表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
132/239

132

 ハイ・フォレストシザーマンティスの焼けた臭いが一帯を覆う。腕にかかった緑色の液体を振り落としつつ、死体から損傷の少ない鎌の部分を切り離す。森に射す僅かな日光でさえ反射して鈍い光を放つその鋭い刃は、フォレストシザーマンティスのものが酷く弱弱しく見えるほどの。上級上位から最上位に属するモンスター、しかしながら火に弱く、ヘルファイアを十数発打ち込めば弱り果て動けなくなる蟷螂。元は森林に隠れられる様だろう、抹茶色を暗くしたような体色は既になく、なんとなく黒く焦げている死体が2匹ほどころがっている。取れる鎌は4本、他にもその薄羽にも価値はあったのだが、残念ながら燃えていて使い物にならないだろう。

 突然変異したフォレストシザーマンティスを思い出す。アレは下手すると特級下位、下位種であるというのに上位種を超える力を持つとは、確かにあの鎌は今のこれに匹敵するだけの鋭さを持っていたと思い出す。それが4本腕になるのだ、上位種を超える力を持っていても不思議ではないだろう。そして確実にハイ・フォレストシザーマンティスよりもタフだ。あの頃はまだ知能の値も低く、1魔法あたりの攻撃力も低かった、それでも数十発耐えたあの蟷螂の耐久力はどれだけ飛びぬけていたのだろうか。今、いくら攻撃力が上昇したと言えども10発程度で落ちる蟷螂と比べたらいけないのかもしれない。


 鎌をアイテムボックスに仕舞い込み、森の中を歩く。ガルムが先行し、敵を索敵する。シェムは上空から全方位を索敵、テンはトリスと共に自分の後ろ。ガルムが一吠え、杖を持つ腕に力が籠もる。数メートル先を進んでいるガルムの頭の先にはこちらを向いている巨大な獣。フォレストセンチピードロードや果樹を主食とする雑食の獣。蟷螂でさえも襲い殺すこの森でトップクラスの巨体を持つモンスター、アグリーベアが居た。番だろう、メスと思われる小柄な熊は後ろを進む小熊を背中に、オスであろう大柄なほうはこちらに向けて威嚇の咆哮を。いや、あれは威嚇ではなく獲物を見つけたという歓喜だろう。オスは特級下位に位置するアグリーベア、下あごが妙に発達し下半身が異常に大きい不格好な熊、しかしその力はこの森の中でトップクラス。森に入るようになってから4日目、こんなのに会うとは運が良いのか悪いのか、距離は20メートルほど、ガルムらに指示を出す。


 「シェムはメスの動きを見てろ、ガルム頼むぞ、テンは護衛。」


 森に響くような大音声を上げ走ってくるオス熊、メスは後からくるのだろう、戦闘力では劣っているのだから。不格好故にそこまで早くない、それでも人間よりかは速い速度で近づいてくる球磨の足元に向けエクスプロードを。

 爆裂する地面、そこに重なるグラビティ、それでも熊は直進してくる。簡単にこけてはくれないらしい、その不格好な下半身で衝撃を吸収してしまったのか。それでも少し遅くなる動きに合わせてガルムが咬み付く。迷わず首筋に、そして振り回され弾き飛ばされる。木に叩きつけられ、それでも尚立ち上がるガルム。こちらに向けられていた視線がそちらに向かうのと同時に直撃する火球。ヘルフレイムを2発、毛皮故にほとんど効果がないのかただこちらに振り向くだけ。チラと一瞥した後ガルムの方向を向いて立ち上がる。森の中に居て尚わかる巨体、3メートル近くあるだろうか。威嚇をしつつ、吠え続けるガルムが飛びかかる。

 それを見つつ駆け寄りながらもヘルフレイムを連打する。ほとんど効果がないのだろうか、脇腹に直撃しても別段気にした様子もない。腕に咬み付く狼、それを片腕で叩き放り投げる。そのまま噛み砕くのではなく、嬲り弱らせてから食うのか。顔面にヘルフレイムを、そして足元にエクスプロードを。ガルムの腹を裂いたであろう爪の一撃あ衝撃で掠る程度まで落ち込み、そしてガルムの腹に4本の傷を残す。顔面を抑える様な動きをしたあとに此方を向く熊、どうやら効いたらしい。

