第二十七話 Get ready to fight.(後編)
ベルシーが居なくなった後も、オレ達は居間を出入りする他のメンバー達と何度も話し合いをした。
オレとタナカさんは、目的地までケッコさんの運転する馬車に乗っていくことになった。
その後、タナカさんはワサビさんと二人で一旦別室に移動。
デモンに付き添う際の注意点をネコニャンさんに伝えるため――らしい。
「そろそろ、頃合いだな。レット、二人でチームの家の郵便ポストを確認しに行こう」
クリアさんの指示で、オレはチームの家から外に出る。
オレがポストのメニューを開くと、そこにはアイテムがびっしりと並んでいた。
「急ピッチでよくここまで揃えてくれたもんだ。取り出した物からどんどん装備してくれ」
最初にポストから防具を取り出して、一気に装備する。
それまで纏っていた防具が、空間が歪むようなエフェクトと一緒に次々と差し変わっていく。
だけど――
「――防具の見た目自体は、ほとんど変わってないですね」
「そりゃあ、“そういう風に作った”からな。試しに動いてみろ」
言われた通りに、片腕を軽く上げてみてすぐに違いに気づいた。
「うわ――これ……前より全然動きやすい!」
新調した防具は重さというものをほとんど感じられなかった。
布がずれたりするような感覚が完全に無くなっていて、身体の関節が明らかに動きやすくなっている。
「お前のその防具が何より優れているのは、“擬態”だな。お前の防具は初心者がつけるものと“外見だけは同じ”だ。つまり、知識がある相手ならお前をただの初心者だと驕るかもしれない。そこに強みがある。よし――次は、武器を装備して抜刀してみろ」
クリアさんの指示を受けて武器を装備すると、鞘に収まった二本の剣が腰の後ろ側に現れる。
きちんと調整をしてくれたのか、長さはぴったりだった。
(まずは右手の剣を――――――――)
中腰になって、いつもの構えで腰の鞘から勢いよく二本の剣を取り出そうとする。
だけどここで――“引き抜くのに力が必要”だと思ったのが間違いだった。
力を込めて引き抜いた右手の剣に重さを感じられない。
「うわ軽――――――――――――」
勢いを乗せたまま思い切り振りかぶってしまう。
そして――剣は真横にあったチームのポストに真上から深く埋まってしまった。
「えぇ………………怖ッ!」
クリアさんはため息をつきながら、ポストに歩み寄って刺さった武器を引っこ抜いた。
「【リーサルマチェットナイフ“+5”】余計なプロパティは削除されているみたいだが、武器の切れ味はむしろ上がっているみたいだな。有機物相手にはこうはいかないから、使い勝手には気を付けろ。次は左の剣を抜刀してみてくれ」
今度は気を付けながら左手の剣をゆっくりと抜刀する。
(こっちの名前は、『鈍銀の剣+1』……か)
銀の剣だったはずの武器の色は、変わらないどころか余計にくすんでいてもうほとんどグレー色になっていた。
こちらもとっても握りやすい。
体の動きに倣って、武器が自然と振り下ろされる。
(すごい……良く手に馴染む。学校のテストが始まった直後に、無意識に自分の名前を書いてしまうのと同じくらい……意識せずに武器を振り回せている! 付与されているステータスも、オレのレベルにしてはすっごく高い……)
「――出来栄えはどうだ?」
「凄いですね――。でも、クリアさん。あの銀の剣をこんなに短時間で、オレのキャラクターのレベルで使える限界まで強くできたりするものなんですか? “+1”ってことは、強化にそんなに沢山の武器は混ぜてはいないってことですよね?」
「まあ……その――強化に使っている素材が……あ~――かなりその――希少というか……ぶっちゃけ最上級というか――――――――」
オレの質問に対して、クリアさんは何故か言葉に詰まっていた。
「――――――――強化に使った素材は……ある“折れた武器の破片”なんだ。持ち主が投げ捨てた物を、俺が回収しておいたんだ」
「……“持ち主が捨てた武器の破片”?」
「その持ち主はよく“銀の剣を使っていた”。多分、そいつが投げ捨てた武器と基礎的な構造も似ていて相性が良かったんだろうな。両方、パラディンが使える物だから――」
オレは握っている武器をじっと見つめた。
そして“気づいて”――突然、過去の映像が頭に浮かんだ。
『君のこれからの旅に――祝福がありますように』
そう呟く人影が、銀色の剣を差し出している。
刀身に夕日が映りこんで、オレの顔を照らしている。
『この場に至って、ようやく理解できた。“結局のところ、私には最初から、何も得てなどいなかった”』
長大で真っ直ぐで美しい剣が、放り投げられて――真っ二つに折れている。
「も――――――――――もしかして……銀の剣に、あの時に折れた剣を“勝手に混ぜちゃったんですか!?”」
オレの言葉の意味をきちんと理解していたようで、クリアさんは居心地が悪そうに頭を掻いた。
