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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
1 召喚、地固め
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7

 また1日が終わる、空を染めた紅い光、その最後の一片も遥か遠い山の尾根に隠れていく。都会暮らし、人工的な灯りに慣れた自分の心に、空の急激な変貌は美しくも、一抹の不安、恐怖を遺していく。集落から運んできた薪に魔法で火をつけ、生野菜をかじる。

 未だMPは回復せず、一体いつ回復するんだろうか、不安が心を占めていく。胸にフレイムスライムを抱きつつ、寂しさを感じ、暖かな彼を強く抱き締める。

 はたして、今日のことから考えるに、ゴブリン2、3匹程度なら彼が何とかしてくれるだろう、ただそれ以上のモンスターが来たときには不安が残る。


 ≪最低級闇属性モンスター召喚≫


 呪文を唱えると、目の前に先と同じ魔方陣が展開される。MP消費を確認してみる。消費は1000、他の魔法と比べると燃費が非常に悪い。現在の残りMPは2500、かなり使ったものだ。周りと同じくらい暗い色を示す煙が薄れ、中より召喚に応じた最低級モンスターが顔をだす。

 外見は小さな、全高15センチほどの妖精だろうか。背中に生えた透明の銀白色がかった蜂の物に似た4枚羽が美しい。童話に出てくる妖精とさほど変わらないように覚える、ただ一点、重要な点を除いては。おとぎ話によく聞く少女の形をした妖精とは違う点。だからといって少年でもなく、大人でもない。召喚した妖精は皮膚がなかった。肉もなかった。骨のみの姿で宙に浮いていた。よく見ると、羽は羽の形をした骨格に、何かうすいオーラのようなものをまとっていたため、透けているだけのようだ。

  所持モンスター表示で名前を確認すると、このモンスターは、スケルトン・フェアリー、直訳で骸骨妖精、そのままのネーミング。闇属性の王道、アンデッドというわけか。フェアリーが元となっているのだから、何か魔法を使役するのではないのだろうか。


 「スケルトン・フェアリー、だな。お前は喋ることはできるのか?」


 期待、童話に出てくるフェアリーは人語を理解し、操ることができる、ここでもそうだろうという一縷の希望。残念ながら、またも希望は裏切られる。悲しそうに、表情は頭蓋骨故わからないが、首を振り自分の近くまで飛んできて、肩に腰を下ろす。最低級モンスターは喋れないのだろうか。


 「お前は魔法を行使できるという認識で間違っていないか?」


 コクン、と頷く骸骨妖精。元は女の子なのだろうか、頷くさまが少しかわいらしい。流石に骸骨萌えなんていう性癖は有していないが。ここで疑問が1つ、闇属性の骸骨妖精は、魔法を行使するという。しかし自分の使える闇属性魔法は、ダークソード、近接戦闘補助魔法というべきものだろうか。同じ闇属性であるのに、近接魔法と遠距離魔法、何の違いから使える魔法が違うのか。どうせわからないもの、考えても時間の無駄で、いずれ人に聞こうと思いつつ、明日の為に睡眠をとることにする。

 あぜ道の中央に、刈り取った草をしいて昨晩と同じように寝転がる。普通のベッドで寝るのはいつになるやら、早急に次の集落に辿り着く必要があるなと考えつつ、昨晩と同じ指令をフレイムスライムと骸骨妖精にだし、眠りにつく。今日は精神的にも肉体的にも疲労したゆえか、昨日よりも早くに睡魔が襲ってきた。



 翌日起床した自分の目の前にいたのは、フレイムスライムの上に座ってこちらを見つめる骸骨妖精の姿だった。連日自分は運が良いのか、モンスターの襲撃の跡はない。ところで、召喚されたモンスターは睡眠が必要ないのか、それとも途中でサボって仮眠しているのだろうか。召喚されたモンスターの生態、いや使役の方法も、誰かに聞かなければならないと考えながら生野菜を齧る。疲労はまだ残っているが、草の上で寝ることに早くも慣れ始めたのか、思ったより疲労は取れている。先ほどの疑問に追加、はたしてモンスターは自分に対して従順だが、それは恒久的な忠誠なのだろうか。寝首を掻かれるという寝覚めの悪いような、いや目覚めることはないか、そんなことは避けたい。現状、2匹は一見して忠誠を誓っているように見えるが、それは2匹しかいないためかもしれない。その点を考慮して、ほかに召喚することを避けることにした。そして気が付く、MPが4250まで回復している。昨晩は回復していなかったはずなので、1日の移り変わりの際に回復するのだろうか。昨晩は2500ぴったりで寝たのを覚えているので、1750回復した計算になる。総MP量の4分の1、かなりの量回復したが、1日でそれとはなんとも心細いとも感じる。

 水筒の水を確認しつつ、少し飲み、少しフレイムスライムに与える。本当は大量にあげてあげたいのだが、数少ない水、そうそう無駄遣いはできない。フレイムスライムもわかっているのか、満足そうな目つきでこちらをみている。まるで小動物を飼っているような、そんな感覚に襲われる。スライムを愛で、腕に抱きかかえる。骸骨妖精は肩を定位置にするようだ。 今日もできるだけこのあぜ道を歩き、どこにあるのかわからない次の集落まで辿り着かなければならない、食料が切れる前に。


 歩き出す、目指すは視界にすら見えない次の集落。歩きながら、召喚したモンスターについて考える。2匹とも、かわいくはないが、一種の保護欲を駆り立てられる。戦闘で死ぬ可能性というものもあり、それをすると別れがつらくなる、というのも理解しているが、名前を付けてあげることにした。2匹目以上を召喚した際の区別の為、という側面もあり、ただただ見えない目標に向かって草原を2つに割るこの道を歩き続けることに飽き始めた、という側面もある。


 まずはフレイムスライム、見た目は某ゲームのスライムに少々似ている。昨日使った魔法は、ファイアだろう、威力的に考えて。フレイム、という名前が付きながらファイアを使ったあたり、名前負けしている感が否めない。なんともかわいらしいのだろうか。骸骨妖精も、美しい羽をもち、仕草も少し愛らしい。見た目は骸骨なため、少々グロテスクだが。

 彼らの名前を考えるのは、意外と楽しく、なかなかいい暇つぶしになったようで、2匹の名前が最終的に確定したころには、日差しは真上から射していて。


 「フレイムスライム、今からお前の名前は、テン、だ。スケルトン・フェアリーはシェム、これからよろしく頼むぞ。」


 2匹は了解したように、一方は腕の中から視線を、もう一方は肩の上で頷いていた。名前の由来?テンは日本の妖怪、てんころがしから。転がる球状の光る物体、テンは跳ねる赤いスライムだが。シェムは魔術師に魔法を与えた堕天使シェムハザから頂いた。これから召喚するモンスターたちに名前を付けるかどうかはわからないが、この2匹は名前を付けた以上、大事にしていこうと思う。

 さて、昼ということで生野菜を齧る。齧りつつも、足は止めない。筋力自体も上昇しているのか、疲労はあるものの、筋肉痛はそこまで感じない。

 昼食という名前の野菜スティックを齧り終わり、歩き続けて1時間ほどだろうか、道は相変わらず1本道。暇になり、集中が途切れてきたところで、視界の遥か奥に何かが見えた。人工物のようで、少し足を速めると、どんどん近づいてくる。馬車だろうか。こちらに近づいてきている。人が、生きている人がいる、そう確信して、馬車に向かって走っていくのだった。

やっと人出せそうで、会話もできそうな予感です



2012-11-21修正

2013-2-12修正

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