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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
1 召喚、地固め
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5

戦闘描写はお察しです・・・そして会話がなくてすみません

 集落が目の前、300メートルほどに近づいてきた。家が10軒ほどあるだけの本当に小さな集落。周りは畑だろうか、草原が刈り取られ、耕されていたであろう地表が見えている。畑と家々の間には申し訳程度の柵、はたしてここは田舎の過疎が進みつつある限界集落、になりつつある集落なのだろうか。しっかり耕されているとは言えず、またトラクター等も見えない。集落の中に入れてあるのだろうか。

 ふと気が付く。集落に人気がないことに。空は晴れ渡り、何かの鳴き声が響いている。昼時だろうか、太陽はほぼ頭上に差し掛かっている、それにしては人がいない。朝から昼にかけては日差しが弱く、畑仕事には適している時間帯のはずなのに、人が見えない。そして、昨日は煙がどこからか出ていたのを確認していたのに、今はどこにも見えない。異常な空気を感じ取りながら、一歩ずつ近づいていく。

 集落の入り口付近に来たところで、この集落の異常性に気が付いた。ところどころ、道に描かれている赤い水玉模様。血、だということは想像がつく。畑があることからわかるように、農業を主体とした集落であることは想像がつく。狩人でもいるのだろうか、それにしては異常な量の血液痕。柵を超え、集落に入って見える、形は残っているものの、扉が壊され、なにかに引っかかれたような傷跡が残る家々、中央に人が倒れていた。

 走る、スライムが頭から落ちる、気にしてる余裕はない、第一村民発見どころではないのは安易に想像がつく。疲れた体に鞭打ち、近づくも、人の周りが赤く染まっているのに気が付いてしまった。確実に手遅れ。助け起こしてみるも、一縷の希望をあざ笑うかのように、冷たくなっていた。腹を刺されているのか、そこから服に血が滲み、外に流れ出していたようだ。生まれて初めてではないが、この世界で初めて遭遇する人の死、それが初めて遭遇した人であるという光景に目の前が暗くなりかける。人の死は数回遭遇してきたが、他殺死体、というものは初めて。心臓が異常な速度で脈打つ、息が荒くなる。おぞ気を我慢しつつ、地面に横にさせて冥福を祈る。水分不足、疲労、慣れない場所での睡眠からくる睡眠不足、限界に達していた体に新たなストレス、立ち上がると目がくらむ。足にかるい衝撃、スライムがどうやらここまで来たようだ、中央部にある双眸がこちらに視線を向け、何かを伝えんと跳ねては自分の足に衝撃を与え続ける。


 ふと気が付く、血痕が地面に染み込んでいる、ということに。血液が染み込んでいる、つまりある程度前に起きた惨劇だということに。人が中央部に一人倒れていることの異常性に、昨日ゴブリンが一人草原にいたという事実に、集落から音がしないという事実に。晴れた日の昼間に集落から煙がでていた、ということ、そして周りから聞こえているこの甲高い鳴き声、聞き覚えのある鳴き声。周りを見渡す、こちらが気が付いたことを認識したのか、戸が壊れた家々から、家々の影から、1匹、また1匹とでてくる醜悪な人型のモンスター。気が付く、この集落は昨日、ゴブリンの襲撃を受けていた、という事実に。いくら夕方とはいえ、遠くから確認できるほどの煙が10軒ほどの家の作業から出るはずがない。モンスターに襲われ、火で抵抗したゆえの煙だったのだろう。1匹だけ見かけたゴブリンは、斥候という認識でいいはずだ。見渡す、ゴブリンが7匹、それぞれの腕には鎌をもち、下卑た笑いを浮かべている。自分を囲う包囲網が狭まれども、微動だにできない自分。20秒ほどで、1メートルほどまで近づかれるだろうという事実、スライムを召喚する時間はないようだ。現在の戦力は火のスライム1匹、戦力といえるのか、先手必勝、出鼻を挫く必要性を感じ、右手を1匹のゴブリンの前にだす。視界に周りの2匹のゴブリンをとらえ、魔法を唱える。


