皇子と貴妃
「蝶。もうそろそろ着くぞ?大丈夫か?」
確かにもう陸が見えてきている。緑の多い国だ。うちの国にはこんなに緑は多くない。
羨ましいと言えば羨ましい。見るからに平和そうな国だ。突然反乱が起こったりはしなさそう。
「おい、蝶?」
「ああ、ごめんなさい。何ですか?」
「い、いや。ボーッとしていたからな」
「この国は……平和そうな国ですね」
「……そうだな。少なくとも瓦南みたいな奴は居ないだろう」
考えていたことを当てたのは良いことかもしれないけどもう少し考えて欲しい。
精神的に……ね?
「大丈夫だよ。蝶。わたしもついている。もう二度とあのような事が起こらぬような国を二人で作って行けば良い」
竜樹様の頭の中にはわたしがいて、二人の未来が描かれている。
わたしの頭の中には、わたし一人きりで切り開いて行く未来が描かれている。
決定的な意識の差。でも、一方で両方叶うような気もする。
この予想だとわたしは後宮で人生を終える可能性も、後宮で竜樹様をみとる可能性もある。一生竜樹様を愛すことはできないかもしれないけど、それでいい。これがわたしたち夫婦の歪んでるかもしれない愛なのだから。
「蝶」
「何ですか?竜樹様」
「愛してるぞ」
今はまだ愛してるとは返せない。もしかしたら一生返せないかも知れない。
だからわたしはこう返す。
「わたしは愛していませんから」
それでも何故竜樹様はわたしを愛してくださるの?
わたしにはわからない。
でも、この茶番劇がいつの間にか楽しくなっているの。やめられないの。
本当の気持ちはどうなんだろ?
「す、すいません。久しいな。竜樹」
「葵か。久しぶりだな」
……このいきなり後ろから声をかけてきた無礼者はいったい誰なのでしょうか?




