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オリオン座しか知らない君に  作者: 林昂樹
思いがけぬ事実
1/1

知らない女

 今年も同窓会がひらかれた。

3度目の同窓会の席でかつてのクラスメイトはそれぞれの近況やこれからの展望を酒を酌み交わしなが語り合っている。

その空気を楽しみながら高田は高校時代からずっと親交がある宮村、坂下、原田とくだらない話で盛り上がっていた。

「なあ、宮村お前最近彼女と別れたんだろう? どうしてだ?」

「やめろよ原田。その話は今の宮村には禁句だぞ!」

「ははは、いいじゃないか坂下。興味あるやつは俺だけじゃないみたいだしさ。なあ、高田?」

興味ない振りをしていた高田は、苦笑いをこぼした。

「まあ、傷心中の宮村をイジって楽しむのは面白いしな。」

業とおどけてみせながら、高田は言い放つ。

「ひどいぜ、皆。失恋中の俺に慰めの一言もなしかよ~。チョットは俺を労わり慰める心はないの?」

よよよと泣き真似をし宮村が大げさな身振りで、自分自身のことをアピールしている。

こんなやりとりも久しぶりだと、4人はお互いに笑った。

「そんなんだから振られんだよ。お前やっぱりそのオーバーリアクション止めたらどうだ?」

「いやいや。この馬鹿明るいところが宮村のいいところなんだぞ。」

「原田! なんだ馬鹿って!! 俺は明るくて優しい良い男なんだぜ!!」

「宮村は馬鹿っぽいところがいいんじゃないか。一緒にいて楽で。」

「高田も! 馬鹿ってなんだ、馬鹿って!!」

宮村は顔を赤くして反論しているが、3人はそんな宮村の反応をさらに楽しむかのように話を盛り上げていく。

「まあまあ、落ち着けって宮村。お前が暢気で明るくて良い男なのは俺が知ってるからさ。今頃お前を振った彼女さんも後悔してるぞ思うぞ。」

原田は口角を上げ、宮村に語りかける。

「原田、それ慰めてないぞ。逆に馬鹿にしてるぞ。」

坂下は落ち着いた声で皆を諌める。

「坂下~、お前だけだよ~俺のこと心配してくれてるの~。」

「気持ち悪いから、泣きついてくるな。」

「坂下も宮村の扱いが雑だよな。」

懐かしさを感じながら、しばらく4人は宮村の失恋話を肴に酒を楽しんだ。


 同窓会も終盤に差し掛かろうとしていた時、一人の女が会場に現れた。

その女はどこか暗い雰囲気を纏い、所在なさげに周囲を見回している。

その姿を見て一部の人間が呆気にとられたが、そのほかの者はさして気にするでもなく会を進めていく。

高田たちも後者だったが、坂下が怪訝そうな顔で呟いた。

「ん? あんな女子うちのクラスにいたか?」

その一言で3人は会場の入り口付近で所在なさげに佇んでいる女を注視した。

「確かに。同窓会も3回目になるのに見ない顔だな。」

「んー? あの重っ苦しい雰囲気なんか覚えがあるんだけどなー。」

「そうか全然思い出せない。」

それぞれがそれぞれの印象を口に出し、記憶を探っていく。

しかしいくら思い出そうとしても4人では分からず、匙を投げた。

そこで高田たちは女の姿を見て呆気に取られたクラスメイトがいたことに思い当たり、そのクラスメイトに聞いてみることにした。


 そのクラスメイトは幹事の足立幹巳だった。

足立は少し戸惑った様子で女を見ていた。

4人は差して気にした風でもなく気軽に足立に話しかける。

「足立、入口に立ってる女子、あの人誰だ?」

最初に口火を切ったのは高田だった。

「え?」

足立は急に慌てたように、気まずそうに、口をもごもごさせている。

「えっと、その、なんというか、誘ってみたんだよ。誘わないのもなんか後味悪いしさ。」

「いやいや、そういうのを聞きたいんじゃなくて、あの女の人は誰かって聞いてるんだけど。」

足立の歯切れの悪さに苛立った宮村が眉をしかめる。

「皆もあんまり来て欲しくないだろうとはと思ってたんだけど、前の2回は来なかったしさ。今回も誘っても来ないと思って、誘ってみたんだ。何でか来ちゃったけどさ。」

高田は足立のその様子に妙な違和感を抱いた。

あの女には何かがある。そう感じさせる足立の口ぶりだった。

「おい、足立。なんだか意味わからんこと言ってるが、俺たちが聞きに来たのはあの女の名前だぞ。」

「そうだ。簡単な質問だろ。なんでそんなに焦ってるんだ?」

高校時代の足立はこんなことで焦るような人間ではなかった。

むしろ特進クラスという特殊で気だるげなクラスのムードメーカーであり、皆を引っ張っていくカリスマ性を持っていた。

あの女のなにが足立を焦らせているのか高田は不思議でならなかった。

「足立、落ち着けよ。なにも俺たちはお前を責めてるわけじゃないんだ。ただ純粋にあの女について疑問に思って、尋ねているだけなんだよ。」

高田は足立を落ち着かせることを優先させるために、とにかく落ち着いた声で話しかけた。

「そうなのか? 俺を責めてるわけじゃないんだな? な?」

なおも不安そうに言い募る足立に、原田が思わず怒鳴ろうとしているのを高田は察した。

咄嗟に原田の言葉に被せる様に高田は言った。

「そうだ。責めてるんじゃない。質問をしに来たんだ。だから落ち着こう。なあ足立。」

極めて穏やかに言い聞かせると、やっと足立は落ち着きを取り戻したのか目の動きや口のまごつきが治まった。

「そ、そうか。そうだったんだな。悪い。思わず取り乱してしまった。」

足立は気恥づげに頭を掻いて誤魔化す様に下手な笑みを顔面に貼り付けた。

「ええっと、今入り口にいる女の名前だったな。木戸香澄だよ。」


 木戸香澄。その名前を聞いた瞬間の4人の反応は様々だった。

宮村は呆けた表情で女を見つめ、坂下は眉根を寄せて虚空を見つめていた。

原田は驚きと嫌悪の眼差しで女を見つめる。

高田は驚きに固まった。

木戸香澄。高校時代、誰とも口をきかず、誰とも深く関わろうとしなかった、浮いた存在。

誰もが扱いに困り、2年間ずっと一人で過ごしていた暗く重い雰囲気のクラスメイト。

やっと足立が戸惑っていた理由が分かり、高田もまた高校時代と変わらず木戸の存在に困惑し、ただ見つめることしかなかった。

よろしくお願いします。

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