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VRMMOセンキ  作者: あなたのお母様
第三章 青空へ向かって
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第三十八話 最終局面(Endgame)

 最初の一撃を受け流した時に、レットは自分の見る世界が様変わりしていることに気づく。

それは受け流しに特化しているレットの装備品と、アニムスのシナジーによってもたらされた新しい感覚だった。

相手の振るう大剣の攻撃の膂力と速度はすさまじく、しかし不思議と緩慢にも感じられた。

極限状態における集中と訓練によって培われた経験によって、レットはその奇妙な感覚さえも一瞬で強引に納得した。


これ以上、余分なことに思考を割いている余裕はなかった。


(一瞬にして理解できた。――“凄い”! これが……プロのゲーマー!)


その時レットの思考は、“相手の技量とその戦術”を自らの身体で理解にすることに対してのみ向けられていた。

コンマ数秒の時間に、走馬灯のようにクリアとの会話が思い起こされる。


『レット。俺が戦って理解したことだが、あのAngelというプレイヤーはA story for youNWとRoValに“間接的な互換性”があることを利用して、独自のビルドスタイルを運用して戦っている。それはおそらく、イートロに予め組んでもらった物だろう』


Angelの振る大剣の残心が発生する。

ほとんど“同時に”その左手が開かれる。


『そのビルドはずばりRoValでAngelが試合を決めるときに使っていた戦闘スタイルだ。外観も併せて全力解放時の【シェームハウザー】と同じ存在が、この世界に顕現しているといっても差し支えないレベルの強さを実現している』


一回目の剣の振り終わりと同時にトヴは、左手で何かを投げ込むようにレットに向けて発射する。


『剣を振るった際と残心によってできる“小さな最低限のモーション”だけで、効果の小さい魔法の“発生要件を満たす”。これによって剣の連撃と魔法乱射を同時に行っているんだ。まず、この時点で普通のプレイヤーには実現が難しい動作だ』


レットは飛んでくる“何かを顔面で受け止める“。

僅かな違和感だけがある。衝撃もダメージも無い。

その事実に安心する間もなく振り下ろされたニ撃目の大剣を受け流す。

剣を流して、"何か"を顔面に受けて。

流して、受けてを繰り返す。


『相手が使ってくる魔法はおそらくたったの四種類だが、この四つの魔法こそがビルド運用上の大きな問題になる。四種類の魔法を高速で“状況に合わせて間違いのない順番でリズム良く打ち続ける”ことで①自己に対するバフ②相手に対するデバフ③範囲魔法攻撃④単体魔法攻撃を“連続発生”させているんだ。つまりアイツは、①四種類の魔法の順番を常に考えつつ放ち②“魔法別に用意されている詠唱“の“モーション要件を満せる最低限の動きが成立するような斬撃“を相手の出方に合わせて叩き込んでいる。しかも、一瞬でも魔法の順番を間違えたら全てのリズムが乱れる。魔法の効果がすべて解除されて最初からやり直しになってしまう。あまりにも自然にやっているから、傍目で見ている普通の人間には理解すらできずに“一周回って簡単に見える“』


(か……“簡単”? これが簡単だって?)


眼前の舞のような隙の無い動きを見て、レットは背筋が凍るような気分だった。

その技術の高さ“だけを体感”していた。


というのも、実はこの時――レットは敵の戦法の約半分に値する"魔法攻撃"をほとんど認識していなかったのである。

これは、クリアの入れ知恵によるものだった。


『もちろん、お前が勝負を長引かせられる要因はある。一つ目はずばり【魔法制限区域】での戦闘だ。俺が瞬殺されたあのフィールドでは何の制限もなかったが故にアニムスが全部付与された上でアイツの全力(フルパワー)――つまり剣と魔法の攻撃やデバフまで全て食らって一瞬で瀕死に追い込まれてしまった。しかし、禁止エリアならば気を付けるのは剣だけで良い。全てがまとまっているビルドの構成上、トヴはお前を“剣だけで倒す”ためにダメージの無い魔法とデバフを連射しながら自己バフをかけて戦わなければならない。【魔法制限区域】に入りさえすれば、そのビルドの大半が無駄になる。予め【魔法に関するSEの音量】をゼロにして、【自分に対する魔法エフェクトを非表示】にしておくんだ。そうすることで敵の剣だけに集中できるはずだ』


もしも対策をしていなければ、レットの視界は連続で放たれる七色の魔法で埋め尽くされていただろう。

そして、この場所が魔法制限区域であれば、当然魔法を避けられるわけがない。


(――間違いない。もしも……もしも敵の魔法が見えていたとしたら、まともに戦闘なんてできっこない! 視界が何も見えない! この敵の全力の火力を……ハンデや対策なしで耐えられるプレイヤーがこのゲーム上に存在するのか!? クリアさんが"秒殺"されるのなんて当たり前だ。オレが何の対策もしないでまともに戦っていたら一秒以内に戦闘不能になってる!)


