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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
11 新たなシシン
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 明朝目を覚ます。天窓からは明るい光が差し込み、自分の耳には朝を告げる鐘の音が響いている。この鐘の音は5時、日差しもある程度強くなってきているはずだ。今日の予定は、鉱石の採掘。いくつもの種類を何袋も手に入れなければならないというめんどうくささを感じつつ、でもやらなければ終わらないことは確実なのだ。そのためにそれに必要なものも購入したのだ、やらなければならない。できれば、今日中に集め切りたいものだ。一体どのくらいのペースで採掘できるのか定かではないが、1日あれば十分だと信じている。この予想が甘いなんてことにならないといいのだが。

 隣で起きるそぶりを見せないトリスの肩を叩く。軽く、肩が軽く揺れる程度の強さで叩いてみても、口からは少しばかり不快そうなうめき声が漏れるだけ。おそらくは半ば覚醒しているのだろうが、目をあけるということよりも寝るという欲求が強いのだろう。仕方のないことだ、睡眠は何時だって何処の世界だって大事なものだろう、人の三大欲求の1つなのだから。

 心を鬼にして肩を大きく揺らす。叩くのではなく、ぐらりぐらりと連動して頭が揺れる程度の力で揺らす。そこまですることで、やっとトリスの瞼が開く。澄んだ目でこちらを見つめ、ゆっくりと笑う彼女。朝だと認識したらしい。

 ベッドを半ば軋ませながら、ゆっくりと起き上がっていく。体にかかっていた毛布がずり落ち、青白い肢体があらわになっていく。一糸纏わぬ姿、しかしながら半ば見慣れたその姿は自分の劣情を擽るも燃え立つまでにすることは叶わず。脇腹には傷跡が残る細身の身体を見て、自分の心を愛おしさと謝罪が支配していく。こちらに伸ばす手をとり、彼女をベッドから立ち上がらせる。机にかけていた下着とローブを渡し、彼女がそれを着ていくのを見つめる。昨日、帰り道のついでに彼女の服も買ったのだ。ローブの下に着る革製の服に、ゆったりとした貫頭衣のような下着。それを着込み、上からローブを着込む。随分と汚れ、そして所々解れ破けたローブ、これも実は工房に頼み込んである。必要なのはフォレストエイプの毛皮2体分ほど。一緒に手に入れてしまえばいい話だ。

 扉を開けて外へ出る。武器は解体用のあのナイフだけ、しかもあれは血を吸わせなければただの鉄板でしかない。この前の戦も、結局あれを使うことはできなかった。血といっても滲む程度の者ではなく、結構な量が必要だからだ。ただそこでひとつ疑問が生じる。はたして延々とそれに血を吸わせていたらどうなることだろうか。触るだけで切れるほど鋭利になるのか、それともある程度の鋭さで打ちとめなのか。どこかで少しばかり検証しなくてはならない。どこでやろうか、少なくとも今日は無理だ。戦闘する予定もないのだから。


 ギルドの前を通り過ぎる。戦闘の予定がないので、討伐依頼を受ける必要がないのだ。それに加えて、鉱石の採掘依頼なんて受注していては今日1日で終えることができるはずもない、という理由もある。ただでさえ滅茶苦茶な量を採掘しようとしているのだから、時間が足りるはずがないだろう。

 シンシアを出る門、そこの近くに停まった馬車を見つける。時間は朝6時ごろだろうか、丁度いい時間だ。大銅貨10枚を渡してトリスと共に乗りこんでいく。荷台は狭く、屋根はない。申し訳程度の座席があり、まるで地球に居た頃の電車の中の光景によく似た、それでいて寸足らずな印象を受ける光景が広がっている。中には既に数人の人の姿があり、自分たちも空いている席に座る。ぎしぎしと座席が軋み、それを構成する木板がたわむ。安っぽいつくりだ、布を置いてクッション代わりにするのでもなく、しっかりと人を座席に固定するような手すりやベルトがあるわけでもない。

 自分が乗ったのは乗合いの馬車、鉱丘へ安く手軽に速く向かうことのできる唯一の公営通行手段だ。シンシアは3種類の馬車を運営している。まずは前回の戦で乗った、北の壁区域への馬車。次に今回乗る鉱丘行きの馬車。そして最後に真南にある小さな湖へ向かう馬車。それぞれがとても重要な地であり、シンシアで占める地位は高い。それぞれに向かう馬車が無くてはシンシアにとって大きな打撃、もしくはシンシアの運営に関わってくるほどのもの。たとえば、北の壁区域に向かう馬車が無ければ有事に備えている壁を維持することはできないし、そこらに位置する村に移動することはできない。普通の商人はそちら側に向かうなんてことはしないので、物流も人の流れも滞ってしまうのだ。鉱丘と湖は経済的な意味合いが大きい。鉱丘は鉱石の産出地である。これが意味するのは、そこに向かう馬車等がなければそこで仕事を行う冒険者ではない人々がほぼいなくなる、そして物流が止まるということである。武具の生産や防具の生産、軍備増強の為に大量の金属を必要とするこのシンシアで、そういったことが起きてしまえば大変なことになるのは想像するまでもない。湖は漁業資源であったり、その周りにある湿地帯でしか取れない植物等有用な生物の宝庫である。養殖も行われてあり、もしも止まってまった場合など考えたくもない。


 外の景色を見続けること1時間。馬車がゆっくりと止まる。前方に見えているのはまるでエアーズロックが砂に埋もれてしまったような巨大な丘。周りには数軒家が立ち並んでいるのが見える。結構近くまで来たのだが、進んでいるうちに見えていた姿から予想していた通り凄まじく大きい。

 そこを歩いていく。丘はなだらかだが確実に登っていて、頂上は遥か遠くに見える。エアーズロックと違う点は、時折大きな木が、他は背の低い草木が繁茂している点。砂漠に転がるあれとはそういった部分が根本的に違うのだ。何故これができたのかは神話の域をでない、つまりこの世界ではそれは重要視されず予見予測も難しいのだろう。

 所々穴が開いている。その上に掲示された紙、大きくでかでかと第1番坑と書かれている。アレにもぐりこんで、鉱石を採掘してどうにかしましょうというところであろうか。


 その中でもあまり人気のなさそうなエアーズロック端っこの穴に入ればいい。そうすれば、他の人と競合したりといったことも起こり辛い。楽々採掘して早くに帰りたいものだ・

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