 ≪ファイアウォール≫


 瞬間、ゴブリンの足元より炎柱、いや、ゴブリンの背丈程度の火が地面より吹き出す。範囲は視界に入っていたゴブリン3匹分より少し広い程度、突然の火に3匹は避ける術もなく飲まれていく。ここまでは想像通り、名前から勝手に想像した魔法の効果は、運よく間違っていなかったようだ。あとの4匹は突然のことに動揺したのか、動きが少し止まった。この隙を見逃すわけにいかない、1匹のゴブリン、右手側の、に向かい踏み込み、距離を縮めて、詠唱。


 ≪ダークソード≫


 剣道など習ってるはずもなく、右腕を上から下に遮二無二振り下ろす。魔法剣ゆえか、切れ味はそこそこいいのかゴブリンの頭を2つに割ることに成功したものの、そこで引っかかり、効果時間が切れる。ゴブリンは後3匹、流石にゴブリンも飛びかかってくる。右手は1つ、ファイアで1匹を打ち落としつつももう1匹をダークソードで串刺すところで残念ながら、残り1匹の攻撃を身に受ける形となる。来るだろう鎌での攻撃に身構え、痛みを覚悟した瞬間、火だるまになり横に弾き飛ばされる最後の1匹。横をみると、火のスライムが勝ち誇ったような眼差しを向けていた。



 火あぶりにされ、悶え苦しむゴブリン達にとどめを刺したあと、周りにはタンパク質を焼いた後の嫌な臭いが漂っていた。

 ドロップアイテムを拾い、スライムを抱え、家々を探索する。中はひどい有様で、血が飛び散り、家具は壊されているものも多くあった。しかし死体はころがっていなく、台所と思われる場所には調理途中の食糧が。ゴブリンに荒らされたのだろう、少量ながら残っている家も少なくなかった。

 順々に探索していくこと、最後の2軒。家に入った瞬間に、奥に積まれている10人ほどの亡骸。老人や中年の人ばかりで、子供が見えないのは、単にうずもれてるだけかもしれないが、一種の救いなのだろうか。急激な吐き気。食料も、水も取ってない自分からは胃液のみが吐き出される。3、4回胃液を吐き出しつつも、なんとか持ちこたえ、亡骸に冥福を祈る。最後の家はほかの家とちがい、荒らされた形跡がほぼない、いや誰も住んでなく、物置だったようだ、少量の食物が残されていた。


 そこから食物を持ち出し、裏にあった井戸で水をくみ上げ、柵の外に出て食べる。何かの菜っ葉だろうか、青い野菜と、おそらく大根だろう、水気のある根菜をかじり、水で喉を潤す。食料を口にしていなく、凄惨な光景を見て心身共に異常なまでの疲労を感じていた自分には、味気のない水とごく僅かな生野菜が少しだけ救いとなった。水を飲み込み、気分を落ち着ける。この状態で、あの亡骸が積まれた家に入ったら、失礼な話だが、精神を保つことはできなさそうだったから。


 1時間ほどだろうか、汲んできた水を飲み干し、生野菜をある程度齧って腹に入れたところで、今後を考える。あの集落には、一応衣類はあるだろう、水筒や地図、もしかしたら方位磁石もある可能性がある。食料も一応ある、数日分、いや1週間分はあるだろう。集落と集落の間が数日以上離れるなんてありえない、という考え、離れていては物流が途絶えてしまう。多少なりとも金銭もあるだろう。空き巣、いや亡者の持ち物を荒らす盗賊、墓荒らしと罵られるかもしれない。しかし自分も生きるため、全滅した集落の事実を伝えるため、他の集落に行くため、道具を借りることは許されるのだろうか。次の集落で、この集落の惨劇を伝えて返すので、平気だろうか。所詮自分を騙すだけの言い訳なのではないのか、そんな考えが鎌首を擡げる。しかし、前に進むしか道はない、家々から必要そうな道具を借りうけ、食料をいただく。中央に倒れていた人を亡骸の待つ家に運び、再度冥福を祈る。このまま亡骸が放置されていれば、周りの草原から、モンスターが来て亡骸を穢していくだろう。せめて安らかに眠ってほしい、その一心で亡骸が集まる家に魔法を放つ。


 ≪フレイム≫


 初めて打つ魔法だったが、予想通り、ファイアより少し強い火が右手より生じ、家を燃やしていく。



 この世界の文化を知らない故、このような形で申し訳ないが、安らかに眠らんことを。

2012-11-21修正


2013-2-5修正

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