29
新しい都市での一日は、特に問題も起こらずに始まった。朝食は野菜と塩漬け肉を挟んだパン、朝らしく味付けは薄く、水を飲む、寝汗を拭い鎧を付け、外にでる。プルミエより2倍、いや3倍ほどの人が朝だというのに活動していて、騎士王国マルーンは辺境の国だったのかと気づかされる。ギルドの建物まで歩く。
よくまだ都市の仕組み、道がわかっていないながらも、無事ギルドに辿り着く。酒場がついているためか、ギルド全体にほのかに良い香り、昼用のパンを売ってるらしい。とりあえず、依頼を受ける前にパンを買う。塩漬け肉と菜っ葉を挟んだ、朝食とほぼ同じパン、大銅貨2枚。まぁこの程度なら想定の範囲内だろう。
掲示板を見る、プルミエのものより1回り大きい看板。2つある受付、それを見るだけで、プルミエとの都市としての格の差、というものを感じさせられる。ダンジョンはおおよそ30階層からなり、踏破するたびに変化する為だ。ダンジョンではよほどのことがない限り死なない。なぜか、ダンジョンでは瀕死の重傷を受けたりした場合、自動でダンジョン外の規定位置に排出されるそうで、よほどというのは即死は含まれないから。ペナルティは、その人物の一定期間のダンジョン進入禁止。これはダンジョンの意思だそうで、随分とゲームのような設定だと。依頼は、FからCまでのランクが多く、5枚ほどだが、Bランクの依頼やAランクの依頼も見られる。受付嬢、50くらいのおばさんにギルドカードを見せ、Cランク昇格試験を受けたい旨を伝える。品定めするような、舐めるような目でこちらを見られ、1枚の依頼を渡される。
・Cランク昇格試験
目標:ディセ東ダンジョン15階層までの踏破
及び15階層に住むマッドゲッコーの皮3つの納品
期限:受注した次の日の夕方6時の鐘まで
報酬:Cランクへの昇格
依頼を受注する。この依頼を受注している間は、他の依頼を受注することはできないようで、ちなみにこの都市のローカルルールとして、1日に受注できる依頼は5つだそう。それにしても明日の夕方6時、そこまでに15階層まで、なかなかきついのではないだろうか。1階層あたりの広さというものはわからないが、出てくるモンスターの大まかな区分は聞けた。
1から5階層までは、最低級上位あたりまで、6から10までは、低級上位まで、11から15までは、中級下位程度までが大体の分布らしい。階層が進むごとに強くなる、このダンジョンは16階層辺りから別次元なそうで、25階層が現在の最到達地点、Bクラス冒険者を含めたパーティ、いやBクラス入りのパーティでこのダンジョンに挑戦しているのは2組ほどらしい。あとは都市の西にある鉱山にいるか、他の都市にいるらしい、これが収集した情報。
ギルドをでて、ダンジョンへ向かう。この時間でもダンジョンに向かう人は結構な人数はいて、ここでも違いを意識させられる。ダンジョンへの道のりがわからず心配していたが、この歩く冒険者と思わしき人たちについていけば間違いないだろう。
ディセの都市をでて歩いて15分、本当に近い場所に、そのダンジョンはあった。ダンジョンの入り口はまるで洞窟、しかし地面の下に向かうようになっている。冒険者が15人ほど列に並んでいて、おそらく3か4パーティ分、ソロの冒険者は非常に少ない、ツィアーはソロだったが。列の一番前には、警備兵がいて、そこでギルドカードを確認して中に入れているようだ。
列に並び、自分の番が来るのを待つ。ソロの冒険者は自分の前のパーティの前、大剣を担いだ冒険者で、おそらく年は20代、冒険者の中では浮いている。
大体、20分ほど待っただろうか、自分の番になる。鉄でできたギルドカードを見せ、侵入許可をもらう。ダンジョンに入るのは、当然ながら初めてで。ポーションは15個持った、MPもHPもマックス、恐らく平気だろう、ダンジョンに外に出されるのは嫌だ、と思いながらも洞窟の中へ。いや、中といっても、兵の前には魔方陣があり、そこに入るだけだそうで。初回は、1階層からだが、2回目からは踏破した場所より上の階層まで、5階層ごとに行けるようになるらしい。これもダンジョンが行うことだそうで、まるで生きているみたいだと感じる。
洞窟の中は明るかった。松明も持たずに、周りの人も持っていなかったので、心配はしていなかったが、洞窟は所々に魔法の灯りが煌々と、というよりかはほのかに程度だが灯っていて。これもダンジョンが勝手に作り出したものなのか、いちいち誰かが設置しているのだろうか、おそらく前者だろう。そうでなければ、踏破されるたびに設置し直す、という羽目になるのだから。
