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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 こちらの敵意に反応したのだろう、妖精を盾にした悪魔と天使がこちらにむかって飛びかかってくる。伏せようとするトリスを片手で押し倒しつつ、前方にフレイムウォールで壁を作る。後ろにいた奴らに向けてガルムが地面を蹴る。視界の端に写っていた巨狼が消え去ったのを確認するが早いか、左側には黄色の煙が。右手から来る妖精をダークソードで切り落とし、返し刀で後ろにいるレッサーデビルを切り上げる。こちらに向けて伸ばす片腕を両断し腹に刺さる刃、もう一度顕現させた刃で脇腹から肩まで斜めに切り裂く。2つに分断され落ちるレッサーデビル、走り寄ってきていたレッサーエンジェルをヘルフレイムが覆う、そこに直撃するフレイム、テンのだろう。フレイムランスをそれに向けてもう一発放つ。

 瞬刻、右腕に纏わりつく何か。レッサーエンジェルの小さな両手が自分の右腕に纏わりついている。細長い指は鎧ごしに右腕を覆っていて、そこに追加で8本の指が巻きつく。両手両足の指が巻き付いた右腕はさながら紐でぐるぐると巻かれた棒のようで。


 「っ痛」


 みしみしと鎧が呻く。右腕に走る強い痛み、思わず左手に持っていた杖を取り落す。天使の口が大きく開き、中からギジギジという音が漏れ出ている。鎧は悲鳴を上げ、変形しているのが触覚でわかる。右腕を絞める痛みは増し、何かが突き刺さったような痛みも増していく。左手で天使の顔を掴む、こめかみ辺りを中指と親指で締め付けつつ腕から剥がそうとする。

 後ろのほうでは狼の呻り声とギジギジという音、落ち葉を巻き上げ木々を揺らす格闘音が聞こえてきている。それに紛れて何かを叩きつけるような音、そして衝撃音と燃える音。左手に入れる力を増し、遮二無二頭を振り回す。そうもしている間に右手の感覚は遠くなり、右腕と左手を真逆のベクトルに引っ張ったり、ねじったり、どうにか離れないものかと振り回す。


 「糞ッ、死ねッ!」


 右腕の鎧は指のかたちにひしゃげ、そろそろ指が鎧の中に陥没してしまいそうだと錯覚するほど。頭をねじろうと、振り回そうとてレッサーエンジェルは離れることはなく、それでも我武者羅に首を捩じったり、上下に振り回したり。人差し指を目の中に入れるとギジジと大きな声を上げる。中に入れた人差し指を無茶苦茶に動かし、その間も右腕を振り回す。どうやら首に入っていた力が抜けたのか、ふと首を捩じった瞬間ゴキリと言う音。左手の中で抵抗していた力がなくなり、手を離すと頭がぷらんと後ろに倒れる。首を折れたようだ、右腕に絡み付く動かなくなったレッサーエンジェルの指を外そうと指を掛ける。

 力強く巻き付いていた指を1本外した瞬間、もう一度入る力。突然のことに理解が追いつかず、右腕をまたも振り回し、それでも力は強く入り続ける。引いていた圧迫感がまた強くなり、体内から聞こえてくる右腕のみちみちという音。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」


 みちゃり、そういた表現が正しいだろうか。鎧の奥からその音が聞こえた瞬間、凄まじい痛みが脳を支配し、そして右腕から伝わっていた痛みが半分なくなる。左手で巻き付く指ごと右腕を抑え、蹲る。鎧の間から血が流れ出始めて、残った痛みから全てを察する。巻きつく指の間のどこかで右腕の骨が限界を迎えたのだろう。

