136
街道になんとか辿り着く。止血をしたといっても、傷よりも上部の血管を圧迫しただけだ。それにその止血でさえ完璧な物とは言えない。どんなにきつく縛ったと言えど、鎖帷子を無理矢理押し上げた都合上完璧に血流をシャットアウト出来ていない故に。右腕からは少しずつだが血液が漏れ出て、赤く染まった服を濡らしていく。頬を滴る血液は鎧の肩口の布を朱く染め上げ、金属部には血液が流れた跡が下に下にと続いている。
街道、シンシアから伸びた平坦に整備された道、ヴァーミリオン大帝国西部に通じるこの街道は人通りが少ないわけではない。1時間のうちに2組か3組は通るだろう道。それ故にかつては結構な頻度で安全を確保していたため、モンスターたちも今ではここを横切ることは少ないという。完全に縄張りというものを植え付けられたのだろう、いやそれは自分たちとて同じこと。この世界の街道の多くはそのようにモンスターの縄張りに入っていないそうだ。
足の下に感じる踏み固められた土、視界遠くに見えるシンシア。とりあえず目標は達した、まだ細かい作業も残っているが最優先は治療。ガルムの怪我の大部分、つまり皮膚の擦り傷程度ならポーションをかけるかトリスの光魔法で回復することだろう。その程度ならば、自身の持つ治癒能力を活性化させることで十分対処が効くのだろうから。
トリスはガルムの肌にポーションを振りかけ、塗り込んでいる。光魔法も同時に使用しているのだろう、ガルムの体についた傷跡がだんだんと塞がっていくのが見える。塞がる、そういっても大きな瘡蓋がすぐにできるというだけ。そこから中の皮膚が再生し、瘡蓋が剥がれるのはいつのことか。ただポーション等の影響で数倍、数十倍の速度で治癒するために明日か明後日には剥がれていることだろう。それは自分の頬の傷にも言えることだ。恐らく倒された衝撃でホルダーから外れたミセリコルデを手探りで探し当て、それを使って顔に張り付くモンスターを殺した。ただ、ミセリコルデの鋭い切っ先はモンスターの体を背中から貫通させるだけではなくそのまま頬に突き刺さってしまったというわけだ。
舌で頬の傷跡の周りをゆっくりと舐める、口の中には血の味が広がっている。恐らく貫通している、ただ外から見てぽっかりと穴が開いているということはないだろう。舌が上奥歯に当たった瞬間痛みが走る、奥歯に生じる激痛と口の中に転がる異物。妙に硬いそれ、味は血の味がしていてわからない、左手に吐きだして確認する。1センチほどの白くて硬いもの。金属が思いっきり当たったのだろうか、少し凹んでいる箇所があるそれ、あぁこれは知っている。自分の奥歯、それがころころと手の上に転がっていた。舌で確認すると、たしかにそこだけ歯がない。頭の中を占めているのは腕からの痛みと頬からの痛みなのでこれが抜けた痛みは誤魔化されているのだろう。ただ本当ならばそこが原因の痛みが走っているはずだ。
左前足を引き摺りつつも器用に3本の足で歩くガルムと少しばかり疲れたような表情のトリスと共にシンシアに向かって歩く。テンとシェムは転移陣の中、治療が必要なガルムはまだ外にいる。折れた足、それはトリスの光魔法のレベルでは残念ながら足りないだろう。そのままでも治りはするだろうが、変形されてしまっては後に関わってくる。自分の右腕にしても同じ。激痛が相変わらず頭を支配し、どこからか吐き気もしてくるようになった。
大分血が出てしまったようで、1歩1歩が心もとない。見かねたトリスの肩を借りつつも、一刻も早くシンシアへと向かう。恐らく、自分が歩いた街道には数メートルに1つ程度の割合で血痕が滴っているはずだ。ステータスを見るとHPは2300/7500、街道にでるころは 2600/7500だったのを考えると、確実に消耗している。久々にここまで体力を削られた、大量のオーガを襲撃したときでさえここまで体力は減らなかったのだから。
でもよかった、今回の襲撃に成功したおかげで指定された21種の上級最上位モンスターの内の2種を討伐することができた。レッサーデビルとレッサーエンジェル、あと1種は同じくシンシア西部森林に出没するというプロールスケルトンを討伐してそれの核である球を手に入れればいい。死した冒険者の死体が憎悪と共に復活した結果がそれだという逸話も残るプロールスケルトン、骸骨の用であって、様々な武器を持つそれは北部森林の様々な場所に出没するという。出会えるかどうかは運だが、それさえ討伐してしまえばほぼSランク。アグリーベアは特級下位の中でも下から数えたほうが早いような実力らしいが、それでも特級下位。部屋に置いてある頭とともに今日の成果の内1つずつを提出すれば、あと1つとレベルが規定値に達し次第Sランクになれる。さすれば恐らく楽々と金が稼げるようになるだろう、ただそこまでレベルが上がったとしても特級中位モンスター相手には苦戦を強いられるのだろうが。
病院に辿り着く。種族を重視しない砦らしく、使役するモンスターの治療も行う病院、確かに客層は様々だ。そして激戦区なだけあって、皆力強さを全身にたたえ、そして無残な傷跡を体に遺している。
伝えられたのは1か月の安静、そして良いニュースと悪いニュース。ガルムの左前脚は何の問題もなく治癒するだろうとのこと。それは自分の頬に関しても同じ、そのかわりガルムは添え木を着けてゆっくりとしていなければならないらしいが。
悪いニュースは自分の右腕に関して。骨は砕け、血管と神経、筋肉はぐちゃぐちゃに混ざってしまっていた。鎧と鎖帷子が破損しひしゃげ腕に突き刺さり、圧迫した結果がそれだ。唯一の救いは治療はできるということ。但し、元のように自由に動かせるかはわからないとのこと。傷跡は確実に残るだろうし、日常生活にも不便が生じる程度までしか治せない可能性があるということ。
倒れそうになる、それを支えてくれたのはトリス。何とか礼をいい、金を払う。傷が酷い為、少しの間は病院に泊まらなければならないそうだ。
白い部屋、柔らかいベッドに横たわる。右腕は横の台に横たえられ、木々でしっかりと固定されている。トリスに成果をギルドに提出してもらうように頼み、ゆっくりと眼を閉じる。
Name: アスカ
Title:
Unique Skill: <魔力増大>
Skill: <召喚魔法レベル1><闇魔法レベル3><火魔法レベル3><水魔法レベル2><MP回復速度上昇><共通語><全能力強化><鑑定魔法><鑑定魔法妨害>
Level: 205
HP: 2400/7500
MP: 41300/45500
Constitution: 75
Wisdom: 455
Strength: 20
Intelligence: 440
Quickness: 40
Bonus Status Point:
Bonus Skill Point: 5
Name: トリス(イミテーション・ハイ・ヴァンパイア)
Title: <半死半生>
Unique Skill: <自己再生>
Skill: <光魔法レベル2><吸血衝動><HP回復微><MP回復微><全能力強化><鑑定魔法妨害>
Level: 177
HP: 6000/6500
MP: 6250/7500
Constitution: 65
Wisdom: 75
Strength: 30
Intelligence: 65
Quickness: 30
Bonus Status Point: 0
Bonus Skill Point: 4
テン(ヘルフレイムスライム) Level:195
シェム(アンデッド・フェアリー) Level:200
ガルム(ブラックウルフ) Level:197
トリス(イミテーション・ハイ・ヴァンパイア) Level:177
第7部完
10話程度追加で書き溜めたいので数日お休みします