内部はゲームによくあるダンジョンそのもので、その中でも洞窟のものとそっくり、道が時折分かれていて、間違えた道を進むと進みに進んだあげく行き止まり、1階層だけで2度はそれに遭遇した。モンスターは、最低級という感じのモンスターばかりで、テンとシェムに任せていても十分すぎる戦力に感じるレベルで、肩すかしを、いやなんとなく想像はしていたが、くらった感じ。テンによく似た、各色赤青緑茶白黒のスライム、5階層には追加でスケルトン・フェアリー。
かれこれ、時間がわからないがだいたい3時間くらいたっただろうか。現在自分は5階層、でてくるモンスターは、黒と白のスライムと、スケルトンフェアリー。スケルトンフェアリーは麻痺の煙を放ってきて、当たるといちいち体が麻痺するので、非常に厄介。こちらが召喚して使役しているシェムは、敵となるとここまで厄介なモンスターだったのかと初めて感じる。黒のスライムは、何か黒いオーラをまといながら飛び跳ねてくる、そういう攻撃をしてくるが、いかんせん避けているため、どんなものなのかはわからない。おそらく近接攻撃だろう。白のスライムは、こちらに魔法をかけてきて、当初は焦ったものだが、内容は回復魔法。みるみる取れる疲労感、回復する体力に笑ってしまった。それ以来、回復してもらってから倒す、という作業をしている。
階層は、下の階層に行くたびに広くなっていくのか、1階層あたりにかかる時間というものも少しばかり長くなる、いや戦闘が長くなっている故か。恐らく5階層までで50体以上モンスターを討伐したのではないだろうか、1匹づつでしか出てきていないため、楽ではあるものの、単調な戦闘を繰り返すだけ。5階層初めての行き止まり。道はいきなり広くなっていて、大量の物音。初めてモンスターが大量に、7匹ほどでてきて。身構え、モンスターを識別すると黒いスライムで、フレイムウォールで一瞬で片を付ける。これがスケルトン・フェアリーだったらなかなか大変だっただろう、少し安堵する。
黒いスライムからは黒の核というアイテムがドロップしていて、他の色も含め、結構な数がある。スケルトンフェアリーは5階層から出てきたので、ドロップアイテムである妖精の骨の羽は、4枚ほどしか集まっていない。
時折、他のパーティも見かけるが、彼らはまだランクが低いのか、永遠と前に進まず、同じ階層で狩っているようで。Cランクになった自分も、きっとそうするだろうと思いつつ。
なんとか6階層につく正解の道を見つけ、魔方陣、階層ごとは魔方陣で繋がっていて、下がるか入り口にいくかできるそう、それに入る。
6階層は恐らく5階層より広いのだろう、最初から左右に道がわかれていたり、途中3つに道がわかれていたり、より迷宮に近づいている。歩き回るうちに出会ったモンスターは、赤色の1回り大きなスライム、恐らくスライムの上位種だろう。攻撃自体はファイアウォールやファイアランスはできないのか、フレイムを撃ってくる。避けること自体はできるので、そこまで問題はない。
問題なのは火魔法が効かないことで、これは2階層あたりでフレイムスライムに遭遇したときにわかっている、ミセリコルデを突き刺し続けて殺す。ドロップアイテムは、大きな赤の核。これでフレイムスライムの上位種、といことが確定した。名前はなんだろうか、今レベルを確認すると25になっていて、これだけ倒しても、ということは本当にレベル差があって経験値があまりもらえないみたいだ。
6階層から8階層までは、赤青緑茶の大きなスライムが蔓延っていて、1回大量に湧く場所にあたった、これは罠の一種だろうか。これまた2時間ほどかけて必死に進んだ。低級中位程度、つまりウェイストリザードが低級上位なのでそれより弱い程度、大きなスライムたちがこの程度。殲滅、虐殺、そんな形で進んだ。
9階層は、運よくモンスターに出会うことなく、次の階層へ。
10階層、特に8階層までと変わりなく見える。相変わらず、迷宮然とした道、ほのかに明るく、行き止まりもある。出てくるモンスターは、黒と白の大きなスライム。黒いほうは今までとは少し違い、より早く飛びかかれるようになっているようで、しかし単純なため避けやすい。白いほうは、相変わらず回復魔法。こいつは阿呆なのでは、という考えが頭を占める。おかげでポーションも使わずに攻略できているのだから感謝するべきなのだが、なんとも言い難い。
かれこれ10階層で、10体ほど倒したあたりだろうか、シェムが耳たぶを引っ張り、足を止める。何かと思い、そして気が付く。彼らのステータスを見ると、
テン(フレイムスライム) Level:28
シェム(スケルトン・フェアリー) Level:31 +
つまり、上位種になれるレベルにいつの間にか達していたそうで、それに気が付かなかったことに不満をもって、耳たぶを引っ張ったよう。枠内の、シェムのレベル表記の横に、+という文字があり、それを選択すると、新たな枠。
