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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
1 召喚、地固め
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 それから3日はすぐに経ち、朝市で防具屋に行き購入した防具を受け取る。総計15キロ程度だろうか、前の防具を購入したころよりか力の値が増しているためそこまで重くは感じない。今まで着ていた装備は引き取ってくれるそうで、銀貨1枚に変わった。資源の再利用だろうか、それかそのまま売るのか。どちらにせよ自分には関係がないこと、防具を装備し、防具屋をでてその足でギルドに。護衛依頼があれば、と思いきてみたが、残念ながらないようで。受付のおばさんに挨拶を済ませ、ギルドを出る。行き先は馬屋。受付のおばさん曰く、ハルニレ大森林の近くにあるウルムス村との間に契約があり、馬をレンタルすることができるそう。ウルムス村は、村という名前どおり、大きな集落ではないのだが、ハルニレ大森林周辺の集落のなかでは一番大きいそうで、宿屋や簡単ながら武器防具、道具を売る店もあるそうで。そのためディセからウルムス村に向かう冒険者が多く、またその逆も然り、故に馬を行き来させる条約を締結しているそう。


 馬屋は、小さな小屋で、中にはいると厳格そうな親父がカウンターの中に一人立っていた。

 「らっしゃい、ウルムス村か、それとも別か?」

 「ここからウルムス村までの馬を借りたいのだが。」

 「一人か?馬は1頭ウルムスまで銀貨3枚、馬車を引かせるなら馬車込で馬2頭銀貨10枚だ。」

 「馬車は引かせる気はない、乗馬用の馬を頼む。」

 そういって親父の前に銀貨3枚を置く。銀貨を受け取った親父、

 「いつ出発だ?」

 「今日今から、ダメなら明日の朝からで頼みたい。」

 「今日か、馬は丁度1頭いる、裏手の道を進んだ先に小屋があって、俺の娘が面倒を見ている。そこにいってこれを渡せ。その小屋の奥からここの外に出れる、出発するんなら早くしな、日は早いぞ、馬よりも。」

 木の板を渡してくる。どうやら、これでOKらしい。親父に礼を言って、小屋をでる。裏手に行く道、というのは小屋のすぐ横に有って、道なりに。100メートル以上あるいたころ、親父がいっていたであろう小屋に辿り着く。先ほどの小屋の3倍以上、馬小屋だろう、獣臭が鼻につく。その奥には柵で囲まれた道が伸びていて、都市の外へと繋がっている。


 中に入ると、意外と小奇麗で、娘が掃除をしっかりしているのだろうか。奥には馬が左右に並んでいて、鼻息が聞こえる、糞の臭いと獣臭は隠せないか。

 「すまない、誰かいないか?」

 適当な大きさの声で呼びかけると、馬の裏から、どうやら世話をしていたらしい、年齢は十台ほどだろうか、そんな娘が走ってくる。

 「お待たせしました!何か御用ですか?」

 「馬を借りたい。金は表の小屋で払ってあるし、木札も持っている、小屋の親父にここまで来るように言われたんだが?」

 「あ、木札持ってるんですね、お預かりします!」

 クラスの中に1人はいそうな、素朴な感じの少女、年齢は同じくらいだろうか。木札を渡すと、お待ちください、そう告げて馬の方に走り、2分ほどして戻ってくる。

 「お待たせしました、馬の準備ができたのでご案内します!」

 

 少女に連れられ、小屋の奥へ。馬の間を直進する、4列目、右側の馬の前で止まり、

 「こちらになります!名前はケーナ、雌馬です。」

 馬は、茶褐色の胴体に、少し薄目の茶褐色の毛を首に生やす少し大きめのもの。目は深く澄んだ茶色。

 「えっと、ここからウルムス村に行くんですよね?」

 「そうだが、馬の世話はどうすればいい?」

 「あ、それを話そうと思っていたんです。まず、鞍等は一式お貸しします、ウルムス村に着いたら、宿屋の主人に言ってください。そこで馬と鞍を返していただければそれでOKです。世話は、特に必要ありません。勝手に排泄はしますし、食事も道中道草を食べるので大丈夫です。ただ、今から渡す飼葉を2日に1度あげてくださるだけで結構です。あと、馬は疲労しすぎると走れなくなるので注意してください。」

