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初日の出来はフォレストオーガ45体にオーガス34体、オーガリーダーは9体。オーガリーダーに関しては規定数終わりそうだが、他2つに関してはなんとも。明日の出来にもよるし、なによりモンスターのリポップの量にもよって変動してくるだろう。
小屋に向かって歩く。結構な疲労、もう既に互いの口数は激減している。ほぼないといっても過言ではないだろう。シェムはまだ元気そうだ、ガルムとテンは疲労を見せているというのに。一体どんな差があるのだろうか、全く想像はつかないが。今日はどうにかして日が暮れるまでに昆虫のいる森近くの小屋まで進みたい。ここのモンスター達は夜行性なため夜のほうが数は多い。ただそれだけ活発になっているということの裏返しであり、森が夜は人の領域ではないことの裏返しでもある。夜狩りを行う冒険者も少なくはないのだが、彼らは対象との腕の差がかなりあったり、スキルで昼間と同じように夜目が利く強者たち。それか最低級モンスターや低級程度なら夜でもそこまで危険ではないだろう。ただし自分たちはそろそろAランク。その付近のモンスターと夜戦えるほど余裕があるわけではない。スキルがない以上、松明を灯したり、火魔法で明かりを取りつつ戦うしかないわけで。それはそれだけこちらの動きが鈍くなるという意味。敗北はしないだろうが、無傷で勝てる自信があるわけない。しかも今は昇格試験、失敗は許されない。Aランク以降の昇格試験は失敗するとしばらくの期間試験を受けられなくなる。レベルを上げて出直してこいという意味だろうが、失敗しているのだから大部分はもう冒険者稼業は廃業となる人物のほうが多いのではないだろうか。故に自分たちはそんなリスクを犯しはしない。
いくら夜とも言えど、小屋は比較的安全である。まずは塀や柵があるからで、次にしっかりとした壁やドアがあるから。そして小屋の周りには火をくべる台もあるし、対モンスター用の罠も設置されている。冒険者という危険を冒しながらも危険を排除してくれる存在に対する近隣の村、牽いては国の優しさだという。
その小屋に辿り着く。もう既に日は落ちかけていて、遠く地平線上に落ちる太陽が見える。小屋に入り、蝋燭を灯す。火魔法で水をわかし、スープを作り、パンと共に簡単な夕食。村にいるころなら酒を飲んでいるのだが、万が一の時を考えて酔わないよう酒は飲まない。万が一など起きてもらっては困るが。
朝。一応交代をして見張り番をしていたが特になにも起きはしなかった。いやいいことなのだが。サラを起こす。先に彼女には見張り番を頼んでいた。
「ん・・うぁ・・・?」
「朝だ、一応朝食も用意してある。早く食べて次に行くぞ。」
「あぁ、少しはゆっくりさせてくれても、まぁ仕方ないか。先行ってて、あとから行くわ。」
「手早くな。」
そう告げ部屋を出る。女の子の準備は色々とあるのだろう、全くそういうところは地球もここも変わりはしない。小屋の外で体を動かす。外で寝ていたガルムが近づいてくる、シェムとテンは既に自分の傍に。軽くストレッチをし、外の井戸で水を汲み、火魔法で沸騰させてから飲む。体は先ほど洗った。
井戸の水は浄水されていない、つまり腹を壊しかねない。なので沸騰させ消毒をする、避けられないこともあるかもしれないが、やらないよりはマシだろう。そして水筒に注いでいく。この水筒も結構ガタがきはじめている。プルミエに戻り、トリスを迎えた後はラツィア村に向かおう。そう考えているとトリスが出てくる。
轟音を立てながら地に倒れ伏すセンチピードロード、体は血に塗れ所々焼け焦げ、噛み跡が残っている。死因は頭部の刀傷、片手剣を頭から引き抜き、布で剣を拭うサラを少し離れた位置から見つめる。これまでにフォレストスティールビートルは目標数討伐した、がかなり時間をとられてしまった。夜行性の気が強い昆虫たちは昼間の数は圧倒的に少ない。故に探して狩るのに時間がかかってしまったのだ。そのくせセンチピード類は昼夜関係ないのか結構な数行動していて、今も徘徊するセンチピードロードに見つかってしまい、対処をしたあと。例の突然変異種の際に大量の虫が集まってきたのは、突然変異種の出現による森林の生態系のバランスが崩れたことが原因。
時刻は昼過ぎ。もうこの時間にはオーガの住む森に戻っているつもりだったのに、早急に戻り今日の目標数を。しかしこの時間になってしまえばおそらく20体も討伐できないのではないだろうか。
焦りが自分を包む。いや焦っても仕方がないだろう、時間は戻ってこない。
