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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
1 召喚、地固め
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8

 馬車がどんどん近づいていく。

 アスカ君がA地点から時速5キロでB地点に向かって小走りで進みます。馬車はB地点からA地点に向かって、時速6.6キロで歩きます。さてさてAB間のどの地点で会うのでしょうか。

 

 馬車との距離はもう300メートルほどだろうか、流石に疲労し、歩くようになった自分。馬車が、馬が2頭で引ける程度の、人が4人ほど乗れそうな幌馬車が、はっきりと見えていた。御者は20代ほどの軽装の男で、まるで弓兵のよう。小さな弓を背負い、小手はつけたまま、そんな恰好をしていた。向こうもこちらを気づいているのか、馬の足を緩めながら、こちらに手を軽く上げたようだ。そんな御者に手を振りかえす。


 学生は、この世界で初めて生きた人間に、邂逅した。


 立ち止まる自分の前に、馬車は止まる。御者台に座っていた男は、飛び降りると、


 「やぁこんにちは。こんなところで人に会うとは。僕たちはこれからラツィア村に向かう途中なんだ。そっちからってきたことは、ラツィア村から来たのかい?」

 「こんにちは、ラツィア村、というのがどこかは知りませんが、自分はこの道の先にある集落から来ました。」


 ラツィア村、というのはあの集落の名前なのか、彼らはあの集落に用事があったのだろうか。挨拶を返す。


 「それがラツィア村だよ。色々質問はあるけれど、最優先なものを一つ、ラツィア村は無事かい?」


 思い返す、名も知らぬ彼ら、この御者は彼らの知り合いなのだろうか。


 「えっと、自分がラツィア村に着いた時には・・・」

 「えっと、そうか。少し、話を聞かせてもらえるかな?」


 言い淀む自分を見て、彼は全てを察したように。そして、確認をするよ、と言わんばかりの声色で。幌馬車から物音。人が2人ほど降りてきた。


 「アルト、どうした?その少年は?」

 「ラツィア村に着いたのかとおもったら、まだ道中じゃないの。」


 この御者の名前は、アルトというのか、後ろの2人に目を向ける。先に声を掛けたほうの男は大柄で、金属製の鎧を身に着け、身長190センチは超えているんじゃないだろうか、背中に巨大な剣を背負っている。もう一人は、魔術師だろうか、体格は剣を背負った男に比べると小柄で、茶色のローブを身にまとい、1メートルほどの杖を持っている茶髪の女。


 「いや、彼はラツィア村から来たみたいで、どうやら遅かったみたいだ。少年、ちょっと幌馬車の中で話さないかい?」


 どうやら、彼らはラツィア村に救援に行く最中の傭兵パーティ、というわけか。用心して、幌馬車には入らないほうがいいのだろうが、久々にあった人ということで、気分は高揚し、ついていくことに決めた。

 幌馬車の中は、リュックが3つほど、その他食料がそこそこの量積まれていて、武器も剣が2本ほど、矢が数十本立てかけられていた。


 「まず、自己紹介から。僕はアルト、城塞都市プルミエで冒険者をやっているものさ。後ろの剣士はセロ、魔術師はベスっていうんだ。僕たち三人でパーティを組んで行動しているんだ。君は?」

 「自分はアスカといいます。記憶喪失みたいで、ラツィア村の奥の森で目が覚めて、村に、そのあと道に沿って進んできました。」


 本名をいってもいいのか、一瞬躊躇したが、そのまま告げる。記憶喪失、ということにしたのは、過去を聞かれないようにするため。異世界から来ました、なんて冗談にしか聞こえないようなことをここで言っても信用度を落とすだけだと、わかっているから。城塞都市プルミエ、また他の人たちの名前、全く聞き覚えもなく、日本式でもない。苗字もないようだ。やはり異世界、しかも西洋風のところ、と推測する。そして本題へ。


 「ラツィア村は、残念ながら、自分が来たときにはすでに襲撃にあったようで、誰も生き残ってはいませんでした。ゴブリンはいましたが、殲滅し、とりあえず、亡くなった方の遺体は一まとめにして荼毘にふしておきました。」

 「そうか、それは、残念だ・・・今日の朝、ラツィア村からあの村唯一の馬にのって、あの村唯一の少女がきたんだ。ゴブリンの群れが近くにきていて、狙いはどうみてもラツィア村だって、自分は援軍を要請するために駆けてきたんだってね。だから、援軍として、都市である程度の経験を持っていて、ゴブリンの群れなら討伐できる僕たちが来たんだけれど、一足遅かったみたいだね。」

