第一章 出会いそして少女 3
「ただいまエレナ」
「あっ、ユウくん。終わったの?」
「うん。ハッキリわかったよ」
「じゃあトシヤくんにこれ」
エレナが持っていたのは1本の剣。
「これはね、プレゼントというか…お礼かな。ここまで私と来てくれたことに対しての…あっ、別に深い意味は無いから」
エレナは少し顔が赤くなっていた。
魔剣「ファルシオン」
初心者には最も適した魔剣。
刃全体がブルーバイオレットで輝いている。
長剣で比較的持ちやすい。
どの属性でも扱いやすく冒険の最初の方に重宝される。ただ、値が高いので手を出しづらい。
「どういたしまして、そしてありがとう」
トシヤはファルシオンを受け取りまじまじと眺めた。
その刀身の美しさに見とれていると後ろからトシヤの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「お前がトシヤというやつか」
振り向くとそこには巨大な身体に鉄の鎧を纏い所々に鍛え上げられた筋肉が見え、いかにもゴツい感じの男が立っていた。
「遅かったねイシュ」
「スマンな、忙しかったからな」
「トシヤくん。この人はイシュ、この街で道具屋をやってるの」
挨拶とともに握手した。
「しかしよエレナ、こんな奴を連れて行くのかよ」
「ええ。私の目に狂いは無いんだから」
「まあ、今まで間違いはなかったからな」
任せなさいと言わんばかりにエレナは胸を叩いたが、強く叩きすぎたのかむせ始めた。
「それでどこかに行くんですか?」
「ゴメンね、言ってなかったね。えっと、あそこに行くんだよ」
エレナが指差した先を見ると、大きくそびえ立った山が見えた。
「あの山を登るんですか?」
「いやいや、あの山の途中にある洞窟だっけ?まあとりあえずそういうとこに行く」
なぜわからないのに説明したがるんだろうこの人はという目でエレナを見ていた。
「私が説明しましょう。あの山はデレン山と言いまして標高は1000m弱、あの山にはもちろんモンスターはうようよいまして、よく冒険者の経験値稼ぎに利用されます。今回私たちが行くのはその途中にある洞窟でして…」
「そうそうそこ」
ユウの説明を横取りするエレナ。
「エレナの情報不足は定番なのか」
つい本音が出てしまったトシヤ。
イシュはこの状況を傍観していた。
「と、とにかく明日出発だからみんな準備しとくこと。いい?」
ユウとイシュは静かにうなづいた。
「それじゃ解散」
トシヤは何をすればいいか分からず立ち尽くしていた。
「それで俺は何をすれば?」
「トシヤくんはその剣に慣れてね。多分すぐ出来ると思うから」
「…わかりました。でもやり方わからないんですけど…」
「とりあえず敵倒せばいいんじゃない?」
エレナのテキトーな感じに多少の違和感を抱いていた。
「あっ…はい」
この違和感に気付くのが遅かったのか、それともそもそもこの人生が間違いなのでは…などと考えながらその場を去った。
そして近くの草原。風で草がそよいでいる音しか聞こえない程の静けさ。
「さてこれから(の人生)どうしよう…」
トシヤは近くの石に腰を下ろして考えた。
すると、目の前の草がガサガサ音を立て始めた。
ファルシオンを構えた。
そこから出てきたのは、ゲームでは定番のスライム的な何か。
ゆっくりと近づいてスライムに剣を振り下ろした。
切れる効果音と共にスライムが光の粒子となって消滅した。
安堵した息がつい出てしまった。
とりあえず考えることをやめ、休もうと決めた。
街に戻って宿を探した。
探し回ったが、この街には宿は1つしか無く、しかも外観がいかにも高級そうなホテルといった感じ。
こんなに高級そうなところに泊まれるだけの金はもちろん持ち合わせていない…かといって、野宿をすると何かしらのモンスターが襲ってきて気づかないうちに死ぬとかエレナが言ってたっけ…
そう考えてるといつの間にか、その宿に入っていた。
内装は西洋風なデザインで、この世界に大理石があるかは知らないが壁や地面は大理石のよう。
トシヤは見とれていた。
「いらっしゃいませ」
奥からこの宿の主人らしき人が現れた。
その人は金色のショートボブで、白いワンピースを着てもシルエットがくっきり浮かび上がるほどスレンダーでそのはちきれんばかりの豊満な胸に『セシル』と書かれたネームプレートがあった。
セシルの美しさに見とれていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、すみません。つい…」
「つい?」
「あっ、いや…その…なんでもないです」
あなたの胸を見てましたなんて言えるはずも無く…
「宿泊ですか?」
「まあ、えっと…そんな感じです」
「内装はこう見えても意外に宿費は安いものですよここは」
「そうなんですか?」
少しホッとした。
「ええ。1泊500フルネです」
フルネとはこの世界での金銭の単位で、1フルネは大体100円程の価値。
ちなみにこの時トシヤは5フルネしか持っていなかった。
やっぱり高いじゃねーかよと叫びたかったが我慢した。
「えっとですね…その…」
ここでトシヤはある事を思い出した。
『そういえばエレナが…』
「あのですね…エレナが…その紹介してくれたというか…」
「まあ、あのエレナさんが…そうですかならどうぞ」
セシルはそう言うと、トシヤを部屋に案内した。
トシヤは最上階にある1部屋に案内された。
「どうぞごゆっくり」
そう言うとセシルは部屋から去っていった。
セシルが出て行くのを見てひとまず安心した。
部屋を見るとなんとも高級そうな絵画や陶器、そしてダイヤが光り輝くシャンデリアのような照明。
安心から一転、不安に心が押しつぶされそうになった。
だがトシヤはセシルの言葉が気になった。
でも今日1日色々な事があったために疲れがどっときたようで、もう寝ようと考えた。
トシヤはメニューに目線を合わせて剣をしまい、ベッドに寝転がると今日起きた事を色々と考えた。
この世界に飛ばされた事、エレナとユウそしてイシュと会った事、そしてこれからどうしたらいいか…いやどうすべきか…
考えている内にどうやら夢の中にいってしまったようだ。




