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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
3 帰郷と喪失
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 ガルムの背に乗ったトリスの腕を抱き、都市の南のほうへ。いや、本当ならば神父の元へ挨拶をしておけばよかったのだろうが、事情があった。あの剣士が自分たちにおいていった紙。そこにはあることが追記してあった。何故早急にラツィア村に行かなければならないのか、ということ。

 この世界において、アンデッドやゾンビなどの死霊族は数少ない例外を除いて基本的にモンスターである。数少ない例外、というのは召喚魔法を行使できる魔法使いの所持しているモンスターに限る、というわけだが。そして死霊系モンスターの内野生のものの大部分は人語を理解しない。召喚されたり、テイムされたり、数少ない例外であったとしても人語を離せるものはかなり高位のものに限られる。つまりだ、人語を理解し話すことのできるトリスはかなり高位の存在だと思われる可能性がある、ということ。そして数多くの人々はこの世界の死霊系モンスターに偏見を持っている。数少ない知性を持つ彼らを知らない人々は、死霊系モンスターを倒しにくい非常に厄介なものとして認識し、また様々な理由から憎しみ、恨みを持っている人も多い。故にトリスは、そしてトリスを連れた自分たちはできるだけ人に会わないほうがいいらしい。これから騎士団がプルミエにくる、つまり多くの人々が来るということ。そして悪いことに騎士団は死霊系モンスターを全て敵だと認識しているらしい。故に人々の来ない場所、つい最近廃村になったラツィア村が適任というわけだ。


 トリスは続いて語る。騎士団に関して。まずこの大陸には3つの国をも凌駕しうる団体が存在しているという。

 まずは“8翼”、1人で小国を滅ぼせるほどの力をもった武士が集まる人族最強の集団。純粋な戦闘能力だけなら3つの中でも最高の力を有し、それに匹敵するものはこの大陸上に存在しない。8人がそろったときは大陸の地図さえも改変しなければならないほどの戦力。しかしながら、強者の集まりであるが故に戦闘能力以外では他2つに大きく劣るそう。総合的に見ても大きく劣り、他の2つには全く対抗できない彼らがその権力を維持できる理由は戦力。

 次に先ほどの夫婦が所属している“天啓同盟”。もともと大きな商会3つが集まって形成されたこの同盟は、元が元ゆえに豊富な財を持っている。また彼らの目標は古より続く伝承を後世に伝えていくこと、それ故にそれを次の時代に遺していけるだけの戦力を有している。グループ総勢の人数は200人以上、そのうち30人が戦闘を生業にする人々。ただメインは素材採集らしいが。そしてこれは天啓同盟自体に所属している人たちの人数。商会のグループすべてを合わせれば2000人にも達するという。

 最後に神聖オルケー騎士団。この大陸最大手の宗教であるオルケー教を母体に持つこの騎士団、つまり教団の犬、実働部隊。中世のテンプル騎士団みたいなものだろうか、ただ教団との癒着は相当強固なものらしく、おそらくテンプル騎士団よりもだろう。戦闘能力は中の上からよくて上の下、個々の戦力はそこらの傭兵団より強い程度だが、何よりも教団が母体であることが大きい。構成人数は数えられないほど、有事の際は教団の大義名分の下行動し、信徒達を動員すれば凄まじい数になるという。今回くるのはこの騎士団、問題点は聖なるものを重要視し闇なるものを唾棄すべきものととらえている点。故に頭が固く、結果自分たちが逃げているというわけだ。

 やはりトリスは自分よりも情報を沢山持っている。異世界人の自分はまぁ当然なのだが、一般人よりも確実に持っている、それは彼女がギルドの受付嬢をしていたから。プルミエ程度の大きな都市であれば結構な情報を手に入れられるそう。様々な会話をしながらラツィア村のほうへ。


 一応食料はある、2人であれば1週間くらいなんとか食いつなげそうなほどの。そしてガルムの背に乗って移動しているため、相当早く進めている。初めてプルミエに向かう、あの日々を思い出す。あのときの馬車よりガルムは確実に早い、この勢いならば2日あればつくだろう。トリスのその青白い肌を抱き留め、他愛もない話をしながら進む。ここまでどうしてきたか、どんな冒険をしてきたか、テン達の説明、突然変異シザーマンティスとの激闘、それを語り、ガルムの背中に揺られているだけで結構な時間は経つ。流石に女の子と2人で冒険をしたことは怒られたが、謝罪を繰り返して何とかなりそうだ。

 そうこうしているうちに、夕刻。毛布代わりの布、敷布団代わりの布、一応予備を持っておいてよかった。たき火を起こし、彼女と横になる。空はくも1つ無く、双月が煌々と輝いている。トリスに伝える、本当の自分。まずは謝罪から。


 トリスは、驚いたようで、ただ少し予想はしていた、そういう。ここまで常識のないなら、何か理由があるはずだと。記憶喪失、森の中で。普通の森ならよかっただろうが、ラツィア村の奥深く、普通は行かないところ。これは確実に何かある、そう踏んでいたらしい。黙っていて悪かった、騙していて悪かった、そう告げる自分を彼女は許してくれて。続きはまた明日、今日はもう寝ましょ、そう告げ自分に軽くキスを。


 明朝、食事をとりラツィア村に向かう。できれば今日中についておきたい、ラツィア村に行けば小屋、井戸、一応の生活に困らないだけのものはあるのだから。その道中、交わす言葉。地球と呼ばれる星に住んでいたこと、ある日この世界に連れてこられたこと、地球の文明、風土、科学。そんなことを伝える。日本の良さ、自分の私生活、友達、親、思い出。ここに来てから半年、思い出さないようにしていたことの数々、思ったよりも自分は郷愁の気持ちが胸にたまっていたらしい。しゃべっているうちに頬を伝う一筋の涙、トリスが優しく拭ってくれる。親は今何をしているだろうか、友達はいまどこにいるのだろうか、自分たちは大きな事件として取り扱われているのだろうか、まず自分たちは地球に存在していたということになっているのか・・・彼女はその言葉全てを受け止め、聞いてくれた。当然彼女にとって見知らぬ場所、興味もあっただろうが、それでも彼女は非常に優しい女の子。こんな体にしてしまった自分をゆるし、愛してくれる。それだけで胸が熱くなる。これからもずっと一緒に居よう、そう考える。



 そうしてガルムを歩め節付け、次の日の昼前。自分たちの前に懐かしい集落の面影。ラツィア村、自分の始まりの地、そして約束の地。必ず来るとは思っていたが、よもやこんな形で帰ってくることになろうとは全く思いもよらなかった。その集落に1歩ずつ近づいていく・・・

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