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ここに来てからもう既に何年か・・・あの朝ここに来た皆全てがもうこの世にはいない・・・いつになったら帰れるのか、そう信じてずっと生きてきたけれども、その目途は結局つかなかった。私も80、いや90歳にはなったかね。そろそろ天に召される頃が近づいてきているね。
若い衆は子供を作って、後世に任せようとしていたけれども、そんなに未来は明るい物ではないだろう。村ごとここに連れられてきたけれども、言葉もわからず困っていた私たちにあの都市の領主がくれたのはこの1つの村。そこで生活はしていたけれども、あまりあの人たちになじむことはなかった。知らない世界、知らない常識、周りには危険もあったし、私たちで必死に生活を作ってきた。けれども緩々と人は死んで行って。
この何十年、恐らく30年は過ごしているだろう、その日々の中でほかの人にあったのは何回か・・・土地を掘り起し畑をつくり、野山の兎を捕まえて食料にし、何とも不思議なこの世界でくらしてきた。10年前、そういえば行商団が来た。その人たちの中にこの世界の人々じゃない人が混ざっていたね。若い彼とは何とか会話できたけれども、結果帰れることはない、そう知っただけだったっけ。そして、人数が減った村を見て、匿ってくれないか、そういって数人の人員を私たちに預けていった。おかげで農作業は楽になり、生活はまた少し安定したけれども、帰るという目標がなくなったことはかなり大きかった。
それから10年、また来るといった彼との約束の日まであと少し、しかしその光景を拝むことはなさそうだ。当時の皆の中で生きているのは私だけ。老いたり、モンスターに殺されたり、どんどん死んで行ってしまった。このまえトム爺さんが死んじまったばかり。ただ私にもお迎えが近づいているのがわかる。動かなくなってきた足、もう既に何年も体の節々は痛い。よく我慢してきたよ。
名も知らぬ彼よ、もう一度会えなかった私を許してほしい。私は先に逝く、この先戻れるのかはわからないが、先に逝っているよ。そして、これは彼へ遺す手紙とする。ベッドの下、この家の下にアレは隠してある。
あぁ、主よ、我が祖国アメリカをもう一度見せてほしい。あの生活に返してほしい。主よ・・・人の望みを・・・我が主よ・・・




