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無人機械化都市  作者: 宮乃諾菜
1:研究所の秘密
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1-2

 第零区画。

 自動ドアが開き、アリナとユウナが区画に入る。三階部分の連絡階段に出る。天井は五十メートルと遥か高い。フロア部分を見ると、中央には研究所の心臓といえる、高さ二十五メートル・直径五メートルの円柱状大型コンピュータ『Com.H_01(コン・ハー_ゼロイチ)』が鎮座している。百年以上前から修理を繰り返しながら動いてきた、研究所一番の古株である。その周りを子機である小型のコンピュータが間隔をあけて並んでいる。個人の部屋にあるものより、画面は小さいが圧倒的にスペックが高い。

「あれ、『ナナ』コンビだ。珍しい」

 『Com.H_01』の前で作業をしていた一人の研究員が声をかけてくる。いつも温和で、ニコニコしているダンである。外見年齢は三十歳ぐらいで、彼はエキスパートマシーンのアンドロイドの一人である。主に、独立したコンピュータの修理と調整をしている。ちょうど、定期調整中だったようだ。

「ダン、調子はどう? データ展開用に一台使いたいんだけど」

 アリナは、感嘆するダンを軽く流して、返事をする。今は主人のデータが気になるのだ。

「あー、それがな。さっき、旧式データが引き出されてよ。再アップデート中で使えないんだ。悪いな」

 ダンは、苦笑いしながら、申し訳なさそうに言った。旧式のものが出されたときに汎用部分のコンピュータがダウングレードされたらしい。『Com_H.01』はいくつかのコンピュータの複合体で、一部が旧式だと研究効率を下げるので、皆不思議そうにしていた。汎用の他に、シュミレーション、事務、電気系統など目的に応じてコンピュータが分かれている。それらを統括するコンピュータが『Com_H.01』に組み込まれている。

「ダン、もしかしたら私たちのせいかもしれない。さっき旧式端末使ったもの」

 アリナは申し出て、関係を調べてもらうことになった。ダンはアップデートが完了した際、再起動必須だろうからまた連絡すると言っていたので、アリナとユウナは博士の自室へと向かった。


 研究所は、首都から幾分離れたところにあった。森の中で、研究所のある部分だけ木が生えておらず、ぽっかりと穴が開いたような場所にある。六階建ての建物で、屋上には発電用の太陽光パネルが設置され、日夜(月明かりでも発電できる)研究所を動かすための発電がされていた。第零区画は一階から六階までの吹き抜け構造で、壁に沿ってどの階・どの区画からでも出入りできる階段が設置されている。

 そのうち、研究員・職員らの自室兼研究室は三階部分にあった。アリナや博士も例外ではない。

 博士の部屋は、清潔な部屋になっていた。アリナの部屋と同じように、ベッドと壁にはコンピュータ、作業机があって、クローゼットもある。開けてみると、クローゼットは空っぽだった。

 実際に彼がいたときは床には書類の紙が大量に落ちており(データよりも手書きを好んだ)、よくインクをこぼして壁が汚れていた。ただ、食事だけは食堂で取っていたため、その関係で書類などが汚れることはなかった。服は同じようなものがいくつも仕舞われていて、一度、ほかの服はないのかと聞いたこともあった。

「きれいね……。最初から居なかったみたい」

「当時あった書類はすべて主人が持っていかれて所在不明になっていますが、遺言により、遺品はデータのみとなっています」

 アリナがぼんやりつぶやいたものに反応して、ユウナは答える。片づけられてしまっていては、博士のことを知る手掛かりは何もない。

「うーん、どうしよう。パソコンでもつけてみる?」

 アリナはベッドに腰掛けたが、部屋を見渡してなんとなく目に留まった壁のコンピュータに意識が向いた。

「汎用はアップデート中なのでしょう? おすすめは出来ませんが」

 ユウナは異論を唱えたが、アリナは「いいじゃん、ちょこっと見るだけなんだし」と言ってホログラムのユウナを避けて、コンピュータへと駆け寄った。起動ボタンを押すと、起動に約一分かかった。隣で見ていたユウナも言わんこっちゃないといった顔で画面を見ている。

「やっぱゆっくり……」

 ぐぬぬ、アップデートしてからにしようかと、アリナが思案したとき、ユウナがあることに気がついた。

「これ、何でしょうか」

 指をさしたのは、デスクトップにある、一つのファイルだった。

 ファイル名は



「LIEBE ARINA und YUNA」



‐親愛なるアリナとユウナへ‐


 


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