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第六話 盾=武器

王都東の門を抜け、亮一はワイルドウルフが出没するという静寂の森へと向かって、一人歩みを進めていた。


ふと、亮一は自分の左腕……正確には左腕に装着された小型の盾に目を向けた。全体が喜清らかな白で彩られ、盾の中心には✞が刻まれている。“ホーリーバックラー”と呼ばれるその小盾はアンデッド系のモンスターからのダメージを減らし、さらに“呪い”を完全に無効化する効果を持っており、今装備している“創世の聖衣”と合わせれば全ての状態異常に対応出来る。


しかし、何故今になって装備したのか? それは王都出発時にジークムントから言われた言葉に理由があった。


(ワイルドウルフは必ず集団で襲って来ます。どうでしょうマスター、次はヤツ等を相手に多対一、それと防御の復習をなされてみては?)


それにすぐさま反応したのは亮一ではなくヴァルキリーだった。


(ジーク、今のマスターが傷付けられる事などありえませんし、そもそも私がさせません)


(わかっている。“創世の聖衣”を纏われたマスターにダメージを与えられる者など存在しない。しかし、わざわざ敵の攻撃に身を晒す必要も無いだろう。私の精神衛生上非常によろしくない)


(まあ、一理ありますね)


(もちろんマスターご自身が不要だと判断されたのならば私もそれに従いますが)


と、明らかに心配する様な声色でそう言われて「いらね」と答えられる亮一ではない。むしろ身を守る為の手段はいくらあっても困らない。ジークムントの忠告に亮一はただ感謝した。その感謝にジークムントが喜びで声を振るわせる。


(勿体無きお言葉……!)


そういうやりとりがあり、亮一はホーリーバックラーを装備する事となった。小盾にしたのは動きの制限が少ないので扱いやすいからとジークムントに勧められたからだ。


視線を前方に戻し、整備された街道を進む亮一。しかし次の瞬間、街道脇の雑木林何かが姿を現した。黒い甲羅を背負った巨大な亀、アイアンタートルと呼ばれるモンスターだ。


(おあつらえ向きの相手が現れましたね。動きが遅いアイアンタートル相手ならば捌き方の練習がやりやすいはずですよ。“パリィ”を狙ってください)


盾スキルを上げる事で習得出来る“パリィ”は盾を装備する事で確立で自動発動する『パッシブスキル』の一つである。敵の攻撃に合わせてシールドをぶつけ、防御と同時にダメージを与え、さらに隙を作りだす。それが“パリィ”の効果だ。


しかし、これはゲームでは無く自らの体を動かす現実だ。ならば、“パリィ”を成功させるのに必要なのは運ではなく自分自身の技術である。『ゼロ』の器用さはカンストしている。ならば、失敗するわけがない! ……と、ジークムントは確信していた。


「せい!」


頭突きを喰らわせようと首を伸ばすアイアンタートルに対し、バックラーをぶつける亮一。タイミングは完璧。アイアンタートルは顔を仰け反らせ大きな隙を見せる……はずだった。


「?」


仰け反るどころか。アイアンタートルは微動だにしない。いや、正確には動く事が出来なかった。何故ならこの巨亀はたった今額をかち割られ絶命してしまったのだから。


(お、お見事ですマスター)


(……まあ、盾ごしとはいえマスターに殴られたらそうなりますよねー。むしろ素手で殴るより凶悪ですよねー。もう“パリィ”とかいうレベルじゃねーですよねー)


おかしい、自分は盾の扱いを学ぼうとしていたはずだ。それがどうして凶悪攻撃を披露するハメになってしまったのだろう。


(パ、パリィはもう十分ですね! 次は別のスキルを試してみましょう! ええ、そうしましょう! 次はきっと上手くいきますよ。次は!)


