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第一章 出会いそして少女 7


藤崎ふじさき 蓮衣れい、それが現実世界での名前。


平均的な家庭に生まれ、普通に人生を送っていた。


ただ、周りと異なっている点を挙げれば私は独りだった。


小・中と友達がおらずただただ独り過ごしていた。


いじめられるわけでもない。かといっていじめていたというわけでもない。


ただ隅でじっとほぼ空気のような存在で佇んでいた。


しかし、ある人と出会って私の状況が180度変わった。


それは、高校に入学してすぐの事だった。


私が教室に入るとすでに周りは談笑でにぎやかだった。


クラスメイト内ではすぐに友達のネットワークができ、アドレスの交換に勤しんでいた。


私はというと席についておとなしく空気になっていた。


これが1週間続いた。


慣れているので苦痛すら感じずひたすら空気になりきっていた。


しかし、私にとってイレギュラーなことが起きたのだ。


私に話しかけてくる人が現れたのだ。


今まで私は無口で頷くぐらいの動作しかしてこなかった。


話して楽しいと思ったこともなかった。


友達とはいったい何なんだろうとさえ思ったほどだ。



「ねえ、なんで誰とも話さないの?」



机に伏せっていると話しかけられた。


少し顔をあげ目をやると、きちっと制服を着た一人の少女がいた。


黒い髪を後ろにおろし、かわいらしい顔とは逆に大人びた姿で制服を可憐に着こなしている姿に見とれてしまった。



「あれ?起きてますか」



うつむき加減に頷いた。



「起きてるなら返事をしてほしいな・・・」



うんと一言返すだけなのに声がでない・・・


声を出そうとすると喉になんか詰まったような感覚になりむせた。



「だ、大丈夫?」



むせながらも大きく頷く。



「まあいいや。私は高谷たかや 夏波ななみ、よろしくね」



私が話さないのを察したのか握手を求めてきた。


恐る恐る右手を出し、高谷の手を軽く握った。


最初はこれだけで終わると思っていた。


だが次の日、高谷はまた私のところに来た。


教室に入り席に着いた瞬間、



「おはよう、えっと藤崎さん」



内心驚いたがいつも通り軽く頷く。



「藤崎さんって呼びにくいから名前で呼んでいい?」



また頷く。



「うん、じゃあ蓮衣」



少し戸惑った。


今まで名前で呼んでくれた人などいなかったから。


でも、うれしかったのかもしれない。


名前で呼ばれることで生まれる親近感、感じたことのないこの気持ち。


友達とはそういうものなのかと。



「おーい、大丈夫?」



考え事をしていたらしく高谷が話しているのに気づかなかった。




夏波に会ってしばらくたった頃、私は口数が前よりか増えた気がする、というより増えた。


夏波と話していると楽しくて楽しくてしょうがなかった。


なぜこんなにも友達は素晴らしいものなのか、なぜこのことに気づかなかったのか、不思議でたまらなかった。


人生を損していた、夏波にそう教えられた気がする。




そんなある日、私はいつものように登校していると遠くに夏波が見えた。


声を掛けようと近くに行こうとした。



「それでさ・・・」



夏波が楽しそうに話しながら私の目の前を通り過ぎていった。


ギシッ・・・


そのまま立ち尽くした。


少し胸が痛んだ気がした。


いや、きっと気のせいだ。


気にすることなく教室に入り席に着いた。


すぐに夏波が寄ってきた。


そしていつものように話をした。




次の日。


夏波はまた楽しそうに話していた。


ビキッ!


くっ・・・


気にしたらダメだ、強くそう思い込ませ歩いた。




その次の日も。


ビキビキッ!