「チームとは無縁の人間のアイテムだから、お前なら反対すると思って勝手にやったんだ。あの剣をそのまま直しても、今のお前のレベルでは使えない。だから、素材として使うべきだと思って折れた破片を混ぜたのさ。片手剣とはいえ、元の武器は色んな人間にとって身に余る希少なアイテムだ。復元したところで――面倒なことになるだけだしな」
クリアさんはゴーグルと自分自身のオレンジ色の頭頂部を弄りながら、オレの持っている左手の剣をじっと見つめた。
「俺はたまに……“居なくなってしまったプレイヤー”について、考えることがある。もしも、居なくなってしまった人間がこのチームに入っていて、この場に居てくれたら一体どんなことを俺達に言うのか――いつも考えているよ」
「どう――なんでしょうね。もしもこの場に居てくれたら――“あの人”は協力してくれるのかな?」
「お前にとっては複雑な相手かもしれないが……少なくとも、そう考えられる余地が俺にはあったから素材に使った。“象徴的な騎士の持っていた希少な剣”と、”凡庸な銀の剣”。お前が握っている武器は、元々同じ人物がいつも使っていた“表の顔”と、とっかえひっかえしていた“裏の顔”の二つを組み合わせた物だ。祝福も退魔の効果も、強化の過程で失われてしまったが――今のお前ならきっと、使いこなせるさ」
“使える物は何でも使う”。
クリアさんらしい考えだと思った。
オレだって、この武器に思うところが全く無いわけじゃない。
そして、他人の武器を素材として勝手に使ってしまうのは、確かに問題があるかもしれないけど――この状況で四の五の言ってられないのも事実だ。
(こんなに良い武器を、使わない手はないよな……)
「わかりました。もう完全に、オレの持ち物って感じじゃなくなっちゃったけど。今は深いこと考えずに、使わせて貰いますね」
オレは自分自身を納得させるように頷いて、武器を仕舞って再びポストの中身を探る。
「他にポストに残っているのは、回復に使える薬品とかですね――後、この二通の手紙は何だろう?」
片方の手紙はオレ宛てだった。
手紙を開くと、中には何枚かの羊皮紙と一緒に流れる様な字体の走り書きが入っていた。
『これらは、【ヌェーボォ・セニセロ】周辺の地図だ。物品としてはない。吾輩の伝手で、地図を所持していない人間でも見れるように”紙に直接書き写し取った、最新の見取り図を纏めた物”だ。第三者の手が入る人造書庫《プレイヤーwiki》よりも、情報の精度自体は高いはずだ。貴公の武運を祈っている』
「なるほどな。――いいサービスだ。仕事しては一流以上だな」
(ありがとうございますリュクスさん。これも、使わせて貰います!)
心の中で感謝しながら羊皮紙をインベントリーに仕舞って、もう一通の手紙を開く。
「もう片方の手紙は“クリアさん宛て”になってますよ?」
クリアさんは、はっと驚いたような表情を一瞬だけ見せて、オレの横から手紙を取り出して慌てて開いた。
「……………………デモンの家で見つけたアイテムの調査結果が出たのかと思ったが――違ったな。これはただの“請求書”だ。今回リュクスの伝手で注ぎ込んでもらった合成素材の費用だな」
「ちなみに――いくらくらいするんですか? 払える限り、自分で払いますけどォ……」
「素材の費用は一切要らない。その装備も武器も全部お前にやるよ。チーム全員からの、遅ればせながらの誕生日プレゼントだと思ってくれ」
「全部オレに……!? でも、クリアさんは前に『初心者プレイヤーにどんどん強いアイテムを渡したらやる気無くなっちゃうから駄目だ』って言ったじゃないですか!」
「あの時は、こんなに事件が長引くとは思っていなかった。お前は既に、遊びの範疇を超えて、ゲーム以外の物に長い間時間を費やしすぎている。本来、お前のキャラクターのレベルは今よりもっともっと上がっていて――色んな所を冒険していたはずなんだ。装備品だって、本当は自分でもっと集められていたはずだった。そこからなら、多少の強化で今の同じ強さのラインに簡単に立てていただろう。つまり、お前は大切な時間を大量に失っている。これは、それの穴埋めだと思ってくれ」
「でも――それじゃあいくらなんでも……」
言葉に詰まるオレを見て、クリアさんは優し気な表情で――
――オレの顔面に向かって片手で投げナイフを放った。
「――――――――――――うわッ!」
反射的に、オレは飛んでくるナイフを鈍銀の剣で弾く。
『万が一ナイフが当たってもダメージにならない』ということにオレが気づいたのは、ナイフを弾いた直後だった。
「もしも、お前のレベルがきっちり上がっていたら、今のナイフは“片手の二本指で止められていた”はずだ。――レット、正直に答えてくれ。今のお前の自分自身の強さが、どの程度の格上にまで通じると思う?」
『正直に答えてくれ』
クリアさんの質問は、オレの気持ちの問題を聞いているわけじゃない。
“自分の感じた事実”を素直に言うように迫られているのがわかった。
「…………中級者が相手なら、戦い方の相性次第では一対一でも勝てると思います。でも――例えば『ゲーム』に戦闘が入れられていて、さっきクリアさんが言っていた“システムの補助がない状態”で上級者プレイヤーと戦うことになったら正直……手も足も出ない――と思います」