励ますかのように“次”を強調するジークムントの言葉に従い、亮一は倒れ伏したアイアンタートルの脇を無言で通り過ぎるのだった。





時間は少し遡る。


ゼロが王都を出発して数十分、三人の冒険者が東門を出発した。


一人は、赤い髪をツインテールに纏め、皮の鎧にスカートという出で立ちで、腰に一本の剣を差している少女。


二人目は、少女と同じく赤い髪で、緑色のやや大きめのローブを纏った少年。手には木で出来た杖を持っている。


そして三人目は、水色のロングヘアーに、少年の物とは違う白いローブを纏った女性。右手にメイス、左手には小さな盾を持っている。


「もう、何で私達がこんな事しないといけないのよ」


その中で、少女……アスカ・ウィラードが不満を隠そうともせずに口を開く。


「し、しょうがないよ。ライアンさんに頼まれたんだから」


そんなアスカを、弟であるイスカ・ウィラードが宥めようとするが、逆効果だったようで、アスカは彼の両頬を引っ張った。


「うっさい! アンタに言われなくてもわかってるわよそんな事!」


「いふぁい! いふぁいよおねえひゃん!」


「こらこら、ケンカしないの二人とも」


優しい声で姉弟を止めるのは、二人の幼馴染で姉の様な存在であるエリナ・アルバート。エリナに言われ、アスカは手を離したが、機嫌は直らない。


「でもエリ姉。私達だってやりたい事があったのに、ライアンったら……」


つい数分前、アスカ達はクエストを受けようとギルドへ向かったのだが、そこでライアンにこんな事を言われたのだ。


「おう、お前ら丁度いい所に来たな。ちょっくら頼み事を聞いちゃくれねえか」


その頼み事と言うのが、たった今一人でクエストを受けて行った冒険者希望の少年の監視及び援護という内容だった。


「は? 監視ってどういう事よ?」


「監視っつーか観察だな。久しぶりに期待できそうなヤツでな。どういう人間で、どれくらいの実力があるか、お前らに見て来てもらいたいんだよ」


「何で私達がやらなきゃいけないのよ。アンタがやればいいじゃない」


最もな意見だ。だが、ライアンは苦笑いしながら首を横に振る。


「一応ギルドマスターだからな。ここを抜けるわけにはいかねえんだよ。それに、年の近いお前らの方が都合がいいだろうしな」


「どんな人なんですか?」


「名前はゼロ。長身で全身を黒の装備で固めた男だ。まあ、一目見りゃわかるだろうぜ」


「ちょっとイスカ。アンタ何興味持ってんのよ」


「え、だって。ライアンさんの頼みだし」


「おうおう。弟の方はホントに素直で可愛いヤツだな」


「あら、アスカちゃんだって素直で可愛い子ですよ」


「ちょ、エリ姉何言って……!」


エリナの一言でアスカの頬が赤くなる。それをごまかすようにアスカは弟の頬を引っ張った。


「いふぁい! な、なんへひっはるの!?」


「うっさい! アンタが余計な事言ったからでしょうが!」


「で、俺の頼み、聞いちゃくれねえか?」


「そんなの断るに決まって―――」


「面白そうじゃない。やりましょうよアスカちゃん」


「エリ姉!?」


てっきり自分と同じ考えだと思っていたのに、エリナはまさかのやる気だ。


「これだって立派なクエストよ。……もちろん、報酬はありますよね、ライアンさん?」


「ははは! しっかりしてるなエリナは。これは俺からのクエストって思ってくれればいい。やってくれたら俺のポケットマネーから千ゴールド出してやるよ」


「ふうん、ずいぶん太っ腹じゃない。そんなにその新人が気になるの?」


「ああ、アイツは絶対に大物になる。予感じゃねえ。確信だ」


「どうするの、お姉ちゃん?」


聞いては来るが、イスカもこの依頼を受けたがっているようだ。これで二対一。多数決には従うしかなかった。





「しかもその新人に受けさせたのがワイルドウルフの討伐って……明らかに無謀じゃない!」


「だから、危なく見えたら助けてあげて欲しい……それが援護って意味だったのね」


「とにかく、早くそのゼロってヤツに追いつかないと。急ぐわよ二人とも」


若干の早足で先に進むアスカの後ろで、イスカとエリナは顔を見合わせて微笑んだ。何だかんだ言って、彼女は新人の事が心配なのだ。


「二人とも! 早くしないと置いて行くわよ!」


「わわ、待ってよお姉ちゃん!」


「ふふ、そんなに慌てるとこけちゃうわよ、イスカ君」


こうして、アスカ達はゼロを追って静寂の森へと向かって行った。





王都を出て三十分弱。亮一は看板を発見し、そこには、『この先、静寂の森』と書かれていた。日本語ではない、見た事も無い文字だったが、『ゼロ』の知識を得た亮一には理解出来た。


「もう少しで到着みたいだな」


それからさらに数分後、ようやく亮一は静寂の森の入口へと辿り着いた。うっそうと生い茂った木々が太陽の光を塞ぎ、森の中は真っ暗だ。とはいえ、今回は森の中に入る必要は無い。目的はあくまでワイルドウルフなのだから。


「グルルル……」


(ッ……!?)


低い唸り声が亮一の耳に届く。ゆっくりと声のした方に振り向けば、そこには一匹の獣の姿があった。こちらを警戒するように、態勢を低くさせ睨んで来るその獣は間違い無く―――


「ワイルドウルフ……!」


「アオォォォォォォォォン!」


まさか到着して早々出くわすとは思ってなかった。すぐさま剣を抜こうとした亮一の前で、ワイルドウルフは高らかに遠吠えをあげる。すると、それに応えるようにそこかしこからワイルドウルフ達が姿を現した。その数、全部で五匹。


(鳴き声で仲間を呼び寄せる。これもゲームと同じだ。なら、攻略法もきっと一緒のはず……)


凶暴なモンスターに囲まれているにも関わらず、驚くほど冷静な自分に少し戸惑う亮一。ワイルドウルフ達は牙を剥き出しにして今にも跳びかかって来そうだ。


「グルァァァ!」


そして、リーダー格の一匹の号令で、残りの五匹が一斉に亮一に襲い掛かり、腕や足にその凶悪な牙を容赦無く突き立てた。





「ッ! ちょっと、アレ……!」


森の入口手前、アスカ達の眼前で一人の男がワイルドウルフに囲まれていた。長身で全身漆黒の男。ライアンがあげた特徴と合致している。


「もしかして、あの人がゼロ?」


「あーもう! やっぱりピンチじゃない!」


「早く助けに行きましょう!」


しかし、助けに向かおうと走り出したアスカ達の目の前で、ワイルドウルフ達は男の体に噛みついた。


「「「ッ……!」」」


なんて事だ。自分達はこうならない為にやって来たというのに……。三人の前で、新人冒険者のゼロはワイルドウルフ達の餌食に……。


「……お姉ちゃん」


「……何よ」


「ちょっと、様子が変じゃない?」


変? 何が変だというのだ。ゼロはワイルドウルフに噛みつかれ、声一つあげずに……。

声?


アスカは違和感を覚えた。相当な激痛がゼロを襲ったはず。にもかかわらず、悲鳴一つあげないのはおかしくないだろうか。噛みつかれた部分を見ると、悲鳴をあげる間もなく絶命した可能性は低い。という事は……。


その時、ゼロが静かに口を開いた。


「……可愛いものだな」


「「「なっ……!?」」」


信じられないセリフに、アスカ達はただただ驚愕するしかなかった。

主人公はガチタンです。

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