨大な者と中途半端に小さい者の二種類が存在しており流浪の生活を続け、エールゲルムの社会に適応しつつも質素な生活を好む。


その不気味な見た目と裏腹に『困っているときは自分達が進んで他の民族を助けるべきである』という教えの元に行動する信心深い種族なのだが、”醜い外見でありつつなんでも言うことを聞く“ということもあってか現地の人間に搾取、若しくは虐げられてしまっており、今となってはどの国家でもその扱いは奴隷以下。


国同士の戦いに駆り出され、追い剥ぎとなった者達は沢山いるが、その中でも彼らは献身的なようで虐げられているようである。


本作を遊ぶ多くのプレイヤーは長い呼称を嫌い、『ケパ』や『ケパ族』と呼ぶ。


「〔――簡単に説明するとこんな感じだ。ケパを選ぶプレイヤーは何となくなんだけど、礼儀正しい人が多いかな。俺は見た目も含めて、割と好きだな〕」


(そういえば、キャラクター選択時にそんな種族が居たような……こんな化け物みたいな外見が好きって……変わってるけど……ちょっと待てよ!? じゃあ、つまりオレはたった今――)







「うわ……ヤ……ヤバい。どうしよう、オレ……“初めてプレイヤーを殺しちゃった”よぉぉおおおお!!」


 かくして、オーメルドの大地でレットは途方に暮れた。

物語の英雄(ヒーロー)に憧れる少年。初参加のパーティを解散させた挙句に、“メンバーを惨殺す”。




【リスポーン地点設定の注意点】

今作では、適当にNPCに話しかけてリスポーン地点の設定をいい加減にすると国に戻れなくなったりすることがある。


また、ゲームを始めたばかりの初心者をターゲットに言葉巧みに遙か遠い土地まで連れて行き、そこにリスポーン地点を設定させて自分だけ国に帰る『エールゲルム観光』という呼称の嫌がらせ行為も存在する。


初心者は移動手段が限られている為、最果ての過酷な土地から帰って来れる者は極めて稀であるとされている。


「ここはどこじゃ! ワシは誰じゃあ!!」


「ボケてんなよ爺さん!」



【パーティプレイのフットワーク】

ストレスを無くすためかパーティには割と気軽に参加できて尚且つ、気軽に抜けられる為の配慮が成されている。

現在のメンバーの構成やレベル、人数から経験値効率の良いモンスターの位置座標が選出される機能も付いているためとても便利。

全体的なフットワークを軽めにすることでプレイヤーの負担を下げられている。

勿論、異常な強さのモンスターを効率良く長時間倒す“廃人御用達のパーティ”も存在しているが、そのようなパーティは移動手段の豊富な上級者が国の中で集まって組む場合がほとんど。


【オーメルド丘陵の釣り事情】

ここまで来て釣竿を使うことで、ようやくまともな魚介類が釣れるようになるが、その敷居が無駄に高く多くの釣り初心者が前情報無しに釣り糸を垂らした結果、グラスパッファー(※後書き後述)を釣り上げてしまい怒りの余り魚を岸壁に叩き捨てる光景が散見される。


【グラスパッファー】

猛毒の河豚。どこを食べても毒なので完全な外道。大外れ。

釣り人から嫌われており、捨てられていることが非常に多い。

実はとある条件下で飼育すると無毒になる。

また、合成のスキルで毒を抽出して販売をすることで富を稼ぐプレイヤーも存在する。


ゲーム側は設定を間違えているのか、毒の有無に関係なく料理の素材に使うことができる。

食べたもの曰く『舌がピリピリするような刺激的な味わい』らしい。




「あっ、食べてみると結構うま―――――――――」





【装備品について】


基本的な装備部位でステータスに大きく影響する装備部位は①頭装備、②胴体装備、③右手装備、④左手装備、⑤両脚装備、⑥両足装備の6箇所。


そこからさらに⑦右肩装備、⑧左肩装備、⑨右指装備、⑩左指装備、⑪右耳、⑫左耳、⑬背中装備、⑭腰装備、⑮首装備とスロットが存在しているため合計15スロット。


気の遠くなるような数であり、やり込みがいがあるとも言える。

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