「よくわかっているな――その認識は概ね正しい。【コンテンツ】のシステムによる補助なんて、タナカさんを安心させる為の方便だ。実際はどこで何をさせられるかなんてわからないし、時と場所の運が悪かったり、敵が強ければおそらくお前は数秒で倒されるだろう」
それは、今まで何度も地面を舐めて分かり切っていることだった。
どれだけ付け焼刃のパワーアップをしても、このゲームで大切なのはキャラクターのレベル。
レベルが無ければまともに戦うことすらできない。
「そして――そんな状態で、お前は特大剣で一体“何を斬る”つもりなんだ?」
一瞬ドキリとしたけれど、それはオレを責めているような口調じゃなかった。
クリアさんにとって、純粋に疑問だったのかもしれない。
「……いつから、気づいていたんですか?」
「前からデモンと何かしているとは思っていたが――確信したのはさっきだ。お前が重量過多の武器を握って姿勢を崩した時、わざと倒れるように武器を落としたのが気になってな。そこから、ソードマスターの“武器に振り回されるような戦い方”を学んでいると推理したんだ。実際の戦い方はあの娘が何度も見せてくれていたしな」
結局、リュクスさんと同じだ。オレをよく見ている上級者相手に嘘はつけない。
「――やっぱり、隠し事はできませんね。これでもちゃんと、言うつもりでいたんですけど」
観念して、隠していた巨大な剣をクリアさんの前に取り出す。
「これはデモンに貰った武器です。今、スキルのセットもデモンと話し合って短時間限定で振り回せるようになってます」
「……戦法としては否定しない。デモンは実際、俺より強いしな。俺がお前に提案していたのは“俺が考えるお前にとっての最適”だ。今のお前にできることはせいぜい“一つか、二つ”と言ったし、受け流しと短時間の攻めならギリギリこなせるだろう。上級者相手なら“10秒耐えて殺される”のと、“5秒耐えて、5秒やりかえして殺される”なら、どっちも似たような物だしな。それに――俺の戦い方は、必要以上にお前自身“だけ”を守り過ぎていたのかもしれない。きっと、自分のことしか考えていないからそうなっちまうんだろうけど」
「オレは、クリアさんから教えてもらった戦い方を否定するつもりはないですよ……」
「良いんだよ別に、そんなことよりも気になることがある。『お前がどういう想いを持ってその剣を握ろうと思っているのか』ってことさ」
クリアさんは郵便ポストに寄りかかって空を見上げる。
釣られて目線を上げると、空には今にも雨が降ってきそうな黒雲が広がっていた。
「俺は、心配なんだよレット。お前はあの娘の――デモンの家族や、周囲を取り巻く環境に対して憎しみを抱いて……それに倣って武器を振るようになったんじゃないかと思ってな。俺は――お前が、必要以上に善くない“重荷”を背負って、ゲームに自分の魂まで賭けてしまわないか心配しているんだ」
(そういえばオレ、前にも似たようなことを心配されてたな――)
オレは、一人で落ち込んでいた『あの雨の日』のことを思い出した。
自分の戦う理由が自分自身でもわからなくなって、苦しくなって蹲っていたあの日――
『俺は――――お前に……ゲームを遊んでほしいと願っている』
『ひたすら強くなっても、できることや、やれることなんて――たかが知れてる。ゲームに入れ込みすぎて、魂まで持って行かれると、お前の現実が取り返しのつかないことになりかねない』
――この人は、オレに対してそう言った。
あれから、ずっとオレはこの世界での、自分の在り方を考えていた。
だからこそ、今のオレはこの人が何を心配しているのかよくわかった。
「――大丈夫ですよ。よく、わかってます。オレはゲームの中で、ヒーローになんかなれないし、ゲームより現実の方が大切なことくらいわかってます。――だから、もちろん一番大切なのは現実。オレはあくまでこの世界を冒険して、ゲームを楽しむためにキャラクターを強くする!」
「……そうだな。本来、そうであるべきだ」
「だけど――」
オレの頭の中で、雪山でのタナカさんの言葉が思い返された。
『……例え、どのような経緯があろうとも。苦しんでいる人の心を救おうとするその行為自体には、どんなことがあっても、どんな時でも、どんな場所でも――決して間違いはない。だから、あなたはもっと自信を持つべきなのですよ』
「――だけど、そこにいざって時に目の前で困っている人が居た時に、一人の人間として、手を差し伸べられるくらいの強さが――今、どうしても必要なんです」
オレは、特大剣を片手で地面に突き立てる。
「だから、この武器を持つ理由は『憎い相手に殺意を向けたり、蹂躙して倒すために持つもの』じゃない! オレが『目の前で困っている人を助けたい』って――そう思ったから背負うことに決めたんです。……許してくださいクリアさん。あなたが何と言おうと――これは、オレが出した答えなんです!!」
オレの言葉を聞いて、しばらくクリアさんは黙っているだけだった。
