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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
11 新たなシシン
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 ガイアライノは特殊な環境に住むモンスターらしい。上級上位のモンスターだが、それはそのモンスターの力強さというよりもその生息環境が大きく関わっている。おおよそ強さだけならば中位というところ、元より草食なため好戦的ではなく、日々草を食んで暮らすサイのようなモンスターらしい。敵に襲われた際は、その頭部に生えた固く鋭い3本の角をもって追い払うそうだ。体長は数メートル、地球のサイよりも大きいだろう。

 では上級上位せしめてる要因は何なのだろうか。そこまで大変な生息区域、それは火山地帯や毒ガスの噴出する坑道のような場所ではない。ガイアライノの数は少ないが、危険なモンスターが数多く住む土地にいるわけでもない。沼地、そこにガイアライノは住んでいる。シンシア東の森の奥、歩いて2日の位置にある開けた沼地だ。距離が遠いなどの様々な理由が、ガイアライノを中位から上位に昇格せしめているのだ。

 そんなところに住む少数のモンスター、故に人気がないかといえばそうでもない。変化の起きる前であれば、ドロップは角1本だったそうだ。硬質であり、長さも肘から先ほどはある角だが、それでは旨味が少なく狩られることは少なかった、不人気だった。しかし、あの地震以降はそれが変化した。

 殺したモンスターから素材が、皮や肉やその他もろもろが剥ぎ取れるようになり、ガイアライノを狩る人が増えたのだ。その肉はよく締まっていて脂身が少なく、独特の歯応えと臭みがあるらしい。図体が大きいため量は多く、また癖があるので人によって好き嫌い激しく、それ故にまだ需要は高まっていなく供給のほうが多いそうだが。それでも、熱心なファンもいるようで定期的に依頼が出ているらしい。また、ガイアライノの皮は非常にいい素材だそうだ。沼地で泥にまみれているためわかりにくいが、吸水性に富み、弾力もあり、しなやかで厚く、なめすといい皮になるそうだ。そのため、防具に使用するために素材としての需要もある程度あるらしい。角は相変わらずそこまで人気ではないらしいが。


 時刻は夕刻になる前、シンシアを通り過ぎ、東側の森に入り始めた頃。このまま東に進み続ければ沼地に辿り着く。約2日、かなり長く、これから進む距離を考えただけで少しばかり心が萎える様な。それでも、遥かに遠く長い距離を歩いたのだから、このくらいで音を上げるなんてことは在り得ない。それはトリスにしても、テン達にしても同じ。食料はしっかりと用意してあるし、麻痺させる液体も用意してある。野営用の毛布もあれば、たき火がしやすいように携帯用のコンロのようなものも用意してある。鍋は一応1つあるし、器はいくつかある。備えとしてはほぼ完ぺきで、問題点があるとするならばどこで寝るかということ。

 今までのように、木々の中で寝てもいいだろう。地面に毛布を敷いて、テンとシェムに見張りを任せ寝込んでしまう。ただ、それをするにはここはあまりにも危なすぎる。大陸の北側では、アグリーベアをゆうにこえる強さを持つモンスターが存在しているのだから。個体数は少なく、それに加えてこんな人里近くまできている可能性は非常に低い。しかしながら、それでも用心するに越したことはない。引き合いにだしたアグリーベアでも、下手をしなくともレッサーデビルやレッサーエンジェルにすら、寝起きでは殺されてしまうだろうから。

 それ故に、しっかりと寝床を考えて進む必要がある。ただ、良いことに沼地へは幾人もの冒険者が往復しているのだ。つまり、そこまでの道すがらにそういった寝床が存在しているということである。現に、今日泊まろうと考えているのは、森の中にある道の途中、そこに建った小さな小屋である。沼地に向けて敷設されている小道、しかしながら通る人の少なさ等の原因から半ば獣道に近くなっている道だ。それでも、かつて作られた小屋はまだいくつか現存している。そこに泊まろうと思っているのだ。

 当然、見張りは必要だ。それでも、地べたに寝転がるよりかは確実に安全なのだから。道中の道でさえ、舗装されているとはいえ人通りの少ない森の中。モンスターは当然そこを闊歩している。できる限り接触は避けたいのだ、特にアグリーベアや、プロールスケルトンなどとは。


 小屋に辿り着いたのは、空が赤く染まり日没までのカウントダウンが始まった頃。赤く赤く空は染まり、段々と双月が輝いてきている。雲はほとんどなく、明けの明星だろうか、地平の果てに星が1つ見えている。きしきしと嫌な音がする扉を開けて、小屋に入っていく。

 外から見て大分古くなっているように見えた小屋は、中も十分古くなっていた。今日は誰の予約も入っていないようで、広いとは言えないながらも狭くはない小屋を2人と3匹で使うことができる。扉をしめて、中に入り蝋燭をとりだす。鍵をかけ、形ばかりの犯罪への対処を行っている自分をよそに、トリスは蝋燭を蝋燭台に置いていく。全部で7か所、部屋をぼんやりと照らす程度の明かりを用意して、次に魔法の灯りをつける。

 小屋には部屋が3つある。1つは厠、1つは洗面台兼台所、そして1つは今いる大部屋だ。その大部屋には5つの蝋燭台が壁に立てかけられていて、あとは厠に1つと洗面台兼台所に1つ。だからといって、わざわざ蝋燭を使うことはない。厠と台所のものは蝋燭の明かりが頼りだが、まだつけはしない。使うときに使用すればいい話だし、そうしたほうが消耗品を無駄に使用せずに済むのだから。大部屋の蝋燭に火をともす。魔法の灯り、シンシアやその他の街に存在するそれを使用することができればどんなに楽だろうか。はたしてそれがどのような仕組みなのかはわからないし、どんな魔法が込められているのか、どういった技術の応用なのか、知る方法は存在しないし別段興味もない。ただ、それが使えたらいいなと漠然に思うだけだ。無い物ねだりというけれども、歩み寄る気はなかろうに、ただただそれを甘受したいだけだと自覚はある。

 台所に移動し、灯りをつけて夕食の準備をする。予め置いてある少し湿気た薪をかまどで燃やしつつ、夕食を作っていく。干し肉と野菜のスープにライ麦パン、そして先ほど殺して剥ぎ取ったヴィヴィッドラビットの肉を焼いていく。部屋に肉が焼ける匂いが立ち込め、煙突から逃げ切らなかった煙で少しばかり白くかすんでいく。

 そして夜は過ぎていく。


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