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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
9 悪夢と襲来の狭間
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 中肉中背の体を白銀の鎧に包んだ男。隣にたつ金髪の美少女や、長身麗句の男性と比べると激しく劣るように見える。それは体型という意味では隣の男性に比べ著しく貧弱に見えてしまうということであり、美醜という意味でも隣の男性に劣るということでもあり、自身が持つ空気という意味でも隣の男性に劣るということでもある。また、少女と対比してみても、美女と野獣といったらおこがましいと思うほどに不釣り合いに見える。端的に言えば、他の2人と並ぶと悪い意味で浮いて見えるのだ。まるで1人疲れきったサラリーマンが混ざっているかのように。

 では本人1人で考えてみるとどうだろうか。黒い髪、短めだが角刈り、スポーツカットというほどではない。顔には疲れが見えていて、皺ができている。しかしながら老いているというわけではなく、肌の色や艶を見るに20代後半だろう。彫りは浅く、鼻は低く、目は黒と茶の中間、肌は薄い黄褐色。簡単に言うと、日本人の平均的な顔立ちに近い。先ほど、サラリーマンという表現をしたが、よくよく考えてみればなかなかどういてその表現は的を射ている。通学最中に路面電車で見かけた、混雑に押しつぶされながらも必死に睡眠をとろうとするサラリーマンに本当によく似ている。

 なぜこうも自分は彼の容姿に目を奪われるのだろうか。男色の気はない、何か惹きつけるものをもっているようには見えない。何か引っかかる、何か懐かしいような、何か違和感を覚える。しかしその根源に辿り着く前に制限時間は来てしまったようで、彼らはそれぞれの巨鳥のもとに戻っていく。


 その後、3人はまた鳥に跨り、空へと飛翔していった。どうやら、操り師自体に攻撃を仕掛けるそうで、それと同時に結構な数の超級モンスターも相手取るらしい。流石は“8翼”、人族最高戦力の名前は伊達ではなく、ここまで他の人々と離れているとは。恐らくその戦闘を見ることはできないだろう、それだけ操り師と自分たちとの距離は離れていることだろうし、はなから近寄るつもりは毛頭ない。それでも、一度でいいから見てみたいものだ、彼らが本気で戦う姿を。

 彼らの姿が空に舞いあがり、自分たちの周りをぐるぐると旋回し始めた頃、門の上に置かれた角笛が鳴る。轟々と音を立てつつ、開戦を告げるサイレンが鳴る。確かに、視線の遠く丘の下のほうに何かの集団が来ているのが見えてくる。また3キロ、2キロほどしか離れていないというのに、それでもかなりの数がいることがわかる。ただ、土煙をあげているなんてことはなく、しかしながらゆっくりとこちらに近づいてきているのが見て取れる。あとおおよそ数十分でこちらまでたどり着くころだろうか、もう少しばかりかかるだろうか。

 これだけ離れているならば、“8翼”がそのまま攻撃して壊滅せしめてくれれば全て解決ではないのかと思う、しかしながらそれはできない相談らしい。隣にいたグループの1人がそう愚痴り、仲間にたしなめられているのを盗み聞きしたのだ。彼らによると、たしかにそうやって殲滅しても問題ないそうなのだが、それをしない理由は3つほど想像できるそうだ。いかんせん数が多すぎる上にこちら側の戦力が少ないという想像が1つ。他の冒険者にも経験値を稼がせ、全体的なレベルの底上げをするために、3人で突貫しないように上から指示が出されているんじゃないか、という想像が1つ。彼らの攻撃力、突破力が凄まじい為に操り師が怯えて逃げてしまうことを防ぐという想像が1つ。

 はたして、最初のは確かにそうかもしれない。見たところ、ここにいた“8翼”は“大長老”、“刀”ともう1人。刀は魔法を使えないと聞くし、大長老は魔法が使えるのは確定だが、そもそも魔法というのはそんなに広範囲に攻撃ができるものなのだろうか。あの中肉中背の男は一体どんな戦闘をするのだろうか、魔法を使うのだろうか、武具を振るうのだろうか、それとも己の肉体で戦うのだろうか。パッと見たところ武具は持っていなかった、しかしその一方で魔術師によくある杖を持っている、なんてこともなかった。では2番目はどうだろうか。これもそこまでおかしくはない理由だろう。確かに1つが突出してしまっても、土台が拡張され、底上げされていなければその頂点が潰された時に困ってしまう。保険であったり、未来への先行投資という意味では正しいだろう。最後のはどうだろうか、操り師はそこまで警戒心が強いのだろうか、それとも索敵能力と彼我の実力差に敏感なのだろうか。そしてそこまで逃げ足が速いのだろうか。3番目の理由は想像の域を出ていない、説得力のない話だろう。だったらまだ後ろから退路を断ち挟撃する為といったほうが信憑性があるように感じるのは自分だけだろうか。それに、操り師にある程度の知能があるならば、前線にでてくるなんてことはせずに後ろのほうでゆったりと対象をしていそうなものだ。そう考えると彼らが後から背後を摂るというのは一理ある想像ではないだろうか。


 そんなことを考えつつも、トリスとともに戦闘の準備をする。転移陣からテン達を解き放ち、久々に広い場所で体を延ばさせる。食料や水を少しばかり与え、これからのことを説明する。防具の位置を確かめ、トリスの立ち位置を相談し終えたころ。前方を見れば丘の下のほう、結構な近さにまでモンスターの軍勢は近づいてきていて、周りの冒険者たちが今か今かと待ち構えている。


 後ろのほうから、横のほうから何かを放つような空を切り裂く音。弓を放った音をスピーカーで大きくしたような、少しばかり音割れさせたような音が丘に響く。

 前方を突き進んできていたモンスターの数体が倒れ込むのが見える。バリスタだろうか、カタパルトだろうか、どちらかからか、どちらからもか、そこから放たれた攻撃が命中したようだ。そして鳴り響く角笛の音、走り出す冒険者たち。どうやら戦闘の開始ということだろうか。

 出遅れてしまったであろう数組の新人冒険者グループと歩幅を合わせる様に、遅ればせながら戦場に向かって足を進め始める。

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