『そして二つ目。E・Vが意図的に付与したハンデ“アニムス”の差だ! 初心者と上級者を並べる目的で使われているこの特殊なバフが、今回相手には一切付与されていない。一方でお前には”剣での最低限の攻撃力”と”物理攻撃に対する受け流しだけを極限以上にまで強化した”アニムスを三つ付与している。レベルが足りていないお前でも“本来の理想の自分の戦い方”を極限まで再現することが出来るはずだ』


しかし――


(この話を聞いたときは――確かに、自分と相手に大きなハンデがあるように感じていた。でも――)




――実際に攻撃を受け流しているレットからすれば、これは敵に対する縛りに成り得ないものだった。




(――キャラクターに補正が掛かっているとはいえ――こっちはアニムスが三つ乗って、装備と戦い方の全てが受け流しの防御に特化しているのに……圧倒的に有利なはずの“剣の部分でも勝てていない”! か、完全に技量が違い過ぎる! 本当だったら、とっくに崩されている!! それなのにオレがギリギリで持ちこたえられているのは――)


『三つ目。それはずばり、トヴが言っていた“光の遅さ”だ。A story for youNWはPVPの為“だけ”に存在しているゲームじゃない。つまり通信がどれだけ早かろうとプレイヤーの“意思の入力遅延”の撤廃にまで機材に開発のリソースを割けていないんだ。ここが、あの男のそれまでやってきたスポーツライクなゲームであるRoValの機材と決定的に違う点。このゲームは、機材のデータ入力部分に“光”を使ってしまっている関係で常に2F(フレーム)から4F(フレーム)。60分の2秒から60分の4秒の不安定な動作の“入力遅延”が発生している』


(――それが効いているから拮抗できているのか!? わ……わからないですよクリアさん! ――本当に、そんな遅延があるのか!? 全く分からない! “60分の二秒”ってなんだよ!? トヴは――Angelは……今まで一体どういう世界に身を投じていたんだ!?)


理解の及ばない世界を――しかしレットは"自分の生存"によってその事実を間接的に体感する。


『相手はプロだ。遅延が"固定"されたものだったら即効で“適応”されるだろう。だが実際は周囲のオブジェクトの動きや時間経過による天候等の複雑かつ精密な描画の処理もあって、プレイヤー同士の動きを同期する際に僅かながらも常に不安定な遅延が起きる。だからこそ耐えられるはずだ。Angelの戦い方はこのゲームに於いて“あまりにも超次元的かつ、精密すぎる環境で発揮できるイレギュラー中のイレギュラー”なんだ。プレイヤーの常識外れの高すぎる技量故に“ゲームの方がプレイヤーについていけていない“。なまじ動作が多い分、常に全身に疲労が発生しているかのようにAngelは十全に動くことができないだろう。それでも体力もほとんど無限に近い上に、アニムスの無い“外界”では天下無双だろうけどな』


事前にクリアから教えられていたAngelという男の“常軌を逸した戦闘スタイル”を自らの肉体で体感しつつ、レットの身体が震える。

それは圧倒的な強者を前にしても武者震いか、恐怖による震えなのか。


(ダメだ……震えを大きくしちゃいけない! なんとしても止めるんだ! ……まだ――こんなもんじゃないはずだ! オレが練習してきた戦い方はこんなもんじゃない! まだ――)











『四つ目! それは、レットのゲームに対する適応度! お前はこのゲームでずっと俺と色んな練習をしてきた。身体がこの世界に――この世界の遅延に慣れている! そして、天蓋諸島群は"砂地"だ。一方で、RoValは常に平地のフィールド! 競技性を重視している故に地形に大きな凸凹がほとんど存在しない! 俺は"お前がどこでも戦えるように、色んな環境下で通じるような練習をして来た"。“泥の上”でも、“雪の上”でも、“砂の上”でも戦えるように。――お前とAngel――足捌きの技量では差が出る!』







(――まだ、行けるはずだッ!!)


光り輝く神の如し六枚羽の巨人の舞の如き剣撃によって刃が激しい音を鳴らして、火花が消える前に次の火花が上がる。

実際の所、それは拮抗ですらない。

一時的な要素の組み合わせによる時間稼ぎ。そのことを、レットは確かに理解していた。


(このままじゃ――おそらくある程度対応されて負けてしまう! だけど――だけど何としても最後まで耐えきって見せるッ! 目の前の(りふじん)を――"打ち倒す"ためにッッ!)






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 放たれる魔法を食らいながら後退を続ける眼前のレットの全身が、光り輝くトヴの体に相対するかのように光り輝いている。


(コイツ――魔法に"怯まない"な。――何らかの策を、裏で講じている可能性が高い)


トヴが瞬時にその判断を下す。


根拠はあった。

それがゲームの中であったとしても、人間である以上生理的な反射を避けることは不可能に近い。

しかし――


("魔法を受けて瞬き一つせずに"自分の目と振り回す剣の軌道だけを見つめてきている。おそらく自分の知り得ない何らかの理由がある。しかし――それよりも"懸念すべきこと"がコイツにはある!)


その時、トヴの心の奥底にあった感覚は"不気味"さだった。


(――コイツは知っている! 意識をしていないかもしれないが、身体が"理解"をしている!)


その時、トヴの脳裏に浮かんでいたものは“ゲームプレイでの戦術構成と読み合い“だった。


何事にも、“主となる戦術”があり、それを“崩す戦術”が存在する。

故にトヴは戦闘を開始してから常識外れの精密な高速動作を行いつつも、レットの戦い方を一瞬で理解した。


理解して、それに対する"崩し"の戦術を即座に行使していた。

しかし――


(一向に崩せないどころか、コイツは"崩しに対する対抗戦術"を瞬時に取りやがった! 切り替えのタイミングがわからないほどに――自然に……無意識の内に!)