 「わかった、馬の乗り方はどうなっている?」

 「お客様は馬に乗るのは初めてです?」

 「一応乗ったことあるが、いかんせん遠い故郷でのことだからこちらと様式が同じかわからないので確認をしたいのだが?」

 「あ、わかりました、ではあの扉から小屋の外に出て待っていてください、すぐ馬を出しますから、そこで試乗してみてください。様式が同じだといいのですが。」

 指示されたのは、小屋の奥の扉、そこから出ると先ほどみた柵の中で。一応地球では乗馬経験は20回程度はあるが、操作の仕方が地球と同じだろうか、故の確認。


 試乗したところ、自分の心配は杞憂だったようで、問題なく、地球と同じように、馬を操れる。少女も、馬を操る自分を見て安心したのか、顔が柔らいでいる様に見える。

 「これくらいでいいか、馬だと走らせればどのくらいでウルムス村に着く?」

 「えっと、1週間かそこらだと思います、もう出発するんですか?」

 「あぁ、早くつきたいからもう出るよ。世話になったな。」

 少女に挨拶を済ませ、ケーナを歩かせる。宿屋は、もう朝の内に引き払ってある、挨拶も済ませているので特に行く必要のある場所もない、ランツはもうそろそろエボニー王国の南部付近だろう。


 都市をでて、少ししたところで、ケーナを速歩(トロット)で歩かせる。おおよそ400キロの道のり、トロットは分速200メートル程度、休ませながらも、これで進めば十分5日間で着く計算に。馬には少し負担がかかるが、少しでも早くつきたいのだ、休息は取らせるさ。トロットは、ウォーク、常歩よりも上下動が激しいが、しっかり乗れれば馬に大きな負担を掛けずに速度を出せる効率のいいもの。それよりも早い駈歩(キャンター)襲歩(ギャロップ)では上下動が激しすぎ、安定して騎乗できず馬に負担をかける結果になる。それでも結構な上下動、地球にいたときに練習しておいてよかったとつくづく思う。まぁ、普通の高校生はそんなことはしないだろう、他より自分の家は少しばかり恵まれていた、そのお陰。



 やはり、都市を離れて5時間ほど、昼を過ぎてそろそろ夕刻、そんな場所まで来ると人の手があまり届いていないのが見受けられる。街道自体は整備されているものの、左右はいつからか林の中で。時折街道の端まで草が生えてきていて、アスファルトに覆われた道が懐かしい。水自体は結構持ってきている、ラツィア村の水筒のほかにも水筒は結構な数購入してある、がこの勢いだと明後日には補給しなければ。自分の飲む量などたかが知れているが、時折の休憩で転移陣から出したテンとガルムに与える分、なによりケーナが飲む分が非常に多い。ケーナは言うことをよく聞いてくれているが、時折歩みを緩めて道草を食っている。食欲はそれでいいようだが、馬も動物、当然ながら水分が必要。

 林の中には、小川が流れている箇所もあって、そんな場所を見つけると、ケーナを連れて行くようにはしているが。いかんせんそんな林の奥に入るつもりはないので。そんなことを考えつつ、赤く染まった空を見上げながら歩みを進めていると、林の切れ目が見えてくる。おそらく、20キロ近くあった林もここで終わりだろう、樹海みたいなものか。名前はわからないが、ここら辺にはこのような森林が数多くあるという、人間の開発の手が進んでいないため。あと何百年かわからないが、未来にはこのような森、林は数を少なくして、その代り新たな林が大量に創られているだろう。コンクリート製の天高く生える林が。

 

 林を抜けると、一面は広大な草原。遥か遠くには小さな山脈も見え、夕日に赤く染まっている。青々とした草木が夕暮れ時の風に揺られ、林の中とは違う音を醸し出している。1時間ほど草原の中を進んだところで、今日の進軍は終了、道を逸れて草原を切り払い、テントを張るだけのスペースを作り出す。馬を渡された杭に留めて、今日は休むように伝え。食事を摂り、シェムに見張りを任せる。テンを抱きしめ、ガルムの腹を枕に、シーツのような毛皮を引いた地面の上で眠りにつく。頭上には満点の星空、というわけにはいかない、月が明るすぎて星々が見えないのだ。日本にいたころは、決して月は明るいものだとは思わなかった、周りの街灯が明るすぎて。この世界に来て、その価値観は崩壊した。こんなにも明るく、力強い光を発するものだったのか、感動を隠せない。抱きしめたテンが体を心から温め、最上級の枕と、揺れる草の音が眠りへと誘う。そよそよとした草の音、いや、そよそよ、という擬音は正しくないのかもしれない。さわさわ、それもあまりしっくりこない、オトマノペというものは各人の感性によって差異を生じる、そんな事を感じながら、意識は闇の中へと。

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