翔輝
ちょっと展開がむりやりかもしれません
「見つからない……」
相変わらず玲央の姿は見当たらない。それどころか人っ子一人通らないため、情報を得ることも出来ない。
念のため職員室にも行ったが、電気と暖房がつきっぱなしなだけで誰もいなかった。その様子がまるで突然人が消えたように見えた麻琴は身震いした。『もしも玲央も同じ目にあっていたとしたら』という消極的な考えをしてしまう。自分らしくない、と彼女も思っているのだが、すぐにその気持ちを切り替えることが出来るほど人間は万能ではない。ますます不安になってきた頃、翔輝が唐突に話し始めた。
「樋野鳥ってさ、バカだよな」
「はあ!? なによそれ、このタイミングで、普通言う?」
心優は必死に堪えているものの明らかに爆笑しているし、智也に至っては完全に大声で笑っている。麻琴は若干キレながらも、辺りに視線を走らせた。
「それに、意外とマヌケだしさ」
「ふざけてんのっ!?」
集中していたはずの麻琴はぐるっと首を回して叫んだ。顔を見れば分かる。怒っているのは紛れもない真実であるが、一方で翔輝が無意味にしていることではないと悟ったのだ。
麻琴を安心させようとしている。俺は何も変わらない、だからお前も変わらなくたっていい、と。
「それからドジだし、グズだし、なにより勉強がまったくだよな!」
「あんったも人のこと言えないだろうがっ!」
このクソ! と麻琴が付け加えたあと、二人は突然笑い転げ始めた。外野の二人は怪しいものを見るかのように顔を引きつらせていたが、気づかない。結局翔輝と麻琴は置いていかれた。
「ちょっとお! 二人ともひどくない!?」
麻琴の叫び声が静かな廊下に響き渡った。
「1階、行こう」
心優が突然そう言った。3人は何事かと心優の顔を覗き込む。
「心優、どうしたの?」
「行こう。お願い、玲央ちゃんがいる気がするの」
真剣な彼女の眼差しに、麻琴は背筋が凍りつくような悪寒を感じた。確実に、何かが起こる。そんな気がしていて。
「……行こう」
麻琴は了承の言葉を搾り出すと、歩き始めた。
「1階、来たよ」
麻琴がつぶやいた。玄関のところに、黒い人影が見える。
「玲央!?」
咄嗟に彼女が叫んだ。影は振り返って麻琴を凝視する。
「ま……まこ、と……み、ゆ……?」
影の、玲央の声は震えていた。その瞬間、麻琴が彼女に駆け寄り、思いっきり抱きしめた。力の限り、強く、強く。
「い、痛いよ、麻琴……」
「バカ……! 心配、したじゃんか。こんなに、こんなに遅くまで、残ってたんだよ……。みんな、手伝ってくれたんだよ……。翔輝も、智也も、心優も。あたしも、ずっとあんたを探してたんだよ!」
「ごめ……ごめん、ごめんねまこ、とぉ……。私だってね、会いたかったよ。会いたかったの……」
最後に、とつぶやいた玲央を、麻琴は睨みつけた。
「最後に?」
「あっ、違う、ううん、なんでもなくて」
「ごまかしてるでしょ」
じとーっと見続ける麻琴に彼女は一瞬ひるんだが、すぐに持ち直し答えた。
「違うよ。最後に、って、今日の最後ってことだよ」
「……本当に?」
いまだに怪しがっている麻琴に、玲央は笑って見せた。
「ほんとほんと。親友を信じてよ」
あはは、と笑ったあと「じゃあ俺帰るから」と切り出した翔輝を先頭に自動玄関を出始めた。そのとき。
玲央の体を淡い光が包み込んだ。親友の異変に気づいた麻琴は振り返って息を呑む。
「やっぱ、だめだったか……」
玲央の声とは思えないような低くうなるような声が聞こえてきた。心優は怯えて膝を床に打ちつけた。
「いったぁ」
小さくつぶやいて、また玲央の姿をした何かを見つめ始めた。
「あなたは……誰なの?」