スケルトン・フェアリー
↓
・スケルトン・フェアリーウィザード
・スケルトン・フェアリーウォーリア
・ハイ・スケルトン・フェアリー
と3つの名前が書いてあって、恐らくこれらが上位種もしくは亜種なのだろう。スケルトン・フェアリーウォーリアとウィザードは恐らく亜種。それぞれの攻撃方法に特化したものになる、ということだろう。ハイ・スケルトン・フェアリーはおそらく、スケルトン・フェアリーの上位種。攻撃魔法は、自分が使える、前衛は、いないが最悪自分ができる。なので、貴重な状態異常バラ撒き要因である彼女には、ハイ・スケルトン・フェアリーになってもらう。
ハイ・スケルトン・フェアリーを選択したところ、シェムの姿が輝く霧に包まれ、30秒ほどで晴れた際に、中にいたのは、羽が6枚に増えたシェムだった。まるで天使のような、上位種への変貌。この上は羽が8枚にでもなるのだろうか。表記は、
テン(フレイムスライム) Level:28
シェム(ハイ・スケルトン・フェアリー) Level:31
と変わっていた。
「シェム、上位種になって、何ができるようになった?」
質問を投げかけると、相変わらず黄色と紫の煙を魔方陣から噴射してみせる。いや、煙が、届く距離が長くなった、そう感じる。今までの3メートルほどから5メートルほどに。大きな進歩、褒めてやると、うれしそうに顎を鳴らし、羽を震わせる。
折角なので自分のステータスも確認する。
Name: アスカ
Title:
Unique Skill: <魔力増大>
Skill: <召喚魔法レベル1>、<闇魔法レベル2>、<火魔法レベル2>、<MP回復速度増加>、<共通語>、<筋力強化>
Level: 35
HP: 2000/2000
MP: 10800/12000
Constitution: 15
Wisdom: 120
Strength: 15
Intelligence: 125
Quickness: 15
Bonus Status Point: 0
Bonus Skill Point: 1
ボーナスポイントを、知恵に振り分ける。MPが、1200しか消費していないのは、これはおそらく昼を過ぎてMPが回復したためだろう。
その後も、10階層を進み、ついに11階層へ。11階層は、別段10階層と変わった部分はなく、そのまま進む。モンスターは、全色の大きなスライムたちが、2匹、3匹程度で出没して、今までから難易度が跳ね上がる。もちろん、その中に白いスライムがいるときもあり、そのときは幸せだが。
おかげで、このダンジョンに入って初めてポーションを使用。それでも、11階層を通り抜ける。12,13階層も、11階層と同じで、ポーションを4本ほど使用しながら進む。パーティも数組見かける。あのソロの大剣使いも、ここにいたようで。残りポーションは10本、時間は、おおよそ昼の3時ごろだろうか。この調子でいけば、今日中に15階層までは楽々辿り着けるだろう。
14階層は、今までと打って変わって、一本道のようで、歩いていくと、奥に扉。今まで、扉というものはなかったので、何かいるのだろうか。
扉を開け、中に入る。中は円形の広間になっていて、中ほどまで進むと、背後で扉が閉まる。振り向き、扉まで走ろうとした途端に、聞こえる物音。周囲には、全色の大きいスライムとスライムが1匹ずつ、計12匹、こちらを囲んでいた。
「シェム!!!」
そう叫んで、真正面の赤いスライムと大きいスライムに向かって走り出す。テンは、自由に攻撃させる。先ほどまでいた場所に、各種攻撃魔法が着弾する。空を飛ぶシェムから放たれた黄色の煙は、赤いスライム達を麻痺させて、そこにダークランスを放ち、ダークソードで切りかかる。流石は、低級中位、スライムはダークランスで死んだが、大きなほうは、貫かれつつもフレイムをこちらに放ってくる。左腕を犠牲にして、体を守り、ダークソードでとどめを刺す。痛む左腕、鉄の鎧故に、熱伝導率が高いのか、熱をもっていて、下の腕が焼けるよう。小走りで、魔法を避けつつ、左腕の鎧を外す、地面に落とし、近くにいた緑のスライム達にフレイムウォールとフレイムランス、奥では、紫の煙と火が飛んでいて、テンとシェムだろうか、こちらも負けてはいられないと奮起する。
5分ほど経過、最後に残った白い大きなスライムに、回復させてもらい、止めを刺す。おかげで、HP自体に問題はなくなり、防具をもう一度装着する。大きな核と小さな核を、全部で12個回収し、ステータスを見る。
Name: アスカ
Title:
Unique Skill: <魔力増大>