――トヴにとって、"既に終わっているはずの戦いがいつまで経っても終わらない"。


これは、彼が不気味さを感じる理由として十分すぎた。

崩しに対応されたところで、トヴというプレイヤーはプロのゲーマーである。


崩しに対応されたのなら、また別の戦術――新しい剣撃で眼前の敵を崩せばいいだけのこと。

既に常人には理解できない領域ではあったが、彼にとってそれは当たり前の話だった。


(お、おかしい――おかしいぞ……! なんで闘いが"終わらない"んだ? 戦術の読み合いが、いつまで経っても終わらねえ。コイツを崩せねえ!)


僅かな短時間で、凡人には理解できないような――地獄のようなやり取りが行われていた。


"①戦術を対応するために生み出された戦術に②対抗する動作を③崩すために生み出した戦術を④さらに対処される"。


次々と戦いの“主流”が両者の間で高速に上書きされていく。地獄の如き戦術構成の無限の螺旋(ループ)に陥っていた。


(馬鹿げてる! コイツはなぜここまで適応できるんだ!! コイツの、この受け流しの戦い方は、誰に教わったんだ!? 一体“何と”戦うことを想定している!? 確かに、アニムスの補助はとてつもなくデカい――それは事実だ! 補助がなければ達成できない領域ではある。それでも――)


トヴが啖呵を切ったレットの姿を思い浮かべる。


(――口だけじゃなかった! 補正がかかっているとはいえ――間違いなく、本物の実力がある! "だからこそわからない!" なぜレベルを上げてもいないくせに、こんな異次元じみた戦術を、失う物も無いような……どこにでも居そうな見た目のプレイヤーが身に着けていやがるんだ!?)


トヴの脳裏に雪山での記憶が思い返された。

浮かんだのは目の前で戦っている(レット)が見せたどこか幼さを感じられる笑顔。


(自分でさえ、あの時は努めて平生を装っていた。コイツもそうだったのか? 何かを、自分達に対して隠していたのか!? いや――あの時から、自分を偽っていたとは到底思えない! しかし、目の前に居るコイツは――)


あの時あどけなかった表情の少年が、今まさにこの瞬間、別人のような強い眼力で――一切、ぶれずにトヴを見つめ続けている。


(――雪山のモンスターに対しておたおたしていたあの時の初心者と、本当に同一人物なのか!? まるで別物だ! あ……圧倒的に対人の技術だけが違う!)


ゲームの中なのに、まるで魂が宿っているかのような強い目線と、剣を交わす度に加速度的に増えていく圧倒的なプレッシャーに、トヴは思わず魔法の手順を間違えそうになる。

瞬時に自分のミスを予感し、精神を落ち着かせる。精密な動作を繰り返しながら、冷静に観察を始める。


この冷静さは、プロの世界に身を置き続けていた彼にとって最早当たり前の概念。戦いに身を投じる日々の中、自然に身に付いていた物だった。


技術の研鑽によって磨かれた動体視力が驚異的な観察力をもたらす。

そして気づく――


(コイツ――もっと"早くに気づくべき"だった! 良く見るとあの時と"装備品が違っている"! い……いや――何だこれはッ!)


RoValでは、キャラクターのデザインが概ね決まっている。

細かな外見変更といった概念はなく、手に入れた装備の強さは"数値だけで変わるもの"だった。

"Angel"にとって、どこまで行っても自分の前に立ちはだかるのは個の"キャラクター"であり大切なのはそれを操作する"プレイヤー"だった。


(身体が風を切っている!? 装備のデザインにも一切の隙がない! まるで――この戦い方をするためだけに用意されていたかのように! それなのに、見た目を初心者用の装備でカモフラージュしているってことは――コイツは"自分が初心者"であるということすら、戦いのアドバンテージにしているってことだ!)


トヴは、眼前のプレイヤーの動きと装備品の作りがあまりにも合致していることに初めて気づき、一般的な"数値としての強さとは全く別の概念"がこの世界に存在していることに驚愕した。


(この装備をコイツに付けることを決めたヤツは、相当狡猾だ! 一体、こんな装備をどこの誰が用意したんだ!? この世界にはこんな戦術があったのか!? これは最早、自分の知っている戦いの技術じゃない!)


トヴはその時、レットの背後に"人影"のような物を見た。


それは、目の前の敵に"仲間が居る"という事実を実感してしまったことによって見えてしまったある種の幻覚。

"レットの仲間の姿"を戦いの中で、錯覚という形で垣間見る。


だからこそ――


(お前に"やれる"のかよ!)


トヴが自らの唇を噛む。


(――自分とアイツには……そんな風に寄り添ってくれる仲間は誰一人も居なかった! "やれるもんならやってみろ"よ!)


