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弟君へ
弟君、正直に言おう。君は非常に興味深い研究対象だった。僕の考えを補強する材料を探していた矢先、幸運が転がり込んできたと正直思ったほどさ。ただ、君と過ごすにつれて研究相性にするのはよくない、そう思ったんだ。
いままで、記憶がない人たちは沢山診てきた。ただ、その人たちには家族がいたんだ。だから変なことはできなかった。ただ君は違う、今まで隠していてすまなかったね。少女があの夜君を届けに来た、それには事情があるんだ、伝えていない事情がね。あの夜、少女は君をおぶってきた、よくできたものだよ。そして僕にこう伝えたんだ。この人は異世界から来た人なの、私を助けるために戦って、それでけがをしてしまって、お医者さんでしょう?直せるでしょう?ってね。異世界、正直僕の頭には信じられなかったよ。詳しく経緯を聞こうと思ったんだがね、彼女は僕を渡すとすぐに外に待つ馬車のもとに向かって行った。おそらくあれはどこかの貴族様の娘っ子じゃないかな。服装がかなりしっかりしていた。
あいにく僕は貴族に詳しくはない。だからどこの誰とは言えないが、馬車についていた紋章は覚えている。半分は壊れていたがね。矢が5本、5方向から鳥を射抜いている、そんな紋章だったよ。きっと彼女たちなら君のことを知っているかもしれない。
本題に戻ろう。僕は君を研究材料にできなかった。レーヌが弟を君に重ねたからね。こんな間近に家族ができるなんて、神を呪おうかと思ったほどさ。ただね、僕も本心では少しうれしかった。髪の色はちがうが確かに君はルートに少し似ている。仕草、顔、全てルートを思い起こすような。だから、君を使うなんてことはできなかったんだ。これは僕の告白だよ。これを読んで君がどう思うかはわからない。これは僕の自己満足にすぎないわけだから。それでも、今は僕は君がこれからうまく生きていけることを信じている。
この手紙は僕の最後の言葉。この手紙のあと僕は領主に呼ばれている。おそらく今でのツケが回ってきたのだろうね。
P.S. 籠の中の鳥を欲しいという人が出てきている。鳥は君たちが大切にしているものだからね、譲りはしないよ。この追伸を読んだら娘から鳥をもらうといい。




