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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 船の屋根の下、木張りの床に布を敷いて横になる。海面は凪、白波すら見えず、風が窓を開けた扉から入ってくる。隙間から漏れ出す日の光で船の中は気持ち明るく、商人は内職だろうか、延々と自分の隣で作業をしている。石を金属の土台に括り付け、金属でその周りを覆い、そして紐をつける。ネックレスだろうか、ほぼ揺れない船、座る彼の横には箱が4つほど。3つの箱には材料が入っているのか、そしてできあがったものはもう1つの箱に入れられていく。全身をローブに包んだ男は船の片隅で座り込み、そして寝込んでいる。農民のような3人組は船の甲板の上で釣りをしているようだが、あまり成果は芳しくないようだ。ここ数時間、彼らが釣り上げた姿を見たのは1人当たり片手で数えられるほど。冒険者のような5人組は黙々と賭博をやっている。最初は騒ぎ、酒を片手にやっていたのだが、眠りの邪魔をされて怒るローブ姿の男に一喝されてからは黙々と。

 船乗りは2人、2人して酒を飲みながら釣りをしている。彼らにしてもその竿が振動する回数は圧倒的に少ない。彼らが釣った魚は彼らが食べる、金を払えば自分たちも食べれるのだが。どうも日本の魚事情と同じように、鱗を剥ぎ内臓を掻きだした後は刺身にして食べている。食べきれなそうな量釣れた場合は開いて甲板に置かれた檻の中に。魚醤につけて干しているところをみると干物にしてあとあと食べるのだろう。それか港にて売り払い稼ぎの足しにでもするのか。確実に船乗りのほうはそのつもりで乗っている、随分と捌くのが上手い。


 自分はトリスとともに床に横になり、日がな1日ゆったりと寝て過ごしている。これで3日目、もう少しすれば港につくだろう。外の光景はもう見飽きた、安全な船旅をゆったりと謳歌している。それでもチラリと視界に入ってくる、窓の外の光景。東側は遠くに大地、巨大な山脈の真横を通っている。西側は緩やかな丘のようになっていて、つまりはこの巨大な湖がまるで谷底のような感覚を覚える。恐らく、この湖は遥か昔、山脈ができた頃にはなかったのではないだろうか。何か、天変地異なりなんなりが起きてここが形成されたように感じる。

 船旅の最初のほうには冒険者に賭博に誘われたりもしたが、あまり金もなく、見ず知らずの集団と賭博なんてやる気も起きずに適当にあしらった。商人とは適当に挨拶を交わした程度。ローブ姿の男は基本的に人と干渉しようとすることはなく、船乗りもこちらと話すなんてことはほとんどない。農民3人のうち2人とは挨拶、もう1人は何を考えたのかトリスを口説いてきた。


 「お嬢ちゃん、こんないつ死ぬかもわかんないような男はダメだ。俺ぁここらでも指折りの豪農でね、どうだい?なぁなぁ、その仮面の下見せてくれねえか?べっぴんなのはわかってるからよぉ。」


 わきわきと手を動かしながら話しかける農民に対するトリスの言葉は1つ。


 「結構です。」


 長々としたお断りをするわけでもなく、明確な拒否を示した言葉1つで農民を叩きのめす。随分と攻撃的だな、とあとで笑ったものだ。



 それから1日弱、昼前に北部の港に着く。ここはヴァレヌの飛び地、湖北部のこの村周辺地域の身ヴァレヌの領土だと船着き場の受付の男は言う。そこからでればフクシア公国。元ヴァーミリオン大帝国セキ州であるこの国は、かつで大帝国に対する民衆の不満がたまり爆発しかけていた。そこで第3次魔の谷越境作戦撤退戦で殿を見事に務め撤退を成功させたフクシア伯爵の健闘を称える名目でセキ州を与えた。フクシア伯爵はその活躍をもってフクシア公爵となり、フクシア公国を建国しそこの自治を任せる、というセキ州の事実上の独立であった。当然独立することのできたセキ州の民衆は歓喜し、そして戦闘に駆り出されるほどさほど重要視されてこなかった公爵は自分に課せられた歴史に残るほどの大きな責務に対し誇りを持ち全力で当たった。一方ヴァーミリオン大帝国側にも利点はある。独立を声高く叫ぶセキ州の民衆、その独立の流れが他にも伝播してしまえば非常に厄介なことになる故に早急に手を打つ必要があった。それに加え、予想外の活躍を見せた公爵、日陰者であった彼だが、活躍に応じた褒賞を渡さなければ他国に対する示しがつかず、不用意に動けば他の貴族の反感を買ってしまう。故にこのような対応、両者にとってwin-winのところに落としたわけだ。

 

 船着き場の受付で馬車の確認を。前情報とは少しずれて、翌日に馬車団は来るようだ。受付で金を払う。一緒に乗る人はもう1組、3人組の冒険者だそうだ。途中の停留所もとい宿場村や宿場街でほかにも幾人か乗ってくるかもしれないそうだが、どんなに増えても馬車3つ分以上にはならないだろう、つまりは20人程度が上限というわけだ。


 「では明日の朝8時、この村中央の日時計が8の字を指した頃出発ですので、遅れずにきてくださいね。」


 そう告げる男に礼を告げ、船着き場を後にする。

 そのまま出発できればよかったのだが、暇になってしまった。まあいい、今日もゆっくりしようじゃないか、そうトリスと相談する。村に1つしかない宿の空き部屋を確認し、1つ予約する。夕方、晩飯の時間には帰ってくると言い残し、ピクニックにでも行こうじゃないか。




 酒を購入し、そのまま浜辺に向かう。エメラルドブルーの水面に、白みがかった黄土色の砂浜。ある程度波打ち際から離れたところからは雑草が生え始め、そのまま平原へと繋がっている。砂浜に布を敷き、昼食を広げる。ゆっくりと打ち寄せる波を見ながらの昼間からの宴会、2人だけの宴会。火で炙った干物を齧り、酒を飲み、干し肉を喰らう。少し村から離れた浜辺なので、ガルム達も呼び出しゆったりと。生肉を齧るガルム、湖の水を吸い取り満足げなテン、シェムは空を飛びまわっている。レベルも相当ある、勝手に飛んでいてもそうそう問題は発生しないだろう。何かがあったら自分のもとに帰ってこいといいつつ、トリスと布の上に横になる。昼下がり、日光は爛々と降り注いでいるものの、村で借りた大きな日傘のお陰で問題ない。日陰の下、暖かな陽気と爽やかな風、そして何よりも浜辺に打ち寄せる波の音を枕に心地の良い眠りへと誘われていく……

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