89
老人、エルフの耳を持つ齢80ほどの男は名をジャックと言った。
「さて、夫婦に認められし冒険者よ、たびたびの非礼をここに謝罪する。」
頭を下げる老人、彼らからもらった面がどれだけの意味を持つのか、それをまざまざと見せつけてくる。
「アスカだ、此方は妻のトリス。顔に火傷を負ってな、仮面をしている。」
当たり障りのない嘘。夫婦とも話は付けてある、故にバレはしないだろう。そして、女の顔についた傷を見たがるような不躾者はこの世界にもいなだろう。
言葉を交わす。何故こんなにも大変な警備を敷いているのか。どうやら、彼らは人間との間に小競り合いを起こしているらしい。
「理由は簡単なこと。彼らは森を開拓しようとしている。我らにとって森は生活の場、故に譲れぬ。協議を重ねてきたが、彼らは止まることを知らぬ。」
何か隠しているような印象を隠しているような、そんな印象を受ける。人間が場所を広げようとする、まぁありふれたような話ではあるが。しかしそれだけで彼らはこんなにも嫌がるだろうか。
「理由は、それだけか?」
「これはかなり重要な事柄。我らは森と共存している。我らの住むこの地の森が減るに従い我らの力が弱まる。これは人間たちとて知らぬ。我らがこれを話すはその面を見れば信じれる故。」
何故この面がそこまでの効力を持つのか。彼らに聞いてもかつて世話になった、その一言のみ。決して内容は語らず、故に理由はわからず。
「アスカ、そう名乗ったな。君たちは夫婦に認められし者、故に我らは歓迎する。例え君らに裏切られようとも。」
言外に匂わす、肩に来る重み。いや、自分たちに利点はない。
「俺たちはそんなことはしないさ。ここを通らせてもらうだけでいい。」
「いいだろう、存分に通るがいいさ、そう言いたいところだが。残念ながら通れぬ。」
告げられる言葉、なぜ通れないのか。老人の顔が苦渋に染まる、周りに居る護衛も俯いて。
「最後の交渉、それが先日失敗してな。ある程度、村1つ分程度の伐採は許したのだが、それ以上を求めたのだ。拒否した結果がこれだ。君たちが来た方向とは逆、そこに人間どもが軍を控えさせている。その数100名、我ら30名、人より優れ、地の利もあるとはいえ損害は被ろう。君たちが通ろうものならば、恐らく拿捕されるであろう。」
それは困る、トリスの面を外せと言われた場合はごまかしきれはしないだろう。
「我らとて対処に困る。君たちに決して助力は求めない、少し交渉をしよう。こちらにもカードはある。少し待っていていただけないだろうか。」
待つ、時間を取られるということ。それは避けたい、まぁ特に問題はないだろうが、それでもできるだけ早く進みたい。
「回り道はないのか。俺たちは急いでいる。」
「あることにはある。そしてそこを通れば行けようが、危険が伴う。」
老人の顔は真剣そのもの、人より優れる、そういった種族が危険ということはどの程度なのだろうか。
「上級モンスターの巣、その間にある洞穴を通ればいい。Aランクの冒険者、君たちならなんとか通れるだろう。食料は援助するが。」
上級モンスター、程度によるが。巣はどのくらいの規模だろうか。Aランクならいける、それはベテランという意味だろうか。考えあぐねる。一度戻り、そこから別ルートを通ってもいいのではないか?
そう考えていた矢先、エルフの男が走ってきた。服は所々破れ、そして血に塗れている。老人の顔が蒼白になり、何か重大な事柄だろう。
「イシス、どうした?」
イシスと呼ばれた男は片膝を付き、息を整え告げる。
「緊急です。村が包囲されました!」
老人の顔の血の気が一層引く、聞いただけでもわかる重大さ。つまり自分たちは外に出れない可能性がある。
話を告げる。人間は交渉する気をなくしたらしい。斥候に出ていた男含めた3人は、警戒をしている最中に襲われ、2名が殺害され、彼1人逃げてきたらしい。その方角は自分たちが来た方角から西に行った場所。そして彼らは全方向に兵を置いたと話していたらしい。そして2時間後、使者を送るとのこと。
さて、どうしたらいいのか。老人曰く、その巣に関しての方角には恐らく人間がいないだろうとのこと。老人の勧めに従いその道を行くことに。
評価と感想をいただけるとうれしいです