 膝立ちになり、痛みの赴くままに右腕を振り回す。振り回す腕に合わせて、折れた首がぐらぐらと自分をあざ笑うかのように揺れる。首が折れても死なないのか?そんな疑問を浮かべつつも、痛みをこらえつつ立ち上がり、木々のほうに歩いていく。痛みが半分になったおかげで、感覚がなんとなく麻痺してきたおかげで何とか歩ける。目の前からこちらに飛んでくる妖精を左手で捕まえ、イライラを全てそこに叩きつけるように握りつぶす。火事場の馬鹿力というやつだろうか、ぐちゃりという音と共に手の中で妖精の胴体は潰れる。投げ捨てつつ、木の幹に右腕を叩きつける。

 痛みを感じないというのはいいことだ、幹と腕とレッサーエンジェルが互いにごつりごつりと音を立てる。遠心力を利かせつつ思い切り幹に腕を叩きつけ続ける。その度に口から声が漏れるほどの痛みが伝わってくるが、それでも叩きつける。

 その時、頭に衝撃が走り、バランスを崩し倒れ込むと同時に視界が黒く染まる。顔に生暖かい何かが押し付けられ、そして頭が締め付けられ始める。何か、そんなことを考える事もせずに左手でそれを掴む。触感でわかる、レッサーデビルかレッサーエンジェルが頭にしがみついてきたのであろう。丁度掴んだ羽を引きちぎり投げ捨て、地面をまさぐる。暗くなっていたはずの視界が赤く染まり始める、口は鉄の味が溢れ、頭は割れんばかりに痛む。丁度左手は何かを見つけたようで、それを顔にしがみつく生物の背中から突き刺す。


 頭部を襲った痛みは一気に消え去り、そして頬に鋭い痛みが新たに生ずる。左手でそれを引きはがすと、先ほどまでしがみついていたそれは嘘のように簡単に取れる。抵抗もせずに、力の抜けたもの、引きはがす際にまた頬に走る痛み。視界が一気に明るくなる。

 左手を支柱に立ち上がり、周りを見回す。自分たちを囲んでいたレッサーデビルやレッサーエンジェル、スレイブド・フェアリーは既になく、周りには死骸となったそれらが転がっている。目の前にはミセリコルデが背中に突き刺さったレッサーエンジェル。視界の奥にあった泉、その周りの巣にいたはずのモンスターはいなくなり、右腕に纏わりついてたモンスターももう既に息がない。トリスはどうやら無事なようで、脱ぎ捨てたのであろうローブを叩いている。


 「無事か?」

 「ええ、なんとか。ただローブを買い換えたいわ。」


 こちらに顔を向けずに、必死になってローブをはたく。よく見ると、潰れた妖精が傍に落ちていて、ローブには臓物だろうか様々な物が付いている。恐らく踏みつぶしたのだろうか。テンは傷もなく、シェムも問題はなさそうだ。ガルムは所々の毛皮を毟られ、皮膚か筋肉か、赤い物が覗いている。左前脚を引き摺っている、折れたのだろうか。

 左手で腕にしがみつく死体を引きはがす。見えてきたのは血みどろの鎧と前腕、肉が覗いていて今もぼたぼたと血が滴る。


 「トリス、手伝ってくれ!」


 トリスを呼び、布で上腕あたりを強く縛る。心臓の鼓動と共に頭は強く痛み、腕は疼き、正直言えば立っているのですら辛い。座り込み、頬に走る痛みを、頭痛を、狂いたくなるような腕の痛みを耐えながら左手で死骸をかき集める。トリスにも頼み、羽だけ毟る。本当ならば解体をしたいのだが、それをする気も起きない。妖精の死骸は羽を切り取り、瓶の上でそれを絞る。ぽたぽたと小さな瓶に滴る液体。小さなインク瓶ほどの瓶は5匹、10匹ほどの液体でいっぱいになり、レッサーエンジェル、レッサーデビルの翼とともにアイテムボックスの中に突っ込む。

 とりあえず、街道にでよう。痛む体を引き摺り、ふら付く体をトリスに支えてもらいながら街道に向かって歩く。

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