 「荼毘にふしてくれたことは感謝する。モンスターに殺され、遺体になってもモンスターについばまれた、なんてことはさせたくないからな。」


 大柄な男、セロは自分のしたことに感謝を述べてきた。自分が、彼らの眠りを妨げるようなことが起きないでほしい一心で行ったことが、問題なかったようで安堵する。


 「いえ、せめて安らかに眠れるよう、その一心で行ったことです。貴方方はどうされるんですか?」

 「今から、僕は馬で一人村に向かって、申し訳ないが、一応事実かどうか確認しがてら、現状を見てくるよ。一人で行けばここからなら夜までには帰ってこれる。それまではここで彼らと一緒に待機していてくれないか?そのあとプルミエにもどろう。」


 願ってもないことだ。都市までの道筋はわからないし、人と一緒なら心強い。折角なので色々質問しておこうと思い、馬に乗り駆けていくアルトを見送る。

 アルトが帰ってくるまでの間、暑いからと勧められた幌馬車の中で、自分はセロとベスに質問をし、この世界に関しての情報を収集しようとした。


 現在自分がいるのはアンバー大陸と呼ばれる非常に大きなインド半島に似た形の大陸で、そとには外洋が広がっているらしい。外洋の先は未だ未到達地帯となっていて、何がいるのかもわからないそうだ。アンバー大陸は、南部や中央部は人間や他の者によって治められているものの、最北、いや最北といっていいのかわからないが、にある巨大な山脈に、また非常に強力なモンスターによってそれより北は隔絶され、そこより先がどうなっているのか不明なのだそうだ。大陸には大小様々な国家があり、現在各国はほぼ平穏なものの、様々な国家が裏で色々とやっているらしい。城塞都市プルミエや、ラツィア村はその最南端に位置する騎士王国マルーンに属している。騎士王国マルーンは、南を海、西をローシェンナ帝国、東を同盟国である、ローズマダー連邦、北を同じく同盟国のルリコン帝国という国に囲まれている。現在、自分がいるのはそんな騎士王国マルーンの中でも北側、ルリコン帝国にそこそこ近い位置にいる。騎士王国マルーンはそこまで大きな国ではないが、名前にもある通り精強な騎士を持ち、またルリコン帝国とローズマダー連邦と同盟を組んでいる故、勢力を保っているそうだ。

 文化は中世ヨーロッパに近い物があるだろうか、その根底にはオルケーと呼ばれる神話の時代にこの大陸を作ったとされる神を信奉する宗教がほぼ全ての国にあるという。そして、オルケー神が制定したのが共通語と呼ばれる言語。それにより異種間での会話が可能になったそうだ。

 金銭に関しては、金貨、銀貨、銅貨2種類の4種類からなり、銅貨は大きい物と小さい物でそれぞれ大銅貨、小銅貨と呼ばれるそうだ。金貨1枚で銀貨100枚、大銅貨100枚で銀貨1枚、小銅貨100枚で大銅貨1枚になるそうだ。自分が村から借りた銅貨は、大銅貨だそうだ。

 人間のほかには、この大陸にはドワーフや、竜人など人に似た者がすんでおり、それらをまとめて人族と呼び、基本的に友好的な関係を維持しているらしい。またこの世界にはモンスターと呼ばれる生物がいる。それらは人間、他の種族を見境なく襲うため、駆除対象となっている。モンスターは強さに応じて、最低級から、低級、中級、上級、特級、超級、覇級と大きく7つに分けられ、1つの級の間にも、下位、中位、上位、最上位の4段階があるそうだ。先日戦闘をしたゴブリンは、残念ながら、この中では低級下位もしくは最低級最上位に属しているらしい。

 また、この世界には魔法の概念が存在し、人間の場合は鍛錬と師事によって、種族によっては先天的に使えるとのことだ。

 そして、この世界における一番重要なファクター、レベルに関して。この大陸にいる全ての生物は生まれたときよりレベルという概念を有しており、経験をためることによりレベルを上昇させ、自分たちの力をより強いものにしていくとのことだ。そのため、国々は安全を確保し、また北部のフロンティアを開拓するために、共通のギルドを制定しモンスター討伐を精励している。現在確認されている最高レベルは、人族では最北部の山脈に面し、山脈と山脈の切れ目、魔の谷と呼ばれる場所と領地を接しているヴァーミリオン大帝国と呼ばれる国家最強の冒険者が1500という高レベルを有しているらしい。モンスターに関しても1500程度の物しか確認されていない、いや確認できていないのだろう、「それ」から生還して情報をもたらして初めて確認されるのだから。

 まだまだ聞きたいことはあるが、蹄の音が聞こえてきた。質問をし、答えを整理しているうちに夕方になっていたようで。アルトが馬とともに幌馬車まで辿り着いたのだろう、鞍から降りる音がして、幌馬車の中に入ってきた。


 「残念ながら、アスカ君のことは事実だった。ラツィア村は、壊滅だった。」


 セロとベスの、哀しげな溜息が聞こえた。

会話が苦手です・・・


2012-11-22修正

2013-2-12修正

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