ぐっ・・・っっ・・・


もうそろそろダメかもしれない・・・


私は思い切って聞くことにした。




その次の日の昼休み。



「ねえ、夏波」


「ん?なに」



口にトマトを頬張りながら夏波は返事をした。



「いつも朝一緒に来てる人って誰?」


「あかりだけど・・・それがどうかした?」


「いや、友達になってからは私と一緒に学校行ってたじゃん。なのに急に違う人と行ってるから・・・」


「たまには違う人とも行きたいじゃん。あれ、まさか蓮衣嫉妬してる?」


「べ、別に嫉妬ってわけじゃないけど・・・」


「じゃあ明日は一緒に行こ」


「うん」



少し修復できた気がする




しかしその日以降、一緒に行くことはなかった。


パリン・・・


私の中で何かが壊れた。


脆くガラスのように飛び散った。


必死に破片を拾おうするだろう少し前の私なら・・・


だが、そんな気力すら起きない。


なぜかって、それは怒りという代わりの感情が湧いてきたからだ。


怒りなど人生で一回も感じた事がないと自負していいほどそれ以前の私は無感情だった。


夏波と出会っていろいろ変わったが、こんな感情が湧くことなんて望んでなかった。


再び夏波に会うために走った。




「んお。びっくりした、蓮衣か。どうしたの?」



夏波は肩をつかまれ少し間抜けな声がもれた。



「話があるから、放課後屋上にきて」


「う、うん。わかった」




放課後


ドアのギーというさびた音がした。



「蓮衣来たよ、それで?」


「話ってのはね・・・その・・・」


「また前と同じでしょどうせ」


「・・・うん」


「だから、私もたまには違う人と行きたいの」


「そんなこと言って、あれから一回も行ってくれなかった」


「だってそれは・・・」


「なに、私よりいいの?楽しいの?」



夏波は口ごもった。



「もういいよ。夏波なんか友達じゃない」



私は勢いよくドアを開け出た、こみ上げる感情を隠すため。


夏波は立ち尽くしていた。


私はその場に座り込んでしまった。


感情を抑えようとしたが、透明な滴がとめどなく流れる。


涙も止まらず、動悸も激しくなり爆発しそうな感情を必死に止める。




私は何をしてるんだ。これじゃあただの八つ当たり・・・


夏波・・・


怒り、悲しみそして後悔、様々な感情が蓮衣の身体を巡る。


それから夏波とは口をきいていない。


また独りになってしまった。


でもこれでいいんだ、きっとこれでよかったんだ・・・


友達なんていらない、友情なんていらない、言葉だけのものなんていらない、私は自分の世界に閉じこもって空気になるだけ、ただそれだけ・・・






あれから1年。


夏波とは別のクラスになった。


そこでも私は独りだった。


誰も話しかけてこないし、話しかけもしない。


ここ1年で私は友達はやはり不要だと思った。


そんな上辺だけですぐ切れるような関係を作って何が有益なのかわからない。


友達といると楽しいから、安心するから、仲間はずれにされるのが嫌だから、とりあえず空気を読んだほうがいいから・・・


あれ?考えてると涙が出てきた。


おかしいな、私に友達は不要だ。


必要無い。


そう強く思い込む。


だけど胸が苦しい。


思い込めば思い込むほど。


認めたくない、嫌だ、来ないで、やめて。


襲われる衝動に駆られた。私が捨てたから、夏波を・・・夏波を捨てたから。


その恨みが返ってきたの・・・ねえ・・・答えてよ・・・



いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああああああああああああああ



思わず奇声を上げてしまい、クラスメイトの視線が集中する。


すぐさま私は教室を飛び出した。


どこに行こう・・・はあはあっ・・・


屋上へのドアの前まできた。


とっさに来てしまった・・・この場所に・・・


呼吸を整え深呼吸する。


そしてドアノブに手を伸ばす。


ゆっくり回す。


ドアを開け少し進んだ。


そこには・・・



夏波がいた。


少し強い風が頬を撫でる。


夏波は後ろを向いているので気づいていない。


このまま立ち去れば、いつも通りのまま・・・


足が少しずつ後ずさりしていく。


偶然にもかかとに石が当たった。


その音で夏波が振り向いた。



「蓮衣」



久しぶりに聞いた夏波の声。


いろんな感情が錯綜するなか、夏波が口を開いた。



「久しぶりだね・・・蓮衣」



「・・・うん」



ぎこちない返事。


口が思うように動かない。


言葉をだそうにもつまったような感触がぬぐえない。


まるで初めて会った時のよう・・・



「・・・なんでここに?」


「ちょっとね・・・」



2人の間には風の音しか聞こえない。


私の足は止まらず少しずつ後ろに下がっていく。



「待ってよ、蓮衣」



足が止まる。



「まだ、あたし言ってなかったことがある」



心が痛む、ズキズキ私の中で響く。


言わないでくれ、それを言ったら私は・・・



「ずっと、ずっとね思ってた。この1年間、蓮衣のことを」



やめてくれ、お願いだから・・・



「どうしたら蓮衣に許してもらえるか。どうしたらまた振り向いてくれるか。どうしたらまたあの時の蓮衣にもどってくれるか」



お願いだからやめて・・・もう・・・



「ごめん、謝るの遅くて。ごめん、蓮衣の事考えてなくて」



ああ、もうダメ・・・



「だからさ、もう一回友達になってくれませんか」



少し不安が浮かんだ後、とびきりの笑顔で夏波は手を出してきた。


そうあの時(・・・)と同じように。


私の中の何かが溶けだした。


ゆっくり、ゆっくりと周りのものがはがれ落ちていき中から出てきたのは、真円の水晶。


その水晶は温もりを帯びていた。


その温もりは私を包み込んだ。


そっか・・・私はもう・・・夏波の事を・・・


ゆっくりと手を上げつかもうとした。


が、手がなかなかつかめない。


視界もぼやけてきた。


あれ?なにこれ・・・


その場で座り込んでしまい、頭痛がしてきた。


うっ・・・頭痛がさらに響いてきた。


くっ・・・ああっ・・・





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