自らを奮起して、再び心の平生を保つ。

そう、"平生を保っていた"。


トヴには何よりも気づきたくない事実があった。

彼にとっては何でもそうだった。

最善を尽くすプロとしてメンタルに支障が出るようなことは、"極力気づいていても気づかないふりをする"必要があった。







ひょっとするとそれが故に、プロとして登り詰め、それが故に、"気づかないもの"が多すぎてこの場所に行き着いてしまったのかもしれない。






しかし、この事実に対して気づかないフリをすることはできなかった。

気づかないふりのできない事実が、トヴの脳裏をチラついた。

この時、トヴが不気味だと――何よりも恐ろしいと思っていたのは――

















(駄目だ。考えないわけにはいかねえ! ――何より怖いのはこいつの"精神力"だ! 最早メンタルが"強い"とかの次元じゃない!)


――巨神として放つ自らの強烈な一撃を、少年が身を伏せ斜め上の斬撃で切り払う。


(自分の動作一個一個に"人の命が掛かっている"んだぞ! 今戦っている自分がまさに"そう"なんだ。イートロの為に戦っていて圧倒的に優位なはずの自分ですら、心の底でビビっちまってる! ――僅かに震えが来てる!)


苛烈なやり取りの最中、レットが姿勢を崩しそうになる――砂浜に倒れそうになる。しかし、ギリギリのところで片足一本で砂浜を踏んで転倒を回避する。


("お前もそう"なんだろう? 実感していないとは言わせねえよ!)


姿勢を崩したその間、レットは震えながらも背後の地面を一切見ていない。

トヴの目を一切ブレることなく歯を食いしばり、必死の形相で見つめている。

相対するトヴにとってその動作は、“震える腕で、超高層ビルの淵で逆立ちをしている人間”を想起(イメージ)させた。


(間違いない。やはりコイツに"恐怖はある"! しかし、それでもなぜ堂々と格上の敵に立ち向かい続けていられる!?)


ゲームに命を賭けるつもりで――覚悟してプロの世界に身を投じたトヴですらそんな"経験"は無かった。


(コイツは今までどれだけ絶望を乗り越えてきた⁉  コイツには既に何度かあるのか! 『地獄のような絶望を乗り越えた経験』が!?)


自分のゲームの実力には自信があった。

並ぶものは居ないと未だに思っていた。

そんな中で――


(――かつて、居たのか!? 自分の前に、こんな強いプレッシャーとメンタルを持って――極限状態でありながらぶつかり続けてくるヤツが!)





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




(――――………………)


既に、その時のレットの思考の中に自らの言葉は介在していなかった。

それはクリアに貰った、最後のアドバイスを守るためだった。




『最後の五つ目。それは“経験の差”だ! ゲームの経験では劣っているが、“ゲームの範疇を超えた恐怖を一度乗り越えた体験”がお前にはある。あの恐怖を乗り越えた時の達成感を、鮮明に思い返してヤツに挑め!』


(……………………………………)


それが故にただの静寂。かつての苦境を乗り越えた時の成功をイメージして。

イメージを繰り返して、思うがままに剣を振るう。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




思考を割きつつも、しかし戦いは激化し続ける。

トヴの圧倒的な技術、"眼前の敵に対しては負けるわけがない"という実力に基づく、残された僅かな精神的の余裕が流れるように大剣を振り回す。


斃れぬ(レット)がそれを受け流し続ける。余波が何度も地面に波紋を作る。


そうしてできた不安定な地面を眼前の(レット)が、後方を確認せずに転倒することなく後退をし続ける。

トヴは敵の足が震えていることに気づき。転倒するのは時間の問題だと推測する。







しかし――――敵の目はいつまでも死なず、戦いは続いていく。


(コイツは――ただの低レベルのプレイヤーなんかじゃない! もっと"違う別種の何か"だ! 経験や後ろ盾以外にも、こいつには――おそらく自分で気づいていない程の"強い芯"がある!)







『お前には芯がない』


自分に対して言われた侮蔑の言葉を思い返し、トヴは舌打ちをする。


(自分には……それが無い! きっとそれは――自分にかつてあったはずの物……とっくの昔に忘れてしまった戦いに身を投じた理由だ! 自分には……思い出せない――――わからない。だからこそ知りたい………………お前の心がそこまで強い理由は……一体なんなんだッ!!)









「…………崩れて倒れろ――いい加減ッ!」









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






(トヴ)の叫び声とともに戦術ではなく戦略が変わったことをレットは理解する。

それは剣撃のパターンの変更ではなかった。

攻撃の手を一切緩めぬまま、トヴがレットに対して背後に回り込むように素早く移動を始めた。

突如の"攻め手の方向転換"。

それまで無我であったレットの思考に、乱れが生じた。


(まずい――意地でも背後に回ってくるつもりだ! がら空きの背中を攻められたら、攻撃を捌けなくなる!)


咄嗟に身体の前面で敵を迎え撃つためにレットが敵に向かって後退するが――それよりもトヴの旋回速度の方が早い。


(相手が自分の視界に映っているうちに、"あれ"をやるしかない! 練習は前にクリアさんと何度もした。アレを――ぶっつけ本番でやるしかない!)


レットの視界の隅で、自分の下半身を狙って切り払われる一撃が放たれる。


(――今だッ!)

















