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この調子では、他のものは買えないな、しばらくはこの服で我慢するしかない。傷つけないようにと考えつつ、店の門をくぐる。武器が所せましと並んでいる姿は圧巻で。ここではあまり金のないことを伝え、35大銅貨以内で買えるワンドかステッキを選ぶ。魔法使い、魔術師とあればこれだろうから。購入したい旨を伝える。武器は、防具に比べると消耗品ゆえか安い。ワンドやステッキには装着した対象者の知能をあげる働きがあるそうで、金属製の物と、木製の物、モンスターの素材を組み合わせたものがあった。金属製の物は耐久性に優れる代わりに、知能を上げる働きが一番弱いそうで。木製のものは耐久性に難ありだが、知能を上げる働きが一番大きそうだ。モンスターの素材を使用した物は耐久性、知能を上げる働きともに普通だが、特殊な効果を持つ場合が多くその分値も張るそうだ。自分は<魔力増大>があるので、耐久性を重視、金属製の物にする。金属製の中にも種類があり、鉄のみの物、銀メッキをされているもの、退魔の観点からだろうか、他には珍しく青銅の物もあった。シンプルに鉄製の物、そして杖としても使えるようにステッキを。デザインもシンプルに持ち手の部分に皮を巻き、杖の一番上には赤い石がはめ込まれているものを選んだ。黒染加工も頼んだので、30大銅貨だそうで、残金7大銅貨。これは完成は2日後だそうで、明後日とりにこようと考え、店を出る。
その後、薬屋でポーションを。体力回復はポーションで行うらしい、1つ1大銅貨、3つ買う。また、歯ブラシ代わりに、布と、こちらの人が歯磨きに使う木、楊枝の3点に、口臭を消すために使われるという葉を大銅貨1枚で購入する。先ほどまでは銀貨4枚大銅貨170枚あった袋には、大銅貨4枚のみ、400円、明日クエストを行い、金をためなければと焦る。
宿へと向かう道中、ベスから聞いたステータスに関しての説明を思い出す。体質は体力を増加させ、衝撃や魔法に対する耐性も多少なりとも増加させるらしい。知恵は魔力を増加させるもの。力は、文字通り筋力を上げるもので、近接職は重要視するそうだ。知脳は、魔法の攻撃力を上昇させるもので、冷静さ、情報処理能力の向上にも一役買うらしい。素早さは、その通り体を機敏に動かせたり、走るのが早くなったりするそうだ。ここでも召喚された人間としての優遇があったようで、種族により異なるが、人間の標準ステータスは基本的に一律7で、レベルアップごとにもらえる1ポイントのスキルポイントを、割り振るらしい。
宿につき、体をベットに横たえ休めていると、6時の鐘。食堂で夕食を食べるそうで、降りてみると、10人ほどだろうか、もう既に食べ始めていた。席を聞き、すでに並べてある夕食の前に座る。酒類は追加で払うことで、飲めるようだが金もないのでやめておく。未成年だしな、と自分に言い聞かせる。夕食はハンバーグだろうか、菜っ葉の和え物、大根のようなものが入ったスープに、ライ麦のパン。菜っ葉の和え物が非常に多く、そのくせ苦味がある。栄養を考えているのだろうが、少し辛かった。
食事を終え、部屋に戻ると、風呂に入りたくなる。中世において、体を洗う、ということはたまにしかできない、しないことだったそうだ。古くは、水で体を洗うこと自体が体に悪だとされていたためだ。現代っ子の自分には到底理解できないが、こちらの世界でも似たようなものだろう。水で流し、布でふくくらいのことはできるので、結構な頻度でやっていきたいものだ。汗に塗れた体は気持ちが悪い。仕方なく、水差しの水で歯を磨くことにする。まず、木を噛んだり、楊枝で歯の隙間の食物をとったりしてから、布でふく。簡単な作業だが、やらないよりマシだろう。ベッドに倒れこむ。明日やることは、依頼を受け金をためる。そして、服を洗濯する、だろうか。テンとシェムにも早く会いたいな、と考え、眠りにつく。
