周皇后
周皇后危篤。この知らせがわたしのもとにもたらされたのは、わたしがこの世界に戻って来てから一年。もうすぐ夏の香りが漂ってくる……そんな時であった。
「見舞いに参ります」
「お嬢様。なりません。お嬢様の体調も万全ではございません。見送られるべきでございます」
「斎花。わたしが目覚めてから一度も叔母上に会ってはいない。此れが最後なら、行くべきではない?」
「……分かりました」
「先触れを3時に」
「畏まりました」
体調不良が続いているとは聞いていたが、まさか危篤にまでなるとは思ってもいなかった。わたしに此処から出たいと言ったあの皇后様が……。
「皇后様、蝶貴妃の御成です」
「……そう」
「叔母上……」
「蝶。私はもう長くはないでしょう……。私が死ぬ前に一つの伝言と一つのお願いを聞き入れてくれないかしら……?」
もう喋るのも億劫そうに、でも伝えないといけないという強い意思を感じる。
「はい、承ります」
「……一つ目は、周家に当てて。蝶、貴女は貴女が拒否したとしても皇后になるでしょう。しかし、それ以降周家から皇后を出してはなりません。あの家から皇后を出しても幸せにはなれないから」
女として、姉にいいように利用され、此処まで来てそしてそこで死のうとしている叔母の本心なのだろう。其が願いなのだから……。
「分かりました。周家総代によくよく伝えます」
「梨竜……」
「お母様、いっちゃだめ!」
「蝶、これは一人の母からのお願いです。梨竜の今後のことくれぐれも頼みます。本当は公主として生きなくてはいけないのだけど梨竜には自由に生きてほしい……」
「お母様……」
わたしは母になったことがないけど、もしわたしに子が居たらこうまで言えるのだろうか……?
「疲れました。少し……休みます」
わたしがもう一度皇后様に会うことはなかった。その日の晩、静かに息を引き取ったからだ。
皇后周 明梨。享年29歳。姉に、実家に、皇帝に振り回された女性の早すぎる死であった。




