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ヴァレヌには、主に行商人と冒険者が訪れる、いやそれは別の都市にしろ同じことなのだが。それでも、2つの街道が交差するこの都市には人が多く訪れる。故に冒険者や商人はここで金を落とし、ここは古くから栄えてきたのだけれども、そこに目を付けた領主。故に最近は発展の度合いが著しく落ちてきていて、焦る領主はより重い税を課すよりも現実から目を背けることを選択したそう。城にて囲った女たちと酒を飲み交わし、昼間から盛る始末。市民の心は早くも離れ、しかし私設部隊が都市を秘密裏に徘徊しているため目立った動きもできない。連邦に届をだそうとも、使節は骨抜きにされ賄賂が蔓延る始末。密告すれば税を下げる、そのお触れと共に市民は皆互いに監視し合っているような。せめて領主が死ねば変わるのだろうが、骨抜きにされた市民たちは地に目を向けるのみ。そのせいか、最近はここで宿泊せず次の都市まで駆け抜ける冒険者や商人も増えてきたそう、昔はどんなことがあろうともここに宿泊しようという考えが主流を占めていたのに、レーヌの言葉。
そのため、都市からはだんだん人も減ってきている、それに加え、徴兵令により男が200人ほどこの都市から徴兵されていった。働き手がなくなったんだよ、そう告げる医者の顔も深刻さを表していた。
そんな中働き始める人たちも少なくはない、例えばかつての名前に惹かれた移住者たち。俺は、全く違う理由ながらも生活の為に職を得る。宿屋の住み込み手伝い。2階建ての宿屋の階段下の部屋に住み込み、給金は少しだがそれでも働く。衣食住は完備されているのだから。
最初の仕事は夕食の準備。簡単な宿屋に関するレクチャーのあと、食堂にて1時間後に始まる食事の準備を。調理は親父の奥さんと先輩手伝いの1人が行い、俺ともう一人の先輩手伝いが雑務をする。
まずは床の掃除、2人で協力してやっていく。流石3番目に大きな宿、食堂自体も結構広く、30人ほど収容できる。食器を置くため結構大きな机があってそれだけの人が入る、大きさというものが想像できよう。そこを箒で埃や塵、ゴミ屑を掃く。2人であるためそんなに時間はかからないが、問題はその後。
次は皿の準備、これは先輩手伝いがやってくれる、俺は机の掃除。奥さんは綺麗好きらしく、いくら洗浄してあっても使う前に皿はもう1度拭いておくらしく。相当な枚数の皿を拭っている様子が見て取れる。床はさすがに掃くだけでいいが、食事をする机、これが汚れていては恥ずかしいと。布と金盥を渡され、徹底的に清掃させられる。確かに綺麗な机で食事は食べたほうが衛生的にも見た目的にも気持ちよく食べられるだろう。ただ、机自体が結構大きいため大変な作業。
俺が終わっても、皿はまだ拭いきれていないようで、そのわずかな時間に自分は細かなセッティングを。残飯を入れる底の深い金盥、これも1回の食事が終わった後にしっかり洗うそう、使用したカトラリーを入れる金盥もその横に、これらを皿の下げ口のそばに。そして大量の布をもらい、机の上にしいていく。宿自体は完璧にはできないかもしれないが、それでも食事くらいはこの都市で最高のものを、がこの宿のモットーらしく。今日宿泊している客は17人、その分布を敷いていく。途中で皿拭いが終わったのか、先輩手伝いが参入してきて手伝ってくれる。一応いわれた位置に置いたつもりだが、やはりずれが生じていたらしく、これからしっかりと覚えていこうと思う。
布を敷き終わった時点で、5時半、あと少しで夕食。次は食堂の入口へ。先輩手伝いは調理の手伝いへ、いや使った食器を洗う作業、俺は食堂のメニューボードに白墨で献立を書いていく。自分たちが食べるのはこの食事が終わった後片づける前だそうで、献立を書きながら夕食が少し楽しみになってきていて。病院の食事は凄く味が薄いような気がしたのだ、塩気が足りないというべきか。
献立を書き終わり、食堂に戻り、少しばかりの休憩。もう料理も完成していて、作業も終わっていたようで。20分ほど休めるが、6時になればそこから1,2時間は食事の手伝い、トイレなどを済ませておく。
6時になると、ちらほら冒険者が帰ってきていて、階段から降りてくる行商人らしき人たちの姿も見える。彼らを2人で手分けして座席に連れて行く、そうして調理場内の奥さんと手伝いに人数をいうのだ。すると皿に盛られた料理が出てきて、それを宿泊客のもとに運んでいく。水は渡すが、それ以外の飲み物は別料金、ミルクやジュース、中でも売れるのは酒。先輩に料理は任せ、俺は飲み物を注いで渡していく。先ほどの休憩時間で一応習っといてよかった、ミスなくこなせていそうで。そのまま時刻は8時近くまで接客をする。
食事が終った頃、宿泊客が居なくなり次第俺たちの食事。それを手早く済ませ、後片付け、ゴミ出し。結局それらすべてが終わったのは9時過ぎ。各々の部屋に戻り就寝。翌朝は夜明けとともに。
目を覚ます、夜明け前、早速寝坊はしなかったようで。手伝い用の井戸、水浴び場で体を洗い、服を着替える。洗濯もその時に。そこからは、朝食の準備に追われる。
昨晩と同じように準備をして、朝ゆえに先に食事をとる。簡単なもの、それでもしっかり取って、客の時間。客の食事の時間が終わり、片付ける。その頃にはもう朝8時ごろ。そこからは、火によって違うそう。その日帰った客がいれば、部屋を清掃し、整え、部屋の掃除を頼む客、洗濯を頼む客がいればそれらをこなす。そして、それが終わるのは12時ごろ。簡単な昼食をとり、12時半ごろからは完全な自由時間。いや、正確に言うと仕事がなければ自由時間。日によってだが、お使いがあったり、店番をしなければならなかったり、ただ基本的にそれらがなければ何をしていてもいいという、4時過ぎまでに帰ってくれば。部屋で仮眠をとるもよし、昼から金があるならば娼館に出かけるもよし、買い物に行くもよし。
朝を終えて見れば、自分に課せられた作業は先輩手伝いの1人と共に部屋の清掃と洗濯。もう1人の手伝いは買い出しにでかけたらしく。
ベッドメイキングなど、いろいろな作業を教わりつつ、一緒に清掃をしていく。終わったのは昼前、いちいち確認しつつやっていたため遅くなったそうで、本当ならばもう少し早いとのこと。洗濯も済ませている。
そして昼食、サンドイッチを食べて、自由時間。一応店番があるそうだが、それは先輩がやってくれるそう。
「今日は初めてで疲れただろう?ゆっくり休むといい。」
優しげな先輩でよかった、もう1人のほうは買い出しから帰ってきて、昼食をとると出て行ってしまった。都市のそとに薬草を取りに行くそう。そんな作業もあるのか、目を丸くする。
ただ、与えられた自由時間、勧めに従ってしっかりと休息をしておこうと思い。ベッドに横になる。服を緩め、体の力を抜くと急速にくる眠気。どうやらかなり疲れていたようで、昼下がり。




