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第三話 目指すは・・・

11月4日サブタイトルと後半の展開を変更しました。

ゲームの中でしか見た事が無い人物が、現実に自分の前に存在している・・・。それは亮一を戸惑わせるのには十分過ぎる理由だった。


一方、ヴァルキリーとジークムントもまた、そんな主の様子を見て自分達に何か落ち度があったのかと慌てた。すぐさま後ろを向き、顔を突き合わせ話し始める。断り無く主に背を向けるなどあまり褒められた行為ではないはずだが、二人はそれどころではなかった。


「大変ですジーク。マスターの反応が私の思っていたものと全然違います・・・!」


「う、うむ。それに主君は「呼んだ覚えは無い」とおっしゃった。もしや、我等は先走り過ぎたのだろうか」


「そんな! せっかく他の英雄や精霊、モンスター達をよりも先にマスターとお話出来ると思っていたのに! ジーク、どう責任を取ってくれるんですか!」


「私の所為なのか!? そもそも、マスターがソウルクリスタルを出そうとした事に気付き、他の者を差し置いて飛び出したのは貴女だろう! 私はそれに引っ張られただけだ!」


既にヒソヒソ話から思いっきり言い争いになっている二人。一体二人の間で何があったのか亮一にはわからなかったが、この状況をずっと眺めているわけにもいかないとも思っていた。


(ど、どうしよう。止めた方がいいのかな。でも、いきなり話し掛けたら怖がらせちゃうかもしれないし・・・というより、あの中に入っていくとか僕の方が怖いし)


実際は、怖がるどころか主に声をかけられた事に二人とも大喜びするはずなのだが、そんな事を知る由もない亮一はただオロオロするだけだった。


「・・・見ていられんな」


ポツリと老人がそう呟き、彼は亮一に向けて右手をかざした。すると一瞬だけ亮一の体が光を発した。


「何をした?」


今の光が何なのか問い質そうとした亮一は、直後自分が発した言葉に愕然とした。


(な、何今の口調!? 僕は「何をしたんですか?」って言おうとしたのに!?)


「心配する必要は無い。“あちら側”のそなたと“こちら側”のそなたの『合一』を行っただけだ」


「合一?」


「先程までのそなたは“あちら側”と“こちら側”両方のそなたが中途半端に混ざった状態であった。だが、合一を果たした今、そなたは完全に一つとなった」


「ならこの口調は・・・」


「“こちら側”のそなたのものだ。“あちら側”のそなたはどうも遠慮する所があるからな。積極的に他者へ声がかけられるよう、呪いも込めてそうさせてもらった」


(ゼロってこんな口調だったの!?)


キャラメイクゲームであるエターナル・ワールドでは精々「はい」か「いいえ」くらいしか発言していなかったはずの自分のキャラが、まさかこんな喋り方をする人物だったとは思っていなかった亮一は地味にショックだった。


「それだけではない。“こちら側”の経験や知識を引き継いだ今の状態ならば“あちら側”のそなたでも十分戦えるはずだ」


現実世界を生きていた亮一には当然戦いの経験など無い。だからこそ、先程グリーンゲルに襲われた時も取り乱してしまった。しかし、今の亮一はゼロが得た戦いの経験や知識を引き継いだ事で、振った事の無いはずの剣の扱い方や、魔法の使い方等が頭でイメージするだけで理解出来るようになっていた。これは亮一にとって大変ありがたいものであった。


「感謝する」


ただ、この口調だけは何とかならないものだろうかと悩む亮一であった。昴どころか、家族にすらこの様な口調で話した事は無い。自分が発した言葉に違和感しか感じなかった。


「本来であれば、そなたを呼び寄せた時点で合一させておくべきだったのだが、遅くなってしまって済まなかったな。では改めて、向こうで下らぬ言い争いをしているそなたの配下達を止めてくれないだろうか」


そう言って目を向ける老人の先で、二人は武器すら抜きかねない程のボルテージで言い争いを続けていた。


「どうすればいい?」


「名前を呼ぶくらいで十分であろう」


(ええ、そんな事でいいの?)


名前を、しかも自分なんかが呼んだくらいで大人しくなってくれるのだろうか。しかし、それ以外の方法を思いつかない亮一は言われたまま二人の名前を呼んだ。


「ヴァルキリー。ジークムント」


「「ッ・・・!」」


その瞬間、二人は飛ぶように亮一の前に駆け、先程と同じく跪いた。何故かその顔は喜びに彩られ、加えてヴァルキリーの方はキラキラした瞳を亮一へ向けていた。これまで、そんな目を向けられた事が無い亮一は困惑するばかりだ。もちろん、ヴァルキリー達からしたら、マスターであるゼロの名前を呼ばれた事がただただ嬉しかっただけなのであるが。


「あー・・・その・・・よく来てくれた?」


何となく声をかけないといけない空気だと思った亮一は、先程二人が発したセリフを踏まえた上でそう声をかけてみた。すると、二人はどうしてか申し訳なさそうに表情を沈めた。


「申し訳ありませんマスター。命令されたわけでも無いにも関わらず、マスターがお呼びくださったと私の勝手な思い込みで現界してしまいました」


「我等はマスターの命じられるままに動く存在。その立場をわきまえず、ただ悪戯に貴方の魔力を消費させてしまった我等は罰せられて当然。お望みならば、今すぐこの場で自害を・・・」


(なんか凄い思い詰めちゃってるぅ!?)