今の自分なら、オーガ1体程度赤子の首を捻るのと同義。魔法を使うまでもなく、大ぶりのその攻撃が来る前にダークソードで首を一閃。所詮愚鈍な木偶の坊、♀ならば魔法を持つ故警戒すべきだろうがリーダーではない♂など話にならない。また1つ首を落とす。首が狙えないなら腕を落とし、足を落とし、そして殺せばいい。どちらにせよMP消費は誤差程度。大量に狩っても1体あたりの獲得経験値は減少したのかレベルはなかなか上がらない。サラには今オーガス狩りを、そしてガルムにリーダーを任せている。ちゃっちゃと自分の分を片付け、ガルムの加勢にでも。
巨体になり、獰猛さが増したガルムはしっかりと体も強靭なものへと進化していて。毛並みは変わっていないが、戦闘などによって精神が高揚すると硬質化し、簡単な鎧と化す。故に受ける傷はより軽い物へとなり、リーダーの攻撃が万が一直撃したとしても大怪我を負わないであろうことは簡単に予想がつく。このまま巨体になっていくのなら一体どれだけ大きくなってしまうのか。そしてどれだけの進化が彼らを待っているのか。他者に聞いてもあまり要領を得ない、召喚魔法を行使する人が少ないうえに、彼らはその情報を秘匿しているきらいがあるようだ。ただ次の進化は遠く、レベル300を超えなければ進化しないそう。レベル300、超級クラスのモンスターになるということか、モンスターのレベルはまた少し違うのか。
リーダーとガルムが戦っていた場所に行くと、既に決着はついていたようで。血塗れになった胴体が転がっている。頭部はガルムが咥えていて、ガルム自体には胴体に怪我が1つあるのみ。かなり強くなった、確実に自分の所持モンスターの中で最高の戦力であろう。シェムはサポート、テンはスライムという種族に加え魔法しか使えないというハンデがあるからでもあるが。ガルムの頭を撫でると加えた頭を落とす。地面に接するか接しないか、頭は消えて行って。胴体も消えた、頭が落ちた場所に角がドロップしている、どうやら結構前に戦闘は終わっていたようだ。肉と水を渡すと喜んで食べている、そうこうしているうちにサラとシェム、テンが近づいてくる。
「やっと終わったわね。」
「あぁ、オーガは過剰に倒す結果となったがな。」
「仕方ないじゃない、オーガスが全然いないなんて運が悪すぎるわ。」
「サラの日頃の行いだな。」
「私のせい?」
そう、オーガとオーガリーダーの数自体はとっくに討伐しきっている3日目の午後。今日はオーガスの数が異様に少なく、故にオーガスを探してずっと放浪していたのだ。
ただ4日目まで長引くことはなく助かった、ギルドに戻る道すがら、
「まぁこれで依頼は達成、お陰でAランクね。」
「サラとの旅も終わりってわけだな。」
「シェムちゃんとお別れなのが一番寂しいわ、服とかちゃんとしてあげなさいよ?」
「あとあなたこれからどうするのかしら?」
これから、そんなもの決まっている、選択肢さえも存在しない。
「これから、俺は人と会いに行く為にマルーンへ戻る。」
「へぇ、恋人かしら、まぁいいわ。マルーンへはどのルート?」
「ディセを通ってプルミエへ。そこで待ち合わせだ。」
「あら、北側を通るの、随分と遠回りするのね。」
遠回り、他にも道があるということか。そんなこと聞きもしなかった、たしかに道が1つだけなはずはない。
「他にはどんなルートが?」
「あぁ、詳しくないんだっけ、このままウルムス村から南下してルリコンの街ロザスに入って、そこで2手に分かれるの。まずはロザスから西に向かってプルミエからディセへ向かう街道に途中で合流する道が1つ、これはおそらく徒歩で3日は短縮できるわ。そしてもう1つはロザスからローズマダーとマルーンの北部国境に位置するローズマダーの都市アレーヌに入って西に抜ける方法。ローズマダーは治安が悪くて少し危険だけれど、大都市ならばそこまででもないわ、恐らく4日か5日は短縮できるのじゃないかしら。」
ふむ、つまりはディセとウルムス、プルミエはまるで三角形の如き立地関係、故にいちいちディセに戻らないほうが早い、よくよく考えればわかる話。感謝を告げ考える。ローズマダーがあまり安全ではないと言われる理由はあの国の政情不安にあるらしい。連邦国家であるローズマダーは、国家を形成する小国の集まりで、最近その折り合いが悪いらしい。まぁ理由は簡単、次代のリーダーを巡る派閥争い。場合によってはマルーン、ルリコンとの3国同盟から除名される可能性もあるとのこと。
よって一応の安全策を取りロザスに入り、最初使った街道を通ることにしよう。




