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或る世界の軌跡  作者: 蘚鱗苔
7 北上-地球人と変革-
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 騎士団領に入ってから1日、木の根元、枯葉の影に隠れたキノコを採集する。アオキノコ、形はシイタケのようで、ただ傘が少し大きい。ひだは厚く、そして柄は細い。ひだは柄との境目辺りまでなだらかに膨らんでいて、山なりになっている。柄は白く中空で、傘の色は青。青といっても、真っ青なのではなく群青色、それも非常に薄い物。トリス曰く食用、故に彼女の指示で10本ほど捜し歩く。

 大きさ12、3センチほどのものが食べごろだそうだが、なかなか手ごろな大きさのものが見つからない。時おり齧られたような柄だけが残るものもあり、モンスターが食べているのだろう。ヴィヴィッドラビットもついでに3匹ほど確保しておく。

 歩いているとオーガの死体が転がっていた。ただ、自分の知っているオーガよりもより筋肉質で、そして牙が長い。体形はほぼ変わらないものの、オーガスの死体のほうは確実に大きい。リーダーと思われる死体の角は鋭利で、2本に増えている。これがハイ・フォレストオーガにハイ・フォレストオーガスメイジ、そしてハイ・フォレストオーガリーダーだろう。転がっている死体は全部で8体、そのうち3体の腹部には刺されたような傷跡があり、背中までしっかりと貫通している。2体は体中に傷を残して血まみれになっていて、残り3体は焦げ付いていたり、頭と体が離れていたり。どうやら冒険者が討伐したらしい。ただ、結構な時間が経っていることは固まりかけた血が教えてくれている。見たところパーティーは3、4人というところだろう、地面に足についたであろう血の跡が断片的に3人分ほど残っている。ただそれも1メートルか2メートルほどで消え去っており、彼らがどこに向かったのかは検討が付かない。歩いてるうちに会えたら、様々な情報を聞ける可能性があるので心強いのだが、と思い名がら森の奥地へと歩みを進める。



 夕食、トリスが楽しみにしているアオキノコをまず食べることにする。これが本当に食べれるものなのか半信半疑で火に炙って口に入れて見たが、なかなかどうして美味である。シイタケのような触感で、汁気が少ない。水分を含ませたうえでもう1度炙って齧ってみると驚いたことに全然味が違う。長くつけてもいないのに味が水分と共に口に広がる。じんわりと広がる出汁の味、今までほとんど同じものを食べていた舌が驚く。日本で食べていたしいたけを思い出す、1口齧るだけでその濃厚な旨味が口を満たす。何と美味しいことか。

 残りのキノコの内、4本を水につけた後火にくべる。そして残りの4本を水を張った鍋に入れる。出汁替わりに使ってしまおうという考え。干し肉と野菜も入れ、沸騰した時点で塩を加える。そしてもう1煮込み、その後火から離してもう味を調える。


 器によそい、トリスと共に食べる。さっぱりとした味わい、それでいて今までのただの塩水のような味わいではなく、しっかりと出汁が利いている。炙ったほうは肉、野菜とともにパンに挟んで食べる。ただのサンドなのだが、これすらも今までの味とは確実に違うように思える。何と素晴らしいんだろう。


 「美味いな……」

 「えぇ、味に方向性が増したわね。今まではどうにも単調な味だったから。これもしっかり採取していきましょ?あとはハーブね。」


 ハーブ、香辛料となる葉や実達。欲しいのだが、ここらの動植物はトリスもあまり詳しくなく、故に手を出していない。もともとキノコさえもトリスでさえほぼ知識を持っていないのだが、その中でも数少ない知識に運よく該当したのだ。


 夕食を終え、体を拭ったところでトリスの補給に。下着を脱ぎ、肩を露出させる。場所はいつもと変わらず首の左側。そこをトリスに差し出し目で合図をする。どうも待ちきれないと紅潮した顔で待っていたトリスは、お預けをされた犬のように自分の肩にむしゃぶりつく。首筋が舐められ、そしてチクリとした痛みを。またも舐められている感触、やっと慣れてきた。

 たっぷり傷から血が出なくなるまで舐められ、その間中暇な自分はトリスを抱きしめる。水浴びしかしていないというのに感じる甘い匂い、これはどこから来るのだろうか。ひんやりとした体を抱きしめ、その柔らかさを感じる。ふれあっている胸からは鼓動を感じ、ぴちゃぴちゃとした音を肌で聞く。やっと終わったのか、トリスは口を離す。布で拭って後始末をして、2人して毛布にくるまる。ガルムの腹を枕にして眠りにつく。

 吸血をしたあとのトリスはすぐに寝付く、一体何がどう作用しているのか。命の象徴である血を摂取することで仮初の命を形作り、死した体に仮初の生を吹き込むらしいが、本当にどういった仕組みなのか。

 彼女の体を流れている血はどうなっている?

 心臓が動いていたということは何を体中に運搬している?

 自分の血か、彼女の血か、それとも別の何かか。呼吸はしていて、食事を食べているということは消化機能もしっかりと活動しているようだが、何のために?

 それも命を摂取することで云々というわけか?

 何よりも、体は腐らないのか?

 発汗などの代謝活動はしっかりとされているのだろうか、そして新しく細胞はできているのか?

 仮初の命はどこまで都合のいいものなのか、それを詳しく知りたい。残念ながら、イミテーション・ヴァンパイアに関する記述のある書物はネリカに存在しなかった。ヴァンパイアにしても、しっかりとした記述ではなく伝承程度。地球の伝説のように、にんにくに弱い、日光に弱いなどの記述は見受けられなかった。何より、情報が少なすぎる。少女の好きそうな恋愛ものならば、ヴァンパイアを題材にしたものはいくつかあったのだが。そういった童話のほうが多いというのはいかがなものか。それ故に自分はトリスの今に関して、イミテーション・ヴァンパイアに関して詳細はほぼ知らないといっても過言ではない。どこかで詳細の記述がある書物を探すか、専門家を探すか、ヴァンパイア自体に会って話を聞くか。大陸北東の魔王城にはヴァンパイアが住むと言われているが、そこにいくには少々レベルが低すぎる。実力を高めつつ、そういう機会があることを願うしかないだろう。


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