レットが意を決して、剣の上に飛び乗り――――――跳ねた。


「――……なんだと!?」


トヴの驚く声が聞こえてくる。

レットの身体が、"トヴを中心点として上方向にすっ飛んでいく振り子"のように、宙に浮かび上がる。


しかし――トヴは攻撃の手を休めなかった。空中に浮かんだレットに対して、地の上で舞い踊るように剣を振り回し続ける。

それすらも空中で受け流し、流しきれなかった勢いを利用してトヴの頭上を半円を描いて滞空してレットがその背後に回り込む。


レットには"自分が無茶なことをしているという自覚"があった。

他に手はないとはいえ――"上手くやりきれれば奇跡"と言っても過言では無い程の危険な動作。





事実、この飛び上がりによる背面移動は最後まで成功させることができなかった。


トヴが――レットの着地の瞬間に合わせて両足に向かって剣を横薙ぎに振るう。


文字通り片足を掬われそうになり、回避の為に片足を上げた結果――レットは姿勢を大きく崩す。

思わず、砂浜の上に尻もちをつきそうになる。








このままでは転倒は必至。倒れてしまえば一撃を貰ってしまう。

敗北の二文字がレットの脳裏にちらつく。







(――――――――――――――――――――――!!)




脳の中で、言語化すら間に合わぬような刹那の時間。

レットは即座に判断し、逆側の足を上げる寸前に一瞬地面を蹴る。

勢いが足りず、ゴロゴロと情けなく地面を転がる。

視界が映画の早回しのフィルムの様に縦方向に回転する。

転がり始めた直後に――急接近したトヴの連撃が容赦なくレットに襲い掛かる。





しかし、その攻撃すらもレットは受け流した。

両足が浮かび上がりその身体が――宙に浮いたまま真横に何度も跳ね飛ぶ。

まるで、空気の塊を何度も何度も受けて、勢いを途切れ途切れに継続しつつ飛んでいく紙切れのように――レットの身体が何度も何度も空中に浮き上がり押し出されていく。

とどめとばかりに、トヴの左手の拳が繰り出された。


(……………………まずい!)


その拳は"魔法"ではなかった。トヴが“リズムを崩す”覚悟で放った予想外の掌底打ち。

レットは、自分に向かって放たれた物理攻撃を受け流すことができない。

交差した二本の剣で咄嗟に"真正面から受け止めて"しまい――レットの身体は遥か後方にすっ飛んでいく。


大きな、砂煙が上がる。

精神的な疲労からレットは肩で息を吐いている。


しかしそれでも――


(――今のやり取りで生き残れたのは……大きい!)


――敵が砂煙の中から敵が即座に飛び出してこないことを確認し、レットは現況を把握する。


(あの拳の一撃で"リズムが崩れた"んだ! こちらからできることは何もないけれど――相手がリズムを取り戻してビルドのパフォーマンスを出し切れるようになるまで、オレの寿命が延びたってことだ!)


背後は決して振り返らない。

周囲の景色で、自分が居る座標を確認する。


(このまま同じ方向に後退を続けるんだ! あと少しだ――あと少しで違和感なく"目的地"に辿り着ける!)








砂煙の中から、トヴが姿を現した。


「………………………………」


敵は何も言葉を紡がない。

ただ、黙って大剣をレットに向かって構えた。


レットはそれに呼応するかのように――


(………………………………)


――自らの脳内の余分な思考を取り払う。

目の前の敵へ集中するために、大きく息を吐き出す。






しばしの見つめ合いから――二人のぶつかり合いが再開される。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 終わりが近づいていた。

片や『一撃貰えば終わり』『できることがほとんどない』という極限状態が続く。

片や『攻撃を食らってしまっても良い』『好き勝手やらせてしまっても良い』という精神的優位を抱えている。

それ故に、後者には余裕があった――直感的な思い付きをする余裕が。


(適応だ……そう――適応)


トヴには"ヒント"があった。


(――何もかも。"適応"するだけだ)


レットが魔法を受けても瞬き一つせずに怯まないことに対して、トヴは何らかのシステム的なフォローアップを受けているという推測があった。

それに加えて、トヴは遅延をきっちりと体感していた。

自分のキャラクターが十全に動いてくれないという実感があった。


これらの憶測からトヴは思考し、そして到達した。

それは、事前に練習したものではない。戦いの中での成長。


(なら――こちらが"自分に合った環境を作り出して適応すれば良い"。ただ、それだけのこと)


彼はMMOというゲームジャンルには決して明るくない。

それ故に他のゲームからの知識に基づく、単純な解決策を見出した。








『遅延にブレがあるならば、ブレを把握した上で――自分だけが把握できる"負荷の割合を増やせば良い"』







トヴがレットの身体だけではなく、背後の中空に向けて魔法を連射し始める。

レットに当たれば消えるはずの魔法が、虚空に向かって飛んでいく。


それに加えてトヴはレットに対して――


(“使ってくる武器スキルを変えてきた!?” オレに向かって、当たりもしないような発生の遅い物をどうして――)


