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昼食のあとも歩き続ける、目的地まであと1時間ほど、いやもうそこまで来ているかもしれない。一応ギルドは大体の生息領域ごとに看板を立てているらしく、それが見えれば目的地。虫たちの宝庫。
目標であるセンチピードロード、フォレストスティールビートルはもちろん、ビッグモスやシザーマンティス種など様々なモンスターが居を構える、そんな地帯。縄張り争いは数多く発生し、数の暴力がそこで起これば、一騎当千の無双があちらで起こる、そんな地帯。虫モンスターだけか、そんなことはなく鳥モンスターもいる、そんな地帯。ただ、獣系モンスターはなかなか存在しない、なぜか。虫の勢力が大きすぎて少々生存競争に敗れているからで。一応いることにはいるそう。
そんな森の立て看板が、やっと見えてくる。村のギルドの依頼は大きく区分けされていて。オーガのいる場所は第3地区、虫たちの場所は第5区。妖精たちの第4区は進入禁止、というわけ。区は10以上あるそうで、国境までの狭い範囲でそれなのだからどれだけこの森が広いか。
実際は、国境に続く道に垂直に区域が並んでいるところもあるので広さは多少かわるかもしれないが、決して1週間では狩りきれないような、そんな広さ。去るまでの間に1度でいいから全ての森を回るツアーを行いたいものだ、そのためには多量のポーションや武器を研ぐ砥石など、様々な準備が必要だろう。そこまでの間に、それだけの距離を連日戦闘をしつつ進軍できるだけの能力を整える必要がある。少なくとも自分のレベルを150まで近づけ、テン達もそのくらいまで経験を積ませなければ。
なぜレベル150か、だいたいBランクのモンスターによって成長できるレベルの上限が170程度、そこからはもう微々たるものになる。なぜか、モンスターのレベル帯と自分のレベルによって補正がかかるそうで。ではレベル1500などどうやっていくのか、簡単な話、モンスターの強さが天井知らずなのだ。Aランクの冒険者が戦うである上級中位から上位のモンスターのレベル帯は250程度まで、250レベルの時点でBランク冒険者が束になってかからないと辛いレベルになってくる。一応勝ちは拾えるだろうが被害も大変なことになるレベル。そういえば、ランクが1つ上のものでも受注できる、そう聞いたが、それもAランクまでらしい。なぜか。特級クラスになるとレベルが跳ね上がるからで。特級モンスターは250から400程度。都市が蹂躙される危険性も出てくるレベルの存在。北部とあとはほんの少しの場所にしか生息していなく、その周りにはベテラン冒険者がいるため大丈夫らしいが。それを超える超級モンスターは1000まで。死を象徴するような存在、これは最北部に存在していて、人族の中でも上位の冒険者たちが討伐しているらしい。そこまでレベル差があるため、Aランク冒険者が束になってもSSランク冒険者には勝てない、天と地ほどの差があるのだそう。覇級、天災に匹敵するレベルのモンスター、極稀にヴァーミリオン大帝国北部国境の山脈から降りてくる存在。都市は蹂躙され、国さえも地図から消える。ヴァーミリオン大帝国の領土が一番広い理由は、覇級モンスターによって消された国々を吸収合併したから、そんなレベルの存在。勇者を含む最上位の冒険者たち、”8翼“と呼ばれる存在が動員されるほどのモンスターだそう。そして山脈を越えた先にはもっと強いモンスターもいるとかいないとか。
まぁそんなことは今の自分には関係がないだろう、森に分け入る。この区域にはBランク対象のモンスターばかりで、こういうのも縄張りという名前の御都合主義によって隔離されているそう。あの声の主がすべてを決めているのだろうが、本当にいちいち大変なものだと思う。
はてさて、入って少し、早速カブトムシを見つける。体長50センチ強、白銀に輝く体を持つカブトムシは、フォレストスティールビートル。スティールの名前の如く、金属の甲殻を背負った巨大なカブトムシ。残念ながら金属を背負っているがゆえに飛ぶことはできず、発達したカブトムシとはかけ離れた、バッタの後ろ足も真っ青の太さの足で森を練り歩く虫。スピード自体はそこまで早くないものの、剣などの斬撃を主とした武器ではダメージを与えにくく、面への圧力にも強い。柔らかい腹を狙うか、魔法で削るか。腹はひっくり返さない限り攻撃がしにくく、魔法もそこまで効くわけでもない。また角は鋭利かつ固く、突き刺す、振り回して切り傷を負わせる、なんでもござれ。故にBランク相当。フォレストシザーマンティスでさえ1対1では勝てないほどのモンスター、それがフォレストスティールビートル。
「サラ、前衛は任せた、あのカブトムシの攻撃を防ぐことに集中してもらえるか?」
「火魔法ってところかしら。」
「そうなるなっと。」
会話をしつつ、戦闘に入る。カブトムシは2匹、雌雄で行動していたらしく、角のない安全なメスはテン達に任せている。
<フレイムランス>
サラが防いだ瞬間、硬直を狙って火槍が突き刺さる、いや突き刺ささるまではいかないが結構な衝撃を与えたようで、少しもたつくカブトムシをサラが片手剣で殴る。切れない、なので殴る、殴る、防ぐ、殴る。
<フレイムランス>
隙を見計らい、延々と火槍を放つ作業、時折テン達のほうを見るが、素晴らしい連携。自分たちより全然良い連携をしていて、メスゆえ角がないのも大きいだろうが、着実にダメージを与えているようにも見える。
そんなことを考えつつ火槍を打った瞬間、カブトムシが異常な動きを。サラの足に引っ付くように跳びはね、
「あっ。」
サラは、足にしがみついたカブトムシを見て、
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
森全体に響き渡るかのような大音声、声を張り上げ片手剣で、盾でカブトムシを殴る、殴る、足についている故殴りにくいだろうが、狂ったように。
カブトムシも観念したのか、いや火事場の馬鹿力、コロリと地面に落ちて、動かなく。
テン達はメスを仕留めたようで、アイテムを加えたガルムが近づいてきて、
「よくやったぞ、サラ、アイテムを回収してくれ。」
そういってガルムを撫でる。テンとシェムもやっとこちらに、同じように苦労を労う、それにしてもサラは何をしているのか、無言。
「サラ、サラ。」
「聞いているのか?」
返答のない事実に不信を覚え、振り向いた先には大の字に伸びたサラと足先に落ちているフォレストスティールビートルの鋼殻。
「サラッ。」
走り、近づき助け起こす、口元に耳を近づけると生暖かい息、息はしているようで。どうやら失神したよう、それだけ苦手だったのか。
「仕方のない、いったん街道にもどろ・・・」
サラを担ぎ上げ、振り返った先にはフォレストビートルが2匹、街道は見えているのに。後ろでも物音、いや全方位だろうか、確実に囲まれていて。
どうやら先ほどの大声で虫を呼んでしまったようだ。。