Skill: <召喚魔法レベル1>、<闇魔法レベル2>、<火魔法レベル2>、<MP回復速度増加>、<共通語>、<筋力強化>
Level: 37
HP: 2000/2000
MP: 8650/12000
Constitution: 20
Wisdom: 120
Strength: 15
Intelligence: 125
Quickness: 15
Bonus Status Point: 2
Bonus Skill Point: 1
レベルは2つも上がっていて、ボーナスポイントを知恵と知能に振り分ける。
Name: アスカ
Title:
Unique Skill: <魔力増大>
Skill: <召喚魔法レベル1>、<闇魔法レベル2>、<火魔法レベル2>、<MP回復速度増加>、<共通語>、<筋力強化>
Level: 37
HP: 2000/2000
MP: 9150/12500
Constitution: 20
Wisdom: 125
Strength: 15
Intelligence: 130
Quickness: 15
Bonus Status Point: 0
Bonus Skill Point: 1
そろそろ、次のスキルも取らないとな、と考えつつ、次は所持モンスターのステータスを。
テン(フレイムスライム) Level:30 +
シェム(ハイ・スケルトン・フェアリー) Level:33
テンが、上位種に進化できるようになっていて、選択肢は6つ
・アクアスライム
・エアリアルスライム
・ストーンスライム
・ヒールスライム
・ダークスライム
・ハイ・フレイムスライム
他の色のスライム、これらは亜種扱いなのだろう、上位種はハイ・フレイムスライムのみ。ここは、上位種のハイ・フレイムスライムにしておく。この先、どう進化するのかはわからないが、亜種にはのちのちできるだろう、そのため上位種にした。
一通り、息を落ち着かせ、入口とは反対側を見る。扉が、入ってきたものより大きな扉があり、開けると魔方陣。どうやら、これは罠というよりテスト、ここから先に進める実力があるか確かめるためのテストだったようで。魔方陣に足を踏み入れる。
目を開けると、目の前は相も変わらない洞窟が広がっていて、おそらくここが15階層だろう。いままで大きなスライム達、いやハイスライム達といったほうが正しいだろうか、それらはどう考えても低級レベルだった。つまり、この階層から、中級モンスターが出現する、ということ。
歩き出して、2分ほど。早速いたのは、壁にくっついたトカゲ。いや、トカゲは壁を登ることはできない、つまりこれがゲッコー、ヤモリ、目標のマッドゲッコーだろう。自分が今装備している防具の中にも、マッドゲッコーの皮を使用したものはあったので、つまりは、この皮がドロップアイテム。時間も遅いことはわかっているので、ちゃっちゃと倒す。
麻痺の煙で麻痺させて、フレイムランスをあて、ダークランスを投擲する。小さな、1メートルほどの手投げ槍は、マッドゲッコーの背中を突き刺して。最後はテンがフレイムだろうか、火魔法をあてて殺した。やはり、ドロップアイテムは、マッドゲッコーの皮。
その後10分ほどで2匹マッドゲッコーを見つけ、狩り終えた自分は15階層入口の魔方陣に戻り、入口に戻る。空は朱くなっており、警備兵に聞くと、今は6時の鐘がなってすぐだという。都市に戻り、ギルドに向かう。
ギルドで、依頼の達成報告と、マッドゲッコーの皮3つ渡す。おかげで、ギルドカードは銅製のものに。これでCランク、目標のAランクまであと約5か月と20日、毎日やっていこうとおもいつつ、ドロップアイテムを売り払う。この時間になると、もう依頼はほぼ残っておらず、ダンジョンではなく、森のものばかり。明日このドロップアイテムを使って依頼を達成してもいいのだが、1日で受けられる依頼が5つと決まっている以上、ランクの高い依頼を達成して金を稼ぎたいので、売り払うことに。
赤の核が24個、青の核が25個、緑の核が、27個、茶の核が、25個、白の核が、19個、黒の核が、22個。妖精の骨の羽が、6枚、大きな赤の核が、20個、大きな青の核が、21個、大きな緑の核が、20個、大きな茶の核が、19個、大きな白の核が、17個、大きな黒の核が、18個。羽は1枚小銅貨50枚、核は1個小銅貨25枚、大きな核は1個小銅貨75枚で売れた。
全部で、銀貨1枚に大銅貨24枚、小銅貨75枚。夕食をギルドの中にある酒場で食べ、宿にもどり、体をぬぐう。プルミエとは違い、夜でも活気がある程度はあるようで、それを横目に、ベッドにもぐりこむ。
固い、この世界のベッドにも慣れてきたな、と思いつつ、今日は幕を閉じる。
2013-3-12改稿




