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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
6 幕間 四色
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こっちのほうが書いていて楽しい件について



 ここは荒野、灼熱の地。全ては燃え盛り、そして全てが黒く焼け落ちる。地表は黒く焼け焦げ、赤銅色に染まった鎧が空気を熱す。木々はとうに炭化、黒い塊が地表に乱立し、持ち主を失った武具が哀しげに赤く染まる。空気は歪み、まともに遠くを見ることは叶わず、息をすることさえもはばかられるほどの異臭に包まれている。その中心部に男は立つ。黒い髪に白銀の鎧。胸に刻まれし盾の紋章には8枚の翼が生えていて。


 「これにて芸は終演にございます。お気に召しましたでしょうか。そうですか、お後がよろしいようで。」


 そう呟き、仰々しく虚空にお辞儀をする男の目は地表のそれよりも黒く。













 双月暦1187年4月3つ闇の日 13時45分

 アンバー大陸西部アレイスト海岸


 大量の矢が海に浮かぶ船船を襲う。幾千にも及ぶ流れ星は確実に標的に傷跡を残さんと、そしてその全てが止められる。船の数おおよそ30、巨大なその船全てを覆うように発生した球状の結界は降りかかる火の粉その全てを叩き落とす。

 そしてその船の腹から顔を出す黒き蛇の頭。30の船から180の頭、そこから鉛の砲弾が放たれる。矢を放ちし弓使いの潜伏するであろう森林に向かって。


 轟音。高速で飛来する鉛が木々をなぎ倒し、そこに潜む多くの生命を奪う。鉛の砲弾は何の仕掛けもないただの塊、しかしそれが一度地に着く、それだけで地表は捲れあがり、粉塵が森を覆う。そして砲身はもう一度火を噴く。木々に飛来するはずの鉛の球は、その大部分が空中で姿を変える。空気を振動させるほどの150以上の爆音、そして球はより小さく、そして球はより多く。千にも及ぶほどに肥大化したその軍勢は森に潜み、先の攻撃を辛くも防いだ人々の頭上に降りかかる。森からはまた粉塵があがり、木々の高さをも超えるほどの煙となる。その中では地表は紅く染まり、垂れた脳髄、臓物が木々の根元に飛散する。赤い川の流れは海へと向かい、その途中で砂に消える。森に近い砂浜はその黄土色の地を橙色に染め上げる。


 森林は沈黙し、自重に耐えられなくなった木々の軋む音、折れる音、そして呻き声のみが響く。緑に染まっていたその姿はもう既に過去のものとなり、所々地表が、折れた幹が見えている。

 船の腹はもう一度脈動する。30の船の船体の一部が開き、海へのスロープとなる。そこから顔を出すは小さな船。兵士はそこに30人近く乗り、30の小舟が岸へと向かう。


 小舟が岸に達する頃、森がもう一度脈動する。粉塵纏いし木々の合間から鎧を付けた兵士の群れが。数は千を超えるほどの軍勢、手には剣、斧、槍、様々な武具を持ち、鎧は全身を覆う。小舟の兵士は声を上げ、岸へと飛び降りる。赤く染まった旗、それが小舟に立ち、赤い鎧に染まった人々が各々の武具を空に掲げる。

 先に魔法が放たれたのはどちらのほうか、両軍が激突すると同時に火の手がそこかしこで上がる。赤い鎧が躍動し、森からいでし人々が千切れ飛んでいく。


 剣戟の音は高らかに、爆撃の音も高らかに。地表を粉塵が覆い、砂浜は赤く染まっていく。森からは依然として増援は来るけれども、小舟はもう一度船に戻り、そして多量の兵士をまた運んでくる。

 人数で勝る森の軍勢は、赤い鎧の魔法に、剣技に、各々の力量差に1歩、また1歩と森へと近づいていく。


 15分も打ち合う頃、森から高らかに角笛の音が鳴る。それと同時に背を向け森に走る軍勢、赤い鎧は追いかけることをせず。地表には死体が転がり、そして大きな船が岸へと近づいてくる。船が着岸し、スロープを使い船に戻る赤い鎧。砂浜には死体が転がるも、赤い鎧の数十倍は森の軍勢の死体が多い。


