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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
5 封印と22神
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 明朝、撤退の疲れ癒えぬ彼らが起きだす頃。水は沢山ある、それならば調味料と食料を加えれば簡単ながらスープは出来上がる。ライ麦パンも一応数はある、1家族に2つ程度にはなってしまうが。自分たちは大量の食糧を持っていた、しかしそれは2人で見たら、の話。彼ら3家族8人が合流した時点で心もとないほどの量になってしまう。おそらく1週間も持たない、5日ほど。


 「おはよう、昨晩は助かった。」


 ミシェルが頭を下げる。隣は妻のバチェレだそうで。若いながらもしっかりとした女の人のよう。


 「いや、俺たちも受けた借りを少し返したまでさ。最後まで送り届けよう。」

 「その恩義、必ず報いよう。トビ部族の長として感謝を。滅亡の淵に立たされた小さな部族となってしまったが・・・」


 どうやら彼はジャックに部族長を任されたそう。そういう点では、彼は評価されていたのではないだろうか。


 簡単な朝食を。量は心許なく、質もあまりよくはないが、ないよりかはマシだろう。マイヨール、妻と10歳程度に見える子供を持つ痩身の槍使い、年齢は20代だろう。子供は昨日のことを思い出してか、目元がひどく腫れ、隈もできている。恐らくよく眠れなかったのだろう、暖かいスープで温まってほしい物だ。コレットは乳飲み子を抱いた奥さんを持つ大柄な20代の男。昨日は負傷していたがなんとか治療ができたようだ。全員若く、そして目は気力を失っていない。残り3家族となってしまった彼らだが、それでもここからでも復活はできるだろうから。


 朝食を終え、出立の準備を。

 彼らにはすぐに洞穴に入ることを通達してある。元より荷物はほぼなく、アイテムボックスにも入るのだろうから準備は特に必要がない。問題点といえば、これより暖かい食事はとれなくなるだろうこと。火で炙るパンがいいとこ、あとは狭い洞窟で水を飲むのみしかできなくなるであろうことは簡単に想像がつく。今の心配事は空気、あのトンネルは空気がしっかりと通っているのだろうか。自然のものであればそこまで心配はしていないが、朝日で見る入口はどうみても人工物の態を成していて。


 「我らはこの洞穴を伝承でしか知らない。」


 ミシェルが言う。どうやらこの中は本当に謎に包まれているそうで、緊急の際の通路で奥に繋がっているということしか。いつできたかもわからない。


 「仕方ないさ、蛇が出ようとも進むしかない。」


 そう告げ踏み込む。


 中はやはり狭く、横幅4メートルほど、高さは3メートル。比較対象が地球のトンネルというのもあるが、しかし壁は滑らか。綺麗に角張り、4角形を成している通路。しかしながら中は湿気ていて、そしてところどころ欠けているような。ミシェルは言う、


 「トビ部族は、この洞窟を守る役目を成していたんだ。今?いや、遠く伝承がある。我らはここの守り人たる部族だと。」

 「しかしながら、危急が押し迫るとき以外は決して入ってはならぬ場所とも言われている。だからいつもはあそこの洞穴の入り口を見張る番人もいた。あのときは迎え撃つために村に戻っていたが。」

 「この洞穴がいつからあるのかもわからない。果たして誰が作ったのかさえも。」


 マイヨールは子供を励ます妻を見ながらも殿を務めている。コレットはまだ体力が完全に回復していなく、歩くことで精いっぱいのようだ。妻は乳飲み子の世話に忙しく、喋るのは自分、トリス、ミシェルにバチェレのみ。


 「お爺様はここが古の盟約に包まれた地だと。」


 バチェレが語る。ジャックの孫、故にミシェルは長を任されたのかもしれない。


 「聞いたことがあるわ。遥か古を唄う詩の1節ね。」


 トリスが語る。自分はその詩を知らない、当然といえば当然なのだが。


 「遥けし地にて多くの神は眠りにつく。7つの閂、変革の時。委ねられしは唯1人、色変わりし日々に彼は残る。」

 「これがその1節。21の閂によって世界は今のようになったと伝えられているわ。」

 「21の閂が古の盟約だと。」

 「それが定説だわ。ただそれがどこにあるのかも。」

 「お爺様はそれを秘匿してきた。その前も、そして遥か前までも。」

 「我ら部族はその閂を預かりし者。」

 「つまり、21の部族があると。」


 そのうちの1つ、こんなところで会えるとは驚きだ。残った1人、それがオルケー神というわけか。そしてそれを尊ぶ宗教が生まれ、そして力を持つ。ミシェルは軽蔑しているようだが、いつの世界でも、どこの世界でも宗教は多大な力を持つ。そして元の信念を盾にして行動をする。歴史が証明していることだろう、ジハード然り、十字軍然り。これは自分の推測にすぎないが、恐らく遥か昔には、その眠りにつきし神々を信仰する宗教、多神教のそれがあったのだろう。それか地方ごとの信仰であるのかもしれないが。それを弾圧し、無き者として来たものがオルケー教。いや、それは仕方のないことだろう。


 「いや、多くはもう絶えたと聞く。そして、閂の多くは外された。」

 「お爺様はどのくらいが外れたのかを感じる才能があった。お爺様が生まれる前に既に13の閂が外されていたそうだわ。」

 「そしてジャックの代で1つの閂が外された。果たして部族がなくなり誰かに外されたのか、それとも部族が外したのかはわからないが、残りの閂は7つ。」


 そして解放された14の神々を尊ぶ人たちをオルケー教は弾圧したということか。果たして本当に神が存在するのか、あの謎の声を思い出す。あれは解放された神々の内の1人ということなのか、それともオルケー神か、それとも完全に別物なのか。


 「14の神々の閂が外されたことで、世界は変わったというわ。確かに、私たちの生まれる前に1回理が変わったときいたわ。」

 「我らの生まれる前は、夜の時間がもう少し短かったそうだ。そして、今は危険が増した。」


 大きな変化だろう。そして彼らが守る閂が外れれば同じように世界の理が変わるということ。他にも、遥か昔は月が1つだった、という伝承もある。世にアンデッド系モンスターが生まれたのも閂が外れたからという伝承もあるそう。


 「我らに閂を外すつもりはない。」

 「ただ、いつか外さなければならないときは外すわ。我ら守りしは“星”。希望を司る神、それは危機に陥りしとき世界を救うもの。」


 そう告げる彼らの目は、松明の明かりで照らされる洞窟の中で、一際輝いて見えた。

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