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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
5 封印と22神
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 彼らに別れを告げつつ、最初に先導された大剣使いのエルフの後ろに続く。

 ミシェルと名乗るその男、自分たちを先導しながら会話を交わす。


 「先はすまなかった。わかると思うが、大分こんな調子でな。ピリピリしてんだ。」


 本当の彼は恐らく気さくな人物なのだろう、言葉の縁から感じるその性質。彼はエルフの集団でも新人、新進気鋭の男らしい。まだ信頼はそこまで勝ち取れていないが、実力だけならベテランにも負けない、そう言い張っている。年は18、自分たちとあまり変わらない。しかし長命のエルフからしてみたらまだまだひよっこだそうで。


 「いや、そういう事情なら仕方ないだろう。別段俺たちはそこまで不利益を被ったわけでもない。」


 これは本心からの台詞。少し危険な道を案内はされたが、少しばかりの食料も援助してもらい、この巣の奥にある洞穴を進めば人と会わずにかなりの距離を稼げるらしい。どうせ危険という意味では普通に森を進んでも同じようなものなのだ、そこに不満はない。


 「いいやつらだな。我らが危険な場所に連れていっているのかもしれないんだぞ?」

 「まぁ、それはないだろう。」

 「最悪、アスカがなんとかしてくれるから。」

 「お熱いこった、いいもんだな。」


 別に見せつけようとしたわけではない、トリスが勝手に乗ってきただけのこと。


 集落から歩いて10分もせず、壁に行き当たる。そこだけズレたような巨大な断層、そこにミシェルは手を当てる。断層は左右どこまで続いているかわからず、自分の目の前は高さ5メートルほど。ミシェルは何かを探るような手つきで壁をさわり続ける。

 そして何か見つけたらしく、そこに手を掛け引く。どういう仕掛けか、目の前の壁の一部が開く。おおよそ人が通れるくらいの穴、ミシェルが松明を取り出す。


 「ここから先進めば、その場所につく。巣は運だ。巣の奥にまた洞穴があり、その奥にいけば人の住む場所につく。おおよそ4日、歩き続ければ辿り着くさ。松明は着け続けて4日分、あまり使いすぎるなよ?」


 そう言って松明を渡してくる。この洞穴はエルフに伝わる隠し道、その巣の奥を通った人は黒白夫婦だそう。


 「感謝を、そしてエルフの皆に幸運があるように。」


 そう告げ彼に別れを告げる。


 またいつか会う約束を交わし、彼に見送られ洞穴に。松明は列の中央、トリスが持つ。先頭は自分とシェム、殿はガルム。テンはトリスの横を跳ねる。


 洞穴は幅3メートルほど、高さは2メートル。後ろで扉が閉まる音がする。前方はるか遠くまで続いているのだろう。先は見えないが、延々と前に進めるのはわかる。


 松明というのは仄かな明かりだ。魔法の灯りでさえ昔はあまりにも弱く見えたものだが、松明はもと弱い。光量自体はさほど変わらないのだろうが、揺らめき、つまり明るさが安定しないのだ。洞穴には風がない、空気が淀んでいて、しかしそれでも息苦しくはない。どこかで外界とつながっているのか、それ故に空気が流れているのかもしれない。歩く歩幅に合わせて松明は揺れる。

 

 松明を掲げて歩き続ける。トリスと時折言葉を交わしつつも、黙々と前に。完全に時間間隔もない。休憩は1回とった。


 そこからあまり時間も経たないころ、目の前奥に仄かな光が。恐らく出口、確実に早くなっていく足並み。20分ほどでそこまで。


 出口近くから見た外はまだ明るく、しかしかなり赤みを帯びていて。一歩洞穴の外にでる。柔らかなはずの日差しが、暗がりに慣れた目に突き刺さる。

 外は土の壁に囲まれた丸い場所。5メートルほどの壁、まだ断層地帯なのだろう。何も木は生えていなく、草むらがその円の真ん中に広がっている。広さはトラック1つ分だろうか。


 たしかに目を凝らすと、奥まった場所、丁度反対側に洞穴が見える。目測の為何とも言えないが、恐らく同じくらいの大きさの洞穴。そこに向かって歩き出す。




 中央部には水源があり、そこで水を補給する。ふとそこで気が付く、大量の骨。当然白骨だが、一体何がいたのか。ふと気が付く。この巣の持ち主の骨だろうことに。エルフが告げた上級モンスター、フォレストエイプ、大型の猿。体高2メートルにも達す猿らしい。恐らくゴリラを巨大化させたようなものだろうか。その骨だろうか。そう考えると、ふと落ちている頭蓋骨がなかなか人間のものに似ているような。プルミエの近くにいたフォレストモンキーもそれの近縁種だろう。

 この巣に住んでいたはずのフォレストエイプ、それらがここまで全滅している意味は。ここには結構な数の群れが住んでいて、多くの時間はこの巣には居ないが、夜は寝床としてここに戻ってくるとミシェルは言っていた。


 周りを見回す。特に危険は見えなく、フォレストエイプのものであろう骨が転がっているのみ。結構砕け、風化しかけているものも多く、最近の話ではないようだ。

 トリスも全く想像がつかないそう。フォレストエイプは、繁殖力も高く戦闘能力も高い。そして知能もモンスターの中では比較的高く。群れともなればそうそうここまで全滅することなどありえない、とのこと。そして、一致した見解。

 

 フォレストエイプが全滅した理由、考えられうるものは3つ。まずは強敵が出現したということ。上級モンスターの群れを蹴散らし全滅させられるモンスターは限られてはくるが、それにしては少々不自然。ここには100近い数のフォレストエイプが住んでいたらしいが、どうみても水源周りだけで相当な数、40体近くは死んでいる。群れで行動する個体、ある程度の被害が出たら逃げるはずではないのか?次に移住したというパターン。これならこんなにも姿が見えないのにも納得、ただ同じように死体が多すぎる。そして最後に、黒白夫婦がやったという説。彼らならば一瞬で片を付けられるだろう、そして彼らはここを通ったのだ。彼らがここを通ったのは1年前だそう。風化なども考えて、これが一番妥当だろうか。ただ、これには大きな問題点がある。何故骨が残っているのか。


 やはり、何かモンスターが殲滅したというのが一番のところだろうか。答えの出ない問いを考えるのを止めにして、野営の準備に入る。もう夜になるだろうから。

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