表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
3 帰郷と喪失
68/239

68


 歩く、その足並みは非常に軽やか。

 既にロザスを抜け、ルリコン王国を縦断しようとする街道に近づいてきた。おおよそ1日も経たずにつくだろう。嬉しいことに、今までモンスターとは遭遇せずに進めている。早くも16日は経過し、もう全行程の半分は進んでいる。危険視していた、徒歩で行動し続けることによる弊害も発生せず、しいて言えばそろそろこの光景にも飽きが来たというところか。


 そんな日の午後、そろそろ街道に着き、集落を3つ超えたらプルミエまですぐというところ、右手から何かが断裂したような音。嫌な予感、慌てて右手を見る。トリスから貰い、大事につけていたあのミサンガがブツリと切れていた。切れたら願いが叶う、いやこれは唯のお守り、様々な説はあるだろうが、唯一の大事な繋がりであったミサンガが何の前触れもなく切れたことに一抹の不安を覚える。何かがあったのだろうか、早く会いたい、焦りから足が速くなる。その日自分は集落に辿り着くまで決して足を緩めることはなかった。




 



 集落、小さな村。街道沿いにあるこの村は、街道が安全なため宿屋があるのみ。外はもう暗く闇に包まれており、松明を持っていてもこの中を進軍することはあまりいい手ではないだろう。そう思いここで休む。これからの予定は、3日以内に次の村まで到着すること。そしてそこから歩いて村をもう1つ、あと10日弱だろうか。やはりかなり早く着いた、サラには感謝をしないと。宿をとり、酒場で酒を飲む。


 酒場は小さく、村人のほかには自分とあと2人ほど。1人はもう既に酔いつぶれている、一体いつから呑んでいたのか。もう1人と相席になる、席が少ないのだ。20代後半だろうか、がっちりした格好の男。


 「若いな、冒険者か?」


 席に座り、ワインを舐めていると話しかけられる。


 「あぁ、そうだ。プルミエに向かっている。」

 「おぉ、そうか。俺もプルミエに向かっている旅の商人でな。」

 

 商人、それにしては護衛が見えない。


 「護衛はいないのか?1人か?」

 「そんなまさか、護衛はあれさ。」


 男は酔っ払いを指す、護衛には適しているのだろうか。


 「そういう顔をするなって。まぁ意外といいやつなんだ。っと、そろそろか。」


 男は酒場の一角を顎で示す。一体何が始まるのだろうか。



 酒場の一角に進み出たのは、どこにいたのか、薄手のローブを身に纏った女。顔は半分布で隠されていて、目付近しか見えないがかなりの美人ではないだろうか。手にはハープだろうか、高めの椅子に腰を預け、詠いだす。透き通った歌声、何を詠っているのか。共通語、というわけでもないし、日本語でもない。全く聞きなれない言語、しかし何か懐かしいような、心に深く染み入る歌声。


 15分、それくらいの時間がたっただろうか。歌声は非常にゆったりと、決して騒がしくなく体を通り抜けていく。しかし声色にはすこしばかり悲壮感が滲み出ていて、何か哀しい物語を詠っているのだろうか。


 そして、歌声は終わりを告げる。高くかすれていく歌声、いつまでも聞いていたいような、そんなことを思う。遠く、そして小さく。やがて詩は終わり、女は頭を下げ酒場を出ていく。一体誰なのだろうか。男に質問を。


 「彼女か?彼女は吟遊詩人だよ。珍しいな、女の吟遊詩人なんて。しかもお1人様ときた。かなりの腕前なんだろうよ、力のほうも。昨日も詠っていてね、今日も詠うだろうと思っていたんだ。」


 吟遊詩人、そんな人もいるのか。しかし何を詠っていたのか。


 「内容はわかるのか?」

 「いや、あれはここらの言語じゃないだろう。ただ内容は知っているさ、昨日聞いたからね。」


 <遠く約束された日 深淵より破滅が訪れる>

 <遠く約束された日 深淵より終焉が訪れる>

 <遠く約束された日 生命より希望が立ち上がる>

 <遠く約束された日 時代は全てを終える>

 <遠く約束された日 次代に全てを託す>

 <遠く約束される日 時代は全てを始めるだろうか>


 「聞いてもあまり意味がわからないだろう?かなり昔からの言い伝えらしくてね、古い言語を使っているのもそのためらしい。彼女はそれを伝える人らしい。なかなか大変な業を背負おうとしてるよ。」

 