 直立しながら近づいてくる熊にヘルフレイムを叩きつける。顔面に当たっていても尚直進してくる熊に恐怖を覚えつつ、後ずさり始める。後ろからも火の玉が飛ぶ、テンのだろうか。そして腕が振るわれる。


 衝撃が来ることを予見し、腕を丸めていてもそんなものは障害にもならなかった。軽く弾き飛ばされ、近くの木に背中から強かに打ち付けられる。肺が一瞬潰され、息ができなくなる。


 「ぁ……はっ……」


 ゲホゲホと咳き込みつつも、痛む頭を行使し熊に火球をぶつけ続ける。こちらに近づいてくる熊、後ろからガルムが首筋にかみつく。流石に腕は後ろに届かないのか、体を振り回す熊、その腹に向けダークランスを投げつける。意識が半ば朦朧としつつも、数発投げつけたところで熊が前に倒れ込む。



 呼吸を整え、木を手すり代わりになんとか立ち上がる。メス熊と小熊はどうやら逃げ出したようで、残るのはオス熊の死骸のみ。左脇腹に痛みが走り、ヒビでも入っているのだろうか。右頬には木がつき刺さり、血が流れている。腹から血をにじませるガルムが近づき、トリスの治療が来るだろう。

 木の陰に隠れていたトリスを待たずに熊の首を落とす。頬に感じる暖かな感触、トリスの魔法だろう。


 「先にガルムを、俺は解体する。」


 血を啜り鋭利になったナイフを仰向けにした熊の腹に突き立てる。よく見ると毛皮が焦げていて、向こうがやせ我慢をしていたであろうことをうかがわせる。ただ死因は腹に突き刺さったであろうダークランスの1つ。確かに首筋からはガルムの牙が付けた大きな傷跡があり血が流れ出ているが、腹を裂いたときに原因がわかったのだ。

 肋を無理矢理こじ開けると、臓物は血に塗れていた。恐らく1つが肋の隙間からどれかの臓物に突き刺さったのであろう。確かに肋に守られていない腸と思われる臓物からは穴が開いていた。よく見ると、心臓であろうものにほど近い血管が破れていた。これが死因だろうか。無事そうな臓器の中で、とりあえず膨れ上がった胃と胆嚢だと思われるものをいくつか取り出す。どれがどれかわからないが、どれかは正解だろう。

 次に熊の手をダークソードを1つにつき2回使って切り落とす。肉球は珍味になったような、そんな記憶がある。確か討伐証明は手1つ。足も切り落とし、全て袋に入れる。

 あとは肉と毛皮。どうやって削ごうか。どうしても全身を持って帰るのは無理だろう。毛皮は翼れるらしいのだが、こう焦げてしまった箇所があるのではなかなか難しいだろう。とりあえず、上半身から首までの毛皮を剥がす。先ほどの咆哮のせいで圧倒的強者である熊がいると思われる限りそうそうモンスターは近づいてこないだろう。

 30分程度、そのくらいの時間をかけて毛皮を剥がす。赤く、血管と筋肉と脂肪に塗れた肉体が吐き気を呼び起こすも、必死に耐える。

 そこから15分、必死に全身の毛皮を剥がし終える。残念ながら、所々裂け、かつ綺麗に取れたのは上半身だけ。下半身は中々大変で3つほどのパーツに分かれてしまった。それをまた袋に入れる。あとは肉をそぎ落とすだけ。ガルムに護衛をしていてもらいつつ足と肩、腹など肉が乗っている部分からそぎ落としていく。


 最後に残ったのは肉が所々結構ついた骨の塊。これ以上は自分の技術では少々難しい。骨を、特に太い物をいくつか袋に入れ、頭を袋に入れる。胃を裂いてみると、中から様々な肉が出てきた。虫、獣、何かわからない肉まで。

 他の内臓と割いた胃を持ってきた箱にいれそれも袋に入れる。それをまるまるアイテムボックスに

こちらのほうがパネル1つに収まり都合がいい。


 時刻は夕方に近いころ。狩りも終わるころにこんな大物に出会うことができて良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