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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
11 新たなシシン
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 骨を掴む。足元にバラバラと散らばっている骨、真っ白で硬く、肉はついていない。骨自体は風化していなく、肉や臓物は腐り落ちたのだろうか。それか虫が食ったか、どちらかだろう。そうでなくては、骨がこんなにも綺麗な理由が見当たらない。

 背中が痛む、脇腹も痛むが比較すると格段に背中の痛みのほうが上だ。トリスが背中に回復魔法をかけているのだろう、ほのかに暖かい。彼女曰く、さっぱりと裂けかけて血がにじんでいるようで、一番強く当たったであろう場所は皮膚が抉れて肉が少しばかり見えているそうだ。今はちょうど瘡蓋ができ始めるころだろうか、ただただ痛い。打撲と擦り傷、擦り傷に瘡蓋ができたとしても打撲の痛み自体は全く消えないのだ。背筋をしゃんと伸ばすだけでも少しばかり引き攣ったような痛みを感じる体、生傷が絶えない体。ガルムやシェム達に怪我はなく、自分だけが怪我を負っている。それははたして運がよかったのだろうか、それとも悪かったのだろうか。


 治療がある程度区切り着いたところで、もう一度骨を見る。人間の骨、しかも地球で見た骨格標本と寸分たがわない。頭骨に不可解な穴があるわけでもないし、よくよく見たことのあるホモサピエンスのそれによく似ている。顎には歯が大量に付着していて、それが変に尖っていたり、大きかったり、数がおかしかったり、擂鉢状になっているなんてことはない。眼窩は2つ、鼻があったであろう空洞、脳が入っていたであろう空洞は大きく、額は高く顎は太い。がっちりとした印象を受ける骨、体のほうを見てみることにする。バラバラになっていて判別できないが、恐らく肋骨であろう細く鋭い骨、背骨は散らばっているがこの特徴的な形は見間違えるはずはない。太い骨は上腕骨だろうか、いや一番太いので大腿骨だろう。大きなこの板は寛骨、骨盤を構成している要素の1つだろう。他にもばらばらと骨があり、全身分はあるだろう。

 もしも自分がその道の専門家であったとしたならば、骨を見てだいたいのモンスターの大きさを知ることができただろう。それがわかれば、あのモンスターは生前どんな姿かたちをしていたのかもわかった筈だ。たとえば、男だったか女だったか、身長はどのくらいか、体重はどのくらいか、栄養状態は、何故死んだのか、そういった要素も全て調べることができただろう。それがたとえこの異世界であろうと、男女と体形くらいはわかったはずだ。しかし、残念ながら自分は専門家ではない。所詮高校生でしかなかったのだ、人体の骨の名称の内有名なものくらいはわかって見分けることができても、細かなところや無名の骨なんて判別できるはずもない。

 自分にわかるのは、この骨は人間のものだろうということ。それに加えて、骨の持ち主は死んで、結果死霊系モンスター、アンデッドになったのだろうということ。持ち物から見て、ここに採掘しに来た冒険者あたりだっただろうということ。そしていつの間にか自分の背後に居て襲い掛かってきたということ。最後に、もうこのモンスターは動くことがないだろうということ。

 最後のものが何故そう言い切れるかと問われたら、勘だと言うことだろう。あの赤い玉を引き抜いて、それが手の中で形状を保てなくなったとき、あの骨は互いの繋がりを維持できなくなっていた。あれがとても重要なものだったのだろう、だから肩に痕が付くまで握りしめたのだろう。故に、もうこのモンスターは動かないだろうという稚拙な推測でしかない。


 女か男かわからないが、どちらにしろこれはもう人ではない。時期はわからないが、いつの間にか死んでいてそしてモンスターとなった亡霊の亡骸でしかないのだ。申し訳ないが、けがをした以上こちらも色々と考えるところがある。こちらに明確な敵意を、理由もなくしっかりとした攻撃をしてきたのだから、元が何であろうとこの骨を自分がどう扱おうと構わないはずだ。今までに遭遇したモンスターの中でもトップクラスのタフネスを誇っていたこのモンスター、毛皮もなく、筋肉もない、骨しかない存在なのに何故こうも強かったのだろうか。一体何がこれをここまで強くしたのだろうか。ただ1つ言えることは、この骨はいい素材になるだろうということだ。もしかすると、これがプロールスケルトンかもしれない。それを見分ける方法は簡単だ、印があるかないかだから。頭蓋骨の内部、眼窩の奥の眼底と呼ばれるべき場所に黒い六芒星の紋章があるか否か。それがなければ、ただ単に中級であったり、低級に位置するようなスケルトン種のモンスターであったということだ。

 頭蓋骨を掴み、眼窩を覗く。戦闘中は真っ暗で何も見えなかった、それはこの洞窟の光量が不足しているからだ。しかしながら、今手に持つ光源で照らしてみれば、右目の奥に紋章が見えた。灰色より少しばかり白い骨、眼窩は暗く落ち込んでいるといっても灯りに照らせば見えないなんてことはない。つまりは、これはプロールスケルトンだったということだ。討伐証明となるのは頭、しかし防具の素材として頭はもう1つは確実に必要だ。非常に運の良い邂逅だったけれども、しかしながら数が足りない。結局は他のを探す必要があるということか。

 しかし、何故こんなところにこんな上級最上位のモンスターが出現したのだろうか。スケルトン種のモンスターはほかの死霊系モンスターとは違い、人が死んだ場所に出現するらしい。層だとするならば、ここで人が死んだなんてことはあるのだろうか。

 ああ、思い出した。確かあの管理人の老人は言っていたじゃないか。この坑道で数人死者がでたのも過疎化に拍車をかけていたと。つまり、そういうことだろう。だとしたならば、他にもでてくるかもしれない。できれば、こんな狭い場所では戦いたくはない。いや、逆にここまで狭い場所で多対1に持ち込めるのならば儲けものかもしれない。互いに相反する意見が自分の中でぐるぐるとまわっていく。どちらがいいだろうか、出てくる可能性すらも怪しい第2第3のプロールスケルトンを待つか、それともこの坑道からでるか。

 考え、思考の渦に巻き込まれていく。どちらがいいのか、どちらが悪いのか。様々様々考えられることはあるけれども、結局はトリスの言葉によって方向性が決まる。


 「体、洗いたい。」


 そうだった、その目的を忘れていた。確かに、汗に加え血に塗れた自分がいる。これもできれば洗ってしまいたいのだ。

 トリスに連れられるようにして外に向かって進んでいく。骨は全て回収して袋に入れた。工房に持っていけば上手く対処してくれるだろう。勝手に期待を膨らませつつ、坑道から外にでる。

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