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≪我に呼ばれし者どもよ、聞くが良い≫
突然頭に響く声。低音だが非常によく通るハリのある声、耳から聞こえていないということはわかる、RPGでいう神みたいなものだろうか?
≪我は貴様らを呼びし者、便宜上神と呼んでくれて構わない≫
≪これは録音し貴様らの頭の中に入れておいたものが再生されているだけだ≫
≪質問などは受けつけられない≫
≪ここは我の遊戯盤、貴様らの住んでいた地球を少し小さくした天体に近いものだ≫
≪人間も住んでいる≫
≪しかし文明は貴様らの時代から比べると少しばかり遅れているがな≫
≪そしてほかの種族も住んでいる≫
≪さて、本題に入ろうか≫
≪貴様らには我の暇つぶしに付き合ってもらおう≫
≪残念ながら貴様らは自分の世界に帰還できぬ≫
≪貴様らに選択権はない≫
≪貴様らの事情など我は知らぬ≫
≪貴様らのそのような考え、二度と持てぬように我が細工した≫
≪存分に我に付き合ってもらうぞ≫
≪勿論無料とは言わぬ、貴様らには各自ボーナスステータスを付与した≫
≪レベルをあげ、力をつけ、覇者となるのだ≫
≪当然死はあるし怪我もある、そこを気を付けることだ≫
≪最後に一つ、我はこれ以降干渉は行わない≫
≪英雄になるもよし、魔王になるもよし、各々自由に行動するがいい≫
それを最後に声は聞こえなくなった。説明がなさ過ぎるが、箱庭型のデスゲームに近いのだろう。目標もやり方も自由な、だ。元の世界に帰りたくなるということはないのは、声がいってたように細工をされたということか。自分の人生、嫌いではなかった、まだ17年しか生きていなかったのに。
しかし説明がなさすぎる、自分がどこにいるのか、周りの危険を確認する必要がある。はたしてレベル1で対処できるような危険なのか否か。怪我もあると言った、それは欠損や重大な傷を負うこともあるということ。そのためにはステータスにポイントをある程度振って危険に備えなければならない、RPGの基本だ。
「ステータス表示っと」
ステータスを右手の甲の上に生じさせる。念じればスクロールもできるようだ。ステータスの振り方はわからない、がよく見るといくつかの文字の横には+と-がある、これに触るのだろう。ここで気が付く、ステータスを振り分ける、ということはゲームだとよくあることだ。ここで重要になってくるのは振れるステータスの意味。
Constitution: 10
Wisdom: 10
Strength: 10
Intelligence: 10
Quickness: 10
これらの横には+と-がある、これにふるのだろうが、体質、知恵、力、知能、素早さということだろうか。それにきっとBonus Status Pointの10ポイントを振り分けるのだろう。ポイントを振り分けるのは簡単だ、職が決まってさえいれば。経験上RPGには職業は付き物だろう。勇者、戦士、魔術師などなどそれらの種類によって要求されるステータスが違うのも基本だ。
職業の欄は見えないが、スキルの文字があるのを見るに、きっと隠しであるのだろうと勝手に推測しつつも、昔からの夢を実行に移す。大魔道士、それに自分は憧れていた。魔法を雨霰の如く行使し、敵を殲滅する、それが自分の夢だった、叶うことのない。しかし今ならその夢を実行に移せる。ユニークスキルの欄に<魔力増大>。ユニーク、つまり個人にしかないものだと思いたい。その名の通り魔力が増大するのだろう、魔術師になれといっているようなものじゃないか。魔法はまだわからないが後々覚えていけばいいだろう。魔術師になるのなら知恵と知能に振るのは当たり前だ、しかしほかのものにも振ることも考える必要があるはず、即死という危険性も考えなければならない。
まず上がり幅を確かめるために振ってみる、—があるなら振りなおせるはずだ、と思いながら。はたして、おかしな点があった。素早さと体質は1振ると1上がるが、力は10振ってみてやっと1上がった。逆に知能と知恵は上昇率がおかしい。1振ると、5振られている、いや、ほか元の値と比較してみて知恵と知能は5倍されているように感じる。これは<魔力増大>によるものではないだろうか。ならば魔力は知能と知恵に関連してくるということになる。また、体質に1振ると体力が100増えた、また知恵に関しては55にすると5500になった。つまりこれらは1ポイントあたり100増えていくのであろう、ほかの3つは確かめようがないが。これでは力に振る意味はまったくない、なぜなら1レベルあたりのボーナスポイント獲得量がわからないからだ、0かもしれないし、100かもしれない。そのような状態で10ポイント全て力に振るのはいただけない。そう考えると知恵と知能に何も考えず振ったほうがいいようだ。おそらくだが、本当はすべて1ずつ上がるのではないかと思う。それが変化しているのはユニークスキルのせいではないかと考える。メリットしかないなんておかしいからだ。結局知恵と知識に3ずつ、体質に4振ることにきめた。本当は魔法に特化させたいのだが安全策をとるとなるとHPを増やさないわけにはいかない。
また、Bonus Skill Pointという欄もある。おそらくスキルを覚えるものだろう、どう増やすのかと逡巡していたところ、ステータスウィンドウの上にもう1つウィンドウがでた。大量の何かの名前の羅列、<調合レベル1><隠密レベル1><テイマーレベル1>というわかりやすいものから、<炎精霊の加護>というわからないものまでその数ざっと100は超えるだろう。自分の持つポイントは5、おそらく5つ分であろう。これもポイントがあとあともらえるのか不明なため慎重に選ぶ必要がある。
<調合レベル1> 薬師になるならまだしもあまり使うものではないだろう。却下