それから、不意に笑みを浮かべてオレに向かってゆっくり歩み寄ってくる。
「俺はな――心配していたんだ。お前がゲームに入れ込んで自分を見失ってしまわないかって。実際、怒りや復讐や行き過ぎた理想でゲームに飲み込まれる人間が沢山いた。現実に飲まれたり、現実に打ちのめされてゲームに囚われている人間も居た。俺は、お前にそうなってほしくないと思っていたんだ。それだけが心配だった……だけど――」
クリアさんはオレの真ん前に立って、ゴーグル越しにオレの目をじっと見つめた。
「――お前がそこまで真っすぐに、馬鹿なことを真顔で言えるなら一周回って大丈夫かな! 散々迷った挙句、お前が決めた『お前自身の在り方』だし。俺はもちろん否定しない――後はお前の好きにしろ!」
「あ――――ありがとうございます! ……見ていてください。デモンが教えられたっていう“善くない戦い方と武器”を――オレが“善い物”にしてみせます!」
オレが両手の拳を握って力強く言い放つと――
「“善くない物”を“善い物”に――か」
――クリアさんはそう呟いて、オレが突き立てた特大剣ではなく何故か足から頭まで“オレの全身”を見つめた。
「――そうだな。“新装備”を着たお前の活躍には俺も期待してるぜ。覚悟を決めて、気合入れて行ってこい。――ああそうだ。それと最後に、お前には選んでもらう必要があった」
クリアさんがポケットから薄汚れた羊皮紙を取り出した。
「緊急事態用のチームメンバーからの【護衛者】だ。この人物は、お前にとっての一度きりの『切り札』になってくれる。ただし、事態解決を鑑みると護衛として安定して動けるメンバーは決まっているからな。このリストの中からチームメンバーの誰を連れていくかをお前が自分で選べ」
リストを受け取ってチームメンバーの名前に目を通す。
オレは羊皮紙越しに、上目遣いで目の前のクリアさんを見つめた。
「――これって、“実質答えは決まっている”ようなもんじゃないですか?」
そう言ってオレが“意地の悪そうな笑み”を浮かると、クリアさんも同じようにニヤリと笑った。
そうして、時間が経って――いよいよ、出発の時間がやってきた。
【ヌェーボォ・セニセロの町】へ向かうべく、オレとタナカさんはチームメンバーに見送られながら、二人でケッコさんの準備してくれた馬車に乗り込んだ。
直接見送りに来てくれたメンバーは、テツヲさんとクリアさんの二人。
それと、冷やかしに来たベルシーが“一匹”。
《今回のタナカの装備の貸出し賃は、素直にチームから金銭として受け取っておいてやるよ。だがな、タナカが前に契約した“労働力”の支払いは終わってねえ。まだ大量の雑務が残っているから、終わったら俺が直々に仕事を持ってきてやる。徹底的に使い潰してやるから覚悟しとけや》
《その点についてはご心配には及びません。このタナカマコト。契約を途中で投げ出して逃げ出せるほど、器用な人間ではありませんからね》
《緊張して、気負わんでも大丈夫ですにゃ! 自分達がこんな風に、離れた場所からでもチームの会話で支援しますからにゃ!》
《あんまり無責任に応援するのも、ちょこっと良くないかもですけど、二人とも無理せず頑張ってくださいー》
《レット、馬車に乗ったら長い戦いになるだろうが。“必ず戻って来い”――――――――お前はこのゲームで、やり残していることが沢山あるんだからな》
《デモンは。大事なオレのチームメンバーや。黒幕とやらが舐め腐りやがって。レット。『ゲーム』だろうが何だろうが。お前にとって“憎い敵”が出てきたら。容赦せんでええ。派手にぶっ殺して――――――ここに戻ってこいや‼》
《はい! どんな敵が相手でも……オレ、負けません!》
自分自信を応援するかのように、オレはチームの会話でそう言い放つ。
(“憎い敵”……憎い敵か……………………どうしてだろう。嫌な“予感”がする)
オレは、デモンが眠っている部屋の窓の光を見つめた。
(もしも、もしも『ゲーム』の敵がモンスターじゃなくて、“プレイヤー”なら……オレ達の前に敵として出てくるのは、デモンの――――――――いや……それはいくらなんでも、出来すぎた話かな……)
《それじゃあ――出発するわよ!》
ケッコさんの合図と共に、馬車が光に包まれる。
隣に立っていたタナカさんは、馬車の中からチームの家に向かって深々と頭を下げていた。
[よし、こんなもんかな――]
オレは馬車の椅子に寝転がって、開いた状態のwikiを抱えて大きく伸びをする。
[【ヌェーヴォ・セニセロの町】については大体理解できたって感じだね。いきなり出発って言われた時は焦ったけど、クリアさんが言ってた通り『到着まで相当時間がかかるから。目的地を調べるだけならこの間にこなせる』。問題は――]
オレはお腹の上に開かれていたwikiを、寝ころんだまま頭上に掲げた。
[――この町から行ける【コンテンツ】がいくら何でも多すぎるってことなんだよね。こんなに多いと、予習しきれないしなあ。なんか、勉強しているみたいで頭が痛くなってくる。あんまり根詰めて情報を頭に詰め込んでも混乱するだけだし――タナカさん?]