 何かの伝承、日本にも昔はあったらしい。もう大図書館へ行かなければあまり目にする機会はないが。


 「面白いな。彼女に話を聞いてみたい。」

 「変わってるな、ただ彼女からこの意味を聞くのに1時間かかったんだ、無理だろうな。さて、お前冒険者なんだろう?話を聞かせてくれよ。」

 「どんな話だ?」

 「ランクは何だ?1人ってことは結構高いんだろ?竜族と戦ったことは?」

 「Aランクだ。竜族、なんだそれは?」

 「竜族を知らないのか?ドラゴンって名前の付くモンスターだよ。それにしてもたっかいなぁ、何か強いモンスターとは戦ったか?」


 男と酒を飲み交わしつつ話す。酔いもあってか、舌が良く回る。

 そして男から手に入れた情報、竜族に関して。

 

 竜族、この世界に属する種の中でも最高峰の種の1つ。竜族には全部で6種類のモンスターが存在している。そのうち2種が上位種と呼ばれる種で、それからの派生が4種。まずはその派生の4種、火竜、雷竜、水竜、岩竜。

 火竜は体長10メートルほどにもなる赤熱色の鱗に覆われた竜で。1対の羽をもつ4足歩行のモンスター。尾は長くしなやかで、その1撃は上級モンスターでさえ1撃の元に屠るほど。爪は鋭利で、牙も長く鋭い。引っ掻かれ、咬み付かれようものなら下手な特級モンスターは瀕死の重傷を負う。特筆すべきは火竜の名前の元になっている能力で、口から火球を放つことができる。体内に魔方陣を持ち、MP切れのないその体から放出されるその炎は特級中位モンスターでさえ消し炭にできるほど。モンスターとしての数は竜種の中では多く、この大陸の様々な場所に住んでいるそう。

 雷竜は体長7メートルほどの白色の竜。1対の羽をもち、鋭い牙と爪、しなやかな尾をもつところは火竜と同じ。力は火竜ほどではないが、それでも十分脅威となり得る。生息数はかなり少なく、生息域は雷雲の中など限られた地域。特筆すべき能力は体内に火竜と同じく魔方陣を持ち、そこより魔法を発動させること。魔法の種類は独特で、主にこの竜が雷雲と共に住むことが関係している。その魔法は、雷雲より雷を落とすということ。火竜に負けずとも劣らないその力は雷雲とともにやってくるため嵐竜とも称されるほど。

 水竜は最も多くの数が存在しているといわれる種で、生息域は海か川、湖、つまり水の中。羽はなく、蛇のような体に鰭のついた手足で水中を行動するという。特筆した能力はないが、その尾や爪、牙を使った攻撃は非常に強力で。また水中から出て行動することも可能で、その際は圧倒的な力を見せる。力だけなら火竜を軽く凌駕し、まるで赤子の首を捻るが如く大木をなぎ倒すらしい。

 岩竜は竜族の中でも数が少ない種で、生息域は大陸の全て。羽はなく、大きい種では30メートルを超える体を持つ。地面を掘って進み、岩の如き硬質化した鱗から岩竜と名づけられた。力はほかの竜を遥かに凌駕し、竜種の中で超級上位に存在するモンスターだそうだ。

 そしてこの4種の竜のレベルはそれぞれ特級上位から超級上位に位置し、これらの若い個体をそれぞれフレイムドラゴン、ライトニングドラゴン、アクアドラゴン、ロックドラゴンと呼ぶそう。

 残りの2種、竜族の中で上位種と呼ばれる2種。飛龍と地龍。この2種は竜種4種の祖先で、もうすでに地龍は絶滅している。飛龍は火竜と雷竜、地龍は水竜と岩竜の祖先だそう。唯一残る飛龍はこの大陸でも数が最も少なく、住む場所はアデル近辺。そう、古代飛龍エンシェント・ワイバーンと呼ばれる種族。彼らは知性を持ち、古代から命を繋げている。体長は5メートルほどと小さいが、若い個体でさえ岩竜に匹敵する強さを持っている。様々な魔法を行使し、成熟した個体が人間界に侵攻してきた場合、その強さは覇級に属する程である。その長ならば伝説のモンスターとも互角とも言われる力を有しているらしい。


 ではそれらをどんな冒険者が討伐しているのか。8翼と呼ばれる冒険者を含むSSランク上位以上の冒険者らしい。その中でも8翼である、“勇者”、“絶対防壁”、“刀”、“英雄”、“大長老”、“殺神者”、“大賢者”、“代行者”ならば個々で岩竜を軽く討伐できるとの呼び声が高いそう。


 いやはや、それと並び称されるほどまでなれとは、ランツも無理をいったものだ。


 そう思いながら、夜は過ぎていく。

感想等よろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