<隠密レベル1> 隠密行動を補助する魔法があると信じて。却下
<火魔法レベル1> 魔法はほしい、とらないと使えないのかもしれない。優先度高・・・・・・・
と選んでみると、<なになにレベル1>というようにレベルが書いてあるものと、それ以外があることが判明した。レベルの上げ方はわからないが、レベル2や3もあるのだろう、そしてレベル表記がないものにはパッシブで使えそうに見えるものが多い、たとえば最優先で取るべきであろうもの、<共通語>、きっと共通語をしゃべれるようになるのだろう、がそうだと思う。アクティブスキルにレベルがあるのだろう、と考える。
最終的に、スキルを5つ選択。魔術師の王道を選んでみたつもりだ。スキル選びだけで体感1時間くらいかけてしまった気もするけれども。そしてステータスは以下のようになった。
Name: アスカ
Title:
Unique Skill: <魔力増大>
Skill: <召喚魔法レベル1>、<闇魔法レベル1>、<火魔法レベル1>、<MP回復速度増加>、<共通語>
Level: 1
HP: 1400/1400
MP: 6500/6500
Constitution: 14
Wisdom: 65
Strength: 10
Intelligence: 65
Quickness: 10
Bonus Status Point: 0
Bonus Skill Point: 0
まず<召喚魔法レベル1>、おそらくは何か味方を召喚させるので間違いないはずだ。一体どのようなものが召喚できるのか定かではないが、魔法使いは後衛職、前線職の何かを召喚できればソロでも活動することができる。最悪後衛職だったとしても火力が上がることが期待できる。レベル制なのでレベルが上がれば召喚できるなにかも増えるかもしれない。<闇魔法レベル1><火魔法レベル1>はそのままの通り。魔道士なら全種類、選択できたのは火・水・風・地・闇・光、使えてこそな気もするが、とりあえず。火魔法といえば攻撃属性、勝手な思い込みだが。最悪、旅、野営に必要な火の確保という点に使えるだろうと勝手な推測で取得しておく。<MP回復速度増加>、回復速度がどのくらいかは不明だが、速度が増すのにこしたことはないだろうと思い取得。<共通語>は言わずもがな。共通、なので通じるはず。日本語が通じない可能性というものも考えておく必要があるので、最優先で取得した。
ステータスを振り終わったあたりで、状況を再確認、整理しておこうと思いつく。ブレインストーミングというものを知っているだろうか。本当は集団で行うべきものだが、1人でも構わないだろう。問題に関してアイデアを、奇抜なものでもかまわずに量を重視して羅列していく、簡単に言えばそのような作業。漠然と自分が疑問に思うこと、想像がつくことを羅列していく。制限時間は適当に選んだ木の影がある1点に移動するまで。
思いついたものを整理した結果、大きく分けて以下のものに関する内容に整理できた。
・ここは地球によく似た異世界である
・日本には戻れず、異世界にて自分はこれから生活しなければならない
・RPGのようなシステムに準拠している可能性が高い
まず1つ目、声がいっていた通りなのだろう。声は世界に干渉しない、といっていた。質問等もできないので声を信じるしかないが。声を信じるとするならば、ここには異種族が生息している。妖精やドワーフだろうか、魔族というものもいる可能性がある。まずは自分に対して友好的な種族を探し、この世界を詳しく知る必要がある。そして何より衣服を早急に入手する必要がある。学生服一張羅では困る・・・
2つ目、これも声が言っていたことを信じるならばだが。この世界で生活していくにはまず情報と財が必要だ。すこし年代が遅れていると言っていたが、おそらく戦後の日本程度だろう。そのような場所で力は二の次、必要なのは財と情報だと思う。衣食住のどれも安定していない自分、それらを確保する必要があるのではないか。
最後にこの世界のシステムに関する推測。ステータス、異種族、レベルをあげる・・・これらはRPGによくあるシステムである。おそらくこの世界はレベル制となっている。レベルを上げることにより少なくとも、レベル1のぺーぺーより、生活しやすくなるのでは?と考えている。見知らぬ人にあったとき、相手が格上か格下かで人の対応は変わるものだと学校生活で感じ取ってきた。しかし何をすればレベルが上がるのかは不明だが。また、RPGに準拠していると仮定するのであれば、敵、もしくはモンスターというものもでてくるだろうと考えている。自由に、と声はいっていたので、敵は自分で選択していくものだろう。スキルの中に<テイマー>というものがあったのを思い出した。おそらくあれはモンスターを飼い馴らし味方にするのではないだろうか。スキル選択では思いつかなかったが、空を飛べる存在、そのようなモンスターを飼い馴らすことでいろいろ便利になってくるかもしれない。RPGの定石じゃないか。機会があればとっておきたいスキルだと頭の中にメモしておく。まぁこの仮定が成立するのはモンスターが自分の敵だった場合、元から友好的で人が敵かもしれないのだから。
さて、太陽の動きはおそらく地球とかわらないのだろう、と仮定すればだが、先ほどまで上にあった太陽は大分右に、西に移って、夜が近づく。夜はモンスターが狂暴化する、かつてのRPGの定石を思い出す、そんな可能性もあり得なくはないのだ。森、はたしてここが森なのかは不明だが、ここから抜け出すことも考えなくてはならない。しかし方向感覚のない状態で森を歩くと危険である、とかつて登山の下準備で習った記憶、木々が似ているため目印が必要なのだ。まずは太陽の方向にあるいていくとしよう。太陽も移動する為、ある程度はずれるかもしれないが、これでおそらく西の方向に歩けるはずだ。
2012-11-21修正
2013-1-27修正