軽く上半身を起こして馬車の後部を見ると、タナカさんは背を向けていた。
どうやら、馬車から外の景色を眺めているみたいだった。
[さっきからずっと同じ方向を見ているけど。もしかして、チームの家が気になるの?]
[も、申し訳ありません。……その――――――――――――――デモンさんのことがどうしても気がかりでして……]
[…………不安だよね]
それはオレも同じ。
不安で頭がこんがらがっているのは紛れもない事実だ。
少しでも何かできることをしないといけないのに、具体的に何をすればいいのかが全くわからない。
[――いっそ、眠ればいいんじゃない?]
[――えぇ!?]
運転席に居るケッコさんの、想像もしてないかった提案を聞いてオレは間抜けな声を上げた。
[目的地までは確実に安全な道を進むわ。でも、その代わりに移動には時間がかかる。これからあなた達二人の身に何が起きるかはさっぱりだけど、『ゲーム』はまだ始まっていないんでしょ? それならとりあえず馬車の中で少し寝ておくべきよ]
[いやあ、でも……こんな時に……]
[“こんな時だからこそ”よ。今後『ゲーム』が始まって長丁場になって、いざって時に眠気が出てきたらどうするの? 先行き未定でも、わからないことがあったらその都度メンバーに聞けばいいじゃない。なんでもかんでも、二人だけで無理にこなそうとしないことよ]
オレは、こっちを見ているタナカさんに対してどうするべきか目線を送る。
タナカさんは少し考えた後に、頷いた。
[そう――ですね。眠れなかったとしても、目を瞑ってじっとしているだけで、身体は休まると聞きます。必要以上に多量の情報を詰め込むよりは、今は休むべきかもしれません]
(不安な気持ちを持っていたのは事実だったけれど、『黒幕』に出会ってからここまで短い時間に色んなことがありすぎたし。ちょっと、今は休むべき――か……)
[――わかりました。それじゃあ、今はちょっとだけ仮眠を取らせてもらいます]
[大丈夫よ。私に任せて。チームの会話は代わりに聞いておくし、到着したら起こしてあげるから]
再び馬車の座席に横たわって目を瞑る。馬車の揺れに併せて身体が僅かに上下する。
『眠れなくても、せめて脳みそを休めよう』
そう思い立ってから、何も考えないように意識しているうちに自然と意識は遠のいていった。
突然馬車が急に止まって、オレは慌てて飛び起きる。
目を擦る前に、剣を取り出して構えて――
[はい。目的地に無事到着~♪]
――そのケッコさんの声を聞いて、何事も起きていないことを理解して、安心から自分の口から大きなため息が出た。
馬車の中から見える景色を見つめると、外は曇り空で一面の灰色に染まっていた。
タナカさんはというと――寝る前と全く同じ場所に座って、相も変わらず同じ方向を見つめていた。
[タナカさん。やっぱり眠れなかったの?]
[そうですね。“今までのこと”を少し――思い返していまして]
[寝付けなかったのは残念ね。眠れるなら寝ておいたほうが良いくらいの道中だったわよ。いつまで経っても曇りのままで、じめじめしていてず~っと無風状態なんだもの。これだけ速く馬車で走っていてもほとんど風を感じられないのだから――嫌になっちゃうわよホント。……早く、雨季が終わって欲しいわ]
タナカさんと二人で馬車の外に出ると同時に、オレは驚きから間抜けな声を出してしまった。
[うええっ!?]