ステータスを確認すると、確かにMPが30ほど減少していたが、亮一には微々たるものでしかない。これはマズイと、亮一はなんとか二人を落ち着かせようと考えを巡らせた。二人の言葉から、両者は亮一が老人からソウルクリスタルを取り出すように言われた事を聞いて、気を効かせて自分達から出て来てくれたのだと亮一は推測した。


(え、普通に良い人達じゃない)


実際はヴァルキリーの暴走だったのだが、亮一の中ではすでに「二人は頼り無い自分を心配して出て来てくれた」という結論になっていた。なので、亮一は純粋に感謝を込めて声をかけた。


「俺の為を思って出て来てくれたのだろう。ならばどうして罰する必要がある? むしろ、そこまで心配をかけてしまった事が申し訳無いくらいだ」


亮一としては自分の気持ちをそのまま伝えただけだったが、それを聞いたヴァルキリー達は酷く狼狽した。


「な、なんと勿体無きお言葉! ですが、我らが御身を想うのは当然の事!」


「そ、そうです! マスターがお気に病む事などありません!」


「わ、わかった」


グイグイと詰め寄って来る二人の勢いに押され、亮一はそう言うしか無かった。


「相変わらずの様だな、ヴァルキリーよ」


三人のやり取りを黙って眺めていた老人がヴァルキリーへ声をかける。


「あら、まだいたのですか”元主”。マスターへの説明は私達が行いますから、あなたはもう帰ってもらっていいですよ」


そんな老人に向かって、まるで興味の無い様子で答えるヴァルキリー。今の彼女の主は亮一である。たとえこの老人が”どんな存在”であろうと、最早彼女には何の関係も無いのだ。


「ゼロよ、そなたにはそのヴァルキリーを始めとしたソウルクリスタルの配下がついている。彼等はそなたに忠誠を誓い、決して裏切らぬ。きっとそなたの旅の役に立つであろう」


「マスターは私がお守りします!」


「この身、存分にお使いください」


(わあ、これは心強いな)


一人旅になるとばかり思っていた亮一は心の中で密かに喜んでいた。


「それでは、そろそろ別れの時だ。ゼロ・・・我が認めしただ一人の救世主。そなたの武運を祈っている」


老人の体が宙に浮かび上がる。見上げる三人の前で、その姿がゆっくりと空中に消えていった。使命を託された一人とその従者達が改めて顔を突き合わせる。


「ああ、やっといなくなりましたね。あの方の話は一々長いから嫌になるんですよね。あ、マスターとならいくらでもお話したいですけどね!」


(わわわ、顔が、顔が近い・・・!)


ヴァルキリーのテンションに若干引き気味の亮一。そこへジークムントが割って入る。


「マスター。まずは休める場所を探しましょう。貴方に野宿などさせるわけにはなりませんからね」


ジークムントの提案に頷く亮一。ここが『始まりの草原』なら、少し先に村があるはずだ。ゲームでは名前がついていないが、プレイヤー達の間では『始まりの村』と呼ばれていた。


「・・・一つ提案があるのだが」


亮一が村について説明すると、ヴァルキリーとジークムントもそこを目指そうと賛同した。


「既に目的地を見据えていらっしゃったなんて・・・流石ですマスター!」


「では、すぐにでもその村へ向かいましょう。方角はおわかりですか?」


亮一がある方角を差す。彼の視界には、その方角に向かって伸びる赤い矢印が映っていた。


エターナル・ワールドには次の目的地を示す自動ナビゲート機能というものが存在する。これをONにすると画面右上のマップに赤い矢印が出現し、その矢印に従って移動すると最短距離で目的地へ辿りつけるようになっている。その矢印が亮一には見えていた。なら、この矢印を辿って行けばきっと村に着くと亮一は踏んだのだ。


「すまない、あまり自信は無いのだが・・・」


「謝る必要はございませんマスター。貴方の進む道が私達の進む道。たとえその先が地獄へ通じていたとしても、私達はどこまでもお供いたします」


(いや流石に地獄には行かな・・・あ、でも前に期間限定イベントで行った記憶が・・・。で、でも邪神とは関係無いしきっと行かなくて大丈夫なはず!)


「日が暮れる前に着けばいいのですが・・・」


「大丈夫です。暗くなっても私の光魔法で照らしますから。・・・あ、でもあえて暗い夜道でマスターに抱きつくって手も・・・」


「聞こえているぞヴァルキリー。マスター、彼女は放って行きましょう」


「ちょ、置いて行かないでくださいよ!」


こうして、三人は『始まりの村』へ向かって歩み始めるのだった。

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