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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 馬車は進んでいく、森を越えて、丘を越えて。大きな川があれば橋を渡り、どうしても通れなければ迂回する。かれこれ出発してから20日。ヴァーミリオン大帝国にはとっくに入っていて、もう全行程の3分の2程度。街の数としてはあと5つ先が最北の砦シンシア。

 シンシアについたらやる事をトリスと相談する。


 トリスと自分、どちらの意見も一致したことはいくつかある。その中でも最優先のものは金稼ぎ。金がほとんどない、その状況ではやりたいことは全くできないどころか生活も怪しくなってくる。そのためしばらくは金稼ぎの為依頼を受注したほうがよさそうだ。具体的に言えば、家を1軒立てられる若しくは買えるだけの金がたまるまで。それまでは宿屋暮らし、その中で金をためることは少々大変だが、シンシア付近までくれば1依頼あたりの報奨金も結構上がってくる。当然難易度も高いので、しっかりとレベル上げしつつ、ランクを上げつつ金を稼ぐ必要がある。シンシアでは最低レベルの依頼がBランク、しかもBランクの依頼なんてほとんど見当たらないそうで、基本的にAランク以上のものしかないそうだ。それだけの難易度の依頼ばかりの中で、今の自分はどうにも力不足感を拭い去ることができない。レベルも300、400台まで上げる必要があるし、ランクもS以上にしておかないと依頼を受けていくうえで非常に危険だろう。そのことを考えると、今のように馬車でちゃっちゃと向かうのは少々失敗だったかもしれない。

 次に家を購入する。今のように放浪の旅をするのではなく、自分たちの家、帰ることのできる我が家というものが欲しい。わざわざシンシアまで来たのも、金稼ぎが楽である、地価が安いということも勿論ではあるが、何よりもシンシアの何でも受け入れることのできる街自体の器の広さだ。シンシアは人族最北の砦かつ魔の谷の前に位置する砦、つまり強力なモンスターが跋扈する北部からの浸食を食い止める最終防衛ラインである。故に大規模な戦闘は数多く、冒険者の入れ替わりが激しい。そういった理由、特に危険であるという理由から地価が安いのだ。それだけではない、モンスターを撃退、殲滅できる戦闘力を持った人々を重要視している街であるために部族問わずを開いている。つまり、魔族であろうと人族であろうとエルフ族であろうと、実力さえあればシンシアに住むことに何の問題もなく、人々は差別をしない。それは人族以外の場合に関しても同じ、どういう意味か。例え死霊使いの使役する死霊系モンスターであろうと、テイマーが使う虫系モンスターや獣系モンスターであろうと戦闘力があり人族を襲わない存在であれば誰でも差別を行わない。戦闘力こそ全ての街。そんな街ならばトリスであろうと関係なく住むことができるのだ。現に、意思を持った人族に味方する稀有なモンスターも3種ほどシンシアに居を構えているらしい。

 最後に今後の方向性。シンシアに居住し、金を稼ぐためにレベルを上げ自分を鍛える、それだけのことを行うならば、当初の予定を変えてしまおうというのが一致した意見。農業でもして慎ましく暮らそうと思っていたのだが、そこまで鍛え上げたあげく、激戦地であるシンシアに居を構えたのではそんなことをする余裕はないだろうということ。シンシアには農地が存在しない、いや存在できないのだ。確かに少しくらいはあるが、それでもほかの街に比べると非常に小さい。どうせ作っても戦闘の際に破壊されてしまうからだ。故に交易によって食料を賄っているのがシンシア。しかしながら恐らく今回の変化で一番得をしているのはシンシアのような気がしてくる。食料が増え、交易品も増加するのだから。そういった理由から、恐らくシンシアに居を構えた後も冒険者稼業をやっていくだろう。


 当然意見の折り合いがつかなかったものもあった。たとえば、自分はシンシアの近くにある遺跡に行きたい、これをトリスはあまり快く思わなかったのだ。前時代の遺跡、大陸中にある遺跡の中でも高難度を誇る遺跡は、失われた古代の技術によりその中が常時変動しているそうだ。それ故に未だ最深部に到達した者はいない。まずその面倒くささがトリスの嫌がる要因の1つではあるが、何よりも大きいのは出現するモンスターの種類。死霊系モンスターの中でも特に醜悪な容姿を持つものが多く出没し、それだけではなく虫系モンスターの中でも特に気色悪い容姿を持つものが多く生息するのだ。故にトリスは嫌がる。そんなところは年頃の女の子、ということなのだろう。貴女も結局は死霊系モンスターじゃん、とは怖くて言えなかったが。では何故自分はそんな気分の悪い場所に行きたがるのか。そこでは数々の希少なアクセサリーが発見されていて、美しく装飾された首飾りであったり、魔性の美を放つ指輪であったり。何を隠そうか、トリスを美しく飾りたい、彼女に美しくあってほしいという自分の勝手な気持ちから。最悪自分1人でも行こうとは思っている。

 では逆に彼女がやりたくて自分が難色を示したものにはどんなものがあるのか。たとえばガルム量産化計画。全く意味が分からない、最初自分が効いたときは自分の耳を疑った。よくよく話を聞いてみると、彼女はガルムのようなふわふわした手触りの獣系モンスターが好きらしい。ヴィヴィッドラビットよりも大きいくらいのものが好みで、進化前のガルムが沢山ほしいと言っていた。要約すると、自分にダークウルフをたくさん召喚しろということだろう。別に召喚魔法を行い大量のモンスターを所持及び使役することはMP的には何も問題はないし、自分の戦力が増強されるのでむしろ歓迎だと言おうとしたのだが、もっと詳しく話を聞くとそれにはどうしても認可できない事実が含まれていた。まず召喚するモンスターは狼や兎のようなふわふわもふもふとした毛皮を持つものに限るという点。次に戦闘には参加させたくないという。召喚したモンスターには戦闘という仕事を課すのは当然のことだろう。食事代にしても大量に召喚するとなれば馬鹿にならず、統率をとるのも中々大変だ。それなのにその仕事を課したくないという。残念ながら彼女にはそれを諦めてもらうしかない。


 拗ねた彼女を抱きしめ、機嫌が直るまで頭をなでてやっているうちにも馬車はシンシアに向けて進んでいく。

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