この町のことは予め調べて知っていた。
だけど、自分が想像していた以上に、【ヌェーボォ・セニセロの町】周辺の景色は奇妙だった。
草も木も、地面も空も、黒幕に指示されていた【夕日の丘への案内標識】も、周囲一面の景色の色が抜けてしまって完全な灰色に染まっている。
景色の全てが――まるで色を使っていない漫画っていうか、ずっと昔の写真みたいになっていた。
色がついているのは青い海、そして遥か遠くに見える“黒いオブジェクト”の二つだけだった。
[新しい・灰皿の町へようこそって感じね。実際はまだ町の手前だけど]
オレは馬車の中で覚えた知識を早速思い返す。
『【ヌェーボォ・セニセロの町】無印の初期は小さな炭坑者達の町であり、鉱山による発破の粉塵が空から降り注いでいたものの周囲は緑豊かな町で色に塗れていた。しかし、この町の様相は二本目のDLCの追加と共に大幅に変貌することとなる。突然現れた近隣の島群から、定期的に“雪のような灰”が流れてくるようになり“その灰が人を除く全ての物体に吸着し色を奪うようになった”という世界設定が追加された。かくして、この町は周囲を含め灰色に染まってしまった。街を汚す粉塵は立ち消えて、【新しい灰皿】という名前の町に変貌した』
[あらかじめ調べて知っていたことだけど、とんでもない景色ですね。町の見た目をDLCの実装と一緒に丸々変えちゃうなんて、思い切ったことをするよなあ……]
周囲を見渡しながらオレとタナカさんの二人で、案内標識の下に向かう。
[変貌する前は、無印の初期を象徴する良い町だったみたいね。プレイヤーからの評判も良かったのよ? こんな風になってしまった理由には、色んな説があるわ]
話を聞きながらも、タナカさんが黒幕の指示書の通りに、持っている片手剣で看板の下を掘り始める。
[二本目のDLC実装時に、当時ゲーム開発のトップに立ったばかりのディレクターが、【前任者】に対して嫉妬をして荒らしたとかね。――懐かしいわ。それからのエールゲルムは、文字通りお先真っ暗って感じの――暗黒の時代だった。この町から、色んなコンテンツに向かえるけど。特にその中でも酷いって言われていたのが【天蓋島嶼群】っていうフィールドの一部のメインストーリーでね――]
[【天蓋島嶼群】……ですか。ケッコさん。私達はまさしく、今からそこに向かうことになるようです]
タナカさんが掘り出して開いた手紙。
それをオレは真横から覗き込んで朗読する。
[『【天蓋島嶼群】行きの汽車に乗れ。島に到着後、【[K-2]ルート】を踏破せよ。『ゲーム』はそこでようやく始まる。君達が乗る汽車の出発をもって、チームメンバーとの直接的な交流を禁ずる』]
読み上げたルールを聞いたケッコさんが、暗い表情で考え込む素振りをする。
[よりにもよって【天蓋島嶼群】の【[K-2]ルート】か……。――ルールには反さないようだし、一先ず行き方だけ教えてあげるわ。【天蓋島嶼群】に行ったことのないプレイヤーは最初、あそこに見える“汽車”に乗って島まで行くことになるの]
そう言って馬車の運転席からケッコさんが指を差した先にあるのは、例の“黒いオブジェクト”だった。
[あの黒いオブジェクトって――汽車なんですか!? でも、あのオブジェクト――汽車の向いている方向って海じゃないですか?]
[――“海の上を走る”のよ。あれは、そういう列車なの]
ケッコさんが運転席から降りて、インベントリーから二枚の長方形の紙を取り出す。
[――これを渡しておくわ。二回分の回数券。往復切符のようなものよ。【天蓋島嶼群】に行った後、ここには戻ってこれないと思う。島の探索をある程度終わらせると、この町とは海を隔てた反対側にある【夕日の丘】にまで転送できるようになるから、帰りはそこから最寄り駅に行って帰りの汽車に乗って、ここに戻ってくるのが一番ね」
受け取って良いのか迷って、オレはタナカさんと顔を見合わせた。
今更遠慮するのも変かもしれないなどと考えている内に――
[気にしないで受け取って、こういうアイテムって安いから所持限界の99枚まで一気に買い込んじゃって、結局何年も使わなかったりするものなのよ。島を探索した後にポータルゲートみたいなワープが開通されるんだけど、遊んでいた当時はそんなこと知らなかったから]
[わかりました。ありがたく頂きます]
オレ達はケッコさんからチケットを受け取った。
[それで良いのよ。上級者って、あなたが思っているよりも移動が楽なのよ? だから――ゲームが終わったら、すぐに誰かあなた達の迎えに行くことになるかもしれないわね。後のことは、他のメンバーに聞いて。列車に乗ってから、島に到着するまで時間は充分あるはずよ]
言うだけ言って、ケッコさんは馬車の運転席に戻った。
[…………………………ケッコさん。――ここまで本当に、お世話になりました]
タナカさんが深々と頭を下げる。
いよいよ――ここから先は、オレとタナカさんの二人だけで先に進まなければならない。
(覚悟を決めなきゃ……)
緊張で、僅かに身体が震えてくる。
[お――――――お世話になりましたっ!]
