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都市は相も変わらず強大な要塞の体をなしていた。大南門、その入り口にてギルドカードを提示、都市の外に出ていた用件を伝え内部にもどる。依頼の報告を行いにギルドへと、その前に市場で図書館の有無に関する情報を仕入れ、足の向きを変える。どうやら商店が立ち並ぶ一角にあるとのこと。見つけたが、この世界では本を読むということはあまりメジャーな趣味ではないのか、その建物は図書館とはいえないものだった。その白亜の構造物は、無駄な装飾がないながらも、都市の中央部でその姿を陽光の下に晒す建造物と同じくらいの威光を秘めているように見えて、中からは歌声が微かに漏れ出ていた。地球にある教会、特にキリスト教のものに、まさか屋根の上に十字架はなかったが、よく似ていた。この世界において、宗教は創造主たるオルケー神を崇めた一神教が主流であり、ゆえにプルミエという都市に大陸最大規模の宗教の教会がないわけがない。図書館だと言われた先に教会、戸惑う自分を押し殺し緩やかな弧と直線で形作られた入り口をくぐり内部に入ると、外見からも創造できていたがあまり過度な装飾がされていない。ルネッサンス様式、という建築方式を思い出すような、そんな建物だった。フラスコ画だろうか、壁面はどこか広大な大地が描かれている。教会の最も入り口から遠い部分には、見るものを圧倒させる、しかしそれでいて質素な大きな祭壇と、羽の生えた人を模した彫像が置いてあり、前では数人が跪いて祈りをささげている。あの彫像がオルケー神を模した偶像なのか、祈りの邪魔をしない程度に、彼らから3メートルほどだろうか、離れてみていると後ろから声が。いつの間にいたのか。
「どうですか、美しいでしょう。この国でも屈指の美しさ、恐らくこれを超える美しさを誇るのは首都を含め数箇所というところ、と自負する祭壇は。」
振り返ると、そこには純白の貫頭衣に身を包んだ、180センチほどの身長の金髪の男が立っていて、神父だろうか。
「黒髪、珍しい、いえ失礼、この国の大部分の人間は金髪か茶髪ですので、本日はどういったご用件でしょうか?我等が主たるオルケー神へのお祈りは、ご自由にしていただいて結構ですよ。」
「いや、今日は礼拝が目的じゃないんだ。俺はこの都市に来てから日が浅くて、ここに来れば本が読めると聞いてきたのだが。」
「あぁ、読書をされにきたのですか。生憎この教会には、本はあまりありませんが、どうぞお読みください。いかんせん読む方がいらっしゃらないので。どうぞ、此方へ。図書室は此方となっております。」
案内されたのは教会の奥にある小部屋、机が1つに椅子が2つ、本棚も3棚ほどしかない。本当に読書は趣味としての地位を持っていないようだ、もしかすると娯楽足りえる本はいまだ多くないのかもしれない。
「申し訳ありませんが、6時の鐘、もしくは日没とともに閉めさせていただきます。それまではどうぞご自由にお読みください。お若いのに、知識を得ようとするその心意気は非常に素晴らしいですよ。きっと神も貴方の事を見ていて下さるでしょう。ではごゆっくりどうぞ。神のご加護があらんことを。」
そういって、神父は去っていった。後に残るのは本棚に囲まれた自分だけ。依頼を報告する時間もあるので、そんなに長くはいるつもりはない、4時の鐘の音まで。
小部屋には、紙をめくる音だけが響いていた。休憩をとろうと体を伸ばす。主にこの部屋にあるのは歴史書、これは興味がないので×、宗教に関する書物、これも×、の2種類で、やっとこさ探し当てた魔法書は1冊のみだった。その召喚魔法に関する部分を先ほどまで読んでいた。召喚魔法に関する部分だけで30ページ近くある本は、だいぶ古いのかページが黄ばんでいて、慎重に読み進める必要があった。また語彙も難しく専門用語も駆使されているため、そして何より文体が今と異なっているため、未だ20ページほど。首を回すと、本棚の横に小さな祭壇があるのがわかる。元は礼拝堂だったのだろうか、それとも誰かが読書をしながら祈りをささげたのだろうか。