――"非常に派手なエフェクト"の武器スキルを放ち始める。


それまで放っていた"短く隙の無い、当てる目的のスキル"ではない。

"当たらずとも派手で、空中に長く残留し続ける"スキルを選んだのである。


『エフェクト増加による、意図的な遅延の微量な増加』


大人数のプレイが当たり前の世界の中で、起きた遅延は確かに僅かだった――しかしそれでも確かに遅延は発生している。

それは人知を超えた単独での高速動作――限界を超えた限界を一人で当たり前のように行えているが故の芸当。

僅かな時間で、Angelは誰も至らなかったような高次元に達していた。


レットの身体が僅かに――認識できない程に、本当にごくごく僅かに遅くなる。








 それに加えてこの時、両者の間では"認識の差"があった。


魔法・武器スキルのエフェクトの遅延は周囲に居たプレイヤーに対して確かに平等に遅延をもたらす。

このゲームにおいては、エフェクトを“自分の視界に納めている側”の方がその負担は大きい。


つまり、遅延の負荷がかかっていたのは自キャラクターに向けて魔法と武器スキルを放つトヴだった。


しかし、この時――





(わからない! さっきから――トヴは、何をしているんだ!? 顔に触れる違和感が減った? オレに向かって放っていた魔法をどこか“別の場所”に放っているのか? 一体、どうして――)


――レットには“五感での理解”が遅れていた。


エフェクトを切ってしまっていたこと、魔法に関するSEを切ってしまっていたことがここで裏目に出てしまった。











『理解した上で自らハンデのように負荷を上げる者』と『原因を理解しきれずに動きに僅かな支障が出ている者』。


この時点では、両者は拮抗しているように見える。

しかし――トヴにとっては"適応”すれば良いだけだった。


(後は――自分で作り出したこの環境に『自分だけが適応すれば良い!』 こいつ(レット)はまだ何が起きているのか理解しきっていない! 『自分にかかる遅延を加味した上で自分だけが新しく立ち回りを再構築』すればいい。"ただそれだけ"のことだ!)


Angelが戦いの中で、新しい領域(たかみ)に到達する。

レットの動きがだんだんと――だんだんと崩れていく。

結果的に訪れたのは何のことはない――当たり前の結果だった。



全ての面で一対一での戦いを制したのはやはりAngelだった。




「終わったな。これで……"これで最後――"」


しかし――トヴの決め台詞はそこで止まる。






この『ゲーム』における彼の敵は一人ではなかった。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――











「「――――――今だあああああアアアアッ!」」


追い詰められたその瞬間、トヴの目の前のレットが天に向かって“何か”を掻き消すように大きな声で叫ぶ。

しかし、それでもトヴは五感を失わない。

その耳に、背後の砂が盛り上がる音をきっちりと聞いて――その直感が警笛を鳴らした。

とどめの一撃を止めて、トヴは半身を捻るように振り返る。


振り返る前に、その視界に濃い緑色の砂浜の“中”から高速で身を起こすクリアの姿が映る。


――立ち上がるボロボロの全身からから砂が零れ落ちている。

曲がったレイピアと槍を持って幽鬼の様に立ち上がるその姿は、トヴに“朽ちかけた古代の兵器”を想起させた。


トヴが振り返りきる前の一瞬。

クリアが即座に砂を蹴ってこちらに向かって突っ込んでくる。

(ひび)の入ったゴーグル越しにトヴとクリアの目が合う。

トヴはクリアから、何の躊躇もない明確な敵意を感じた。





トヴにとって厳密にはレットは敵ではなかった。






“自分が負けうる唯一の要因”だと信じて疑わなかった存在はClear・Allだった。


だからこそトヴはレットを無視してクリアに対して全力集中し防御をするために思考を割く。

ようやく振り返りきるタイミングで、クリアがトヴに走りながら何かを投げつけて来る。


――それは、剣――曲がりくねったレイピアだった。

回避は間に合わないと判断して、トヴはそれを咄嗟に剣で受け止める。


同時に、クリアが走りながら両手から投げナイフを投げつけて来る。

身を翻し避けたところに――接近したクリアが、深緑の曲剣を振り回してくる。

それを避けたところに今度は折りたたまれていた槍が突然突き出された。


トヴは流石に避けられないと判断し、胴体で堂々とそれだけを受け止める。


鎧を貫通して、槍だけが深々と突き刺さる。

しかし――トヴは決して戦闘不能にはならない。

トヴはクリアの襲撃を耐えきると、身体を前転させて――突き刺さった槍ごとクリアの身体を振り回して地面に叩きつける。




そして、クリアの腹部に地面ごと大剣を杭の様に深々と突き刺した。





「……けられねえな」


トヴの口から、小さな呟きが漏れる。


「負けられない………俺は……俺は…………」


言葉尻を変えて、再びその言葉を呟く。







トヴの頭の中に――病室で笑っている少年の姿が思い浮かんだ。

そして、幼い頃の自分自身の姿が浮かぶ。


最後に思い浮かんだのは、今に至るまでのゲーマーとしての思い出のすべてだった。



病室で笑う少年と――“自分自身”の姿が重なった。













「――“僕”は負けられないッ!」


その叫びは、“自分自身の全て”を掛けた全身全霊の叫びだった。




「――レットがピンチになったら、お前が仕掛けてくる来ると思っていたぜClear・All! 島の入り口で待ち伏せたのが仇になったな!」


勝ちを確信したトヴが、クリアを睨みつけた。


「こんな島の端まで来れば、襲撃のタイミングが大凡(おおよそ)わかっちまうんだよ! それに加えて、気づいていないのか? ――お前ら"二人の戦い方は相性は悪い"んだ! レットは、"対応する"ことしかできねえ! 後は無視して仕掛けてくるお前を倒しちまえばそれでお終いだ! お前さえ倒せば! 後は――レットを潰すだけ。自分の勝ちだ! やはり自分にとっての最大の敵はお前だったな!!」


