表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
11 新たなシシン
167/239

167

 治療は魔法のある異世界といって想像するような華やかな物ではなかった。患部である腕をだし、医者がハンマーのようなもので叩いたり、ゆっくりと触ったり、動かすように指示を出したり。そういった腕の調子を確認するものだった。そして確認したあとは、安静にしていてくださいね、と告げるだけ。あまりにもあっけない、自分がこうやってこの世界で治療を受けることは初めてではないが、前々回は意識を消失していたため記憶になく、前回もこうだったが1回で一般論として語るにもいかなかったのだ。しかしながら、2回目がこうであったことを見るにこの世界の治療はこんなものなのだろう。最悪光魔法があるのだ。患部を麻痺させ痛みを感じなくさせる件の薬は処方してくれたが、足元を見ているのかそれだけ貴重な品なのか、小さな瓶で銀貨2枚を取られた。思い返して今気が付いたが、もしかすると、市場にでも行けば同じものが安く売られているのかもしれない。所詮葉っぱから絞り出した汁なのだから、よく知らない自分からぼったくったのかもしれない。それか、この世界ではこういうシステムなのかもしれない。確かに、よくよく考えてみれば治療費用、診察費用なんてものは請求されていなかった。最初の薬代として高額な代金を徴収することで、そういった費用も回収しているのではないだろうか。砦という管理された土地に店を構えているのだから、非営利というわけにはいかないだろう、それではどう考えても経営できるはずがないのだから。


 まぁ、ともかく自分は自分自身に対し落胆し、失望し、著しく委縮した。それでも、進まなければ。心は折られそうになったが、それは絶望からではない。周りとの意識の差異に、自分の恵まれていた環境に折られそうになっただけなのだから、最悪ではない、決して良いことではないが。だから、それほどの時間もまたずに立ち直ることができた。

 どちらにしても、治療をしたからといってそのまま冒険に出かけることはできなかったのだ。防具は拉げ、摩耗し、ぼろぼろになった。レッサーエンジェルとレッサーデビルとの戦闘の所為で右腕の鎧は使い物にならなくなり、応急手当さえも前回の戦闘でどうしようもなくなった。ほかにも、至る所に傷が走り、ひび割れができていた。この状態で戦闘を続けても、もしかすると別の怪我を誘発してしまうかもしれない。余計危ないだろうから、それは避けておきたいと思った。故に、防具を新調する必要ができたのだ。修理ということも考えたが、金属部が無かったり、千切れていたり、そういった部分を追加したり何なりしているうちに買うことができるようになるだろうから。

 それと同時に、武具も買う必要があった。杖はなくなり、短剣は丸まってしまったのだから。今回、この世界で生き始めて初めてMPが枯渇した。そしてその際に自分ができたことは、短剣を使って少しばかり抗うことだけ。慣れない動き、リーチの短い短剣、弱い力、1つしか持っていない近接武器、そういった事象があいまった結果がこの怪我だろう。むしろ、この程度で済んで運が良かったといってもいい。下手をしなくても死んでいた可能性が非常に高かったのだから。故に、今回は杖を買うと共に新たな武具を買おうと思っている。リーチの短い物は避け、しかしながら、非常に重い長物は避けるように選ぼうと思った。


 そうと決めたからには、次はどこで買うかということを考えた。トリスと相談したうえで、武具屋防具屋で今までのように既製品を購入するか、鍛冶屋でものを注文し鋳造、作成してもらうか。どちらが安いかと言えば、既製品のほうが安くつくかもしれない。当然出来上がっているもの、型がもう完成しきっていて、大量生産しやすいように作ってあるものの方が安いに決まっているだろう。かたや鍛冶屋に注文するのなら、作業費やデザイン費を払った上で、素材を渡して作ってもらうという手間も金もかかる作業だろう。しかしながら、鍛冶屋に頼んだ場合は、大量生産品よりも格段にいいものができるのだろうことは確実だ。自分にあった、しっかりとした、そしてその職人の意匠がつまったものが出来上がるのだろうから。それに、このシンシアで作るならば腕に問題はないだろう。

 その相談は30分、1時間はかかったことを記憶している。どちらにもメリットデメリットは存在し、かつどちらも結構な出費となることは請け合いだったのだから、相談が長引くのは必然であった。


 結局、自分たちが選んだのは鍛冶屋に頼むという方法だった。確かに素材集めは労力が必要だろうし、今の状態ではそこまでいい素材が手に入る可能性も万全の状態に比べて低くなっているだろうから。それでも、多額になるだろう金を払ってでも自分にあったものを手に入れることができるという利点は心強い。それに、自分たちが知っている鍛冶屋はあの変化が起きる前の鍛冶屋だ。もしかしたら、変化していてもおかしくないのではないだろうか、と思ったということもある。

 そして今に至る。今は鍛冶屋に向かう途中、MPは今日の昼には全回復するだろう。今は午前の終わりごろ、10時頃だろう。ここの時計は数時間おきにしか鳴らないのだ。

 とりあえず、今日の目標は鍛冶屋に向かって、色々と確認をすること。例えば、どういった素材を持って来ればいいのか、ということであったりどういった素材ならばより簡単により良い物を手に入れられるのかということだったり。聞きたいことは山のようにあるだろうし、これからの毎日がどれだけ大変なものになるのかということもわかっている。必要な素材を集めるために、防具も武具もなしで森に入り戦闘をすることになるのだろうから。市場で買うということもできるだろうが、無駄な金はそこまでかけたくないというのが本音だ。財布が軽くなってしまっては、ここに家を買うなんて夢が遠ざかってしまう。どうせレベルも上げなければならないし、できることなら様々な魔法の使い心地も確認してみたい。そういった様々な思惑を胸に鍛冶屋への道を進んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