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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
8 幕間 地球
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 これを拾ったのは前と同じ人だろうか、それとも別の人だろうか。前者であるとは端から思っていないよ、恐らく後者だろう。ただ、もしも奇跡が起きていたとしたら、それは何かを暗示していることだろうね。

 さて、これを拾った君と前のものを拾った人が別人だという前提で話を進めようとしようか。まあ、もう君は何となくこれが何か理解していることだろう。そう、その予想は間違っていない。これは君たちの社会で今話題になっている壁の向こうからの手紙だよ。これで君は失われた街からの手紙を受け取った随分と幸運な人になれたことだろう。ただ、それは今日この日本の中で一番不幸な人だということの裏返しでもある。多大な名声、名前は売れるだろう。ただ忙しくなるだろうし、君の生活は制限されることだろう。そういったデメリットを理解して尚、メリットとしてあげた物が欲しければこの紙をどこかに公表すれば良い。もしも嫌ならば、この紙を見なかったことにして地面にまた捨てれば良い。君が今手にしているこの紙は、もう何人もが見捨てたあとの物かもしれないし、そうではないかもしれない。隙にしてくれて構わない、この紙からしてみればどちらでも変わらないだろう。どの入り口を選んだとしても、どの道を経由したとしても、この紙がたどり着くであろう出口は同じなのだから。

 君は今人生の岐路に立っていることだろう。もしもこれを見なかったことにしたならば、いつも通りの日常が朝からも待っている。もしもこれを拾ったならば、何かしら確実に変化が起こる。良い方向に転がるか、それとも悪い方向に転がるか、それは君次第だ。

 さあ、選択するがいい。君はこの選択を自分の責任で、そしてそれがどう影響するか理解した上で行うんだ。もしもこれを読み続けるならば、次の紙にいけばいい。




 さて、これを読んでいると言うことは君は選択を終えたのだろう。もしもこの文の意味が理解できていないならば、1枚目を見てほしい。紙の上部に数字を大きく書いておいただろう?そこを見て、指示に従って欲しい。


 うん、もうこれだけ警告をしたのだから大丈夫だろう。本題に入ろうか。

前回の街に関するノート、あれがそちら側の人に回収されたという事実は知っているよ。あれだけ白い壁の向こう側が騒がしくなれば想像がつく。ああ、随分と早く見つけてもらい、随分と早くに発表されたものだ。一月くらいかかるものかと思っていたのだが、5日か。だからこれを早めに書こうと思った、確か今日で最初のときから12日というところか。つまり、これを君が見た日付との誤差がこれが放置された日数というわけだ。

さてさて、そちら側では論争の種となっているようだね。ただ少し自重して欲しいものだ。この街ではあんなに無防備に喚き散らすようなものは生きていけない。ぬるま湯に浸かりすぎていやしないかい?

 確か論争の主題はこの壁を破壊し、この街に住むものを解放するか、街を目指すべき世界の象徴とするかだったかな。はっきりと言わせてもらおう、馬鹿げている。どれだけ上から目線のつもりだ?人間が偉いのか?些か調子づいてやいないだろうか。解放するだとか、象徴とするとか、そんなことがこの街にできるとでも思っているのだろうか。ただただ体のいい錦の御旗が欲しかっただけじゃないのか。当然彼等が大多数の意見とは思っていないよ。

ただ、彼等が壁を壊そうとする動き、それを止めようなんて思っていない。むしろ歓迎だよ。この前のノートを書いたのは、根源を見つめ直して欲しかったからだ。人間という動物の根本を見つめ返すことによって今一度考え直してみてはどうだ、という提言代わりだよ。少なくともこちらにすむ人々は原初に近い生活をしている。それが良いか悪いかは別だよ。それは関係ない、ただ選択の自由を与えてみてはどうだ、という話さ。現に数人、そちらの常識を捨てている。もう既に一人は減ってしまったが。まあそれはレアなケースさ、舐め腐っていたからね。ここにホイホイと来て、さあ飯はどこだ宿が汚い助けろだのわめいていた男だ。ふざけている、砂漠に入ったとしよう、そこで誰かに世話してもらおうなんて甘い考えがまかり通るだろうか。ジャングルの奥地で古来からの人々におんぶ抱っこしてもらおう、そんな甘い話が通るはずがない。挙句の果てに戻る方法がないと知った瞬間に怒り始めた。救いようもない、そのままおいていったさ。この世界は自給自足、野生が基本なんだ、観光地では、行楽地ではない。

 今回の趣旨はこうだ。この街に移住しようと思っている人達への先人からの知恵。この忘れ去られた街は、外側と大きく離れているんだ。表裏、そういう例えが正しいかな。忘れ去られた街では人間は人間という種にすぎない。文明の利器?それは存在するし活用はできる、そういうことじゃあないんだよ。荒廃と退廃という状況の中で自然と人工が交配して、できた子供がこの街なんだ。だから人は頂点から引き摺り降ろされた。敵を敵と認識し、生存競争に打ち勝つ必要がある。その覚悟が必要だ。そちらの常識を捨ててくるんだ、庇護や施しなんてものはない。自分自身で生き延びる覚悟が必要だ、観光気分で来られては無駄死になんだよ。だったらそちら側で生活するのをお勧めするよ。

 ここまで言っておいてなんだが、そこまで怖がる必要はない。例えば、気弱なキミ、はぐれもののキミ、そういった人達でも全然問題ない。前述の覚悟さえあれば生きていけるさ。そちら側で居場所がないのなら、きっとこちら側に居場所があるさ。まずここに入れたならば、生き延びろ。隠れ、逃げ、そういったことは間違いじゃない。人間種を探せ、そして名前付きのところまで連れていってもらうんだ。そこにこの記録の筆者がいる、簡単なルールは教えてあげるさ。


 ほら、簡単な求人情報だよ。そちらは居場所と野生を手に入れる、こちらは生態系の進化、多種多様な生物の繁栄に繋がる。そちらは観光地、こちらは餌、Win-Winの関係だよ。マイナスはない、こちらが飲まれるなんてことはないさ。ひとつひとつは弱々しい種だったとしても、この数年で鍛えられている。荒波に飲まれても生き延びるだけの力は備えたさ。


 ほら早く壁を壊してくれ。恐らくこの国の周りにはこの忘れ去られた街と似たような光景が広がっているよ。

第10章で大まかなまとまりが付きます

あくまでサブなので

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