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解体した鳥のあまりと、兎の肉を袋に入れて歩いていく。目指すは森の切れ目、つまりは帰り道。昨日木に括り付けておいた印を目印に村に向かって歩いていく。途中途中でキノコであったり野草で合ったりを採集しつつ、出会った獲物を殺しつつ歩いていく。袋はガルムの背中に括り付けられていて、他にもあのオーガどもが持っていた棍棒なども括り付けられている。道中で殺したモンスターの死体は、大きな木の枝に括りつけたうえで自分が担いでいる。モンスターを殺すのはもっぱら自分よりもテンとシェムのほうが多いだろうか。
悠里の言うことを素直に聞いて戻り始めたのには、色々な理由がある。まずは、時間が時間だということ。村長には言ってあるとはいえ、頼まれたものを採集しにきただけだ、そんなに長い間村を空けるわけにはいかに。その間村の防衛力が皆無になるということなのだから。次に、慣れぬ土地であるということ。携帯食料などが心もとないということもある、干し肉等等は持ってはいるが、あと2日分ほど。もしも何かがあったときに困ってしまう。目印の布も半分使ってしまった。まだまだ土地勘があるとは到底言えない場所なので、迷ってしまう危険性がある。それに、昨日のように自分が取り乱してしまうかもしれない。何かがあってからでは遅いのだ、何かが起きる前に行動をする必要がある。用心に用心を重ねて生きなければならない。レベルをあげたとはいえ、自分の命は儚く脆いのだから。悠里と会話して、彼ともう一度あう約束をした、それまでは死ぬわけにはいかないのだから。
何よりも、彼が忠告をしてくれたからということが大きい。あの時の親友の目には、冗談の欠片も見えなかった。大真面目に自分に忠告してくれたのだ。彼が一体何をしにこの場所にいるか、それは決して教えてくれなかった。守秘義務、知らなくてもいいことがある、それだけ危険な事柄なのだろう。もしもそれが親友でなかったら、好奇心が鎌首を擡げていたかもしれない。何をそんなに隠すのか、何があるのだろうか、そんなことを考えてしまったかもしれない。ただ、そこに居たのは親友だった。彼のことは誰よりも知っている自身がある、故に彼の言うことは無条件に信じ、彼が口を開かないことには基本的に突っ込まない。それは彼と長い間過ごしてきた中で培ったものであり、たとえ彼が無言であろうとも、言外の意味を悟るくらいのことはできる。彼が自分に伝えてくれたのは、絶対の危険。だから自分は従う、彼の忠告に、親友の忠告に。
新たに兎を狩り、その死体を木の枝に括りつける。右肩に感じるずっしりとした重み、5羽分の重みが食い込んでいる。トリスは野草やキノコの入った袋を担ぎ、ガルムの背中には新たに薪と薬草が括り付けられている。村長に頼まれたものはいくつかあるが、そのうちの1つは薬草だ。薬草と言っても、ゲームのようにHPが回復するようなものではなく、どちらかと言えば日本でいう薬草とよく似ている。アロエとリュウゼツランを足して割ったようなその植物はニードルフラワーと呼ばれていて、その葉には様々な効用がある。然しながら森の少しばかり奥まった場所にのみ生えているらしく、ニードルフラワー自体ここらにしか分布していないらしい。故にそれの株を丸ごと持ってくるように指示されていたのだ。ガルムの背中に括り付けられているそれは根っこに土が付いているほど新鮮で、未だ弱っているようには見えない。これを村で栽培して、村での食料、薬、新たな交易品にするようだ。まぁ、そこらへんは慣れている人たちが何とかするだろう。
ざくり、ざくり、草をかき分けていく。
ざくり、ざくり、土を踏みしめていく。
木々の隙間からは燦々とした光が差しこんできていて、知らぬ間に自分たちの足は速くなっていった。
今思えば、この日、この時、この場所で、親友に会えたことは奇蹟だった。今思えば、この日、この時、この場所で、親友に会えたことは悲劇だった……
次章及び次次章の更新及び内容に関して連絡がありますので活動報告のほうを確認していただきたく思います