オレは叫ぶような声と共に、タナカさんに倣って頭を下げた。
[……私は何もしてないわ。言っておくけど――今回は、もう私には何もできない。ゲームの中でやれることもないし、今日はこの後バイトがあるから普通にログアウトをするつもり。私は……生活が掛かっているからこれ以上休めないし。現実でリスク追う覚悟で立ち回ってる人達が居る中で、リスクを負う覚悟すら無い弱虫よ。笑ってくれて良いくらい]
[でも、ここまで運んでくれたしオレは感謝してます。それにオレ、ケッコさんに元気づけられたんです。――信じてます。良い人達が現実で沢山頑張ってくれているってこと――希望は、捨ててませんから!!]
頭を下げたオレを、ケッコさんはしばらくの間何も言わずにじっと見ていた。
それから、落ち着いた口調で語りかけてくる。
[――――――――はっきり言うわ。チームのメンバーは、あなた達にはほとんど“期待していない”]
その言葉の意味が理解できなくて、オレは驚いて顔を上げる。
[確かにあなた達二人がゲームをクリアして、同時に運よく――都合よくあの娘が警察に保護されて無事に大団円、それが……ベストよね――でも、現実は違うわ。上手くいかないのなんて当たり前で、現実に必要以上に期待すると、裏切られた時に立ち直れなくなる]
ケッコさんは、オレに対してどこか悲しげな笑みを浮かべていた。
[……それにね。チームのメンバー達は、あなた達二人に全ての責任を押し付けてしまうほど馬鹿じゃない。だから、あなた達が必要以上にプレッシャーを感じる意味はないのよ。上手くいかないのが当たり前だと思って、もっと力を抜きなさいな。もしも……もしもあなた達がどうにもならなくなっても……この後ログアウトしちゃう私なんかとは違って、他のチームのメンバー達は逃げ出さずに、別の方面で手を尽くしつつあの娘の“最期の時”まで一緒に居てくれるんだと思う。だから――]
ケッコさんが歩み寄って、真下からオレの顔を見上げた。
[――約束して。何があっても、どんな結果になってもチームのメンバーは受け入れてくれるわ。だから、必ず戻ってきて! 『ゲーム』に失敗して、どんなに“残酷な結果”になったとしても、それはあなたたち二人だけの責任じゃ無いんだから――何があっても必要以上に自分を責めたりして、早まったことはしないで!! ――いいわね!?]
ケッコさんが活を入れるようにそう言い放って、少しだけオレの体の震えが止まったような気がした。
(そうか……“期待していない”って言葉を聞いて、最初はビックリしたけれど、ケッコさんなりにオレ達のことを心配して、『気を張らないで頑張れ』って応援してくれているんだ……)
オレは、貰ったばかりの列車の切符を取り出して見つめる。
[……ありがとうございます。ちょっとだけ冷静になれました。今は――負けた時のことなんて考えるつもりもないけれど……でも、どんなことがあっても、必ずその駅に二人で無事に戻ってきます。――そうだよね、タナカさん……]
[……………………そうですね。私も、そうなってくれるのが一番嬉しいです]
(でも、どうなんだろう……)
考えないようにしていても、負けた時のことを自然と考えてしまう。
考えるだけで、とても恐ろしい。
いざタナカさんと二人ぼっちでここまで来てしまうと、どうやったって恐怖が迫ってくる。緊張してしまう。
[それじゃあ、この瓶を――最後に持って行って。これは餞別よ]
ケッコさんが取り出したのは白い野菜が入っている瓶だった。
僅かに震える手でそれを受け取って、中身を確認しようとして――
[――少年。もう一度だけ頭を下げて、ちゃんと私の目を見て]
[は――えぇ!?]
[――良いから見る!]
オレはしどろもどろになって頭を下げると、ケッコさんが首のスカーフを軽く引っ張った。
突然オレの顔にケッコさんの顔が近づいてきて――
[うおわッ――たったったった!!]