 そこから30分、船から出でた赤い鎧が砂浜を席巻する。数は3000、攻城用だろうか、巨大なバリスタが立ち並ぶ。船から出てきた移動式の砲台もその数30、バリスタは60。そして、角笛の音が響く。空に掲げる剣と杖、兵士の咆哮が空を揺らす。







 双月暦1187年4月3つ闇の日 14時25分

 アンバー大陸西部アレイスト海岸森林


 森林の奥深くに逃げ込む兵士たち。鎧は血に塗れ、所々傷つき、破れている。兵士の顔は暗く、そして疲労を示す。


 「赤鎧の奴ら違うぞ。1人1人が全然違う。」

 「俺ぁあいつらに鑑定魔法かけたんさ。」

 「「どうだった?」」

 「足が震えたさ、レベル200を超えた奴らばかりだったさ。低くてそれさ、高いやつぁもっとだ。」

 「俺らの数倍か・・・」

 「俺に至っては10倍さ・・・これはだめかもしれんな・・・」

 「あの、赤鎧の中でも滅茶苦茶でけぇ剣もってた奴みたか?」

 「知らん、「いや、あの青い剣のやつか?」

 「あぁ、あれさ、レベル800だったんよ・・・」

 「聞きたくもないわ、そんな話よ・・・」

 「そりゃぁ紙切るように人斬れるもんさな・・・」

 「角笛もそいつ原因さね?」

 「あれだきゃぁない、ほかにもレベル500超えてんの結構いたさ・・・」

 「どうするっぺか・・・」

 「罠までおびき寄せようにもそれで死ぬか微妙なところだな。」

 「上のもんは何も考えてねぇ、奴さんをそこらの国の雑兵と同じと考えてやがる。」

 「はずれくじひいたな・・」

 「せやな・・・」


 兵士たちの士気は低く、そして今もなお下がる一方。それでももう一度響き渡る角笛、しかし自軍のものではないと知ると体を強張らせる。そして聞こえてくる野太い咆哮、体がすくみ上り、それでも上官の命令に従い剣を握る。







 14時40分

 アンバー大陸西部アレイスト海岸森林


 森林に潜む兵士たちの耳に、土を踏み慣らし、木々をなぎ倒す音が聞こえてくる。これより下がる場所はあるが、下がったとしても上官が待っているだろう。響く角笛の音、森の軍勢は攻勢に出る。その数6000、地の利もあることが彼らの小さな勇気を後押しする。震える腕を抑え、後ろ向く足を無理矢理前向け、赤い鎧に切りかかる。


 確かに地の利があることは大きかった。圧倒的な実力差、切り倒され、バラバラにされる人々の数は海岸線に比べると減ったからだ。それでも薙ぎ払われ、大した損害も出せずに森の軍勢はその数を減らしていく。赤い鎧の被害は微々たるもの、兵士の中には恐慌状態に達し、潰走する場所も出てくる。

 どんなに数が減っても、潰走することは戦況をより悪化させる。ほかの場所にもっと壊滅的な被害が出、そして戦線はどんどん下がっていく。そこに響く笛の音、森の軍勢は一瞬目を見合わせる。


 「下がれ!下がれ!」

 「どうしたい?」


 剣を振るい、命を延ばしながら男たちは耳にする。


 「“四色”だ!“四色”が来るぞ!巻き込まれるぞ!下がれ!」

 「遂に森を捨てるのか。」

 「俺の故郷だtt・・へぐっ。」

 「命を大事にしろっ!さgうぐっ・・・」


 剣を避け、魔法を避け、多くの被害を出しながらも森の軍勢は下がっていく。赤い鎧は追うことはしない。1歩、1歩確実に前に進む。もしも倒れた人があれば、息の根を止め、もしも射程圏内にいる敵がいるのならば、息の根を確実に止めていく。それでも森の軍勢は逃げ切った。