なんとか召喚魔法の欄を読み終え、ほかの場所へと移動しようとした矢先鐘が4時を告げる。当初の目的は果たした以上問題はないのだが、もう少し読んでいたかったな、と後ろ髪をひかれつつも神父に挨拶をし教会を後にする。
今回書を読んでわかったのは、まず召喚されたモンスターにもレベル制がやはり採用されていること。召喚されたモンスターは、敵モンスターを倒すことで経験値を入手し、レベルを上げていくそうだ。またその際にモンスターが得られる経験値の3分の1は、召喚者が貰えるそうだ、故に3レベルも上がったのか。基本的に、レベルは高くなれば高くなるほど上がりにくくなるが、低レベルの時点でも人間より1レベルあたりの必要経験値数が多い。また、レベルアップ時にステータスポイントは自動で割り振られるので、召喚者がどうこうする必要はない。
次に、召喚されたモンスターに関して。アンデット族を除くモンスターはこの世界に召喚されている間、食料を食べる必要があり、もし与えられなかった場合餓死する。食料もモンスターによって違い、スライム系列は水分、草食獣系統は草、というように分かれている。モンスターには、名前を付けることができる。また、所持できるモンスターの上限数は、名前付きのものが4体まで、名前のないものは別にレベルの半分の数だけ所持することができる。名前なしのモンスターを召喚したとき、名前付きのモンスターの所持数が上限に達していなかった場合、名前を3日以内につける必要があり、それが行われなかった場合、召喚したモンスターは消滅する。名前なしのモンスターの能力値は、元の値の2分の1になる。モンスターの連れ歩きに関しては、常時召喚していても、転移陣の中に入れていても構わない。一度召喚したモンスターは送還することはできず手放せない、死亡した場合を除く。また、召喚時に消費されるMP以外、維持のMP等はかからない。
最後に、モンスターのレベルを30以上まで上げることにより、上位種若しくは亜種、希少種に進化させることができる。進化させることにより、生態が大きく変わるものもいる。その後は、規定レベルごとに進化させることができるそうだ。
だいたいこのようなものだろうか。現在は、名前付きのものを後2体、名前なしのものを後3体所持できる。レベルさえ上がれば、所持できる上限数は多くなるが、名前を安易につけたことによるデメリットが意外と大きい。あと2体名前付きモンスターを持てるが、召喚できるモンスターの等級が上がるまで、やめておいたほうがよさそうだ。しかし、レベルを上げることで上位種、おそらく級でもあがるのだろう、になれるというところは大きい、故にテンとシェムのレベルを上げ上位種に早急に成長させようと思う。
そうこう考えているうちに、ギルドの前。掲示板はこの時間になるともうほとんど依頼が残っていない。ふと、Bランクの幼竜討伐と、隊商の護衛が残ってるのを見つける。このレベルになると1つの依頼で銀貨が2ケタもらえるのかと思い、ここまで上げて金を貯めたいな、とも思った。
番台で依頼を報告し、17枚の大銅貨を受け取る。また、アイテムを売ろうとしたところ、アカミズタマキノコは1本5小銅貨、ネガキノコは1本10小銅貨で売れるとのこと。ニガグルミは、高いところにあり、落ちるときは腐ったときでなかなか取れない、取らないらしく、少し高めの1個20小銅貨。ドロップアイテムは取っておいて鍛冶屋で素材として使えるか確認してから売りに来たほうがいい、とのアドバイスを受け、またの機会に売ることにする。今日の報酬は、依頼の報酬が大銅貨17枚、アイテムを売ったお金が、大銅貨11枚と小銅貨65枚、袋の中は大銅貨31枚と小銅貨65枚となった。依頼がやりやすいもの3つあったからというのもあるが、初日としては上々なのではないか。ほくほく顔で宿に帰り、夕食を食べ、ベットに倒れこむ。初めての冒険は意外と大変だったのか、瞼はすぐ落ちた。
2012-11-24修正
2013-3-12改稿