・・・目を開けると、天井が見えた。起きだす、今は何時か。外はほのかに明るくなっている。どうやら寝坊せずに済んだようだ。食事は6時とのことだが、あとで聞いたところ、少し早い分には問題ないらしい。今は夜明け頃、つまり5時程度だろう。着替えの服、ラツィア村から2着予備として多く借りてきていた、その片方を持ち井戸へ向かう。井戸に行く途中宿のおばさんに会ったので、木桶と布を借りたいという旨を言うと、無料で貸し出してくれた。その代り、この宿を発つときに返せとのことだ。井戸で借りた木桶に水を入れ、部屋まで戻る。借りれなかった時の為に、外で浴びる覚悟もしていたのだが、どうやら杞憂で済んだようだ。部屋に戻り、布を水につけ、体をふく。強くこすり、垢をそぎ落とす、少しひりひりする、やりすぎたか。また水差しの水を使い、口をゆすぐ。念入りに体を拭いたためか、外を見ると完全に日が出ていて、水をすてるともう朝食が食べられるようだった。
朝食は、ライ麦パンに、ジャムに、昨日の晩と同じスープ、朝ゆえあまり動いてない胃には丁度よく、食べている最中に6時の鐘、急いで食べてギルドへ向かう。朝早くにギルドの掲示板は張り替えられ、そこから早い者勝ち、ということで、昨日買った口臭消しの葉を噛みつつ、さっさと向かう。
掲示板は流石に朝早くだからか、あまり人がいなく、それでも2人ほど先客がいた。適当にFランクの依頼を見る、全部で15枚ほど、大体は配達依頼で、地理に詳しくない自分には向いていないだろう、数少ない採集依頼を3つほどはがし番台の下へ向かう。ビッグローズの葉の採集、ポジキノコの採集、アシッドヨモギの葉の採集の3種類を受注しようと思う。それぞれ30枚、15本、25枚採集すればいいらしい、報酬は5大銅貨、7大銅貨、5大銅貨と非常に安い。番台は今日もあの金髪の少女で、可愛い、美少女というほどではないが、それでも優しげのある綺麗な肌をしている。
「すみません、これらを受注したいのだけど。」
「おはようございます。ビッグローズの葉の採集、ポジキノコの採集、アシッドヨモギの葉の採集で間違いないですね?」
「あぁ、間違いないよ。ところで、これらは全て同じ場所に生えてるの?」
「いえ、ポジキノコは南西部の森、アシッドヨモギとビッグローズは南東部の森ですね。期間は全て明日の昼までですが大丈夫ですか?」
「了解、大丈夫だよ、どうもありがとう。」
笑みが少々眩しかった。無事受注できたので、ギルドをあとにしようとし、ふと掲示板を見る。Aランクの依頼は、この都市は平和なため少ないのか、隊商の護衛くらいなものだった。Bランクは2つほど、1つは稀少アイテム採集と大きく書いてあり、もう1枚はフレイムドラゴンの幼生の討伐というものだった。ドラゴンなんかもこの世界にはいるのか、と感動しながらギルドを後にする。
ギルドの前の市場は、朝ゆえか、ほぼ開いていなかったが、早朝から都市を出る冒険者用だろう弁当が売っている。今日の昼のことを考え1つ購入、1大銅貨、中身はライ麦パンの中に青い葉を挟んだもの。100円だからな、と自分を納得させ、アイテムボックスに入れる。どうやらアイテムボックスは、生物と液体そのまま以外なら入るようで、収穫済みの野菜や調理済みの食材は入れることができる。露店から離れ、大南門へ向かう。
武器も何もない、防具も来ていない、あるのは自分の魔法とテンとシェム、生まれて初めての冒険が、始まる。
植物の名前を変更 ハーブ→ローズ
下調べが甘かったとしかいえないので反省
2013-3-9改稿
2012-11-24修正