 もと6000いた数はかなり減り、3000、いやそこまでも達さない数。友を失い、目に涙を浮かべる人もいる。体の一部を失い、逃げ切りながらも息引き取るものもいる。森の端、赤い鎧から1キロ以上は離れながらも、それでも足は止めない。刻一刻と近づく死の気配、赤い鎧は行軍速度を緩めない。


 そして森の軍勢が森を抜け、森の半分以上を赤い鎧が蹂躙した頃。赤い鎧は笑っていた。ここまで実力差があるとは、人々は笑っていた。この後どうしようか、考えるは戦火の街並み。敗北し、占拠された街並み。何をするかなど決まっている、略奪と凌辱。そして確実な勝利の確信を得つつ、男たちは進む。


 刹那、隣にいたはずの男が消し飛ぶ。その事実に遅ればせながら気が付いた先頭の男は、続いてきた火球に反応できず存在を抹消される。

 魔法障壁によって半端な魔法は効かず、そして鎧によって圧倒的な防御力をもつ軍勢のもとに振る火球。跳ね飛ばされ、消し炭にされる男たち。狙って打っているのではないと指揮官が理解したころ、魔道士軍が硬化魔法障壁を張る。進軍はとまり、青白い結界が火球を止める。火球は硬化魔法障壁を貫かず、そして周りの木々をなぎ倒し、燃やしていく。



 大量の火球が飛来する。そして多くが木々に当たりなぎ倒す。なんと無駄な使い方か、指揮官が笑う。そして気が付く。森が開け、そこの奥から近づいてくる男の存在を。


 男は遠く、100メートル程で足を止める。黒い髪、白い鎧。実力は感じない、しかしその男の手からは先の火球が発生していた。男の手から火球が止まる、それを確認し指揮官は


 「アレがあんな無駄な魔法を放っていた馬鹿か?」


 笑い確認する指揮官。確かに威力はあるが、そんなことではMPの無駄遣いだと知っているから。


 「損害を報告します。我が軍はおおよそ40人が死に、多くが怪我を負いました。」

 「魔道士どもは後で叱責だな。」


 指揮官は前を見る。おおよそ3000にもなる軍に1人で堂々と立つ姿、馬鹿でしかない。

 そして指揮官は聞く。あまりにも通るその声を。


 「やぁやぁ赤い鎧さんたち。俺は“四色”、この大陸最高戦力の1人だよ。さて、その障壁は大したものだ、強化したヘルフレイム程度なら防げるんだね。」


 魔法で拡声しているのだろう男は、最高戦力の1人だという。この程度が、そう笑う指揮官に、男は提案する。


 「赤い鎧さん、ここを退いてくれないかな?俺としては嫌なんだけど、退くっていうなら見逃すらしいんだ。」


 指揮官は笑う。そして全軍に指示をだす。全軍進め、そしてあの男は薙ぎ払え、と。


 1歩、また1歩と歩みを進める赤い鎧。男はその口を大きく歪める。


 「あぁあぁ、馬鹿だなぁ、それでこそだよ。さぁ、蹂躙の始まりだ。さて、しばらく寝ていてくれ。」


 そう小さく呟く男の赤い目が、色を濃くしていく。より暗く、暗く、そして30秒もせずに漆黒に染まる。





 15時20分


 歩みを進める赤い軍勢に対し、手をかざし、男は一言呟く。


 詠唱破棄・特級火属性魔法≪火精霊の息吹サラマンダー・ヒートレイ


 閃光一閃、60メートルの距離を一瞬で駆け抜ける熱線は先頭の赤い鎧の腹部を蒸発させる。青い結界は粉々に砕け散り、熱線は地表を焼く。

 男は未だ熱線を発する手を横にずらしていく。熱線の終点は地面を焼き、地表を砕き、溶かしながら右へとずれていく。間に居た赤い鎧の胴体は悉く消滅し、残るのは2つに分かれた上半身と下半身。

 その手から熱線が消えるころ、男の右側にいた兵士たちは跡形もなく、そして森も跡形もなく。残るのは燃え盛る大地のみ。


 「あー、やっぱ強すぎたか。さて、残りだけでも楽しませてくれよ?」


 そう言って男は残った兵士たちに向かい疾走する。

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