――懐かしい、静電気のようなエフェクトが発生してオレの身体が痺れて弾かれた。
よろめいてふらつくオレの両脚を、身長の低いケッコさんが力強く何度か叩いて――
[――はい。私に渡せるものは“これで全部”! ――ま、程ほどに頑張りなさいな♪]
そう言うだけ言って、ケッコさんが馬車の運転席に素早く飛び乗る。
ケッコさんの力強い掛け声とともに走り出した馬車は、オレの目前から瞬く間に走り去っていって――――――――気が付けば、オレの身体の震えは不思議と止まっていた。
【リーサルマチェットナイフ+5】
レットが新しく手に入れた剣。色合いはグレー。
武器というよりサバイバルグッズに近くファンタジー特有の曰くや伝説等は一切ない。
製作者の独自の世界に入り浸っている趣味の品に近い武器をベースに、似た性質、外見の【ファイティングロングナイフ】二本をそのまま強化素材にして、受け流しに関するステータスをレットが装備可能なレベルギリギリまで付与・増加させて完成した武器。
こちらは後述の鈍銀の剣とは対照的に、実戦的なデザインをしている。
ファイティングロングナイフに近い形状で、“レットの片手剣の戦い方に何故か妙に合致する”作りになっており、本人が一度握った程度で相性が良いと感じるほどだった。
下位の武器種に該当するファイティングロングナイフに倣ってこの武器にも本来様々なデバフが付与されていたが、それらの特殊効果を今回の強化で全て取り払った。(ある意味、持ち味を殺しているともいえる)
しかしそれらを取り払うことで使用者の受け流し力と武器の頑丈さを極限まで向上させつつ、装備者がぞっとするほどの軽さを実現するというゲーム特有の矛盾した存在の武器になった。
今のレットではこの武器で相手に深手を与えるのは難しいが、プレイヤー以外のオブジェクトに対する攻撃にはステータスはあまり関係ない。
適当に投げると壁に“飲み込まれる”し、地面に垂直に落とすと“埋まる”ので取り扱いには注意が必要。
元々草木を切るための武器という設定があるためか実戦的で頑丈。
そこにさらにリュクスが頑丈さを追加しておりグリップもレットが握りやすいように調整されている。その為、武器破壊を目的とした特殊な武器でない限りは冗談のような威力の攻撃を受けても手から落ちることはないし刃こぼれ一つしない。
例えば持ち主が粉々に砕けるほどの衝撃があっても、決して砕けないだろう。
おそらく堂々と天に掲げて自慢しても、見栄えの善い品ではないどころか、刃の鋭さからとにかく人を殺したくて仕方ない異常者と見られる危険性がある。
そもそもキャラクターのレベルを上げてから普通の武器を普通に振り回した方が確実に強くなれるわけで、レットのレベルでこんな武器を持ち歩いていてもただ不気味がられるだけである。
「………………善くない物を、善い物に――か」
【鈍銀の剣+1】
こちらは、固有名称なし。
レットが使っていた銀の剣に、とある人物が投げ捨てた真っ直ぐで美しい剣の素材を(クリアの一存で勝手に)混ぜた物。
元々レットがずっと使い続けており、くすんでいたが今回さらにくすんだ加工を行ったため光りすらしなくなった。
他にも代償として一般的に出回っている武器の評価基準が適用されなくなってしまったため、AH等には出品できなくなってしまっている。
元々付与されていた祝福のプロパティは使い道が限定されるという理由で無くなった。
どちらかというと元となった銀の剣は使い勝手が格別に良いわけではなく、記号的かつ象徴的な武器のようだが、レットはこの武器をずっと使っていたが故にある程度身体が馴染んでいるようだ。
今回はさらに、レットの“キャラクターの体重身長”を加味した上で手に馴染むようにグリップや握りなどを調整したので以前より使いやすくなっており、実質レットというプレイヤーキャラクターの専用武器と言える。
美しさが大幅に損なわれているが、むしろ今の少年にはそれが良いのかもしれない。
「使いこなせる奴は、他に居るかもしれないな。――身長と体重が同じなら」
【迎えの第五汽車】
本来、大手を振って大陸を走る予定だった汽車。
古代技術をイントシュア帝国が再現することで完成した乗り物だが、蒸気の技術を披露するまさにその日に時空の爆発的な消失に巻き込まれてしまった。
消滅したのは大陸とその時乗っていた乗客達だけ。原理は不明だが、その日以降汽車は何の前触れも無く戻ってくるようになった。(つまり、この汽車はシステム上”行き”しか存在しておらず帰る目的で乗ることが出来ない)
その日から、誰に言われるわけでもなく島とこの街を"勝手に走り続けている"。
イントシュア帝国は国益を重視してあえてこの不思議な現象を放置。線路を切り離さず、有志を募り、無事に戻ってこれるようにという願掛けの意味を込めた往復切符を売り始めた。
この汽車に乗ったこの世界のすべての人々が島にたどり着くことなく片道切符となったが、とある英雄が初めて島から戻ってきたことで島に必要なアイテムが明らかになった。
――そういった世界設定があって初めて、プレイヤーは【滑るような赤の石】を持っている場合のみこの迎えの汽車に搭乗することができるようになったわけである。
「あの赤に発光する石を持っていないのかい!? 駄目だね、乗せられないよ! この汽車に乗っても、どこにもたどり着けないんだ」
【ケッコの酢漬け白生姜】
水分を多量に含んだ、ケッコ特製の酢漬け生姜。含まれる水分は満腹感に影響しないようで、甘酸っぱく小腹が空いたときのおやつ感覚で摘まむこともできる。
これは本作品を問わず、様々なゲームを渡り歩き多数の料理を味わい平らげるケッコにとって、口内に残る味覚や匂いをリセットする所謂味替えのための必需品。
ケッコの食に対する信念が伺える一品だが、彼はこれをレットに託した。ひょっとするとそれは、少女の安全が保障されるまで享楽的な自らの食を断つという、彼なりの覚悟の現れなのかもしれない。
「……………………………………頑張ってね。私には、もう目を背けることしかできないから……」