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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 カチャカチャと言う音と共に馬車に乗り込む。大きな、大きな馬車で、人が軽く10人近く座れるほどの馬車。本体部は金属製で非常に堅牢にできていて、車輪は木製。3台編成のうち、2台は人が乗る用、1台は貨物を運搬する用らしい。そこに大量に荷物を積み込んでいく村人たち。彼らは干物等の海産物や魚醤などを売ることで非常に大きな利益を上げているそうだ。

 乗る人が自分たちを含め5人と少ないので、3人組と自分たち、別々の馬車に乗る。広々としていて、横に寝転がることも可能なほど。1人1人寝転がれるようにスペースを広めにとるために、1台あたり6人程度しか乗らせないようにしているそう。長い旅路となる、たしかに延々と座ったままでは辛いだろうから。


 馬車に乗り込み毛布を広げ、一番奥に自分たちのスペースを確保する。どうせ魔の谷まで馬車に乗る、おおよそ30日弱、それだけ長くいるのだから一番奥をとっても文句は言われないだろう。そんなことを思いつつ、トリスと語らっていると馬車の扉が開く。後ろのみが開くような、トラックの荷台に屋根を付けたような馬車。どんどんと詰め込まれていく荷物、どうやら次の街、その次の街、そしてもう1つ奥くらいまでの商品を詰めるだけ詰め込んでいくらしい。一気に魚臭くなる馬車の中、少々辟易しながらトリスと顔を見合わせる。

 かなりの量を詰め込んだあたりで扉は締まり、御者台に2人座る。戦闘能力のある商人でもある彼ら6人は、交代で馬車を運転するそうだ。彼らが寝るのは御者台と自分たちがいるスペースの間にある小さな空間。そこで寝るそうだ。食事は馬車から降りて休憩の際にとるそうで。防犯は商人たち6人と馬がそれを行う。基本的に中の客に手伝いを頼むことはないそうだが、どうしても必要なときは助けてほしいと言われた。言われずとも助けるつもりだったが。


 当然、ここから街道を進む都合上、野盗が出てきたり、モンスターが出てきたりする。戦闘能力があると言えども本職は商人、そこまで期待ができないような気もするが、その点は心配いらないだろう。馬、馬車を牽く原動力でもある彼らはウルムス村に行く際に乗ったような馬とは全く別の存在と言っても過言ではないだろう。ハイ・バトル・ホースと呼ばれる種族のモンスターでもある彼らは上級上位、そこらの野盗では太刀打ちできないレベルの存在である。一般的に想像する馬よりも大きく、全高2メートル、全長3メートルにも達す巨大な馬。足は鍛え抜かれた男性の大腿部2つ分ほどの太さを持ち、たてがみは雄々しく長い。何よりも違うのは蹄だろう。普通の馬ならば蹄鉄を着けて歩かせるのだが、彼らは違う。その蹄は金属と思わんばかりに硬質化し、そして少しばかり鋭利になっている。これで蹴られたならば、胴体に風穴が開くと言われても素直に信じることができるほど暴力的なそれ。そんな彼らの馬力は凄まじく、故にこの巨大な馬車も牽くことができる。ただ気性が穏やかなので家畜に適しているそう。その分凄まじく値が張るらしいが。


 ガタガタと馬車は走り出す。衝撃が来ると思って身構えていたのだが、思ったよりも振動は少ない。無いわけではないが、酔いとは無縁と思えるほど弱弱しい。どういう素材をクッション代わりに使っているのか、企業秘密なので教えてはくれないと思うが知りたいものだ。今までに乗った中で最も心地よい馬車であることは言うまでもなく、下手するとこの前の船よりも揺れない。

 トリスは自分の肩に咬み付き、血を啜っている。これから人が乗ってきた場合、毛布で隠したりするとはいえ中々難しくなってくるだろう、故に先に啜ってもらっている。毛布にくるまり、抱きしめるようにして行うことは何よりも恥ずかしい。同じ馬車、さほど距離も離れていないカップルがイチャイチャと抱き合っていたらあなたはどう思うだろうか、考える必要もないだろう。

 とろんとした目でうとうとしているトリスの頭を肩に乗せ、馬車の小ぶりな揺れに身を任せ目を閉じる。ここから30日ばかりの長い旅路に思いを馳せながら。



 「アスカ?アスカでしょ?」


 港村から2つ目の街、自分たちの乗る馬車の荷物がほとんどなくなって来たころ。村を出発してから7日、新たな乗客が自分たちの馬車に乗る。3人組の冒険者、女が2人に男が1人。小さな盾と片手剣を腰に背負う女、杖を持つローブ姿の女、弓を持つ男。そのうちの片手剣を持つ女が自分の名前を呼ぶ。

 誰だろうか、頬に走る大きな傷跡は右目元から顎の下までざっくりと。唇の一部はそれにより欠損している。茶色の髪に化粧気のない顔、そしてこの声。


 「サラか?」

 「そうよ!忘れたの?」


 あぁ、ハルニレ大森林で共に戦った女冒険者。なんという巡り合わせだろうか、たしかに向こうは北に行くと言っていたけれども。


 「元気してた?」

 「あぁ、そちらこそその傷どうした?」

 「うーん、ハイ・フォレストオーガにざっくりやられちゃってね。そちらの女の子は恋人?」

 「妻のトリスです。」


 トリスが挨拶をする。軽くサラの説明を。元々ハルニレ大森林での話はしていたのですぐに通じる。しかし目線になんとなく嫉妬のような、不機嫌さのような感情が見え隠れしているのは見間違いではないだろう。肩を抱き、サラに説明をする。


 「あの時言っていた約束の相手だよ。」

 「あぁ、婚約者さんね。それにしても、仮面なんてどうしたの?」

 「怪我さ、ざっくり頬をやられた上に火傷もあってね。あまり日光なり視線なり、有害なものに晒したくないんだ。」

 「大事にされてるのね。いいなぁ、私もこの傷があっても好いてくれるような男性に巡り合いたいわ。」


 久々に会ったサラと世間話を。彼女たちは次の次の街までという短い区間を移動するために、丁度街に来たこの馬車に乗り込んだらしい。随分と運が良いこともあったものだ。これだったらランツにもどこかで会えそうな雰囲気だ。

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