攻撃を受けたクリアが大剣で腹部を貫かれたまま、トヴを見上げる。

それから、ゆっくりと右手を掲げた。






クリアは、トヴの頭に向かって指を突き付けて――









「――BANG(バン)





――と呟いて、意地の悪さを感じる怪しげな笑みを浮かべる。







この時、トヴは確実に思考していた。

唯一の敗因となりうるクリアの意味不明な行動に対する理由を全力で考えていた。





そこで――トヴは気づいた。




槍が貫通していたのは自らの肉体ではなく“鎧”だけであり、体力は最初から僅かしか減っていないということに。

同時に、“自身の身体に見たことも無いようなデバフが掛かっている”ことに。


そして一瞬、“その存在”に対して反応が遅れた。


顔を上げつつ振り返って――














(何だ――レットが居ない!?)


残された足跡を一瞬見つめて、咄嗟に行先を推理して再び振り返る。

“先程まで居たであろう位置からクリアが隠れていた位置にまで移動していた”レットに対して――トヴの反応が遅れた。






――レットは、トヴと全く同じように巨大な鉄塊――特大剣を地面に突き立てていた。

まるで祈るように――両手で剣の持ち手を握って――寄りかかるように全身を剣に預けていた。





「……………………………………………………」


小さな呟きと同時に、その身体が淡い水色に輝き始める。

レットの唇の動きによって、聞こえないはずの声がトヴの頭の中で再生させた。












『…………………………五秒前』










その呟きを受けて、トヴが大剣をクリアの腹部から引き抜く。

クリアの身体が消滅し――同時に、レットの身体が砲弾のように跳ねてトヴに対して突進していく。











護衛者Clear・All。

戦闘不能、強制送還。

【剣撃動作兼、高速魔法詠唱ビルド】 ※非常に難解なため、魔法の詳細に関しては流し読み推奨。

通称:Godlike(神の如き)ビルド。

本戦闘でAngelことトヴがレットとの戦闘で使用している魔法は以下の四つのみである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


①アウォーク(Awake、この解説ではAと省略) ★装備やキャラクターのステータスにもよるが、クールダウンはどうやっても少し長めになる。

単体発動:ダメージのある魔法光球を前方に射出。


特殊効果:「D→B」と「D→C」は次に放つ「D→A」のCD(クールダウン)をリセットすると同時に、強化刻印を1つ自身に付与する。強化刻印は最大2つまで。


※D→Aの発動効果:相手に付与されている弱体刻印を爆発させてることで最初に命中した敵に極大の魔法ダメージを与え、それまで抱えていた全ての強化刻印を同時に放出する。強化刻印を2つ放出することで初めて、各種ステータスが増加される。弱体刻印のついた対象に放つことで、これらの強化の効果時間がさらに伸びる。弱体刻印の対象に対する攻撃を継続していくことでこれらの【強化時間が累積増加】する。


②バラージ(Barrage、この解説ではBと省略) ★装備やキャラクターのステータスにもよるが、クールダウンは短い。


単体発動: 対象の敵に瞬時に具現化したルーン文字を投げ放つことで魔法ダメージを与える。

この魔法を使用時にAとBをクールダウン0秒で詠唱可(同時にこの魔法を相手にかけることはできない)


※D→Bの発動効果

各種魔法を強化する弱体刻印を対象の敵一体に付与する。

また、この刻印が乗っている状態だと次に放った以下の魔法が変質する。


A:相手に付与されている弱体刻印を爆発させて、最初に命中した敵に極大の魔法ダメージ

B:周囲の敵に「弱体刻印」を拡散する。既に弱体刻印が付与されている敵にDCを使用するか、既に弱体刻印が付与されている敵をD→Aで倒すのいずれかを行うと、周囲の敵にも弱体刻印をばら撒く。

C:強化と弱体の効果時間が2秒に増加する。


③コンテンプレート(Contemplate、この解説ではCと省略) ★装備やキャラクターのステータスにもよるが、クールダウンは長め。


単体発動: 対象の敵に魔法ダメージ。0.5秒間動作を停止(☆デバフ扱い)させて、0.5秒間の間移動速度を上昇させる(☆バフ扱い)。


※D→Cの発動効果:D→Bの後にD→Cを入れる事で、高速と移動速度上昇の効果時間が僅かに伸びる。

しかし、このデバフとバフはDをビルドにいれることで装備やキャラクターのステータスアップによる効果時間の延長の一切を受け付けなくなる。












④ディヴァインレルム(Divine Realm、この解説ではDと省略)★クールダウンは存在しないが、この魔法を連続で重複発動すると強化が全て剥がれステータスがダウンする特大のペナルティを受ける。


発動:自己強化スキル。特定カテゴリーの魔法に対して特殊な追加効果を付与。

必ず他の魔法を間に経由する必要がある。


効果は①~③の魔法の※部分を参照。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




あまりにも複雑怪奇かつ難解なビルド構成であるが、同時にこの四つしか魔法を入れていないのが特徴。


A story for youからEoEというゲームを経て誕生したのがRoValというゲームであるが、実はこれらの魔法は(詠唱モーションは違うとはいえ)RoValからの逆輸入に近い。(理由に関しては後述)


