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彼らと別れた自分は、ギルドの受付に向かい、登録をしようとする。話は既に通じていたらしく、銀貨なしにすぐ登録できるようになっていた。受付嬢は、金髪のお姉さんで、
「では、登録用紙を渡しますので、空欄を埋めてください。」
と、業務に関係ないことは喋らないような、仕事熱心な人だった。
登録用紙には、名前、職業を書く欄、そして契約事項が並んでいた。名前を書き、職業を考える。まぁ魔法使いでいいだろう、と魔法使いとかく。そういえば、言語はどうなっているんだろうか。会話も文字もすらすらと頭の中に入ってきたが、よくよく考えると日本語ではない。しかし意味はなんの問題もなく理解できるし、すらすらと口から言葉が出てくる。まるでこれが母国語のように。<共通語>スキルの効果なのだろうか、意思疎通ができるので、あまり問題視しないことにする。契約事項は、色々大量に並んでいたが、重要そうなものを要約すると、以下の点になる。
・ギルドに登録した者は、冒険者となり、ギルドカードを提示することで、身分証の代わりにすることができる。
・ギルドに登録した者だけが、ギルドに張られている依頼を受注することができ、それにより報酬がもらえる。
・依頼は、討伐、採集、その他があるが、討伐に関しては討伐目標のドロップアイテムを持ち帰ることで、採集は目標アイテムを採集することで成功となる。その他に関しては、その折説明がある。
・依頼には、ランクがあり、FランクからSSSランクまで存在する。ランクが上がると難易度があがる。最初はFランクから。
・冒険者にもランクがあり、そのランクに応じて受注できる依頼のランクが決まる。基本的に、自分の2つ上のランクの依頼まで受注できる。但し、自分より2つ上のランクの依頼を受注する際には、規定額の前金が必要となる。
・冒険者のランクは自分のランクと同じランクの依頼を規定数成功させることで、昇格させることができる。
・ギルドが提示した依頼以外にも、個人間で依頼を受注することはできるが、ギルドは介入せず、個人の判断でやってもらう。
・モンスターを討伐した際のドロップアイテムは、ギルドにて売ることができる。価格は種類に依存する。
・ギルドで受注した依頼によって、負傷もしくは死亡しても、此方に過失がない限り、一切の責任を負いかねる。
最後に、サイン欄があり、サインをして提出する。これでどうやら登録はできたようで、ギルドカードを作成する、といって扉の奥に引っ込む。待っている間、掲示板を見ようかと思った矢先、番台の上に、大量の名前、いや家名だろうか、文字が書かれた板が置かれているのを見つける。パッション家、ノワール家、アムール家などなど、総勢50は超えるだろうか。出資者か何かなのだろうか。ところどころ、削り取られたような跡も見える。扉があき、受付嬢がでてくる。
「お待たせしました。こちらが、ギルドカードになります。」
「ありがとう。質問なんだけど、この板に書かれている家名って、このギルドの出資者なのか?」
「ええ、そうですよ。今から60年ほど前でしょうか、ギルドが創立された際に出資された貴族の方々の名前が彫ってあります。」
「えっと、じゃぁ、この削られているのはどういう意味?」
「それは、その後、家が断絶したものや、国から貴族位をはく奪されたものですね。ブランシェ家や、ビートレイ家などが最近削られました。」
「そうなのか、ありがとう。ではギルドカードをもらうよ。」
ギルドカードを受け取る。これで自分もFランクの冒険者である。カードは、ランクによって材質も変わるらしく、Fランクである自分のカードの材質は木だ。Sランクを超えると材質が金になるそうで、早くそこまで行きたいものだ。まずはFからEにランクを上げないと、Fランクの依頼を5つこなすことで昇格できるそうだ。その後、ゴブリンの牙を、ギルドで売り払い、8本で大銅貨40枚になる。
どうやらドロップアイテムは、売るか武器防具の素材にするか、この世界には、既製品を売る商店のほかに、鍛冶屋があるらしく、そこでドロップアイテムと金銭を渡して色々作れるそうだ、基本的にその2種類らしい。ゴブリンの牙は、素材としては低級すぎて使えず、商店かギルドで売れば多少の金になるらしく、今晩の宿代分くらいにはなるだろう、とアルト達から教えてもらった。お金を貸そうか?とも言われたが、そこまでお世話になるわけにはいかない、と断っておいた。しかし、1本大銅貨5枚とは安すぎる。先ほどの市場を見たところ、小銅貨1枚は1円くらいだろうか。現在持っているお金は、村にあった大銅貨30枚を加えて、70枚。お金を借りればよかったか、と後悔していると、市長に会うときに受付をした人が歩いてきて、袋を自分に渡そうとしてきた。
中身はお金で、銀貨4枚、大銅貨100枚が入っていた。対応に困っていると、市長から見たところ装備もそろっていなく、記憶喪失ということで伝手もないだろうから、市長の名で貸すという形ながら、お金を少し渡しておいてほしい、とのこと。なんとタイミングのよい、絶対にお返しする、と約束をして借り受けることにする。返す際にはお礼も込めることにしよう。これで持ち金は銀貨4枚に大銅貨170枚。宿をとり、今日は装備をそろえることにしよう、そう思い市庁舎を後にした。
2012-11-23修正
2013-2-12修正