特に4つ目の自己強化魔法の【ディヴァインレルム】は"ぶっちぎりの問題児"であり、特定カテゴリーの魔法の在り方の全てを歪めてしまっている。

ただでさえ複雑な魔法剣士の魔法に"マトリョーシカのような構造で特殊な効果を重複付与する"ため、新しいビルドを作り出しバランスを歪にしている原因とされていた時期があった。


(逆に言えば、この魔法さえなければ先のビルド構成の"※部分"が全て消滅するため平和そのもの。A~Cは他の魔法と一緒に、一般的な"低威力魔法連射ビルドに運用される"ようになる)


実装したディレクターは"有能だが何でもかんでもPVP要素を入れたがる"ことでとても有名な人物であり、RoValなどの対戦ゲームが“個人的にかなり好き”らしい。

そのため、このような魔法が実装されたと噂されている。(ナーフの仕方すらRoValを真似ている体たらくである)


当人の評価は、PVPに興味のないプレイヤーからは著しく評価が低い。(本作でPK可能サーバーの概念を作り出したのも同じ人物だったりする)

その後、やはり強すぎたのか何度もナーフを受けて使い物にならなくなってしまっており、“原作共々”もはや人間を辞めていないと使いこなせない人外専用魔法になってしまった。


常軌を逸したビルドであり、理論自体は前から存在していたが、魔法"だけ"でも常人には使用できないとされているほどの難度を誇る。

流れるような小規模の詠唱を連続で行っており無駄がないが、一つミスをするとペナルティがかかったり、時間切れによりそれまで掛かっていた累積強化が消えてしまい流れが完全に崩れる。


しかもこの魔法の詠唱だけに集中して、ようやくほかのビルドに比肩する程度。(セットする魔法がたった4つで済むというメリットはあるが)


トヴがRoValの中でAngelとしてピンチ時限定で無双のごとき強さを発揮できていたのはこれらの魔法を高速詠唱をしながらモーションに剣戟を載せた上で武器スキルすら同時に発動し続け"剣だけでも相手を圧倒する"という狂気じみた動作を入れているため。


つまり、魔法剣士の剣士のコンセプトである“バランスよく交互に、片方ずつ”という概念を実力でねじ伏せて同時に全力使役して初めて常人を圧倒できる――片手落ちを一切許さないビルドとなっている。

しかも、特殊な“剣”によって基本ステータスの補助があるとはいえレットの受け流しと違って"反射反応関連の補助は一切入っていない状態"だったりする。


要するにトヴのプロゲーマーとしての経験と幼少期から鍛えられた反射神経や直感と矜持によって成り立っている神の如きビルド。


尚、RoValでは"四つ目の魔法"は自チームが追い詰められた時にしか使えないという制約もあったが、本作には関しては(どうせ誰も使いこなせないだろうという理由からか)そのような縛りは一切無いようである。


この魔法と剣の波状攻撃を耐えることは通常のプレイヤーでは理論上不可能で、数秒で崩されて"溶かされる"こと請け合い。

しかも、圧倒的な強さであるアニムスの補助を彼は一切受けていないかつ"即興の素の状態"でこの強さである。

外に出れば魔法のダメージ制限なども取っ払われ、敵側のアニムスのハンデも一切なくなりステータス的に比類する者もいない。

誰にも止められる者はいなくなり、"世界が壊される"という言葉もあながち嘘では無くなるだろう。


今回レットが食い下がれているように見えるが、実際は"武器同士のぶつかり合いの一点のみ"で拮抗できているだけである。

それすらも技量で劣っているため、負けが決まっている闘い。

しかも、耐えられるといっても本当にわずかな時間である。

この週の禁止行動が“武器攻撃のみ”であった場合、レットは魔法の対処が出来ずコンマ数秒で戦闘不能になっているだろう。




"初歩的なコンボ例"をこの場を借りて一部紹介する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


①A→D→B→D→A→D→C→D→A→D→B→D→A


理論上最大火力コンボ。

モーションから鑑みた場合、繰り出せる剣撃のバランスも良い。

しかし、この魔法詠唱ルートでは強化刻印が二つにならない。

つまり、これだけを繰り返しているとどこかで強化が切れてしまう。


②D→B→D→C→D→A

強化刻印を積むために間に入れるためのコンボパーツその1がこれ。

これ自体に対した火力は無く剣撃の威力もやや低下する。

しかし、相手との距離を計る際には有用なコンボとなりうる。


③D→C→D→C→D→A

範囲攻撃。

D→Bによって弱体の刻印が周囲の敵に拡散し、周囲の敵全てにDからのAが発動する仕組み。

累積強化を乗せた状態で解き放つことで、魔法と剣の雨霰が敵の大群を薙ぎ払う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あくまで一部だがこれらを始めとするコンボを“状況に合わせて”切れ目なく連発するのが基本。

『2~4Fの不安定な遅延の重さが大きな影響を受ける』というのも理解できる話である。


つまりトヴは――



①剣撃を放ちつつ②残心で詠唱をしつつ③これらのコンボを切らさずTPOに応じて使い分け④敵の攻撃の対処をしたり⑤接近したり⑥戦術を考えたり⑦第三者の襲撃の把握したり⑧敵の行動に対する読み合いを行ったりしている。


しかし、ゲームに人生を賭けていた"Angelというプロプレイヤーにとって"は、『ただそれだけのこと』である。




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